【感想】中国4.0 暴発する中華帝国

エドワード・ルトワック, 奥山真司・訳 / 文春新書
(35件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
10
13
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  • 大国を相手にするときの小国の心得

    中国は毛沢東主席の死から今日まで チャイナ0, 1.0, 2.0, 3.0という段階を超えて世界に台頭してきました。 
    特に中国の世界戦略上、成功ともいえる チャイナ1.0の時代、諸外国の人々は 中国に脅威を感じることはありませんでした。
    しかし、その後、2.0の時代に入ると世界の反応は一転、中国を政治、経済、平和への脅威とみなすようになります。
    エドワード・ルトワックは歴史上、大国が陥った戦略上の失敗をもとに、今後のチャイナ4.0と世界、特に日本のかかわり方を示唆しましす。
    中国の情勢を読みつつも 世界の歴史の裏側を読み解く道しるべとなる本です。

    ちなみに、日露戦争で なぜ、日本が大国ロシアに勝つことができたのか、また、隣国が何故、日本を恨み続けるのかなどについての指摘も 面白くかかれています。
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    投稿日:2016.04.08

  • キーワードは逆説的論理。国家間の戦略は逆説的論理で考えないと足下をすくわれる

    中華人民共和国の戦略の変遷を1.0から4.0と呼び分けています。
    1.0の時は平和的台頭で、諸外国とは摩擦はありませんでした。
    リーマンショックによってアメリカ経済が失速した時、中華人民共和国は大きな勘違いをしました。
    それが、中国2.0と3.0の攻撃的な戦略です。

    小国に対して金で顔を叩くような対応し、大国に対しては市場を餌にして横柄な態度に変わっていったと・・・普通に成金の嫌なおっさん状態に。
    それだけでなく、この時期から南シナ海の軍事的衝突が始まってきました。

    なんで、中国がこんな戦略をとったかというと、「超大国の中国に刃向かう国なんて存在しない」と思い込んでいたのだそうだ。
    ルトワック曰く、「相手を発明」してしまったから、これは中国だけでなく、過去には至る国で同じ間違いをしてました。
    湾岸戦争時のアメリカは「民主化を望んでいるイラク人」を発明して、フセインを排除すればイランは民主化して万々歳というストーリーを作っていました。
    ルトワック自身、イラン人は民主化なんて望んじゃではいないという発言をしたら、人種差別主義者の烙印を押されたそうです。
    相手を創造する根幹は「感情」に起因しており、中国の感情は、アヘン戦争、西洋の列強の進出、日本の台頭へのコンプレックスをこの期に晴らそうととルトワックは分析しています。

    中国が遅れてきた列強主義と揶揄される行動が、納得できました。

    中国が各国の反発を招いたのは、「逆説的論理」が理解できていなかったこともあります。
    「大国」と「小国」が激突したら、絶対に1対1の対決とはならない。
    なぜなら、「小国」を援助する国が現れるからです。
    ルトワックの持論の一つ「大国は決して小国に勝てない」。日露戦争時のロシアやベトナム戦争時のアメリカもこれに当てはまります。

    「ロシアは戦略を除いてすべてダメで、中国は戦略以外はすべてうまい」
    中国の戦略は行き当たりばったりなので、ルトワックは日本に対してこう提言しています。
    計画的に対応しようとしても、それはうまくいかない。全ての可能性に対して受動的に対応するべきだと。
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    投稿日:2016.04.02

  • 2000年代以降の中国の対外戦略を分析

    2000年代以降の中国の対外戦略は平和的台頭で成功し(中国1.0)、
    2009年の国際金融危機で世界経済の構造が変化し始めると、
    成長は線形だ、金は力なり、大国は小国に勝てる
    という3つの勘違いを犯して対外強硬路線に突き進む(中国2.0)。
    先進国の凋落は中華思想に火をつけやすいのだろう。
    2014年秋に反中同盟に気づくと、抵抗があれば止めるという選択的攻撃におよぶ(中国3.0)。

    日本にとって中国がリスクなのは"不安定な大国"であることだという。
    中国は内向きの性向があり、それが対外戦略を誤らせる。
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    投稿日:2016.06.25

  • 大国になりたい中国

    中国1・0
    2000年頃の中国は改革開放を継承した江沢民が経済を優先し、実質的な資本主義経済へと舵を切った。反日教育のイメージが強いが、WTOに加盟し、国際法も順守する。中国は台湾を含めた周辺国に対し平和裡に台頭するという戦略を実行した。

