【感想】オービタル・クラウド 上

藤井 太洋 / ハヤカワ文庫JA
(24件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
7
11
3
2
0
  • 希望と悪夢は軌道上で別れてる

     オービタル(軌道)のクラウド(雲)。小さな宇宙空間推進装置「スペーステザー」の集まりがまるで雲のように見えることからこの題名。導入部は科学用語も多く何のことやらさっぱり分からず「雲」をつかむような話でした・・・が、話のが進むにつれて目が離せなくなります。
     大雑把な流れは、「天才宇宙科学者が北朝鮮のテロに加担して、それに立ち向かう主人公チームの話」なのですが、ここかしこに宇宙へのフロンティアスピリッツが溢れています。宇宙という希望へと向かう話は個人的にとても好感がもてました。 このところ(2016年)「火星の人」や「ゼログラビティ」など宇宙モノはサバイバル要素が強いように感じていましたが、やっぱり宇宙は「ライトスタッフ」がいいなぁ。
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    投稿日:2016.06.22

  • ギークでクールなオービタルSF

    流れ星の発生を予測するWebサービス〈メテオ・ニュース〉を運営するフリーランスのWeb制作者・木村和海は、衛星軌道上の宇宙ゴミ(デブリ)の不審な動きを発見する。それは国際宇宙ステーション(ISS)を襲うための軌道兵器だという噂が、ネットを中心に広まりりつつあった。同時にアメリカでも、北米航空宇宙防衛軍(NORAD)のダレル・フリーマン軍曹が、このデブリの調査を開始した。その頃、有名な起業家のロニー・スマークは、民間宇宙ツアーのプロモーションを行うために自ら娘と共に軌道ホテルに滞在しようとしていた。和海はある日、イランの科学者を名乗る男からデブリの謎に関する情報を受け取る。ITエンジニアの沼田明利の助けを得て男のデータを解析した和海は、JAXAに驚愕の事実を伝えた。それは、北米航空団とCIAを巻き込んだ、前代未聞のスペース・テロとの闘いの始まりだった──電子時代の俊英が近未来のテクノロジーをリアルに描く、渾身のテクノスリラー巨篇!

    いやー文句なしに面白い。衛星軌道上、東京、テヘラン、シアトル、NORAD、ディスヌ島(離島)と当初は6視点で物語は展開されますが時系列に謎の提示とその解明がされていくので混乱する事なくどんどん読めます。むしろ時差や国のインフラ差を使ってのジレンマをうまくストーリーに織り込んでいるのでおいおい早くなんとかしろよ的な焦りにも似たドライブ感に後押しされながらかなりボリュームある本作もあっという間に読めてしまいます。前半の軌道上の謎とネットを使ってのミスデレクション、中盤から後半のエスピオナージ的展開と和海たちによるの謎解き、そしてオービタルクラウドの意味がわかってからの畳み掛けるような地球規模のオペレーションと二転三転する結末にとにかく最後まで目が離せません。

    しかし作者は格段にうまくなっていますね。Gene Mapperの頃はかなり技術寄りな話に偏っていて小説としてのバランスがいまひとつに感じていたのですが、本作は技術偏重ではなく人やストーリーにも目配せが行き届いておりバランス良くそしてなによりも読ませる。もちろんいつものように技術設定もてんこ盛りなのですが、舞台が2020年なのでSF設定は低めで現在の地続きの技術で話は積み上げられていきます。とにかくIT用語やビジネス用語、宇宙航空用語などのオンパレードで少しあげただけでもデプロイ(展開)、ラウンドロビン(負荷分散)、ラズベリー、スリーピングガン(眠り砲台)、エグジット(出口)、レベニューシェア(利益配分)、コモディティビジネス、TLE、テレメトリ、ISS、SDI、ASAT(対衛星兵器)、デブリカタログなど盛りだくさん。

    私的には今年度(2014年度)の日本SF作品の中では今のところ1か2位。作家には化ける作品があるのですが、本作がそうなるやもしれません。(再掲)

    ※CIA本部は今はラングレーじゃないんですね。マクレーンだって。
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    投稿日:2017.03.29

  • SF、スパイ、テロ、チームの力…てんこ盛り

    流れ星を予測するWebニュースを運営している和海は、デブリ(宇宙ゴミ)のおかしな動きに気がついた。そこから始まる物語。
    何万という極小物体が雲のように集まり、軌道上の人工衛星を襲う。
    テロリストと、フリーランスの和海を中心としたチームが、地上と宇宙空間で攻防を続ける。
    物理の法則はチンプンカンプンだけど、手に汗握る。
    悪者のはずのテロリストの悲哀も感じたり、1冊の作品にギュっと凝縮されている。
    ハリウッドで、是非とも映画化してほしい!!
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    投稿日:2016.08.25

  • スペーステロ

    衛星軌道を舞台にしたスペーステロ。結構面白い。
    宇宙空間でのテザー利用については,最近もこうのとりがテザーを使ってデブリ除去をしようとした(けど失敗した)なんてニュースがあったりして,タイムリー。
    だ,その本質じゃないところでいくつか突っ込みどころが。。。コンピュータ周りの記述はちょっと微妙。(何がとは書かないけど)

