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辻原 登 / 集英社文庫 (5件のレビュー)
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hokkaido
辻原登は1945年和歌山県生まれ。1990年に芥川賞を受賞しているが、良い意味でマイナーポエットとでも言うか、作品が玄人好みであるというか、これまで不勉強に全く知らない作家であった。とある本で大絶賛さ…れていたことから本書を手に取ったのだが、「なぜこんなに素晴らしい作品を書く作家を今まで知らなったのだろう」と反省するくらいに心を揺さぶられた。 1人の男がとある事件を起こして5年の刑期を終え滋賀の刑務所を出所する場面から物語は始まる。既に老いた母親はこの間に亡くなっており、単身の主人公は一人、滋賀からかつて暮らした大阪へと電車で向かう。大阪にたどり着いてからの出来事とかつての回想場面が交互していく。既に大阪の街も大きく変わり、結果として寄るべきなき主人公は、和歌山のとある村への孤独な”冬の旅”を続けていく。 リアリズム小説と思いきや、”冬の旅”の最後を巡る場面では反リアリズムな世界観であり一瞬たじろぐも、改めて読みかえすとこの反リアリズムさは冒頭からの伏線があることに気づく。 非常に重苦しいテーマでありながらも深く心を打つのは、日本近代文学の系譜とでもいうべき失われた何かがここには確実に表現されている、という点にもあるだろう。これを機に、著者の他作品を探索しているところである。続きを読む
投稿日:2022.02.12
儀一郎
いくつかの話が淡々と進みそれが多少の時間差を持ちながらつながっていく。しかしついていないのか不幸なのか、一度躓くと最後までそれが繋がっていく怖さやるせなさ。 怖いのにそこには純粋さのようなものがある。…ダメなことにも純粋さはあるんだな。続きを読む
投稿日:2021.07.28
まっしべ
暗い。とことん。どんどん深く狭く寒い穴を延々と転がり落ちていくかの様な読み口。 調べた限りでは物語のモチーフはそのまんまシューベルトの歌曲であろうか。この辺り、全く知識が無いので受け売りだが。 「社…会からの疎外」を描くとともに、緒方の場合は進んで死を求めている訳ではなく、彼なりに今よりも良い状態を模索してささやかながら手の中に掴みかけもするが、悉く上手くいかない。 流れ流れて辿り着いた和歌山県切目という場所で、傍目にはあまりに哀しい結末を迎えるのだが、緒方にとっては少し違う。 この世に生を受けてから、人は「訳も分からず、否応なしに」(p395)とりあえず生きるしかない。中にはそれなりに目的や意味を見出せる人もいるだろうが、人生の終盤まで分からないまま過ごす人も当然いる。 作中で緒方を縛っていた「何か」とは。運命、常識、モラル…何だろうか。 ’生きること’を見つめる小説。 1刷 2021.6.14続きを読む
投稿日:2021.06.14
yasu2411
このレビューはネタバレを含みます
本書の解説では、とても怖い話ですと書かれていた。私が読んで感じたのは、苦しく、辛いということだった。主人公を始め、多くの登場人物たちの人生はどうしてこんなにも辛くて苦しいのだろうと考えてみると、行き当ったのは、救いがない、ということだった。そういう見方をすると、確かに怖い話なのだろう。救いを求めた結果、本書の登場人物たちが行き着いた先は? これはネタばれになるので書かずにおく。
投稿日:2016.01.19
yuu1960
辻原さんの本だからと買ったけど正月に読む本じゃなかったな。 大災害や周囲の狂気や欲望に躓き、転落し続ける主人公。主人公に不幸を齎した人間や主人公と同じく不幸だった人間の人生も語られる。 毎日の新聞…やテレビのニュースで知るように、こうした不幸は世に溢れている。僕はどうにか人並みの生活を送っているが、例えば職を失ったら、家庭が失われたら、どうなるだろう。街でホームレスの人を見ると、ふと、そんなことを思うこともある。 違う終幕を予想していたんだが。 求めても仏に遭えない世なのだろうか。 救いのない話だった。辻原さんのペンの力に怖気てしまった。続きを読む
投稿日:2016.01.15
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