【感想】ジハーディ・ジョンの生涯

ロバート・バーカイク, 国谷裕子, 野中香方子 / 文藝春秋
(10件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
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ブクログレビュー

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  • oriduru1970

    oriduru1970

    中盤はだるくなって飛ばし読みしちゃったけど、どうして平凡な幸せを手に入れたいだけだったはずの人たちが、殺人に手を染め、他者を拷問するほどに先鋭化してしまうのかが怖くなる本だった。

    日本でも、団塊の世代の学生運動で人を焼き殺したり、仲間内で殺し合ったのも似たような心理状態だったのかな?
    渋谷暴動事件も浅間山荘事件も理解できない。なぜあんな蛮行を?

    当事者たちはイデオロギーがどうのこうのと言い募るかもしれないけれど、ただ単にサイコパスだったか、人間関係を含む異常な環境から抜け出せず人間性を見失ってしまったかという話なんじゃないのかな。

    単なるサイコパスはそれほど多くはないはずだから、つまり異常な環境下で不安定な足場に立つ自分を見つけたら、その自分は案外簡単に他者を拷問したり殺したりしてしまうかもしれないと想像できてしまうのが恐ろしい。

    少なくともロバート・バーカイクによるジハーディ・ジョンの物語からは、あるグループを排除するというやり方では、問題を解決できないどころか、新たな無数の問題を作り続けるはめになるとわかる。

    ジハーディ・ジョンのしたことは、彼が過去に受けた不平等や差別的取扱いをもってしても許される余地のない恐ろしい
    蛮行だ。同じ環境でもテロリストになんかならない人のほうが多いはずでしょ。

    でも、イギリスの社会がもっと公正な場所だったなら、ジハーディ・ジョンのような短絡的なアホでも、誰も殺すことなく普通のロンドン市民として、今も生活していたかもしれない。

    差別や排斥の問題は根深くて難しい。差別を受ける当事者が加害者になると、更に複雑になる。その恐ろしいまでの複雑さが現実だ。

    読み飛ばしたとか最初に書いておいてこんなことを書くのもなんだけれど、現代を生きていて、この世の中がどうなっているのか考え続けたい人なら、この本は読む価値があると思う。

    私はラストの章で登場したDr Jonathan Leader Maynardの記事か本か論文を読みたい。日本語訳が無さそう…ネットを見れば、多分英語で書かれた何かしらを見つけられるでしょう。がんばろう。
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    投稿日:2021.12.16

  • sasha89

    sasha89

    「安倍よ、お前が勝つ見込みのない戦争に参加するという無謀な
    決断をしたために、この刃はケンジのみならず、いかなる場所に
    おいても、引き続き日本国民を殺すだろう。つまり日本の悪夢が
    始まるのだ」

    2015年に日本人ジャーナリスト後藤健二氏を殺害したことを告げ、
    インターネット上で公開されたイスラム国の動画の中で、黒装束
    の処刑人は日本へ宣戦布告をした。

    ジハーディ・ジョンと呼ばれた処刑人はこの動画を最後に公の場
    から姿を消し、2015年11月12日にアメリカ軍のドローン攻撃によっ
    て殺害された。

    アメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーから日本人2人の
    殺害まで。常にイスラム国の動画に登場したジハーディ・ジョンとは
    一体、何者であったのか。

    イギリス訛りの英語を話す彼の本名はモハメド・エムワジ。イギリスで
    教育を受けたクウェート移民の子だった。

    ドローン攻撃による殺害後、著者はジハーディ・ジョンになる前のエム
    ワジと会ったことがあることに気がつく。あのムスリムの青年が、世界
    を震撼させた処刑人になっていたとは。

    ひいきのサッカー・チームの選手になることを夢見た少年。信仰には
    決して熱心ではなかったし、ムスリムとしての自覚を持ったのも遅かっ
    た。そんなエムワジが、何故、イスラム国に参加することになったの
    だろうか。