    中国2・0
    リーマンショックにより中国は経済力で世界一になるのに後10年でできると思い込んだ。第一の錯誤は「金は力なり」つまり経済力が国力そのものだと思い込んだのだ。中国国内では今でもこういうところがあるので無理はないのかもしれないが経済力に国力が追いつくには50年以上かかるのかもしれない。例えば空母だけをとっても中国がアメリカに追いつくには20年以上かかる。
    第二の錯誤は「リニアな予測」China up,US downを信じ、ゴールドマンサックスのBRICsという投資のアイデアに世界中が踊らされたがこれを信じたウブな中国は「これからはわれわれが物事を決定する立場に移るべきだ」と考えた。その例が元は蒋介石の国民党が絵を描いた荒唐無稽な九段線だ。
    そして第三の錯誤が「二国間関係」で物事を決められると考えたことだ。領土問題では中国はいつも二国間での解決を主張する。しかし小国が中国と揉めれば周りの国は次は我が身と小国に味方する。
    胡錦濤は国内の「あまりに抑制的で中国の力を十分に発揮していない」という批判を受け対外的に強硬な姿勢を示すようになった。ルトワック曰く「ロシアは戦略を除いてすべてダメだが、中国は戦略以外はすべてうまい」日本に対しても巨大市場の中国を重視する企業が政府に圧力をかけ、腐敗した政治家はビジネスマンの言うことを聞くと言う幻想を抱いた。

    中国3・0
    2014年秋、反中同盟に気づいた中国は方針を変更した。それが「選択的攻撃」で抵抗のない相手は攻撃し、抵抗されれば止める。尖閣問題でも領海内への侵入は抑制されている。ロシアが国際社会の反対を無視してクリミア半島を実効支配したのに比べれば、中国が尖閣を自国領にするための実力行使はない。主張していれば国内では問題にならないからだ。アメリカの航行の自由作戦を中国は邪魔しない。航空識別圈を定めたが実際には守ろうとしない。

    権力を集中させる習近平は反腐敗運動で10万人の党幹部を捜査し、人民解放軍トップ二人を逮捕した。徐才厚についてはガンで死期が近い入院中に逮捕しており極めて強硬な姿勢だ。天津爆発事故では習近平暗殺説が流れたが、これは一般市民も習近平がリスクを背負っていることを知っているということだ。結局中国は米国との「新型大国関係」G2を目指したが果たせなかった。中国3・0は今も続いている。

    中国の第一の敵はアメリカ、アメリカが中国を敵視していると言うことではない。中国からすればアメリカは民主的にドナルド・トランプを大統領に選ぶ不思議の国だ。これは中国では起こりえない。薄熙来がいかに人気取りを実行しようとも大統領にはなれないのだが、アメリカはそれを許す国でそのこと自体が中国に影響を与える。
    第二の敵は習近平その人だ。共産党を腐敗から救おうとする習だが反腐敗運動は共産党のパワーの元であるカネの流れを止め、求心力を失わせる。ゴルバチョフ同様に共産党を改革しようとした結果が共産党の解体に繋がりかねない。毛沢東時代の求心力はイデオロギーだったがもうそこには戻れない。カネという求心力を失えばこの本を読む限りでは大国意識しか残らないのだろう。

    中国4・0
    戦略がうまくない中国にルトワックが勧めるのは2つ、九段線を引っ込めること、空母の建造を止めることだがこれは受け入れられないだろうとルトワックも中国国内では政治的に受け入れられないだろうと考えている。だが、荒唐無稽な九段線も寄港地を持てない無駄遣いに終わる空母も、小国を反中国で団結させアメリカに近づけるだけなのだ。パキスタンやスリランカに寄港地を持ったところで南シナ海からインド洋をすべて敵に回しては実際には使えない。

    では日本はどうすべきか、「封じ込め」と書いてるが要はリアクションだ。そのためには尖閣を守れるようにハードとソフト(法整備)を備え、外交的にも連携する。トランプの対中関税障壁のように中国がアクションを起こしたら、欧米やアジア各国が一致してグローバルな貿易取引禁止状態を作るように準備しておく。最大限の確実性と最小限の暴力を多元的に発揮できるように準備しておくべきだと言う。

