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小川哲 / ハヤカワ文庫JA (33件のレビュー)
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総合評価:
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uranium79
このレビューはネタバレを含みます
情報銀行に個人情報を預けることで収入と福祉や安全が得られるようになった社会を、主にそれに違和感や疑問を持つ人の視点で描いている。 登場人物が章ごとに変わる群像劇風。後半になるにつれて哲学的、思索的な内容が増えてくる。個人的には面白かったが読む人を選ぶと思う。 (少なくともメインの登場人物は)意識があること、考えることに価値を置いていて、その見方に立つとディストピア小説に見えるが、本当にそうなのか?意識があり自由である(と思っている)ことに、実際のところどれだけの価値があるのか?といったことについて考えてしまった。
投稿日:2024.04.02
やじろう
アガスティアリゾートAIにより徹底された個人情報の管理下で、管理されていることを気にとめない人は自由に、神経をすり減らしてしまう人は不自由になる住民たち。リゾートに住む人はどこか人間味に欠けていて、小説の章は変わっているのに住民は複雑に思考する癖のある、似たような登場人物が集まっているのが狂気的でした。 内容が難しく読み終わるまでに時間がかかってしまいましたが、後に読み返そうと思える話でした。
投稿日:2024.02.14
はるさめマン
監視社会の変遷と、その社会を生きる人々の内面を描写したSF作品。今や大人気作家となった小川哲さんですが、デビュー作のみ手に取っていなかったので今更ですが読了。デビュー作とは思ないほど濃厚な物語で、非常…に楽しめました。 大きな事件が起きるわけでは無いので、どこか淡々としており、SF作品として読むと少し盛り上がりにかける印象がありましたが、文学作品として見ると、監視社会というあり方に抵抗する個人の内面を丁寧に描いており、「自分だったらどうするか」ということも考えながら楽しめる唯一無二の作品だと感じました。4章などは、のちの「ゲームの王国」などにも通じる印象もある濃厚なストーリーで、その点でも興味深ったです。続きを読む
投稿日:2024.01.30
莉乃香太
ユートロニカのこちら側 近未来、監視社会ディストピア。 複数の視点からの物語で構成されている。 各々の事情でアガスティアリゾートという居住特区に関わり、サーヴァントと呼ばれる個人情報を収集し情報を基に…アルゴリズムされたAIと自己意識の葛藤を描く群像劇S F ストーリー。 人々は個人情報を提供することで労働から解放され、日々の選択もサーヴァントに依存する生活で、日々の様々な選択からも解放される。 果たして自らで考えることを図らずも放棄した人々は、自由といえるのろうか。そこに意識としての自己は存在するのかを考えさせてくれる。自由とは何か。不自由があるからこその自由。自由の定義。意識と無意識。やがて到来するであろう人類の在り方についての問題提起。テクノロジーが発展していく先に人類が直面する可能性のある世界軸。人間が人間としてあるための戦いでもあるように感じた。 続きを読む
投稿日:2023.12.12
E
最近、私の中で密かにブームになっている小川哲さんの小説です。 端的に言って大好きな作品でした。 文章の手触りも好きだし、話の展開、キャラクター造形やその背景にある哲学的な問いまで小さなことひとつひと…つが個人的に刺さる。飽きることなく最後まで読み進め、読了して(終わってしまったということに)少し残念に思ったほどでした。 ディストピアものとカテゴライズされているものの、どちらかというと「生き延びるには?」というサバイバル的要素というよりは、監視社会(=アガスティア・リゾート)について書かれた物語で、その物語の中心は「自由とは何だ?」という問いです。 さらに、そのリゾートは我々の生きている社会と地続きなのだなと思わされます。 読んでいる途中、以前読了したネット監視社会についてまざまざと思い出しました。 こちらではその内容より、より深く「見えない監視」が進んでいて、コンタクトレンズで視界を盗視したり、手首の端末から心拍や体温を検知したりと、あらゆる手を尽くして監視されています。 きっと私の付けているスマートウォッチも、単にスマートなだけではなくて、ヘルスケアの域を超えてどこかへ情報を送っているんだろうな……などと思いながら読み進めました(それでもスマートウォッチは付けたまま)。 ガチガチの監視社会であるアガスティア・リゾートについて、居住を望む人、疑いを持つ人、制度そのものの社会的価値について考える人、内側から崩そうとする人など、多様な角度からひとつの監視社会を眺めるように物語が展開されています。 