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海老原嗣生 / 文春新書 (13件のレビュー)
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sagami246
大学生の就職活動のことを「就活」と呼ぶようになったのは随分以前のことだと思う。興味のある会社の就職用サイトがオープンしたタイミングでエントリーシートを提出するところから就活は始まる(ただ、私が知ってい…る「就活」はコロナ前のタイミングでのものなので、それから何かやり方が変わっているかもしれない)。選考が進み、面接等が行われた後、合否連絡が企業から学生宛に送られる。その中の不採用通知のことを、「お祈りメール」と呼ぶ。不採用のことを「ご縁がなかった」と表現し、末尾に「今後の発展をお祈り申し上げます」と書く。このような紋切り型のメールのことを揶揄して「お祈りメール」と呼ぶのだ。 本書の題名は、日本型の新卒一括採用の功罪を論じるようなものであるが、実際には、日本と欧米(特にフランスとよく比べている)の雇用システム全体の違いについて論じている。 日本の雇用システムの最も大きな特徴の一つが、職務を特定しないまま採用する「新卒一括採用」であるが、それは例えば「学生にとって大きな負担」だとか、あるいは、「学業スケジュールを邪魔している」等の批判を受けることがある。また、最近では新卒採用のみではなく、企業の中で主にジェネラリストとして育成・活用されていく日本の雇用システム全体が、職務を特定して採用・育成・活用していく欧米型の雇用システムに対して劣っており、それが、日本の長期的な経済停滞の主因だ等と主張する人まで登場している。 それに対しての本書のスタンスは、「雇用システムは各国ごとにユニークな側面がある。ただ、どの国の仕組みも一長一短があり、万能なものなどない」というものである。例えば欧米型の雇用システム(本書では上記の通り、特にフランスの制度について詳しい)は下記の特徴を持つ。それは、職務ごとに採用・活用が行われる、その前提としての職業訓練の仕組みが充実している社会である。 ①職業訓練などの公的インフラが必要となる ②市場ニーズに合うように訓練される人数を調整しなければならない。そのため、幼少期より、学業成果によって、就くべき仕事へと半ば強制的な振り分けが行われる ③職務別の契約のため、すぐ隣の仕事にも移りづらく、キャリア形成に必要な職務の幅が保てない ④ホワイトカラーの職務については学校での再現訓練が難しいので、企業実習を長期に行い補完する必要がある。そのため、学業阻害が起こりやすく、また、就業先企業でのブラック労働が起こりがちである ⑤職務が限定されるため、担当外の上位職務を切り出して少しずつ経験することができない。そのため、上位職務者と下位職務者が固定化され、それがそのまま社会的な階層となってしまう ⑥空席ができた職務毎に採用するので、新卒者は簡便なエントリーレベルの職務に空きが出たときしか雇われない。そのため、就業機会が減り、若年失業率が高まる 「雇用システムは各国ごとにユニークな側面がある。ただ、どの国の仕組みも一長一短があり、万能なものなどない」という本書のスタンスに私は賛成であるが、それに加えてコメントしておきたいことがいくつかある。 ■特定の国の雇用システムは、「雇用の仕組み」だけから成立しているわけではない。それは、例えば、一国の教育システムと密接な関連を持つし、税制や社会保障の仕組みとも補完的な関連を持つ。すなわち、それらは、大きな意味での「社会システム」そのものであり、「雇用システム」だけを取り出して何かを論じることは出来ないはずだ。それは本書の中でも、「それぞれの国の社会構造が異なる中で、他国の事例を日本にそのまま接ぎ木するという話は現実性がない」と論じられており、その通りだと思う ■最近、「日本の雇用システムも、欧米のような"ジョブ型"を目指すべきである」との議論が盛んに行われている。ばかりではなく、国の政策提言書、例えば、2023年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」の中で、「労働市場改革を実行することを通じた構造的賃上げを実現」することが謳われている。ただ、大きく振りかぶった割にはその内容は、「リスキリング」「日本型職務給導入」といった、欧米的なジョブ型雇用システムを目指すことが論じられている。それに対しては、既に上記しているが、「どこの国の雇用システムも一長一短ある。日本と欧米のシステムの全体像を論じたうえで改革の方向を定めるべき」「雇用システムは、社会システムとして捉えるべきものであり、ある特定の制度のみを接ぎ木的に導入しても何の意味もない」と私は思う。続きを読む
