【感想】東の果て、夜へ

ビル ビバリー, 熊谷 千寿 / ハヤカワ・ミステリ文庫
(37件のレビュー)

総合評価:

平均 3.4
4
11
15
4
0
  • 間違いなく傑作だと思います

    今風のミステリー小説とは違い、展開は遅く、前半はダラダラしていますが、クライム+ロード+ミステリー+青春小説ですごく新鮮。特に最後の数ページが良くて、読み終わった後余韻を残します。登場人物がみな未成年で、こんな未成年いないだろ!ということが気になりますが、おすすめの小説です。続きを読む

    投稿日:2018.03.10

ブクログレビュー

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  • J.T.Hammer

    J.T.Hammer

    大谷翔平と山本由伸のドジャース移籍が決まった。彼らふたりがメジャーリーグの同じ球団でプレイするなんて、野球ファンにとっては夢みたいだ。しかも山本由伸の場合、医学やトレーニング方法が進歩したとは言え、野手と比較すれば故障するリスクの高い「投手」というポジションにもかかわらず、12年もの大型契約。それだけでワールドシリーズ制覇を目標に掲げるチームが寄せる期待度の大きさが窺える。来季のドジャース戦中継が楽しみで仕方ない

    此度そんな流れで再読したのが、数年前に英国推理作家協会の新人賞と最優秀長編賞を同時に授与された本書。原題は、ズバリ「ドジャース」。ただし、野球に関連した話ではなく、黒人ストリートギャングを描いたクライム・ノヴェルである。ボスの依頼を受けて、上は20歳、下は13歳の黒人少年4人が、組織を裏切った「お抱え」判事を抹殺するべくLAを発って中西部ウィンスコンシン州へと向かう、その顛末が語られていく

    黒人の少ない土地へ車を走らせるに当たり、世界というのは白人で成り立っていて、奴らは野球が大好き、ドジャースが大好きとの理由で、少年たちがまずスポーツ店で購入させられるのがドジャースのロゴ入りTシャツ類だ。また、「ドッジボール」語源の「ドッジ」には「かわす、回避する((LAに移転する前のドジャースはNYのブルックリンに本拠を構えていた。当時のブルックリンには路面電車が多く、それをよける人々=ドジャースがチーム名の由来。ブルックリンを舞台にスパイク・リーが監督・脚本・主演を務めた映画「ドゥ・ザ・ライト・シング」では、主人公がドジャースのユニを着て登場する))」の意味もあることから、このタイトルは先の見通せない危険な任務を負う羽目になった4人組をも指し示したダブルミーニングとなっている

    ドラッグを売り捌く「家」界隈の外へ一歩も出た経験のなかった主人公・イーストが、道中で目にする様々な事象や仲間同士の諍いなどを通じて、少しずつ人間として成長する姿を追った物語は、サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」ケルアック「路上」のストリートギャング版といった雰囲気を感じさせ、単なるクライムものとは一線を画す文学的な香りが漂う

    特に、イーストが彷徨いついたオハイオ州のペイントボール場(サバイバルゲームを行う施設)で職を得て、管理や雑用を任されるうちに白人オーナーとの間に絆が芽生える後半部の展開が上手い。著者は英文学の研究を専門とする方らしいが、なるほどストーリーの作り方をよく理解している。さらにその情景が今にも頭に浮かんできそうなエンディングのタッチも憎いばかりで、これが長編デビュー作とは凡そ信じがたいような仕上がりだ。ドジャースとLAの街をイメージさせる「青」を基調としたカヴァーデザインもGoodである
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    投稿日:2023.12.31

  • シキモリ

    シキモリ

    犯罪小説、ロードノベル、そして少年の成長譚という三つの表情を併せ持つ多層的な小説。イーストやタイの年齢設定に違和感を覚えずにはいられないが、ことアメリカという国において黒人のギャング少年団はリアリティのある設定になり得るのかもしれない。ペリーとの出会いがイーストに個としての成長を促す第三部終盤の展開は胸に迫るし、悲壮的ながらも解放的の溢れるラストシーンも深い余韻を残している。今作はミステリ文学賞四冠達成という華々しい経歴を持つデビュー作だが、ハヤカワ文庫HMレーベルよりNVレーベルの方がしっくり来るかも。続きを読む

    投稿日:2022.12.21

  • 佐々木葵

    佐々木葵

    この作品は半分過ぎてからが本番である。
    東へ向かう少年たちのロードムービー、とはいうものの前半はどちらかというと珍道中的要素が強い。ただしこの珍道中が、少年たちの旅の意味、旅をせよと命じた大人の意図を表すものであったと後々わかるのではあるが、それにしても珍道中だ。

    LAで麻薬取引の監視役として同じく見張りの不良少年たちをとりまとめながら、叔父が束ねる犯罪集団の一部として働いている少年、イースト。ある日その日常が崩れていき、叔父からウィスコンシンまである人物を殺す旅に出るように命じられる。メンバーはイースト、イーストの弟・タイ、ウォルター、マイケルの4人。
    一台の車に乗り込み、4人で東へ向かう中で、どんどん少年たちは非日常の熱にうかされ暴走していく。果たしてイーストたちは与えられた使命を果たすことができるのだろうか。

