【感想】閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済

水野和夫 / 集英社新書
(25件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
11
9
2
1
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ブクログレビュー

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  • トグサ

    トグサ

    幾人かの学者らが、資本主義、近代が終焉に向かっている事を指摘するが、本書の著者・水野和夫氏もそうである。

    水野和夫氏は、マクロな視点で歴史に注目し、超低金利が、『長い16世紀』が利子率革命により、中世を終わらせ、近代システムが開始したように、現在の低金利が、資本主義と近代システムを終わらせるという。

    その先の未来は、『世界は複数の『閉じた帝国』が分立し、その帝国の中で幾つかの『定常経済圏』が成立する。』状態がしばらく続くという。
    その閉じた帝国の分立状態を、彼は、『長い21世紀』と呼ぶ。
    『長い21世紀』とは、『長い16世紀』が国民国家が分立していたように、新たな中世のような状態『新中世』を意味する。
    『長い21世紀』の始まりは、1973年のオイルショックであった。
    『長い21世紀』は、今から2100年頃に完成するというポスト近代のシステム完成迄の過渡期である。
    この時代のモットーは、『より近く、よりゆっくり、より寛容に。』だ。
    つまり、近代システムの真逆だ。

    『長い16世紀』の時代に、誰も次の時代がどんな時代になるか予想できなかったと同様、近代システム終焉後の新たなシステムは、誰も予想出来ないという。

    ホイジンガが中世から近代への移行が、小さなさざなみが、やがて大きな波に変わっていったと表すように、ポスト近代のシステムもそのように完成して行くだろうという。
    そして、縁故資本主義など、『悪しき中世』的な現象は、既に見られている。
    これは、富める者の資産の三分の一は相続によるものなどを指す。
    つまり、中世の王侯貴族のように、エリートら富める者が固定され、世界を支配しているということだ。
    これらは、先日読んだ『ポスト・デモクラシー』のエリート企業が、ロビー活動で政治を支配し、民主主義の状態は、中世に逆戻りだという主張に通づる。

    世界は閉じていくであろうというのは、経済的には僕にはわからないが、政治的にはそうであろうと思う。
    何故なら、一国では対応するには難しい問題が幾つも存在し、各国が緊密に連携する必要があるからだ。
    水野和夫氏も紹介するように、国民国家というシステムは、過渡期的存在であるというが、なるほど、国民国家の上位に位置する存在が無ければ、世界で何かを決定したり、アクションを起こすには、非常に難義である。

    また、水野和夫氏は、『長い16世紀』において、『陸』の中世封建システムから『海』の近代世界システムへの大転換が起きたと述べる。
    シュミットの言うように、世界史は、陸の国と海の国の戦いであるという。
    『海の国』アメリカの時代は、終わりつつあり、『陸の時代』への移行期に現代はあるという。

    近代システムの一つである『より遠く』のフロンティアが、最早存在しない。

    金融の話で解り難い部分があったが、後半は読みやすく、よく理解できた。
    また、水野和夫氏は、一見マイナーでありながら興味深い著作を読んでおり、読書家の一人としても参考になる。
    本書は、ウォーラーステインの世界システム論に開かれており、必然的に、『近代とは?』や今後の資本主義に考えねばならず、読み応えがあるのは確かだ。

    他に、本格的に資本主義とは異なるシステムに持っていくには、現在の株式会社と投資家の関係を変えて行く必要があるように思えた。
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    投稿日:2021.06.06

  • 小野不一

    小野不一

    水野は「海の国」である英米が海洋から「金融・電子空間」にシフトしたものの、ゼロ金利時代を迎えた今、資本主義が滅びることは避けられないと説く。資本主義後を提示するのは困難極まりないが、「閉じた帝国」になると予測している。
    https://sessendo.blogspot.com/2019/10/21.html
    続きを読む

    投稿日:2019.10.25

  • arafunesan

    arafunesan

    このレビューはネタバレを含みます

    2019/06/14:
     600年続いた、西欧の資本の蒐集による資本主義は、未開拓の地がなくなったことで、限界に達した。
     アメリカが電子空間を新たな未開の地としたが、一時的な者だった。
     これからは、再び帝国の時代に、それも「閉じた帝国」の中で、資本の拡張を前提としない「定常経済圏」による社会がうまれる。
    ---
    という内容。以前民主党が政権をとっていたとき、仙石さんのブレーンとして内閣官房の内閣審議官をやっていた人。
    ---
    海の帝国の時代から、再び、陸の帝国の中国やロシアが勃興し始めたとも書いている。日本の向かう「閉じた帝国」は、どこって考え始めると、それは中国じゃない、アメリカは没落するので、もしかして、ロシアとかインドとか??とか、考えると、閉じた帝国ってのも、なかなか難しいと思う。

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    投稿日:2019.06.15

  • haru2012

    haru2012

    70年代以降の新自由主義的グローバリゼーションに対して、世界は閉じていくプロセスに突入した。歴史の危機の解決策は、この国民国家へのゆり戻しの延長には無い。5百年続いた近代システムそのものが資本主義とともに終わりを迎えつつあるからだ。

    帝国というと、ダースベイダー、悪い皇帝が支配するイメージでしたが、国家を超えた大きな閉じた経済・政治圏ということなら、ありかも、と思いました。
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    投稿日:2019.04.14

  • ドラソル

    ドラソル

    今後の世界経済の動向を見据えた上で日本がどの方向へ行くかを示唆した一冊。

    ただ、抽象的な話が多く、正直あまりよく理解できなかった。
    最後の「日本がEUに加盟すれば」というのも荒唐無稽すぎ。

    投稿日:2019.01.18

  • masanori25

    masanori25

    前作を受けて、「長い21世紀」の果てに、世界はどうなるのか、といった問題について、著者の展望が述べられている。それは十分に説得力のあるものだ。ヨーロッパはやはり底力がすごい。米国追随一辺倒のこの国に未来はあるのか?あきらめないことが大事と著者はいう。続きを読む

    投稿日:2018.12.05

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