投稿日:2023.11.04
aya00226
このレビューはネタバレを含みます
基礎能力と将来性、肌合いでの採用になっている 肌合い重視のため、新卒未経験を取りたがる 成績重視はできない。GPAがバラバラ。 インターンシップの目的 社会人生活を知る、会社仕事内容のカタログ、職務のミスマッチ削減、風土のミスマッチ削減、職業訓練。 日本型雇用慣行 年功序列、企業内組合、終身雇用、メンバーシップ型 日本型だから、取締役が一人抜けても、新卒を一人採用すればよい。配置転換が自由、昇格がある。社内のモチベーションを保ちやすい。 OJTで育てる=なれたら難しい仕事をさせる。欧米ではポストの変更は難しい。 仕事を決めていないから、無くなっても解雇はできない。無限定社員の雇用を守るため、残業と賞与がある。 日本型雇用の改善点 卒業後に就職を考える。大学時代に交互教育でキャリアを考える。時期にとらわれない採用。職務別の雇用形態。 職務別と職種別採用は違う。 日本では経理事務は仕事の入り口、欧米では経理事務についたら一生事務。誰でもエリートを目指せる。非正規にしわ寄せ。フランスでは、早いうちにエリートとそうでないものに分けられる。 日本型雇用は使い勝手がいい。 日本の同友会インターンシップは受け入れ人数が少なすぎる。社員総数1万人に対して70名。本気でない証拠。 採用直結にすると、一括採用が一括インターンシップに代わるだけ。 日本では採用基準が、基礎能力と人間性だけ。だから採用時期はいくらでも早められる。学業の達成との連関性はない。 職種別採用にすると、大学でそこまで教えられるか、の問題になる。 日本型は、誰でもが出世できる幻想がある。だから長時間労働になりやすい。しかし入り口で差別することに耐えられるか。 高卒求人は1~2割に減少。大学教育のジレンマ。 学費が私立理系100万、私立文系70万、国公立50万とどこでも同じ。 欧米は、人生の早めに答えを出させる=エリートになれるか否か。日本社会は階段を上がることが、雇用側も働く側も前提。
投稿日:2023.07.13
ももも
これもブログで見かけて手に取った本。 世間でよく言われることに対して、日本のこれまでの採用や人事の歴史から振り返り、欧米の実際を取り上げながら、丁寧に解説している。 よく表面的に言われるようなことで…はなく、きちんと丁寧に議論をしていて、改めて勉強になった。 大勢のジョブ型採用と言うのは、キャリアアップというのがそのままではないと言うことや、それより以前に手に職をつけておく必要があると言うこと、は既に知っていた。 この本で初めて知ったのは、超エリートの早期確保と、脳エリートの宿を別西様(今まで私が知っていた欧米のジョブ型産業)と言うこと。 日本のやり方も日本のやり方で良いことがかなりある、と言う事は言われているけれども、実際にはあまりにもランダムすぎるもの、というのが今の時代にはそぐわないのだろう。入社してしばらくしないとキャリアを描くことが難しい。 ジョブ型ジョブ型と言うけれども、実際の落としどころとしては、ある程度のディビジョンを絞ってあげて、その後は本人の希望とともに社内異動を試みると言うあたりではないだろうか。 ここ数年の流れで言うと、転職事情、といったところもこの人に解説してほしいと思った。実際のところ、新卒よりも転職市場の方が大きいのだから。続きを読む
投稿日:2022.08.28
Zander
題名がなかなか強烈だが、副題の内容を丁寧に整理して書かれたものだ。 日本としてどんな歴史を歩んできたのか、欧米諸国はどうなのか。各国、各時代のシステムの「功罪」を明確にしている。その上で今後の日本がど…うあるべきか、その説得力はかなりある。比較的読みやすく、コラムも興味深い。人事などである程度経験を重ねた人だけでなく、学生にも読んでもらいたいと思ってしまう。(学生には少々難しすぎるかもしれないが…)政府主導は期待できないからこそ、民間と教育機関が手を取り課題を積極的に解決するよう進めていくべきだと思った。続きを読む
