【感想】横浜駅SF【電子特典付き】

柞刈湯葉, 田中達之 / カドカワBOOKS
(115件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
15
43
38
7
2
  • 面白い着想から始まったSF作品ですね(^-^)/

    無限に自己増殖する横浜駅が本州のほとんどを覆ってしまった世界。
    そこはSuikaを持たない人間は構内に入れない。

    横浜駅の外で育った青年ヒロトが、18きっぷを手に五日間の冒険を繰り広げます。
    目的は二つ。横浜駅から追放された男の「キセル同盟のリーダーを助けてほしい」という遺言を果たすことと、世話していた教授という痴ほう症の老人の「42番出口に行け」という言葉。
    駅に入って様々な紆余曲折を経ていきます。五日間というタイムリミットのなかでヒロトが感じたことは…。


    JR福岡。増殖する横浜駅から九州を守る組織の職員トシルは、仕事と人間関係に嫌気が差して治安が悪化している四国へ脱走。そこで出会った幽霊の正体は…。

    無限に増殖する横浜駅構内というデストピアで暮らす人々。
    地域によって差はあるものの治安の悪化している外の世界。
    二人の主人公が見る横浜駅を中心とした世界はどう映るのでしょうか。

    ただ増殖して構内の保全を行う横浜駅。
    Suikaを持たないものの侵入を阻み、暴力や破壊行為を行うと即座に構内から追放する自動改札。
    それぞれ組織立って増殖に対抗するJR福岡とJR北日本。
    横浜駅内部で解放活動を行っていたキセル同盟。

    色々な要素が入り交じった本格的なSF作品ですね。
    続きを読む

    投稿日:2016.12.25

  • 良くも悪くもタイトルに惹かれる人向け

    よくある世紀末?SFではあるのだけれど、自分自身が毎日毎日使っている駅が舞台だというだけで、ちょっとだけ違う視点で読めたような。ただ、せっかくなので、横浜駅知ってる人ならではのあるある話などがあればもっと楽しめたかな。続きを読む

    投稿日:2017.03.27

  • 列車の出てこない「駅」の話

    本州の多くが「横浜駅」に覆われている世界の話です。駅が一つしかないので、列車は走っていません。人々は広大な「エキナカ」やその周辺に住み着き、それなりに役割や居場所を見つけて暮らしているようです。


    (1)横浜駅の不思議
    私は東京に住んでいて、年に数回程度、仕事で実際の横浜駅を利用するのですが、訪れるたび、地元のスタッフが案内してくれるルートが異なります。
    あれ、こんなところに出口があったの?と尋ねると、最近出来たんですよ便利でしょうと、ハマっ子たちは得意気な顔。考えてみると、不思議な駅です。
    現実でも、渋谷駅は横浜駅と多重に接続されたせいかこの「いつまでも工事中」病に感染した気配がありますが、本作では、横浜駅のこの不思議な性質が、無限に拡大する構造物の「遺伝子」として利用されます。

    ちなみに、観光地である横浜には、様々な名物がありますね。しかし、本作では、特に横浜という都市への思い入れのようなものは示されません。謎のアニメ「しうまいくん」もフレーバー程度。横浜駅と敵対する福岡のお菓子のほうがディテールが細かいです。あくまでも、変化し続ける横浜駅の特性がテーマなのです。

    (2)目的のない巨大構造としての駅
    本州を覆う巨大な横浜駅に、どうやら自身の存在目的はないようです。いわば、単純に「生きている」のみ。適当にエスカレーターを生やし、改札口を作り、じわじわと拡大していくだけの存在です。
    元々は鉄道駅という明確な目的を持った存在として建設されたものが、その性質を生物的なものに移植された結果、道具ではなく環境のような存在と化し、人々はそこに何らかの居場所や役割を見つけて暮らしています。

    このような社会的実在として、株式会社がすぐに思い浮かびます。営利を追及するための組織としては、実際の活動内容があまりに「不自然」ですよね。しかし、この現代に、会社が理不尽だという物語を書いても、わくわくする冒険にはなりにくいでしょう。似た性質を巨大ターミナル駅に見いだした点が、優れた着想だと思います。

