【感想】行動経済学の逆襲

リチャード セイラー, 遠藤 真美 / 早川書房
(24件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
9
6
4
2
1
  • あやしげなカルト扱いされてきた学問が、表舞台へと躍り出すまで

    読み終わって単に「面白かった」で終わりにしてしまう本ではなく、身近なあれこれに応用ができそうなヒントを与えられ、つい実践してみたくなるような、刺激に満ちた本だった。
    「行動経済学とは何ぞや?」に答える解説書でありながら、一人の「将来有望」とされたひよっこ学者が経済学にパラダイムシフトを起こすまでの軌跡を綴った自伝でもある。
    「革命」のきっかけは、著名な心理学者たちとの親密な交流がはじまりで、やがて彼らとの話し合いから心理学の要素を経済学に取りこみ、二つを結合させようと決意する。
    この二つの化学反応は、少しずつ周りからも支持を集め、貴重な資金援助を受け、発展していく。
    会議になれば、既存の大御所経済学者から集中砲火的に批判されていたが、やがて学問的な理論と実証を重ねて、彼らにも認めさせていく。
    行動経済学という新分野の学問を打ち立てた著者にはさらに隠れた目標があった。
    それは、行動経済学を使って世界をよりよくするという野心的なミッションで、すでにオバマやキャンベル政権下で担当部署まで設けられ、政策の立案に関わっている。

    常に合理的な行動をするエコンではないヒューマンである我々は、予測可能なエラーをするため、そのエラーを先回りして発生を減らせるのではないか。
    たとえば、自動車が通るセンターラインに眠気防止のデコボコの溝をつけたり、トイレの小便器にハエの絵を描き「飛び散り」を防いだり、退職準備貯蓄を増やすために自動加入方式を採用して煩雑さに対する躊躇を減らしたりして効果をあげている。

    「ナッジ」には、私たちの注意を引きつけて行動に影響を与える環境をつくるという特徴を持っているため、トイレでよく見かける「いつもきれいにお使いいただき、ありがとうございます」という注意書きも、この好例と言えるのではないか。
    ただし、この文面に反発を覚える人たちも少なくない。
    「私たちがしたいのは、人々が自分の目標を達成する手伝いをすること」と著者は言うが、常に行動経済学には人々の行動を官僚的に指図しようとしているという批判がつきまとう。

    著者も自戒を込めて語る臓器提供をめぐる政策の顛末は、多くの読者が注意して読まねばならない問題を含んでいる。
    最初に、この「オプトアウト」型の事例を知ったのは、ダン・アリエリーの著作がはじめだったと思うが、その頃からこれは大丈夫なのかと不信に思っていた。
    本書でも最初は効果があると思われた推定同意方式が、いかに最善の策ではなかったかを詳しく書いている。
    運転免許更新時に臓器提供の意思の確認を行なうイリノイ州の事例もそうなのだが、左派の社会改良主義的な考えの人たちのある種の鈍感さが如実に現れていると感じた。
    続きを読む

    投稿日:2017.11.14

ブクログレビュー

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  • mnagaku

    mnagaku

    行動経済学の本は分厚くても面白く読めるのが良い。この分野の本は割と読んでるので、新しく感銘を受けたとかは特になかったけど、あーそうだった、というのはあるので、定期的に触れていないと忘れるから、また読もう。続きを読む

    投稿日:2022.06.11

  • Riva

    Riva

    2022/05/26 読了
    #rv読書記録
    #読書記録

    行動経済学がいかに受け入れられるようになるまでかを記した本(であってる…ハズ)
    伝統的な経済学(と心理学?)との対立を見るに、今まで読んだ行動経済学と言われている分野がどれほど非難され、跳ね除けられていたか、そのストーリーには感銘を受けた。

    経済学関連の知識が必要とされたり表現がそちらによってる部分も多く、その部分の理解は大変だった。
    というか、Audibleで3.5倍速で読んでしまったので、 まあそういうことですよね。
    続きを読む

