【感想】神様のケーキを頬ばるまで

彩瀬まる / 光文社文庫
(86件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
16
32
24
4
0

ブクログレビュー

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  • フジこ

    フジこ

    ありふれた雑居ビルで繰り広げられる
    日常のどうにもならない理不尽なこと、
    大きな怒りや悲しみを抱えた登場人物5人が
    様々な出来事や出会いを通じて
    生きる姿勢を少しだけ変えることで、
    今までの日々を時間をかけて許し、
    付き合っていこうと前を向く。
    それまでの憎んだ相手や、苦しみもがいた自分自身が、
    手を添えて今の新しい幸福を一緒に作ってくれたんだと
    思えるようになるまでを描いた、短編集。

    少しずつ話は繋がってるけど
    私は1話目の「泥雪」と
    ラストの「塔は崩れ、食事は止まず 」が好きです
    続きを読む

    投稿日:2024.03.28

  • moe

    moe

    彩瀬さんの本読みつくしキャンペーン中(自分)につき読んだ本。ジャケ借り+タイトル借りだったけど、読みやすい短編集でした。全ての短編が少しずつ繋がっている(今回はひとりの映画監督)系のお話好きだなぁ。世界はどこかで知らない誰かと気付かないうちに繋がっている、と思うとなんか嬉しい。続きを読む

    投稿日:2024.03.01

  • lbsh

    lbsh

    錦糸町の雑居ビルにテナントをかまえる人たちの物語。
    読んだことあるやつだった…。

    どの話も少し胸がキュッとなる感じで好き。

    投稿日:2024.01.05

  • さてさて

    さてさて

    あなたは、駅前の『雑居ビル』にどんな人が働いているか知っていますか?

    どんな街にも人が集まる場所があります。『カフェ』や『古書店』、『マッサージ店』などなど、さまざまなサービスを提供してくれる店が駅前の『雑居ビル』に入っている…そんな光景は全国各地にありふれた光景ともいえます。また、下層階がそういったサービス業のお店である場合、上層階はいずれかの企業の『オフィス』が入居しているという場合も多いでしょう。しかし、自分が利用するお店がなければそんな建物自体に足が向くことはないでしょうし、ましてや上層階に入る『オフィス』の存在など知る由もないと思います。

    では、ここで視点を180度回転させてみましょう。上記したような『カフェ』や『古書店』、『マッサージ店』などには、それぞれそのサービスを提供する側にある人たちが働いています。そして、上層階には『オフィス』で働くたくさんの人たちの存在があります。そうです。私たちの生活の中で意識することのない場所にも確かに人の営みがあるのです。そして、そんな人たちもあなたと同じ人間なのです。あなたがそうであるように、そんな人たちも、さまざまなことに悩み苦しみながらも毎日を送っているのです。

    さてここに、東京都墨田区にある『錦糸町の、駅にほど近い六階建てのビル』で働く人たちに光を当てる物語があります。それぞれが選んだ人生の中にそれぞれの人間模様が繰り広げられるこの作品。”もがき、傷つき、それでも前を向く”人たちの姿を見るこの作品。そしてそれは、明日に続く今を必死に生きる五人の主人公たちの生き様を見る物語です。
    