    結局中国の問題は過去100年の恥辱を乗り越えるためには大国として特にアメリカに認めさせないといけないという感情と、一旦言ったことは取り下げられないという面子、そして自国を基準にする限り外国を理解できないということになるのか。難儀なことだ。
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    投稿日:2018.09.03

ブクログレビュー

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  • takahan24

    takahan24

    中国共産党の戦略をわかりやすく解説。今後の進むべき道と結末も予想していて、なかなか興味深かった。
    ちょっと古い本だけど、ここ最近の中国の動向を見ていると、答え合わせも楽しめる。

    投稿日:2020.07.22

  • arafunesan

    arafunesan

    2019/03/15:読了
     めちゃくちゃ面白かった。
     しばらくこの人の本を読み続けたいと思えるほど、考え方が参考になった。

    投稿日:2019.03.16

  • 川柳蛙斎

    川柳蛙斎

    中国という国は日本から見ると、あるいは日本人から見ると色々な評価がある国である
    お隣さんなのだから当然ではあるが

    自分はネガティブな目では見ていないというのが本音
    中国人として生まれてくれば良かったなんてことは絶対に思わないのだけど、中国という国は興味に値する国だと思う

    韓国という国もあり、両国は反日という点で共通点がある
    しかし、韓国、あるいは韓国人は「日本は歴史的に間違ったことをした」「日本は問題がある」といった結論ありきの語り方をする人が多いと思う
    中国人はどちらかというと、日本の立場や日本の考え方といったところを説明すれば、その意見には耳を傾けてくれる

    話にならない韓国人
    話になる中国人
    これが自分が多くの中国人や韓国人とつきあってきた中での両国の評価
    もちろん、全員が全員ではないが

    前置きが長くなったが、そういったことで中国には興味を持っているし、もっとわかりたいという思いがある

    そんな中で手にとったこの本

    中国、もちろん近代中国というか、中華人民共和国になってからの話だけれども、筆者としては中国の段階が3つあり、これからが4つ目の段階になるよ
    その4つ目の段階では戦略的にこういった事をした方が良いよという内容

    1つ目の段階、中国1.0
    鄧小平さんの時代の事を指していたと思う
    天安門の事件もあったが、中国も成長し始めた頃であり、周辺国もそこまで中国に警戒していない時代
    。。。と言う事だが、日本はその頃から一定程度の警戒があった気がする
    まぁ経済力で日本を超えてしまう可能性があるという点の警戒かな
    「そんな事は起きない」「中国経済は日本を超えない」そういった本が一部の日本人の希望通りの内容で、一定の人気があった気がする
    この本の筆者の評価としては、この頃の中国は周辺国とうまくやっていて、経済成長も期待できる非常に良い国だったというところ

    2つ目の段階、中国2.0
    この辺りで中国は戦略的に間違いを起こしたらしい
    ここは胡錦濤さんの辺りを指していたと思う
    中国の中で自信が生まれてきた事で周辺国への侵略的な行為が見えてきたと
    ここで興味深い内容が「大国は小国に勝てない」「大国は自分の判断で他国に対する軍事行動を起こせる国」というような内容
    非常に腹落ちした

    大国が小国を攻めようとすると、その大国を警戒する他国、特に他の大国が小国側につく事で力の均衡が図られると

    また、大国の定義として挙げられていたのがフランス
    フランスはすでに経済力ではアメリカやドイツ、、、日本から見ても下にはなる訳だが、近年、アフリカのマリへの軍事侵攻を起こした
    侵略した訳ではないが、イスラム武装勢力がいたのでその勢力を一掃するための軍事侵攻だった
    こういった事ができるのが大国だと

    なるほど、それは日本は絶対にできない
    中国もインドとかともめていたりするけど、大国というには少し微妙なのかなと思ったりもした

    まぁそういう事で、1.0のまま周辺国と揉めずに成長していけばアメリカを超す超大国になれたかもしれないのに、、、というのが中国2.0

    そして第3段階
    これは現在の習近平さん
    ここは自分としても2.0との違いがよく分からずだったのだが、筆者からすると微妙に違うらしい
    だが、結局周辺国と揉めているって事は変わらずなので、中国にとって良い方向じゃないよねという話らしい

    で、筆者が言いたいのが中国4.0
    やはり中国1.0に戻るべきだという話
    南シナ海で埋め立てしていたりして、中国の力が非常に強くなっている
    素人からすると、すでにアメリカも超えているのではないかという印象もあるのだが、全然そうではないと