    投稿日:2022.05.26

  • あつみ

    あつみ

    新しい学問分野(伝統的な経済学の大前提に真っ向から挑む「行動経済学」)が、学会の権威たちから「棒打ち刑」を受けながらも、影響力を高めていった過程が、自らの研究者人生を振り返りながら、詳細に書かれています。

    最近読んだ 「最後通牒ゲームの謎」で「エコン」という言葉を知り、参照文献にあげられていたこの本を手に取りました。
    しかし、「エコン」の定義から書かれているかと思ったら、そうではなく、経済学の世界では「ホモエコノミカス」という経済合理性に基づき行動する人間は、今更定義をおさらいするまでもなく周知のもののようで、「ホモエコノミカス」では長ったらしいので、著者は「エコン」と呼んでいるとだけ書かれていました。
    そして、私たちは「エコン」でなく、「ヒューマン」だと。

    伝統的経済学のモデルは、みなエコンであることを前提にしている。
    しかし、ヒューマンは、全く合理的でない。
    同じ金額でも場合によりお得感・ぼったくり感を感じたり、既に払ったコスト(サンクコスト)にとらわれたり、お金をラベリングして、予定していた消費(ラベル通りの消費)と違う内容での消費では躊躇の度合いが違ったり。同額を得ると失うでは、失うことの方が耐えがたい。(メンタル・アカウンティング)
    また、今と後の消費には、全く違う価値づけをしている。
    (セルフコントロール)、、、朝三暮四の猿と同じ。
    例えマグカップのごときものでも、一度手にしたら自分のもので、人に渡したくない。(インスタント保有効果)
    これらアノマリー(エコンはしないと思われているが、現実のヒューマンにはよく見られる行動)を集め、また、経済学者から、最も合理的と思われていた「市場仮説」に抗っていく。
    そして、行動経済学の次なる段階として、デフォルト設定変更等を用いて、意思決定をナッジ(誘導)していく。

    研究内容が興味深いのはもちろんのこと、読みながら研究環境について感じたことも多々あり。
    「大学院生」が研究や論文の執筆に大きな役割を果たしていることに驚きました。(日本でも、そうなのかな?)
    また、筆者は、ノーベル経済学賞を2017年に行動経済学者として初めて受賞した、とのこと。
    登場する経済学者も、ゾロゾロとノーベル経済学賞受賞者らしくて、そのハイレベルな環境にびっくり。
    ネットで調べてみると、ノーベル経済学賞というのは、正確にはノーベル財団が認めている賞ではなく、また、現時点で89人の受賞者のうち圧倒的多数は米国出身で、非欧米の受賞者は1人しかいないらしい、とも知り、経済学ってそういう分野だったんだー、と感慨。
    ともあれ、著者が自分の研究と取り巻く世界を存分に楽しんでいることはよく伝わってきました。
    しあわせなヒューマン、ですね。
    続きを読む

    投稿日:2022.02.20

  • hima2b4

    hima2b4

    身の回りの合理主義に嫌気がさしているものにとっての救いの書。
    キーワードは「ナッジ」。二度と忘れぬ言葉になる。

    投稿日:2020.09.21

  • yuusukee

    yuusukee

    セイラー氏も行動経済学も知らなかったが、読み進めるにつれすっかりファンになってしまった。
    とりあげられているエピソードが秀逸なものばかり、誰かと飲みながら議論したくなる。
    難解な内容もあり、なかなか頭に入ってこない部分も多いが、秋の夜長をじっくり楽しめた。
    合理的に行動できない我々"ヒューマン"は、これからも誤りを繰り返すんだろうな。手近なとこでは、ユニコーンブームの終焉かな。
    続きを読む

    投稿日:2019.10.27

  • Ichiyo*

    Ichiyo*

    ストーリーを重視してるということですが、そのために冗長で分かりづらくなっている印象...
    最後の「今後の経済学に期待すること」だけ読めば良かったかも(苦笑)

    投稿日:2019.07.29

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