【感想】水の精(ウンディーネ)

フケー, 識名章喜 / 光文社古典新訳文庫
(10件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
2
3
1
2
0

ブクログレビュー

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  • べそかきアルルカン

    べそかきアルルカン

    水の精霊と騎士の悲恋を描いた物語です。
    哀しく美しいファンタジーとして味わうか、
    キリスト教的なお話と受け取るか、
    それとも人間の愚かさを描いた作品として読むか、
    近代、現代文学に慣れ親しんだ身には
    かなりもの足りない感じがしますが、
    文章が簡潔であるだけに、
    その分、想いを巡らす余地が
    ふんだんにあることに気づかされました。

    この小説は1811年に発表された作品で、
    ドイツロマン主義の名作と言われているようです。
    本作が世に出ると
    たちまち数か国語に訳されるほど
    当時の評判はすごくて、
    あの文豪ゲーテも〝ドイツの真珠〟と絶賛したとか。
    また、この物語は戯曲やバレエ、
    オペラにもなっていて、
    絵画のモチーフにもなっています。
    近年も映画化されるほど人気のある作品のようですね。




    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2
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    投稿日:2024.02.14

  • み

    古典作品だけど訳の良さで読みやすかった。映画「水を抱く女」を観たので元ネタが気になり読んだ。フルトブラントを殺したくないのに殺さなければならなかったウンディーネ、愛する人を2人とも失くしたベルタルダ、どちらのヒロインも悲しくて何とも言えない後味でした。続きを読む

    投稿日:2022.09.17

  • テクノグリーン

    テクノグリーン

    このレビューはネタバレを含みます

    フケー著/識名章喜訳「水の精(ウンディーネ)」(光文社古典新訳文庫)
    ※他作品のネタバレにも言及していますのでご注意ください。

    2020.3.27読了
     三島由紀夫著「仮面の告白」の中に、主人公に好意を寄せている園子という女性が、この本を読んでいた。もっとも、園子が読んでいた本は岩波文庫版(柴田治三郎訳)だったであろうが、本書は訳が非常に読みやすく、ですます調で翻訳されてあって、意味を理解しやすい。

     さて、本書の主人公であるウンディーネは水の精である。水の精であるウンディーネは人間と違って魂を持たない。魂を手に入れるためには、人間の愛を受け入れなければならず、ウンディーネは騎士フルトブラントの熱烈な求婚を受け入れて、魂を手に入れることになる。
     それまで天真爛漫で愛とは無縁な世界で生きてきた少女ウンディーネは、魂を得ることで、大人の女性へと成長し、慈悲深くて一途な愛をフルトブラントに捧げるようになる。その様は、蛹が蝶に羽化するが如く、女性の変態の神秘を物語っているように見える。
     ウンディーネははじめ、魂を持つことをひどく怖がり、「魂(こころ)は重いもの」だと言って嫌がっていた。心とは愛らしくも恐ろしいものだ。少女から女性への変態の起点が心を得ることだとするのならば、心が少女時代に永訣をもたらす刃だったとしても不思議ではない。自分を好いてくれる人を前にしてひどく怯えてしまうのは無理からぬことだろう。心ほど移ろいやすいものはこの世に二つとしてないのだから。
     ウンディーネが魂を得る過程には既に伏線が張られている。「あたしを見捨てないでくださいね」と言うウンディーネの言葉の裏には既に破局が暗示されているのだ。いや、伏線というよりも、心とはかくも重たく、人間はその重たさに耐えきれないということを、ウンディーネはアプリオリな直感で見抜いていたのかもしれない。
     だが、悲しくも人間ではないウンディーネの心は、一途にも騎士フルトブラントを想い続ける。人間が持つ移り気というものをウンディーネは知らない。そして、フルトブラントは、徐々にベルタルダという別の女性に心を寄せていくのだ。かつて永遠の世界で生きていたウンディーネは、愛が永遠ではないことを知らない。だから、ウンディーネは「姉妹」のようなベルタルダを自らフルトブラントのそばに近づけてしまう。事ここに至って、もともとフルトブラントを良く思っていなかったウンディーネの叔父キューレボルンの怒りが頂点に達し、ウンディーネは、フルトブラントを伯父の魔の手から守るために、自らフルトブラントのもとを去ってしまう。
     フルトブラントは悲しみに暮れるが、愛と同じように悲しみさえ永遠には続かない。なぜなら、悲しみとは愛情の裏返しだからだ。永遠の愛がない以上、永遠の悲しみもない。もし、永遠の愛がこの地球上にあるとすれば、それは愛する者を自らの手で殺めることでしか手に入らない。愛する人に殺されることで永遠の愛が完成する。愛する人を殺した者は罪悪という十字架を引き受けることで、永遠の悲しみを手に入れることができる。
     死を持たないウンディーネは、自らの手を汚すことによってしか永遠の愛を得ることはできなかったのだ。