    また、LAの中の小さな地域で生まれ暮らし、自分が守っていた麻薬取引の場である小さな「家」だけを見ていたが、東への旅の中で大地の雄大な風景を目の当たりにし(このあたりはアメリカ大陸ならでは)、今まで気にしたこともない自然、景色、といったものに目を奪われていくイースト。
    使命を果たしたのち、イーストたち少年はどんな人生を歩んでいくのか。
    イーストの旅の終わりはどんな風景が見えているのか。

    個人的には、前半のロードムービーよりも中盤からの落ち着いた雰囲気のイーストの暮らしのほうが面白く読めた。
    ロードムービー部分の熱病にかかったようなテンションの少年たちのパートはどうにも、この先どうなるのかと心配してしまったからか楽しめなかった(親心的なw)のかもしれない。
    イーストが世界を少しずつ見、聞き、知っていく道中なので、文章のトーンが雑でそれがなじめなかったというのが実情かと思う。
    人によってはもちろん前半の「熱い」「ギリギリ」の「ひりひりした」感じがよい、と思う人もいるだろう。
    一方、後半、イーストはひとりで歩きひとりで決断しひとりで選択することを知る。
    孤独を知り、ひとりで生きることを知る。
    一人の大人の男性(しかも叔父のように悪人ではない一般人だ)との出会いによって、働いて稼ぎ暮らすことを知る。
    自分の暮らしている土地の景色を見、気候を感じ、そして時の流れを感じる。
    前半で少しずつ広がっていたイーストの感受性が、花開いていく様子が淡々と描かれているのが好ましかった。

    そしてラスト、イーストは旅の真実を知り、最後で最初の決断を下す。
    イーストが選んだ道の先には、光が広がっていてほしいと思った。

    ☆は二つ。前半がなじめなかったということと、そのせいで読むのが苦労したという苦い思い出による(なので半ばいいがかりw)
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    投稿日:2022.11.23

  • タマセツ

    タマセツ

    悪の道から足を洗い、自分自身で真っ当な人生を見出す、そんな一人の男の人生観小説だ。人間社会には頼れる人と、頼る人がいる。能力のない、力のない者は誰かに縋り付くことで生きて行く。だが、経験と歳と共に「自分の夢・仕事・生活」を自分の力で想い通りにしたいという時、どうしたら良いのか判断に迷う。 誰もが遭遇する人生のターニングポイント・タイミング「悟り」(自分で判断する)には勇気と行動がいる、ということだ。 (人生のターニングポイント:仕事を決める、結婚する、家族を守る、独立するなど)続きを読む

    投稿日:2022.11.16

  • Shin

    Shin

    ジャケ買いならぬタイトル買い。
    なんて格好いい邦題だろうか。
    淡々と進むロードムービーのような感じで読みづらそうと思ったがサクサク読める。
    アメリカの内陸部田舎の荒廃感がずっと続き、面白い。
    ずっと甘いもの食べててアメリカ人はすごいなと思った。
    ドーナツ食べたくなった。
    続きを読む

    投稿日:2021.06.23

  • sana

    sana

    暗黒街で育った少年が指令を受けて、長い旅へ。
    若者たちだけで車に乗り、殺人のために…

    ロサンゼルスの一角で、毎夜ひたすら仕事場の見張りをするイースト。
    15歳ながら地道に責任を果たし、ボスには信用されている。
    地域のボスはイーストの叔父で、父のいない兄弟らをそれとなく気にかけていてくれる後ろ盾でもあった。
    頼りにならない母親は、弟のタイの方を気に入っている。ところがこのタイは13歳で既に殺し屋。ギャング以外に生きる道が見いだせないような地区で、怖いもの知らずな存在だった。

    ある日突然、異変が起きて、イーストらはあわただしく街を出ることになる。
    裁判の証人となる裏切り者を出廷前に殺せというのだ。
    20歳の調子のいい元大学生がリーダー格、17歳のおたく少年、15歳のタイ、そして不仲の弟タイ。
    若い子だけで旅行なんかしたら普通でも何か変なことが起こりそうなところ、この目的、このメンツで予想外のことが起こったら…
    中では一番生真面目なイーストが、気をもむことになります。

    思わぬ展開で離れ離れになり、たまたま見つけた住み込みの仕事をこなし、雇い主に気に入られるイースト。
    新たな居場所を見つけたかと思われたが、そこに意外な知らせが…?
    予想もしにくい世界ですが、予想外の展開で、はらはらしつつも一抹の希望が見える方向へ。

    絶望的な状況でも投げやりにならず、自分を保って生きていくイーストに好感が持てました。
    傑作と言っていい。
    と思いますが、自分の好みのど真ん中というわけではなく、誰にでもおススメというわけでもないので、星は4つにしておきます。
    続きを読む

    投稿日:2020.10.02

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