【感想】許されざる者

レイフ・GW・ペーション, 久山葉子 / 東京創元社
(50件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
12
16
17
0
0
  • 旅先で読み始めても、難なく引き込まれる巧みな物語

    犯罪捜査物の面白さは、どれだけ複雑で難解な謎を、優秀な捜査陣がいかに解きほぐすかにかかっていると思うが、今回は実はそれほど難事件というわけではない。

    いままで未解決だったのは、考え得る最悪のタイミングと布陣で捜査が行なわれたからで、「角の向こうが見通せ」、「状況を受け入れ、無駄にややこしくせず、偶然を信じない」という"殺人捜査の黄金の三カ条"を信条とする主人公には不釣り合いなほど。

    ではどうするかというと、出来の良い主人公に制約を設けることから始まる。
    脳梗塞で入院させた上、すでに時効となっている事件を与える。
    さらに麻痺を残したまま退院させ、常に介添えを必要とし、捜査中もたびたび意識を失わせるのだ。

    こうした試練をともに戦う、主人公をサポートする人物配置が実に見事。
    孫といっていいくらいの若い介護士のマティルダやマックスから、時に「長官」と敬われ、時に聞き分けのない子供のように扱われるヨハンソンがどこか微笑ましい。

    コールドケースの解明の端緒をどこに持ってくるかも秀逸だ。
    本来なら、事件発生直後であれば現場に立って、周辺を洗い、被害者の交友関係から怪しい容疑者を見つけようとするが、今回は、ある証拠からまず犯行現場を直観に近い形で特定し、そこから必然的に容疑者を導き出す。
    すでに当てはまるべきピースが頭の中に想定されているので、必要とするピースが見つかるまで食い下がる。
    それをサポートし最後には天啓となる導きを与えるのが、主人公の妹の夫フルト。
    あまり好人物とは言いがたいが、綿密で精緻な調査は「わしのシャーロック」と言わしめるほど重要な役回り。
    続きを読む

    投稿日:2018.06.11

  • やんちゃ坊主そのままの退職警官2人が時効を過ぎた事件に挑む。

    片方は現役時代「角の向こうを見通せる男」と言われた切れ者だが脳梗塞で倒れ入院。2人の会話は熱く正義感に溢れ着々と事件の核心へと迫っていくが同時に高カロリー食への追憶も繰り広げられる。
    北欧ミステリー、9歳の少女、暴行、死体遺棄、時効、などから想像したのは暗く重い作風だったが意外なほどテンションが高いので戸惑った。
    ところが第2部に入ると加速度的に面白くなった。それにしても犯人を捜してどうするのかと心配したが謎が解けてからが本当の物語りの始まりだった・・・創造していた雰囲気と違っていたうえに謎解きの楽しみもなかったが面白い作品だった。
    続きを読む

    投稿日:2018.06.25

ブクログレビュー

"powered by"

  • toradesukantia55

    toradesukantia55

    このレビューはネタバレを含みます

    海外ものをよく読むけれど、
    上手いなと感心する翻訳と、
    ところどこと、ムムム・・・???と感じてしまう翻訳がある。
    本作は後者かな。
    もっと軽妙に読み進められるはずにのシチュエーションだと思うので、ちょっと残念。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.05.15

  • まかろに

    まかろに

    このレビューはネタバレを含みます

    スウェーデンが舞台の長編ミステリー
    史実を絡めて物語が進むので現実味が強い作品でした。

    主人公は元凄腕の長官ヨハンソン。
    退職後に脳梗塞になり入院先の主治医から25年前のある未解決事件の話を受ける。
    時効を迎えている今、法的に罰することが出来るのか?また犯人は誰なのか?

    中盤で犯人像が明確になり、
    そこからどう追い詰めるかが面白かった。
    個人的にマティルダとマックスのキャラクターが良かった!2人が居てくれて良かった。

    ヨハンソンはもう少し体に気を遣って欲しいな。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.05.06

  • ふころぐ

    ふころぐ

    スウェーデンミステリーの大御所、GW・ペーションの作品を読んでみた。主人公が脳梗塞で倒れ、運ばれた病院の主治医からの依頼で、時効になった事件を再捜査する。協力者は個性的な面々で面白い。後半、事件の成り行きを知りたくて一気に読んだ。
    裏切らない展開である。
    続きを読む

    投稿日:2023.03.31

  • じゅう

    じゅう

    スウェーデンの作家「レイフ・GW・ペーション」の長篇ミステリ作品『許されざる者(原題:Den Doende Detektiven、英語題:The Dying Detective)』を読みました。