    まあ,そんなところはあっても,テクニカルなSFとして楽しめると思う。
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    投稿日:2017.03.16

  • 下巻を読まずにおられません。

    250ページぐらいまでは専門用語が多くて読みにくいかもしれまさんが巻末に用語説明がついているので参考になります。ところで1ボードコンピュータのラズベリーパイを複数個接続し並列処理させて、大量の軌道データを処理してしまった場面には驚いてしまった。思わずウッソーと言ってしまった。体感的に軌道を把握してしまう能力にもビックリ。250ページぐらいまではハードSF。それ以降はスパイ小説でワクワクハラハラといった感じで、今、下巻を読み進んでいます。今後の展開が楽しみです。最後にちょっとヒントを掲載しておきます。冒頭部分を読めば地磁気を利用した推進装置が重要なカギになることが予想できます。jaxaのサイトに導電性テザー(EDT)というのが載ってました。知識の無い私が読んでも理解できませんでしたが参考までにURLを載せておきます。
    http://www.ard.jaxa.jp/research_fy27/mitou/mit-edt.html
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    投稿日:2016.08.19

  • 設定はよくできていると思うのですが

    小説としては、すべてがあまりにもあっさりとしすぎていて物足りません。
    キャラクターとストーリーで肉付けしたシミュレーションの説明みたいな感じ。

    投稿日:2016.09.05

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ブクログレビュー

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  • imemuy

    imemuy

    SFといえばSFなんだけど、宇宙を背景にしたサスペンスというかテロ事件に立ち向かう1人の民間人、という感じ。最初は登場人物がたくさん出てきてどういう状況なのかよく分からなかった。読み始めるといっきに進む。続きを読む

    投稿日:2022.12.24

  • さいたに

    さいたに

    このレビューはネタバレを含みます

    ――

     スペクタクル。もうほんと、そんだけ。

     純粋なSF、であると同時に科学ミステリ。サスペンス大作でもあり、冒険小説でスパイ小説でお仕事小説でもある。むしろ含まれてない要素はなんだ。ラブコメ? ちょっとある。

     物語のスケールが地球規模なので、沢山の立場の沢山のひとたちが出てくるわけだけれど、皆がみなそれぞれの場所でそれぞれの肩書きの上でしっかりとキャラクタしているからとてもとても魅力的。こんなに登場人物の顔と名前が一発で入ってくることあんまりない。真っ黒な悪人が居ないというのも好み。
     にしても宇宙のふたり(笑)は本当に魅力的かつ、最後に美味しいところを持っていくキーパーソンにもなっていてズルいなぁ。特にトニー・スターク――もといロニー・スマークはこれはもう、モデリングが秀逸。物語のデトネータとしての役割を完璧にこなしている。
    けれど何より、そういったキャラクタの中心にいる主人公が、登場人物の中で最もスーパーヒーローから遠いように見える主人公が、少しずつ大胆に“チーム”を構築していく。
     けれど彼の中にあるのは、正義感や使命感とはまた違うもので。
     これはなんというか、憧憬? に近いような。
     技術や発想に対するリスペクトと、そして、だからこその意地、というか。
     その力の素晴らしさを知っているからこそ、もっと何かあるだろう、っていう歯痒さが、誤った力の使い方に対して食らいついていく動機になっていく。それはひとつの、可能性の獣なのかもしれない。こうあるべきだ、っていうのではなくて。少しでも佳い方へ。

     それはでも、個人の持つ発信力が本当に大きくなっているいま、ひとりひとりが抱えている問題であり、同時に秘めている可能性でもあるわけですね。

     お見事。☆4.4

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    投稿日:2022.02.08

  • mo12ino

    mo12ino

    IT詳しい人が書いた感じはするけども、なんかワクワクしない。
    2022からだと8年前、単行本だともっと前かもしれないけどさほど陳腐化した感じもしない。

    投稿日:2022.02.06

  • おさるのかごや

    おさるのかごや

    藤井作品には今でも実現できそうな技術が登場し、それを扱うエンジニア達の活躍は爽快です。本作品の要となる宇宙技術も実験されてると解説にありました。

    投稿日:2021.11.18

  • 霽

    複数の視点から語られてて、面白いです。

    ただ、理系?の言葉が多く出てくるため、理解するのに時間がかかりました。

    投稿日:2021.08.14

  • ぶるーらいおん

    ぶるーらいおん

    前半はもう何度も読むのを止めようかと思ったほど、何が何だかさっぱりわからず。(前半でのめり込めない本は、自分との相性が悪いと判断して、本を閉じてしまうことが多い)IT系と理系の内容が多く、かつ登場人物に外人が多く、複雑なのがその原因だと思われる。

    しかし、この本、約2年も待ってやっと当たった「一万円選書」で選んでもらった本なので、そう易々と諦めきれない。また、他の方のレビューも非常に好評だったので、絶対これから面白くなるはずと思って、がまんして読み進めた。

    面白くなってきたのは、本の半ばをすぎた頃。ゆうに100ページ以上は前振りだ。もうちょっと初心者でもわかりやすく、話の展開も早いとよかったのだが・・・。

    そんなわけで、下巻に期待しながらも、上巻は★2つとさせていただいた。
    続きを読む

    投稿日:2019.01.22

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