    (3)列車は出てきません
    このような次第ですから、本作に鉄道列車は出てきません。列車に乗降する場所という機能を失っても、いやむしろ失ったからこそ、横浜駅は純粋に横浜駅であり続けることができます。
    この点で、本作はキング「ダーク・タワー」シリーズの殺人モノレールを越えた存在といえるでしょう。謎なぞ好きの狂ったモノレールは、悪意ある存在で、戦うことができました。
    しかし、本作の横浜駅は、明確な目的がないだけで、ある意味では正気の状態といえます。駅の周りに暮らす人間は、これとどう対峙すべきなのか。主人公はある行動に踏み切りますが、本人はその選択に納得していないようにみえます。主人公の人生は、むしろそこから始まるのかもしれません。

    (4)魅力的なサブキャラクター
    中盤から登場する技術者の久保トシルは、他人と話をしていても、相槌を打つ必要を感じずに黙っている人間です。
    しかしこの人物はなかなか魅力的で、価値判断も明確です。ぼんやり流されている主人公よりも、よほどしっかり自分の人生を生きています。私はこういう人が大好き。見ていてとても楽しいです。
    彼の消息は途中で途切れていますが、一体どこへたどりつくやら。本作が大ヒットし、彼が大活躍するスピンオフ作品が次々に作られることを願ってやみません。最後はやはり、あこがれの宇宙に乗り出してほしい。そこでベタベタな落ちがついたりするのも、また人生というものです。

    いかがでしょうか。列車に乗らない駅の話、かなり面白そうではないですか?私は一気に読みました。
    いやあ、twitterがあって、本当に良かった!そういえば、何に役立つわけでもなく大赤字なのに、長らく特殊日本的に大繁栄し、近年でも米国大統領を初め有名・無名の人々に役割や居場所を与えているこのSNSも、奥深くて謎めいた、大いに横浜駅的な存在といえますね…
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    投稿日:2017.07.25

  • 事故増殖な日常と非日常

    タイトルで軽く笑ってしまい、さらに軽い気持ちで購入に至りました。
    結構未来な日本が舞台ですが、JRでよく聞いたり見たりするものが頻繁に登場するパロディ感のある作品。
    それゆえに、セリフや単語で容易に想像を喚起させられるので、読み進めるのが不思議なほど楽でした。
    主人公はエキソトの住人で、青春18きっぷを使った5日間のエキナカ大冒険をするわけです。
    思ったよりも順当にたどり着いたなーというような旅にみえてしまいましたが、文量を考えるとそれくらいでいいのかも。
    途中で九州と四国に舞台が移ったりしますが、そこでの彼らは変に思い入れができなかったのが自分としては印象的でした。
    その後に含みを持たせたりしているので、なんぼでもストーリーを広げて群像劇を書けそうな、そんな広い共感を呼べる世界観を持ったライトSF作品です。
    アイディアの勝利といわれてそうですが、それはそれ、思い浮かんだものの勝ちなんだからいいじゃないですか。
    それだって立派な才能です。
    今後に期待。
    続きを読む

    投稿日:2018.02.15

  • 増殖する横浜駅

    タイトルを見て???と思ってのが正直な話ですが
    はっきり言って面白かったです。
    巻き込まれ型の主人公、途中で加わる様々な、ミッション
    語り口も軽く とても読みやすく面白いものでした。
    実際の横浜駅は何年か前に一度すべての工事が終了した瞬間があったそうですが・・・続きを読む

    投稿日:2018.04.09

  • 不思議な世界観にどっぷり(笑)

    横浜駅が日本の大部分を支配している!?
    そんな不思議な未来の世界なんて?と思っても、リアリティがあり説得力がある描写に、本当にそんな世界があり得るかも・・・と思ってしまうと、その不思議な世界の中の住人となって読み続けた。
    2つの舞台で繰り広げられるちょっとした冒険の展開と、その結末に至るストーリーはとても面白く読後も爽やか。でも、もう少しこの世界に浸っていたかったなぁ。
    続きを読む

    投稿日:2018.10.05

ブクログレビュー

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  • ちゃちゃしも

    ちゃちゃしも

    自分たちで管理をしていた人工的な環境が、拡大して世界そのものになり、自分達の脅威となる。
    自分が毎日利用している駅という施設だからこそ身近に感じ、18切符など知っているアイテムがうまくその世界に落とし込まれている事に感心した。
    毎日の駅内を歩く時間が少し楽しくなった。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.24