    アーナルデュル・インドリダソン」、「ジョー・ネスボ」の作品に続き、北欧ミステリが続いています。

    -----story-------------
    CWA賞、ガラスの鍵賞など5冠獲得!
    北欧ミステリの重鎮による究極の警察小説

    国家犯罪捜査局の元凄腕長官「ラーシュ・マッティン・ヨハンソン」。
    脳梗塞で倒れ、一命はとりとめたものの、右半身に麻痺が残る。そんな彼に主治医の女性が相談をもちかけた。
    牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。
    9歳の少女が暴行の上殺害された事件。
    だが、事件は時効になっていた。
    「ラーシュ」は相棒だった元捜査官や介護士を手足に、事件を調べ直す。
    犯人をみつけだし、報いを受けさせることはできるのか。
    スウェーデンミステリ界の重鎮による、CWA賞、ガラスの鍵賞など5冠に輝く究極の警察小説。
    解説=「杉江松恋」
    -----------------------

    人呼んで"角の向こうを見通せる男"、「ラーシュ・マッティン・ヨハンソン」… そんな伝説の国家犯罪捜査局の元凄腕長官を主人公にした物語、、、

    主人公の「ヨハンソン」は、伝説の捜査官というだけではなく、警察組織内で"オーダーレンから来た殺戮者"と恐れられたほどの鬼上司でもあったようですね… 本作品に至るまでの物語はシリーズ化されており、シリーズが始まった1978年(昭和53年)、当時の「ヨハンソン」はまだペーペーの捜査官で、同期の親友「ヤーネブリング」と共に夜な夜なストックホルムの街をパトロールしていたらしいです。

    「ヨハンソン」はそこから、最終的に国家犯罪捜査局の長官にまで上り詰めたんですから、スウェーデンミステリ史上最も出世した主人公ですね… 本作品は、「ヨハンソン」が定年退職したあとに巻きこまれた事件を描いた物語で、シリーズ最終章とも呼べる作品、、、

    本作品がとても愉しめたので、これまでのシリーズも読んでみたいのですが… 邦訳されていないようです。残念。


    2010年(平成22年)7月5日、「ヨハンソン」はストックホルムのカールベリス通り66番にあるホットドッグ屋台〈ギュンテシュ〉でお気に入りのホットドッグを買うが、いざひと口かじろうとした瞬間、脳塞栓の発作を起こし、危ういところで命を拾う… 国家犯罪捜査局元長官の「ヨハンソン」にとっては青天の霹靂ともいうべき出来事であった、、、

    右半身に麻痺が残ったほか、かつては部下たちに「角の向こう側が見通せる」と畏怖された頭脳にも以前ほどの切れが戻らない… 病床で失意を噛みしめる「ヨハンソン」に、主治医の「ウルリカ・スティエンホルム」が驚くべきことを打ち明けた。

    牧師だった彼女の父は、ある殺人事件の犯人を知っているという女性から懺悔を受けたものの、聖職者の守秘義務ゆえに誰にも口外できず、悔いを残したまま亡くなったのだという… それは25年前の1985年(昭和60年)6月に「ヤスミン・エルメガン」という9歳の少女が殺害された事件で、警察の初動捜査が遅れたことなどが災いして、迷宮入りしていた、、、

    スウェーデンでは2010年(平成22年)に法改正が行われ、殺人を含む重大犯罪については時効が廃止されたが、それも同年7月1日以降に時効となるもののみが対象である… 「ヤスミン」の事件は一足早く時効が成立してしまっていた。

    つまり、「ヨハンソン」が犯人を突き止めたとしても法で裁くことはできないのだ… それでも「ヨハンソン」は、このようなおぞましい事件がいまだに未解決だということに元長官としての責任を感じ「ヤスミン」事件を解決することを決意する、、、

    「わが主が、25年前の古い殺人事件に正義をもたらすために、
     頭に血栓の詰まった意識不明の元警官をお前さんの元へ送ったとでも言うのか。
     さらには、たった数週間ちがいで新しい法律に間に合わず、時効を迎えさせたとでも?」

    「ヨハンソン」による執拗な犯人捜しが始まる… 思うように身動きのとれない「ヨハンソン」は、同期の元相棒で親友の「ボー・ヤーネブリング(ヤーニス)」や、元部下の「シェル・ヘルマンソン(ヘルマン)」、介護人の「マティルダ(ティルダ)」、兄「エーヴェルト」から派遣された用心棒のロシア人の若者「マキシム・マカロフ(マックス)」、妹の夫で元会計士の「アルフ・フルト」等の協力を得ながら、真相に近付いていく。

    脇を固める個性豊かな仲間たちが印象的でしたね… 身体の自由が利かない「ヨハンソン」を、年齢も出身もバラエティーに富んだ仲間たちが常にサポートしているんですよね、、、