ビッグテックと監視社会に関する本を読んでから目にしたので、著者はそのことに関して警鐘を鳴らしたいという意図があるのかな? と思いましたし、「それでもリゾートはなくならない」というお話の展開的に、誰かが流れに掉さしても止められるようなものではない、といううっすらとした絶望感があって、個人的にはそれが「ディストピア要素」の中核ではないかと感じました。 ユートピアの真後ろ、背中合わせにディストピアがある。でも実は、ディストピアに住んでいる側はもう殆ど思考停止していて、ユートロニカ(永遠の静寂)に陥りかけている。だから自分がいるところをユートピアと思っているだけで、実際に「目を開いている」側から見ると完全にそこはディストピア。犯罪者予備軍だと(アルゴリズムのわからない)機械に判断されたら隔離され、矯正される都市。 ……ちょっとゾクゾクする設定だと思いませんか。 しかも、この世界は「今あなた方が生きている世界と地続きですよ」と著者は言っている気がします(あくまで推測ですが)。 何なら、ディストピアSFを通り超えて、ホラー小説の域じゃないかとすら思えます。 欲を言えば、ユートロニカに人々が陥って、社会が機能不全になっていく静かな死(のようなもの)を描写として読んでみたかったな。 コールドスリープとまではいかないものの、同じような反応しか返さない母親を見て息子は何を思うのか。そういう展開を見てみたかったですね。 現代の日本に住んでいる一読者として思ったことのひとつは、アガスティア・リゾートに住める人は(金銭的な面でも精神的な面でも、いろんな意味で)「おめでたい人」「恵まれた人」なんだろうな、ということと、精神病を疑われたら隔離される辺り、日本人の場合は居住区より療養施設の方が大きくなりそうだなー、ということ。 そのまま一生を療養施設に軟禁になったまま終えてしまうであろう老人の手記とか、そういう形の続編を読んでみたい気もしますね。 冤罪をなくすために予備犯罪者を裁く、という理論が出てくるところなんかはリアルすぎるし、明らかな悪手なのに賛同者が多勢になって押し切りそうなところ、とても日本っぽい(舞台はアメリカだが)なと感じました。 「正義だと思っているから暴力に訴える」というのは今のネット社会そのものだし、ただのSFとは思えないリアルさに心を鷲掴みにされた気分です。 派手なSF演出はないですが、今となっては派手過ぎるSF要素は「しらける」こともあるよな、と思ったり。サーヴァントを始めとするゴリゴリのIT近未来要素を出しつつも、そこに焦点を当てず、「考え方」「人間(そのもの)」にスポットライトを当てたところが、個人的には良かった点でした。 借りて読んだ本ですが、半分も読まないうちに「買って読もう!」と思えた本でした。 半年後とかにもう一度読み返したいですね。 本来の本の在り方ってこうだよな、と思い出させてくれた一冊でもありました。 オススメします。続きを読む
投稿日:2023.12.05
ま鴨
情報企業が運用している実験都市・アガスティアリゾート。このリゾート内で暮らすことを選択した/認められた人々は、自らのバスルームとベッドルームを除くあらゆる場所・時間での個人情報を視覚・聴覚・位置情報等…全て企業に提供することと引き換えに、働かずとも十分に生活できる報酬と、劇場・スタジアム・フィットネスクラブ・公園その他諸々の時間潰しを提供される。 一見ユートピアのようなこの実験都市にも、馴染めない人、反発を覚える人、そもそも入る資格を持てない人、様々な思いが交錯する。裕福さと個人情報を取引する、ここはユートピアなのか、ディストピアなのか? 今や直木賞作家の小川哲、ハヤカワSFコンテストで大賞を獲ったデビュー作です。 鴨は「ゲームの王国」から小川哲に入り、その後発表された作品を読んできたので、改めてこのデビュー作を読むと、「おとなしいな」と思ったのが、第一印象です。いかにも近未来SFらしい、価値観を天秤にかけて読者の問いを引き出す作風や、その後の小川哲作品名物と言ってもいい「変な人」が出てこないので(笑)、意外とあっさり終わったな、という読後感です。 ただ、小川哲らしくないかといえばそんなことはなく、多様な価値観を持った人々の群像劇、はっきりとした結末を明示せず読者の考えに委ねるラストシーン、そんなところはいかにも小川哲らしさが出ています。デビュー作ということもあって、控えめに書いたんだろうなー。これ以降の作品、とんでもないキャラクターがどんどん出てくるもんなー(笑)。 自分が持ちこの作品の登場人物だったら、アガスティアリゾートをユートピアと捉えるか、ディストピアと捉えるか? そんなことを考えながら読むと、面白いかもしれませんね。続きを読む
投稿日:2023.12.03
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