    『初めて自分の店を持ったとき、私は若い画家の絵を一つ買った』と、『まだ二十四歳で、二日後に迫った店のオープンの支度で連日ろくに眠れていなかった』という時のことを振り返るのは主人公の『私』。『鍼灸指圧の専門学校を卒業し』、チェーンの『手揉みマッサージ店の一店舗を任されることになった』『私』は、『これからはここで最善のサービスを模索して、自分の手でお客を迎えることができる』と思う中に『全身が震え出すほど嬉し』いと感じていました。『安価な複製画』を扱っているギャラリーを訪れた中に『初めて買う絵は、意味を持ちますよ』と言う店主は『これらは複製ではなくオリジナルです』と幾枚かの絵を持ってきました。そんな中、『銀色の雪が降りしきる平原。建造物はなにひとつない』という一枚の絵に心囚われた『私』。『たったの五千円…ウツミマコト。男の人だろうか』と思う中に『これにします』と決めた『私』は、『この無名の画家が』『大きな舞台に羽ばたいていくのかどうかは分からない』、けれど『きっと私は年をとっても、この人の絵を追い続けるのだろう』と思います。それから、十七年の時が経ち、『なんどか店の場所を変え、町を変え』たものの『私の施術室で雪を降らせ続けた』というその絵。そんなある日、二十九歳の一人の女性が訪れます。『四十代だと言われても違和感がないくらいにくたびれ』た背中の女性の施術を進める中に首元に『不思議な青あざ』があることに気づきます。『手で首を押さえちゃうんです。くせで』と言う女性の説明に違和感を持つ『私』。そして、仕事を終え『錦糸町の、駅にほど近い六階建てのビルの二階』にある店を出た『私』は、『学童クラブ』で小一の娘を迎えると家路を急ぎます。『窓の明かり』を見て『今年中学二年生になった息子が帰っているのだろう』と家に入った『私』は、急いで『具だくさんの味噌ラーメンを作』りました。しかし、『ごはんだよ、と呼びかけても』『部屋から出てこない』息子の部屋を開けると、『勝手に開けんなよ』と文句を言う息子はゲームに夢中になっていました。『でてけよ!うるさい!』と言う息子に部屋を押し出された『私』は、『どんっ、と鈍い音が響』くのを聞きます。『壁を殴ったのだろう』と思う『私』は、『イヤで、イヤで、仕方がない。けれど、正さなければいけない。だって、この家に大人は私しかいないのだ』と思います。そして、数日後、先日施術した女性が再び店を訪れました。『彼氏と喧嘩しちゃった』と話し始めた女性は、『彼、前に好きだった人のことが、まだ好きなんだと思う』と続けます。そんな女性に『彼氏さん、首のあざはなにも言わないの?』と訊く『私』に、『ほんとうは、彼が絞めるの。首』と語ります。そして、彼が首を絞めるようになった経緯を話し始めた女性。二人の子どもを育てる『私』が『銀色の雪が降りしきる平原』の一枚の絵に見下ろされながら、マッサージ店で施術の日々を送る日々が描かれていきます…という最初の短編〈泥雪〉。何か起こるでもない静けさを感じさせる物語の中に、主人公『私』の思いを感じられる好編でした。

    “ありふれた雑居ビルで繰り広げられるいくつもの人間模様。思うようにいかないことばかりだけれど、かすかな光を求めてまた立ち上がる。もがき、傷つき、それでも前を向く人々の切実な思いが胸を震わせる、明日に向かうための5編の短編集”と内容紹介にうたわれるこの作品。『錦糸町の、駅にほど近い六階建てのビル』のそれぞれの一室で働く人たちに一編ごとに順に光を当てていく連作短編集となっています。

    そんな物語の舞台となるのが六階建てのビルです。物語の中ではこんな風に紹介されます。まずは、二階に店を構えマッサージ店を営む『私』の説明から見てみましょう。

    『錦糸町の、駅にほど近い六階建てのビルの二階にある。同じビルの一階はいつもセールを行っている大型のドラッグストア、二階にはうちの店の他にカフェと古本屋が並び、三階以上のフロアにはIT関連企業がオフィスを構えている』。

    今度は三、四階にオフィスを構えるIT会社の事務員・十和子の説明です。

    『私の勤めているアプリ開発会社は、六階建ての雑居ビルの三階と四階に入居している。一階にはいつも特売をやっている大きなドラッグストア、二階にはカフェや古本屋などのテナントがいくつか入っていて、五階と六階には同じくIT系の、セキュリティソフトを作る会社がオフィスを構えている』。

    どうでしょうか?立場の異なる二人の人物の見立てですがこの説明から読者が受ける印象に変化はないと思います。また、これだけの説明で読者の中にはおおよそのイメージが浮かび上がると思います。そうです。特に特徴のない、どこにでもあるような『雑居ビル』。この物語は、そんなどこにでもある光景でしかないビルの中で働く人たちに光を当てていきます。