    彼らの協力と「ヨハンソン」の論理的な推理によって、犯行現場や犯人が徐々に特定される… しかし「ヨハンソン」の前には難題が立ちはだかっていた。

    この事件は時効を過ぎてしまっている… 見つけだした犯人を、いかにして罰するのか――。

    「ヨハンソン」は、犯人と直接接触… 時効になっていない他の犯罪や母親の自殺を自らの殺人だったと証言して自首し、自ら懲役を受けることを促す、、、

    犯人の判断は!? いやいや、ここからが衝撃的な展開でしたね… 賛否両論があるエンディングだと思いますが、個人的にはスッキリするオチでしたね。


    「ヨハンソン」の、まず現状を受け入れる… という考え方が印象に残りました、、、

    これって、生活や仕事において、大切なことですよね… さすが元凄腕捜査官ですね。



    以下、主な登場人物です。

    「ラーシュ・マッティン・ヨハンソン」
     国家犯罪捜査局の元長官

    「ボー・ヤーネブリング(ヤーニス)」
     ストックホルム県警の捜査課の元捜査官

    「パトリック・オーケソン(パト2)」
     県警の警部補

    「シェル・ヘルマンソン(ヘルマン)」
     県警の犯罪捜査部の警部

    「エーヴェルト・ベックストレーム」
     ヤスミン事件の捜査責任者

    「ピエテル・スンドマン」
     ミリヤムの知り合いの警部補

    「リサ・マッティ」
     公安警察局本部の局長補佐

    「ピア」
     ラーシュの妻

    「エーヴェルト」
     ラーシュの長兄

    「アルフ・フルト」
     ラーシュの妹の夫

    「マティルダ(ティルダ)」
     ラーシュの介護士

    「マキシム・マカロフ(マックス)」
     エーヴェルトから派遣されたロシア人

    「マッツ・エリクソン」
     経理士

    「ウルリカ・スティエンホルム」
     ラーシュの主治医

    「オーケ・スティエンホルム」
     ウルリカの父、牧師。故人

    「アンナ・ホルト」
     ウルリカの姉。検察官

    「ヤスミン・エルメガン」
     二十五年前に殺された少女

    「ヨセフ(ジョセフ・シモン)」
     ヤスミンの父

    「ミリヤム」
     ヤスミンの母

    「マルガリエータ・サーゲルリエド」
     オペラ歌手

    「ヨハン・ニルソン」
     マルガリエータの父

    「ヴェラ・ソフィア・ニルソン」
     ヨハンの妹

    「スタッファン・レアンデル・ニルソン」
     ヴェラの息子

    「エリカ・ブレンストレーム」
     マルガリエータの家政婦
    続きを読む

    投稿日:2023.03.10

  • 黒鷺ノ宮

    黒鷺ノ宮

    読み終わってから、感想を書くために少し検索して大事なことを知った。本作、1978年から続く大人気シリーズの最終話(2010年発表)なのだということを。

    『ヤーネブリング&ヨハンソン』シリーズは、最初はペーペーだった主人公が警察組織のトップに登り詰める、いわばスウェーデン警察版「島耕作」の様なものらしく、本作『許されざる者』はその主人公の定年退職後の話。なのだが、実は本作が同シリーズの本邦初登場だった、という状況。

    それは先に知っときたかったなあ。それにいきなり最終話だけ読んでもなあ。長年愛されてきたキャラクターに対するファンの惜別の思いに応える、そういう意図を持って書かれたと理解していれば、冗漫さにイラつくことはなかったよ。

    以下は上記の事項を知る前に書いた感想(ネタバレ無し)で、知った上では若干アンフェアかなと思われる記述もあるが、ある意味アンフェアなのはお互い様だ。そのまま載せる。
    =====≠==≠===========================

    安楽椅子探偵的な設定のためか会話の場面が多く、それも事件と関係ない内容も多い。近年のミステリの傾向と比して、主人公のキャラ付けに筆を費やし過ぎではないかと。それも、どこかで見たような頑固で横柄なクソ親爺型。そういうのは英語圏の作家が散々コスってるし、そちらのほうが本作よりもずっと巧みにユーモアとペーソスを醸し出している。ユーモアに関しては(ユーモアを意図したものかどうかも定かではないが)ほぼ全スベりで無益に緊張感を損ねただけ。演出、味付けの面でセンスが良いとは言い難い。

    本作同様に警察官の公私を描いた作品としてはアーナルデュル・インドリダソンのエーレンデュル捜査官シリーズがあるが、趣向は同じでも中身は本作とは一味ちがう。公私ともに親子の問題に関する事件を抱え、それらが共鳴しあって一つのストーリーとなっているのだ。
    本作では時効を迎えた少女暴行殺害事件に、主人公の元警察幹部(富裕層)のリハビリ生活が絡むが、最後まで読んでも一つのストーリーとして統合・収束された感じはない。

    事件捜査のプロットは素晴らしく、引き込まれるところもあった。が、決着の付け方は唐突すぎて、あんまり味がしなかった。五冠に輝く警察小説ということで期待は大きかったが、あまり高くは評価できない。
    続きを読む

    投稿日:2022.11.25

  • まちゃ

    まちゃ

    時効が成立している犯罪の犯人を探すよう依頼された国家犯罪捜査局の元長官。25年前の犯人を見つけられるのか。突き止めたところでその落とし前をどうつけるのか、がポイント。長官を補佐する仲間が皆いい感じ。

    投稿日:2022.06.21

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。