【感想】原油暴落の謎を解く

岩瀬昇 / 文春新書
(8件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
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  • 油断は再び起こるのか

    日々の原油価格は在庫が増えたとか、増産の可能性がとか後付けとしか思えない理由で動いている。原油価格はいつかは上がるのか、またその時期はいつか。長年取引の現場にいた著者からの解説がこの本だ。

    今は50ドル近くに戻ってきているが2月11日には26.12ドルの最安値をつけた。年明けから3週間ほどで価格が3割下がった理由は3つと考えられている。サウジとイランの断交により減産合意の可能性が当面なくなった。そして経済制裁の解除によりイランには増産の動機が生まれ供給過剰が予想より早く進む。そして1月19日に発表された中国の2015年のGDPは6.9%、金融市場は実際にはもっと低いのではと色めき立った。

    中国の需要は本当に減るのか?8月末の時点まで粗鋼の生産は対前年比マイナスを続けているが、不動産投資、固定資産投資、セメント生産量は今年に入って回復している。成長率は低下するとしても需要は伸びると見た方が硬いようだ。

    予想以上に競争力が有ると見られてシェールオイルは暴落の原因なのか?著者の見立てでは最も競争力のあるリグは50ドル台でも稼働する。在来型の油田が取り続けないと効率が悪くなるのに対しシェールオイルは比較的簡単に採掘を止められ、価格上昇時には増産に対応できる。将来価格が上昇する時にはシェールオイルがシーリングの役目を果たしそれが60ドルというのが著者の予想だ。

    では最大の問題は何かと言うと2年にわたる供給過剰で積み上がった膨大な在庫だ。2016年始めで100万〜200万バレル/日の供給過剰で2月末のOECD全加盟国の在庫は30億バレル、日本の需要の2年分を超える。この在庫はいつかは市中に放出されるため価格の下押し要因となっている。

    投機筋の影響はどうか?NYMEXでは日当たり9000万バレルの生産量に対し、10億バレルが取引されており未決済の残高も17億バレルある。原油生産業者は将来の価格下落に備え先物は売り越し、航空会社が買い越す結果実需グループでは売り越しとなっている。一方投機筋と呼ばれる金融業者は買い越し将来の価格上昇にかけている。

    では原油価格はどうなるのか。米EIAは膨大な在庫が有るので原油が高騰することはないと予想している。しかし、著者は市場参加者が将来の需給バランスを重視するため価格は上昇すると予想する。在庫のリバランスはいつかは目立たないように進み、いつか需要が供給を上回る日が来る。OPECが減産を決めなければ、中東で地政学上のリスクが暴発しなければ価格は上がる。日本は今こそ国家備蓄を進める時だというのが著者の提言だ。
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    投稿日:2016.08.27

ブクログレビュー

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  • kofsan

    kofsan

    世界の将来石油需要は、かなり正確に予測できる。
    シェールなどを含む潜在原油埋蔵量は十分あって、枯渇しないと予測されている。
    しかし、原油価格は長期の需要と潜在供給量以外の要素によって大きく影響を受け、誰も予測ができないというのが過去の教訓である。
    例えば、巨大な原油の在庫を抱えている事業者は、原油が値上がりすると在庫の価値が上がって会計上の利益が出るので、市場の値上げ基調を壊さないために、かえって供給を絞るというような動きをすることがあり、それが市場の動きを撹乱させる要因となる。それ以外にも、様々な市場参加者が様々な思惑で動くので、原油価格は安定しない。
    (いつ値上がりするかはわからないが、いつかは原油が値上がりするのは確実なので)原油価格が低い今こそ日本は原油貯蔵量を大幅に増やすべきだ。
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    投稿日:2019.05.21

  • 波瀬龍

    波瀬龍

    【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】
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    投稿日:2018.10.28

  • 弐印

    弐印

    客観的なデータが豊富。原油価格決定の仕組みが大変詳しく解説されている。原油取引理解のためのテキストと言える。

    投稿日:2017.05.01

  • nyabii

    nyabii

    このレビューはネタバレを含みます

    重油を扱う仕事についたので、勉強のため購入。参考になった

    以下メモ書き。
    ・原油の品質は、比重(重さ)と含有する硫黄分の量で変わる。
     比重の軽い、硫黄分の少ない原油の方が高い。
    ・ドバイ原油、生産枠などOPECの規制を受けない、すべてスポット契約で市場価格を示す。
    ・先物市場における価格。期近と期先の原油値差。将来への価格カーブが上向き(先高、コンタンゴ)か、下向き(先安、バックワーデーション)かに注意する。
    ・シェール革命。在来型と比べ、投資決断から生産開始までの期間が短く、生産期間も短い。外部の資金調達に頼る、金融市場の影響受けやすい。ただ、生産量は400~500万B/D程度で、世界全体の約9,000万B/Dの数%に過ぎない。20~30年は在来型が主流か?
    ・チャプター11は「申請した時点で、会社に有利な契約は継続、不利な契約は不履行にして、事業継続し債権を図る」もの。

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    投稿日:2017.02.12

  • Teddy

    Teddy

    このレビューはネタバレを含みます

    いろんな経済指標の基ともなる原油価格。
    その先を見通せるようになりたいなと思っていた時に、新刊で並んでいたので手にした新書。
    そもそもどうやって原油価格が決まってきたかの歴史、今回の暴落の振り返り、そして今後の見通し。少しは分かった気になりました。
    とりあえず、じわじわと原油価格は持ち直して上昇するものの、シェールオイルの増産生産コストの60ドルあたりがキャップになると。

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    投稿日:2016.07.29

  • Y.K

    Y.K

    前前著「石油の埋蔵量は誰が決めるのか?」で、原油生産の仕組みや埋蔵量決定の仕組みなどを大変分かりやすく解説した著者が、2016年に入って価格が暴落した原油の価格決定の仕組みについて解説した本。書名の「原油価格の暴落の謎を解く」というよりは「原油価格は誰がどのように決定しているのか」、「過去の原油価格の大幅な動きはどのような世界の動きが関与していたのか」の2点に重点を置いた内容です。
    知っているようで知らない世界とはまさにこのことかもしれません。未だにOPEC(石油輸出国機構)首脳が集まって原油価格を決めていると思っている人も多いのでは?ところがそんな価格決定のシステムは30年以上も前の事なのです。現代においての価格決定のシステムについては本書の内容に詳しいので割愛しますが、そういう事実を知るだけでも本書を読む価値大と感じます。
    原油価格の低い今だからこそ、原油の国家備蓄の増量に取り掛かるべきとの提言は非常に説得力があり、資源を持たざる国である日本に住む我々が、知っておくべき重要な情報を分かりやすく紹介した素晴らしい本だと思います。
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    投稿日:2016.07.26

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