    そして、そんな物語はビルの他にもうひとつ、五つの物語をひとつに結びつける存在が登場します。それが一編目の短編〈泥雪〉で登場する『銀色の雪が降りしきる平原。建造物はなにひとつない』という一枚の絵を描いた『ウツミマコト』という人物であり、そんな彼が監督をした『深海魚』という映画です。カフェの店長・橋場の語りでこの映画がどんなものか見てみましょう。

    『ひと言で言うと、どうしようもない映画だった。主人公の男は若い頃に一世を風靡した、けれど今はやや落ち目の、中年のシンクロナイズドスイミング振付師だ。彼はある日、夢で見た理想の女性泳者と出会い、恋をし、彼女と共に究極の水中芸術の完成を目指して奮闘する』。

    『どうしようもない映画』と言われると、その印象に引っ張られますが、必ずしも他の主人公が同じように感じているわけでもありません。『アマゾンのレビュー』で『星5つか星1つに集まっており、好悪がばっさりと分かれていた』という評価の分かれるその作品。それぞれの主人公たちがこの映画をどう評していくかもこの作品の一つの読みどころだと思います。

    では、次にそんなビルに関係する主人公たちを五つの短編についてそれぞれ見ていきましょう。

    ・〈泥雪〉: 十七年前に買った『ウツミマコト』という『無名の画家』の絵をビル二階の施術室に飾るのは主人公の『私』。『父子家庭』で中二の息子と小一の娘を悩みながらも育てる『私』はマッサージに訪れた女性の首すじに『不思議な青あざ』を見つけます。当初、癖でついたと説明した女性でしたが『彼が絞めるの。首』と語ります。

    ・〈七番目の神様〉: 幼い頃から『喘息の持病』に苦しめられてきたのは主人公の橋場。『半年ほど前のある日』、河川敷で畑を耕す『ごま塩頭の』磯部と出会い、意気投合します。ビル二階のイタリア料理店で店長をしている橋場。そんな橋場はビル内IT会社の藤原に『合コン』に誘われ、戸惑いの中に参加しますが…。

    ・〈龍を見送る〉: ビル二階の『古書店「けやき」』でアルバイトの日々を送る朝海が主人公。『アマチュアバンドで作詞作曲を担当』するという朝海は哲平と『二人組ユニット、フォックステイル』を組み『コミュニティサイト』で販売を続けてきました。『哲平に龍が降りた』と人気が出る中に、哲平はコンビ解消を申し入れてきます。

    ・〈光る背中〉: ビルの三、四階にオフィスを構える『IT会社で事務員をしている』十和子が主人公。そんな十和子は『一流商社勤めで六つ年上の三十四歳』の上条と付き合い始めます。『たいそうモテ』る上条に『デートに誘ってもらえる』ことに喜びを感じる十和子。そんな十和子がホテルのベッドでプロレスを見る中に目を覚ます上条。

    ・〈塔は崩れ、食事は止まず〉: 郁子との『輝かしい日々』を思い返すのは、ビルから『道路を挟んだ向かい側にある』マンションに暮らす主人公の大野。共同経営のカフェの経営者だった郁子が『規模の大きな舞台』へと旅立ち『評判は上々』という記事を見て『頭が痛む』という大野は職探しもできずにテレビを眺める日々を送ります。

    五つ目の短編〈塔は崩れ、食事は止まず〉のみ、ビルから離れ、真向かいのマンションに暮らす女性が主人公となるというフェイントが入っていますが、この女性もビル内のある人物と関わりを持つことになっていきます。また、この女性がこういう立場で登場する理由も結末に判明します。このあたりとても上手い物語作りがされていると思います。いずれにしてもこの作品は、このビルに何かしらの形で関係する人たちの生き様が描かれていきます。そこには、市井の人たちのささやかな人生、つつましやかな人生の中にそれぞれに悩み苦しみながらも日々を生きる人たちの姿が浮かび上がります。

