【感想】護られなかった者たちへ

中山七里 / NHK出版
(251件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
85
100
44
4
0
  • 護られなかった?いや見捨てられた者たちは。。。

     誰からも人格者と見なされている一人の公務員が、自由を奪われた餓死死体の状態で発見されるところから物語は始まります。推理小説?ミステリー?いやいや現代社会を鋭くえぐるような物語でありました。
     誰が犯人なのか?という点については、途中から、おそらく彼だろうなということは見えてきます。しかし、そんな犯人捜しよりも、現代社会の抱える様々な問題を赤裸々に書き込んだ内容に驚かされます。
     生活保護認可の問題、見込み捜査の問題、組織の事なかれ主義等々、実に様々です。
     今まさにコロナ禍の中、護られなかった者というよりも、見捨てられた人々も大勢いるのでしょう。
     物語の中で殺された二人は、職務には忠実な人だった。でも、そこに思いやりの一欠片でもあったならば、と思わざるを得ません。コスパや効率化を持ち込んで良い分野とそうでない分野を考えるべきです。ちょっと前まで、国は病院の統合を目指していましたよね。
     また生き残った上級公務員の買春ツアーは言語道断でありますが、その一方で、やむにやまれず体を売っている人もいるわけで、結局貧困こそが問題なのかもしれません。この経済の仕組みをどうすればよいか。先日、経済評論家の内橋克人さんが亡くなりました。常に弱者の視点に立った論説で、どこぞの御用学者とは大違いの解説がもう聞けないかと思うと、残念でなりません。また世界を見渡せば、民主主義が危うい状況になっており、自由に声を上げることが困難になりつつあります。この小説を通して色々と考えてしまいました。
     ところで、ストーリーと直接関係はありませんが、「年齢と同じ枚数の千円札をいつも持っていろと言われたものだ。」というセリフが物語の中に出てきました。実は私も若い頃、「年齢かける千円くらいは、常に財布に入れておけ。」と言われたことがあったのを思い出しました。こういうことは一般的に言われているのでしょうかね?でもそうすると高齢の人は、かなりの現金を持ち歩くことになりますね。
     閑話休題、この小説は映画化されたとのこと。単なるミステリー作品になっていないことを期待いたします。
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    投稿日:2021.10.03

  • 胸が痛む現実が背景に

    好きな俳優佐藤健が映画に出るというのでこの小説を読んでみた。
    中山七里のミステリーものは隨分読んできが、その背景が今回はこころ掻きむしられるようなものだった。
    厚労省が高く評価したいわゆる北九州方式では保護を拒否され餓死した人たちが連続した。その方式は多くの自治体に波及した。それは窓口の担当者にも相当のプレッシャーになっていたのも現実だ。窓口担当者も人によって対応が違っていた。木で鼻をくくったように事務的に対応する人間もいれば、何とか相談者に寄り添えないかと対策を考えてくれる人間もいた。
    生活保護を受けたいと思っている人たちは少ない、出来ればどうにかして自分で生きていきたいのだがいろいろな理由でどうもならなくなって申請に行く。
    不正自給があるとニュース等で大きく取りあげられるがその率は約0.45パーセント程度。しかも、申告しなければならない事例をきちんと伝えていない窓口の実態も報道されている。
    私の知り合いは窓口で二度保護を拒否されて自死した。
    読んでいる間にこのような現実が頭をよぎっていた。
    ラストはなんともいえずに哀しかった。
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    投稿日:2021.10.06

  • これは、やりきれない。。。

    日本の社会福祉制度は、いったいどのくらい国民に機能されているのだろうか。このような状態が現状であれば、やりきれない。日本の未来を憂いてしまう1冊でした。

    投稿日:2018.08.14

  • 護られなかった人たちの護ったもの

    ミステリーだけど、ミステリーよりも現代社会を考えさせられる内容。
    コロナによる給付金の不正取得。
    議員や国税の人間が絡んでいたり、家族全員で詐欺を働いたり…。
    誤送金による電子計算機使用詐欺。