    エムワジの周辺にはソマリアの過激派と繋がる者がいた。それが英国
    の治安当局から目をつけられることになった。そうして始まった嫌がらせ。

    証拠もなくテロリストの疑いをかけられ、治安当局のスパイになれとの
    脅しをかけられる。海外旅行はことごとく妨害され、結婚さえも思うよう
    に出来なくなる。

    エムワジだけが特別だったのではない。何人、何十人ものイギリス在住
    のムスリムの若者がテロの嫌疑をかけられ、似たような嫌がらせを受け
    ていた。著者は彼らの話を聞き、当時在籍していた新聞にムスリムたち
    の窮状を公表した。

    一定の効果はあった。治安当局は自分たちの行いが公になったことで
    嫌がらせは止まった。だったら、自分のケースも公表することで好転
    するかもしれない。エムワジは一縷の望みをかけたのかもしれない。
    著者に接触し、窮状を訴えた。

    だが、タイミングが悪かった。著者が転職する時期と重なった為に、
    エムワジのケースは紙面に載ることはなかった。

    どの時点でエムワジが過激主義に染まったのかは分からない。もしか
    したら、著者に接触した時点で一定程度の過激主義に感化されていた
    のかもしれない。

    それでも考えてしまう。もし、イギリス治安当局が執拗な嫌がらせをしな
    ければエムワジは八方塞がりになることはなったのではないか…と。

    確かに国内での監視を強めれば、過激主義に染まってシリアや周辺国へ
    渡航する若者は減るかもしれない。だが、その分、国内で不満を蓄積し、
    その国への憎しみを募らせる人々を増やすのではないか…と。

    テロリストを育むのは、何も過激主義者たちのプロパガンダだけではない。
    排外主義こそがテロリストの芽を育てるのではないだろうか。

    エムワジは死んだ。けれども、第2、第3の「ジハーディ・ジョン」が誕生する
    土壌は確実にあると思う。
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    投稿日:2017.08.23

  • hosinotuki

    hosinotuki

    ジハーディ・ジョンの生涯というより,誰でもがジハーディになりえたかもしれない脅威.不寛容,対応のまずさ,追い詰めることからのますますの過激化.世界を震撼させるテロの前に,悪循環の悪夢ばかりが思い浮かぶ.何とかならないものだろうか.非常に考えさせられる本である.続きを読む

    投稿日:2017.05.13

  • hitoshinakamura

    hitoshinakamura

    どのようにして普通のイギリス人がイスラム国の処刑人になっていくのか.ジハーディー・ジョンことモハメド・エムワジに英国保安当局の嫌がらせ受けていると相談を持ちかけられたことのある著者が豊富な情報を元に説明する.続きを読む

    投稿日:2017.04.14

  • kazuyadokomademo

    kazuyadokomademo

    テロ防止法等によって規制を強めたことや、空爆が結果、狂気のテロリストを更に増やしているのではないかと思う。
    テロリストによりムスリムに対する差別が生まれ、一般的なムスリムの人たちが住みにくい環境になりその人がまたテロリストへ・・悪循環をたちきることはできるのか続きを読む

    投稿日:2017.03.01

  • フィドラー

    フィドラー

    敵国の人間を斬首するというショッキングな映像を見せられてからイスラム国の戦士はどのような経緯を経てこんな残酷なことができるのだろうと思っていた。
    結局彼は,テロを防ぎ、国を守るためのイギリス当局の執拗な干渉に自由を奪われ、結婚も邪魔され、新天地への移住もできなかった。そうした処遇も手伝ってイギリスを憎みイスラム過激思想にのめり込んだのだろう。
    そんなイスラムの戦士の中でも他の戦闘員にない寡黙さを持ち、失うものが何もないようだったという記述に、人間としての尊厳を奪われ、失意のどん底から立ち直らないままいびつな性格、人間性を固定していったのではないだろうか。、
     だが、しかしそれでもあの残酷なシーンは世界中の人たちを震撼させ、この先の暗澹たる未来を予言せざるを得なくさせた。通常あるべき善悪を超越し、良識を失った過激で野蛮な“国”の誕生がどれほど世界に大きな影を作ったか。大きなとてつもなく大きな罪を作った。彼もイスラム国も。
    続きを読む

    投稿日:2016.09.29

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