投稿日:2020.07.26
ぐぐぅ
不景気になって新卒の就活が大変になると巷間で囁かれる、”日本新卒一括採用を変えなければならない”とか”グローバルスタンダードの導入”、欧米に習った”同一労働同一賃金”の実現だとか、それで全てが解決するんならなぜさっさとやらないのか。単に守旧派・保守派の抵抗なのか。本書は、タイトルがキワモノ的な割には真面目にその辺の疑問、フラストレーションを解消すべくしっかりと解説してくれる一冊だった。本書を読むと、就職・就活というのは社会全体のシステムとも当然関連しているわけで一部分だけ簡単に変更できるようなものではないと言うことが理解できる。企業にとって新卒一括採用には新卒一括採用なりの大きなメリットがあるし、新卒や社会にとってもメリットはある。そのメリットを捨てるのは社会がガラッと変わらない限り難しそうだ。 本書では、日本の”就活”システムの近代から現代までの変遷とその歴史、西欧諸国との比較とその違いからのメリットと問題点、著者の考える今後の目指すべき方向について、簡潔に分かり易く解説されている。著者は学者ではなく、就職業界で実務に携わってき人で、米国や欧州の状況についても現地で体験しているようで、単なる机上の空論ではない説得力がある。さらに本書には、箔づけの意味もあるのか、学者も含めて各分野の識者へのインタビューも掲載されている。 個人的には、欧米、とりわけフランスの就職状況が詳しく理解できたのが大きかった。それとの対比で日本の新卒一括採用がどのようなシステムなのかも良く分かる。 フランスはある意味、能力(や多少は生まれた環境)によるある意味の階級社会が出来上がっているようで、子どもの頃から能力に応じてコースが分けられる。変な夢を見せて人々を駆り立てるわけではなく、それこそ「分相応」「身の丈」に合わせて生きていくしかない、ある意味割り切りやすい親切なシステムかもしれない。それがあって初めて職能による採用があり、同一労働同一賃金なのかも。日本はそれと逆で、原理的には誰でも組織で昇進可能だという夢を持てるが、その分、夢を見ている限り仕事に駆り立てられ、ブラックにもなりやすい。著者の指摘にはとても納得させられるものがあった。
投稿日:2019.12.02
yasu.sasaki611
■日本では組織の末端に大量の空席ができる。だから新卒採用が可能。 ■欧米企業の人材補充は経験者の中途採用が主で,新卒採用を行っている企業でも新卒採用者の比率は低い。欠員が生じた際に,職務内容を提示して…当該職務の経験者を中途使用することが一般的である。 ■世界でも稀な日本企業の「新卒一括採用」はこれまた世界でも稀な「無限定雇用」そしてそれに発する「企業のイニシアティブ」が三位一体となってできた魔法の人員補充策だ。 ■習熟に応じてタスク入れ替え。 ・「できることから任せて,徐々に難しく」という日本流の育て方を人事の世界では「ゆで蛙」という ■「新卒一括採用」をどう変えていくか。そのヒントになるのが欧米の入職の仕組み。 ・欧米では新卒時点で仕事に就かなくても就職のチャンスはいくらでもある ・欧米では交互教育(インターンシップや見習い訓練などの就業経験)が整っている ・欧米では総合職採用ではなく職務別の採用である この3つのポイントをもとに日本の就職システムに対して次のような改善案が語られる。 ①だから日本でも,新卒時点にとらわれず,卒業後にゆっくりと考えられるようにすべきではないか ②そして,大学の早い段階から,交互教育のチャンスを豊富に用意して,キャリアをよく理解した上で仕事を選ぶべきではないか ③さらに言えば,交互教育での出会いから,就業体験先企業に早期に内定していくような,時期にとらわれない通年型採用に移行していくべきではないか ④新卒採用でも,職務別の雇用形態をとり,「必要なスキル」が明示された形で募集活動が行われるのがよりスムーズだろう 要約すれば日本型就職の改善ポイントはこの4点に尽きる。続きを読む
投稿日:2017.06.10
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