    何年経っても無くならないオレオレ詐欺。
    強盗、賽銭泥棒…。
    世の中どうしてしまったのだろうと思うくらい、金絡みの犯罪が増えた気がする。
    全ての人に護るべき物や人があって、それが犯罪を起こすキッカケになったのかもしれないけれど、そこに至る前に何か対応できる社会になってほしい。
    世界的に戦争や疫病で不安定だから、心は荒み、ますます犯罪は増えていくだろう。
    そんな中、自分はどうやって大切な人を護っていくか考えさせられた。
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    投稿日:2022.08.05

ブクログレビュー

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  • koch

    koch

    このレビューはネタバレを含みます

    凄く読み応えがある1冊。

    テーマは重いが、読み易い為2、3日で読破

    殺人(復讐)は悪いことだけど、同情しずにはいられない(TT)

    この話はフィクションだが、今20歳の私、生活保護制度に関して、本当に起きるのではないかと不安になる…


    やはり中山七里さんが書かれる本が好きで、何冊も手に取ってしまう。

    利根が犯人だと見事騙された…
    まさかカンちゃんがあの方に繋がるのね∑(゚Д゚)
    社会制度に興味を持ついい機会になりました^ ^

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    投稿日:2024.04.15

  • 読書の人

    読書の人

    このレビューはネタバレを含みます

    生活保護について考えさせられた。物語自体はフィクションだが、現実にもあり得る事だと思う。
    けいさんの事を思うと利根とカンちゃんと共に胸が苦しくなった。ただ殺された三雲も決して悪人と言う訳では無く、生活保護に対して予算が多く取られていれば起きなかった事件であり、そもそもの原因は国では無いのか?と思えてしまう。
    最後の円山くんには驚いた。前半で三雲の事をめちゃくちゃ褒めていたので、完全に騙された。

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    投稿日:2024.04.09

  • Puok

    Puok

    31.護られなかった者たちへ
    社会的弱者に関する作品を求めている中で出会った一冊

    護るべき者、護られなかった者
    護られる事から敢えて遠ざかる者

    それを受ける側の立場や意見、システム

    双方の見方を持って読み進めることも大切だと感じる

    途中これはきっと…と思った通りのラスト
    切ないなぁ

    もし自分ならば?何が出来ただろうか?
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    投稿日:2024.04.04

  • まなみ

    まなみ

    このレビューはネタバレを含みます

    だれが悪者なのか。国の制度か、保健福祉センターか、三雲や城之内など担当者か、利根か、円山か。分からない、やるせない、そんな気持ちになる。

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    投稿日:2024.03.23

  • RUI

    RUI

    解決できない大きな問題。私の世界は一変しても、社会や世界は変わらない。世論に飲み込まれて何も変わらない。善行は浸透しにくく、悪行は容易くそして取り上げられて、善悪の判断は悪を滅するために善人に厳しさと生きづらさをもたらす。一定数生まれる悪の強さ。色の濃さ。悪を見つけては正義に自己陶酔する。そんなサイクルで世界の多くは回っていると思う。自分1人だけなら問題なく生きていられる時分は読んで考えさせられるなあの一言で片付けてしまうに至る、もどかしく憂鬱な話だった。続きを読む

    投稿日:2024.03.20

  • まめがし。

    まめがし。

    とても面白く、読み応えのある良い作品でした。

    現代日本の社会福祉制度の不完全さと現実をしっかりと描写しつつ、犯人が捕まるかどうかのハラハラ感とラストのどんでん返しも入れ込んだ本作。
    著者の仕掛けにまんまとハマったため、種明かしでは思わず唸ってしまいました。
    己ではどうしようもない理不尽に出くわした時、人はどうすればいいのか。法を犯すしかないのか。そんなことを考えました。

    唯一、残念だったのは著者の言葉選びが所々不適切である点です。
    「チョ◯ガー」「一◯主義」「未◯人」…どれも読んでいて不快になりました。話している人物像を読者に伝えるために敢えて選んでいるのかと思って読み進めましたが、特にそのような意図はない様子でした。
    筆者のご年齢的に仕方のないことなのかもしれませんが、余計な感情を生まぬよう、時代に合った表現をしてほしいと感じました。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.18

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