    〈泥雪〉の主人公・『私』は、『父子家庭』で二人の子どもを育てながらマッサージ師としてリラックスした環境の中にさまざまな会話を交わす『私』は、患者の痛みを取る一方で、別れた夫の影を中二の息子に見る日々に胸を痛めます。〈七番目の神様〉の主人公・橋場は、『人付き合いが苦手なわけではない』という中にイタリア料理店の店長としての日々を送りますが、幼い頃から悩まされてきた『喘息の持病』もあって『ふとした瞬間にねじくれた怯えがほとばしる』という日々を生きています。そして、〈塔は崩れ、食事は止まず〉の主人公・大野は、カフェの共同経営者だった郁子と仲違いし、一方で新しい店の評判を上げていく郁子を見る中に、自信をなくしていきます。職探しもままならない日々に身動きが取れなくなる大野。

    五つの短編では、それぞれに悩み苦しみを抱えた主人公たちが登場します。しかし、この世に生きる私たちの誰もが何の悩みもなく生きているわけではありません。それは、私も、そしてこのレビューを読んでくださっているあなたも同じことだと思います。誰もが自分の悩みこそが最も深刻なものであると考え、思い悩み、そして苦しみます。この作品では、そんな主人公たちが、行き詰まり身動きが取れなくなっている中に、ちょっとしたきっかけを見る物語が描かれていきます。それは、大きな変化ではありません。物語の最初と最後、それぞれの主人公たちには何も変化がない、何も変わってはいない、そんな風にも思えるそれぞれの結末があります。しかし、この物語を読んだ読者には、それぞれの主人公たちに訪れたほんの些細な変化、主人公たちの視点がほんの少し変わるだけで主人公たちの心に大きな変化が訪れ、前に進むためのきっかけとなっていることに気づくはずです。特にそれを顕著に感じられるのが、〈塔は崩れ、食事は止まず〉の主人公・大野の物語です。『郁子も他のスタッフも私を捨てた』、『あらゆるものを根こそぎ奪って、より大きくきらびやかな舞台へ出ていった』と嘆く中に生きる大野は『死んでしまえばいい、あんな女!』と郁子のことを思います。そして、『郁子が私に残したのは、パンケーキのレシピたった一枚だ』と思う大野が残されたものを思う結末。「神様のケーキを頬ばるまで」という書名が鮮やかに浮かび上がるその結末。そして、感動的な物語を作り上げる彩瀬さんの上手さをとても感じる中に思わず涙ぐんでしまった私。良い本を読んだ感いっぱいに包まれる読後がそこにありました。

    『普段はまったく気に留めることのない、雑居ビルの二階を見上げる』。

    私たちが暮らすそれぞれの街にはさまざまな建物が立ち並び、その中にはたくさんの人たちが働いています。そんな建物の多くに私たちが関係することはありません。しかし、そこに働く見ず知らずの人たちにもそれぞれの人生があり、それぞれの暮らしがあるのです。この作品では、そんな市井の人たちの生き様が五つの短編にわたって描かれていました。ひとつのビルに関係する人たちが連作短編で見事に繋がっていく様を見るこの作品。そんな見ず知らずの人たちにもそれぞれの悩み苦しみがあることに気づくこの作品。

    切なさと優しさがそれぞれに感じられる物語の中に、人の生の営みの愛おしさに胸を熱くさせられた素晴らしい作品だと思いました。
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    投稿日:2023.10.07

  • 咲笑

    咲笑

    同じ作品、同じ経緯についての感想なのに、なんてばらばらなんだろう。そして二人ともまるでしっかりと根付いた木のように、自分の考え方に確かさを感じている。

    捉え方は人によって違って、どれも間違っていないから難しい。続きを読む

    投稿日:2023.09.03

  • まちこ

    まちこ

    一本目の泥雪、くっっっら、って思って。
    もっとほのぼのな話だと思って読んでたので、ちょっと進めるのが辛くなる。

    うまいなぁと思うのは、話が進むごとに少しずつ希望の割合が増えていくこと。

    だから、龍を見送る。光る背中。塔は崩れ、食事は止まず。は結構好きだったかも。


    気持ちが明るくなる本ではないけど、救済を感じた。

    そして柚木麻子の解説がすごい。
    本書くの上手い人って読むのも上手いのね。笑
    続きを読む

    投稿日:2023.07.13

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