  • おびのり

    おびのり

    確かに神奈川県特に横浜市では、崎陽軒は増殖している。
    今日は買わないって思っていても帰路の其処彼処で小さいテナントで網を張っている。
    根負けして購入してしまう。
    そしてどこのテナントも売れている。
    浜駅中央通路のテナントは、それほど大きくないのに店員さんがみっちり。
    近くの商店街にできた中規模のテナントでは、シューマイグッズも揃えている。
    シューマイ弁当 クッション
    シューマイ弁当 ハンドタオル
    シューマイ弁当 ポーチ 
    と こちらも増殖中。

    3月15日は、ラヴクラフトの邪神忌だった。クトゥルフ神話の短編集を借りていたのだが、やっぱり相性が悪く、読めない。みーんな同じ話に思えてしまうのだ。
    過去へのSFを諦め、横浜駅SF。
    JR統合地整体により増殖を続ける横浜駅。
    そこに横浜駅の増殖を阻止しようとする人間。
    本州を覆う横浜駅になったら、便利かなと思っていたけど、方向性が違った。もしかしたら、歩く歩道でかなりどこでも行けるのかしらという甘い未来ではなかった。
    優秀なSFはいろんな方向に増殖していく。星新一しかり、小松左京しかり、クトゥルフしかり。
    この作品もコミック化が進行中。この世界観を絵で見れるのは興味あり。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.19

  • akikobb

    akikobb

     AIの暴走する未来の世界を描いたSF、といえばよくある設定なのだが、なんと暴走しているのは横浜駅。自己増殖する横浜駅が本州のほとんどを覆い尽くし、青函トンネルと関門海峡ではそれぞれJR北日本とJR福岡が徹底抗戦中(四国は陥落)(JRはJapan Rulersの略)。翔んで埼玉…ほどのご当地ネタはないまでも、身近な、あまりにも身近な題材で形作られるとんでもSFはパワーワードの嵐。

    ・スイカ=人体埋め込み式のID認証チップ。横浜駅(エキナカ)に住む六歳以上の人間はこれが無いと自動改札によって強制退出させられる。名称は「誰何」に由来する。

    ・直交座標偽装システム Imitation of Coordinate in Cartesian space: ICoCa=エキナカの人間は常にスイカによって位置情報を発信させられているが、「キセル同盟」のリーダーはそれを偽装することのできるシステムを作った。

    ・海底古代都市名古屋=横浜駅主要観光地のひとつ。西暦末期に起こった「冬戦争」で重力攻撃を受けた名古屋は海底に沈んだ。皮肉なことにそのおかげで、横浜駅時代になった今でもかつての姿を留めている。横浜駅は海水で隔てられた地には進出できないためである。

    …などなど。駅構内で聞き覚えのあるアナウンスも効果的に差し挟まれ、笑ってしまう。海外作品や古典作品もいいけど、これぞ同時代の同じ国の小説を読む楽しみだ。
     二〇一六年第一回カクヨムWeb小説コンテストSF部門大賞受賞作で、加筆修正して書籍化されたとのことだが、その後半は続編に収められているらしい。遠からず読もう。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.17

  • 涼

    横浜駅が自己増殖して本州を覆い尽くすとか、エキナカにはSuicaを頭に埋め込まれた人間達が住んでて自動改札が歩き回ってるとか、山にはエスカレーターが生えてくるとか、まずそんなトンデモ設定に驚くが、その世界観がとてもよく出来ていて面白い。終わり方がちょっとあっけなくて消化不良なので続編に期待。続きを読む

    投稿日:2024.01.21

  • planets13

    planets13

    自己増殖するAIと、それに対抗する人間?設定としては面白いけど、主人公がもっと意欲的というか元気な方が良かったような気もする。[more]なんで自己破壊回路なんてのを身につけたままなのかも疑問だ。

    投稿日:2023.12.24

  • Ueda Mari

    Ueda Mari

    横浜駅が自己増植するなら、渋谷駅なんかもっと凄まじい感じがしますけど、個人的には、横浜は地元と言ってもよい馴染みの駅なので、妄想しながら読みやすかったです。
    これが、大宮駅、とか北千住とか、はたまた京都やなんば、博多だったらまた違う話になるのか?どうせならパラレルワールド的にジャンジャン書いて欲しいかな。
    地理的な事が好きな人や、乗り鉄的な人にはウケるかも。
    そして、もし映像化するならどうするかな?と勝手に思い描いてます。皆さんの中で浮かんでいる情景はどんなものなのでしょう。

    続きを読む

    投稿日:2023.12.01

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