     このように考えていくと「仮面の告白」の「悪行(ソドム)の理想」も「聖母(マドンナ)の理想」も二項対立的なものではなく、むしろ一体的なものに思えてくる。愛する人を殺せば、永遠に凍結された愛を得ることができる。これは性倒錯ならぬ愛倒錯と呼ぶべきものなのだろうか。何もかも移ろい消えていく世の中で、永遠の愛を真摯に求め続けることが異常者だとするならば、異常者にでもならない限り、永遠の愛は手に入らなそうだ。

     追記(2021.10.4)
    ※「心を持つ/持たない」の関係については、ほかに業田良家作「ゴーダ哲学堂 空気人形」が面白い。
    ※「愛する者を殺めることで永遠の愛を手に入れる」という主題は、諌山創作「進撃の巨人」のエレンとミカサに通ずるものを感じる。

    URL:https://id.ndl.go.jp/bib/027437074

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    投稿日:2021.10.04

  • かくりよ

    かくりよ

    このレビューはネタバレを含みます

     水の精であるウンディーネが、騎士フルトブラントと結婚して魂を得た後、友人のベルタルダとの三角関係や川を支配する精霊である伯父からの妨害に悩まされつつも、夫となったフルトブラントとの愛を貫き通そうとする話。
     ベルタルダはひょっこり出の存在ではなく、ウンディーネがフルトブラントと婚約する以前から養われていた漁師の夫婦の実子であり、ウンディーネとフルトブラントが居城に帰還するまでは大公家の養子であった。またウンディーネと出会う前からフルトブラントとは知り合っており、ウンディーネがいなければ結婚していたであろうところが三角関係を複雑なものとしている。ウンディーネが出自や親戚との関係上、人間たちとすれ違いを起こしやすい立場にあったのも、破局につながってしまったと考える。
     しかし人間関係で上手く行かないながらも、精霊界からの圧力に屈することなく、愛する夫であるフルトブラントの命を最後まで助けようとしていたウンディーネの真心と行動は素晴らしいと思う。

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    投稿日:2021.09.02

  • ひがつくひと

    ひがつくひと

    アニメARIAのウンディーネという曲が美しかったので読みました。
    追記: ウンディーネはオンディーヌか!と今さら気づいた。

    投稿日:2021.07.22

  • naomii

    naomii

    ドイツロマン派の代表作。
    フケーの水の精は、アンデルセンの人魚姫などにも影響を与えているらしい。
    三島由紀夫の小説や、若草物語でも出てくる。

    フルトブラントはひどい男だと思うけど、心変わりはするものだし、人間でない得体のしれないものを一生愛し続けるって難しいのは確か。

    そしてウンディーネはいきなり素行の良いかつ悲劇的な人間になったけど、かえって人間じゃない感が生まれた。人間ってもっと自己的だし、変わっていくものだよなぁと。
    でも、泣いたしとても素敵な小説だった。

    水の精を題材にした、映画『水を抱く女』も観てきた。バッハのAdagio, BWV 974が美しい。
    これは、ウンディーネがフルトブラントにあたる男性を殺し、水に帰るまでに、もう一人心優しい男性に出会い恋をする話。人生でたった一人しか愛せない、それが間違いでも運命を引き受けなくてはいけないって酷だなぁ。
    だって、出会うタイミングに左右されるし、愛するって感覚がわからないまま人生がスタートしてゴールまでいってしまう。
    続きを読む

    投稿日:2021.05.22

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