    アメリカは批判意見もなくはないが、やはり色々な国と一定程度の信頼関係を築いている
    それによって各国の港を使える事でアメリカは世界のどこにでも軍艦を派遣可能であると
    しかし中国は違って各国の港を自由に使う事ができない
    確かに中国の軍艦が日本に入ったというようなニュースは聞いた事が無い

    また、ロシアと中国の違いについても興味深い
    ロシアは戦略以外すべてダメ
    中国は多くの事が上手く言っているが戦略だけがダメ

    なるほど
    そこまで戦略というものは大事なのだろう
    単純な中国たたきの本ではなく、色々と考えながら読めた
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    投稿日:2019.02.16

  • quazism

    quazism

    ここ30年くらいで中国は1.0から4.0に変化している。指導者の力が強いため、首席の考え方で方針が変わる。習近平に意見を言える人間はいないようだ。

    投稿日:2019.01.20

  • yuukiwo

    yuukiwo

    企業間や人間関係にも使えそう、なるほどと思ったことのいくつかを。

    「国の規模が大きいほど外国への理解度は低くなる」
    企業でも同じことが言えると。

    「大国は小国に勝てない」
    他国連携要素が生じてしまう。

    国家そのものの性質、国体を見抜き理解し、どう取り扱うかが重要。

    代表的なアメリカ人は「人類には文化を超えた普遍的な性質がある」と心の底から信じている。
    人種的、文化的なバックグラウンドを公の場で表面するのが憚れる国がアメリカ。違っているから相容れないことがある、とは微塵も考えない。
    人種差別主義者と思われたら、人として終わった扱いになる。
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    投稿日:2019.01.04

  • yujiohta

    yujiohta

    稀代の戦略家と呼ばれる著者による中国論。
    以下、本書より。

    【日本政府への提言】
    (2016年3月20日発行)
    最後に現在の安倍首相や日本の対外政策担当者に向けて注意を喚起して、本書の結びとしたい。
    「慎重で忍耐強い対応」というのは、通常はほぼ全ての国に対して勧められるもの。
    だが、私がここで強調したいのは、中国のような規模が大きく、独裁的で不安定な国家に対しては、それが逆効果という事。

    中国は、15年のうちに3度も政策を変更している。
    さらに作戦レベルや現場レベルで、ソ連でさえ決して許さなかったような軍事冒険主義が実質的に容認されている。
    これに対抗するには、有事に自動的に発動される迅速な対応策が予め用意されていなければならない。
    中国が突然、尖閣に上陸した時、それに素早く対応できず、そこから対応策を検討し始めたり、米国に相談を持ちかけたりするようでは、大きな失敗に繋がるだろう。

    現在の中国のような国家に対処するには、所謂「標準作戦手順」のようなものが必要。
    これは予め合意・準備された行動計画の事。
    慎重で相談しながらの忍耐強い対応は、相手もそれができる政府でなければ逆効果。

    アルカイダ・マグレブのマリ占領に直面したフランスが、もし「慎重で忍耐強い対応」をしていたら手遅れになっていただろう。
    国連やNATOで対応策を練っていたら間に合わなかった筈。
    しかしフランスは、予め行動計画を準備していたからこそ、迅速に対応できた。

    既に述べたように、日本は米国を頼りにしつつも、同時に全面的には頼るべきではない。
    特に尖閣問題についてはそう言える。

    現在の日本は、米国と同盟を組みながら中国に対峙しているが、ここで決定的に重要なのは、日本側からは何も仕掛けるべきではないという事。
    つまり逆説的だが、日本は戦略を持つべきではないし、大きな計画を作るべきではないし、対応は全て「反応的」なものにすべき。
    これが本書の結論。
    巨大で不安定で予測不可能な中国に対し、敢えて積極的な計画をもって対抗しようとするのは、そもそも馬鹿げた事であり、成功する筈がない。
    何が起きるかは予測不可能だから。
    従って寧ろそれぞれ独立して多岐に渡る能力に支えられた「受動的な封じ込め政策」を行うべき。
    真珠湾攻撃のようなアタックや、逆に平和イニシアチブなども進めずに、日本はひたすら受動的な「封じ込め政策」に徹するべき。
    米国には、政府を批判しながら「イニシアチブを取れ!戦略がない!計画がない!」と「戦略」の推進を主張する愚かな人間がいる。
    これは全く余計な事。
    日本でこのような声が大きくならない事を祈るばかり。
    続きを読む

    投稿日:2019.01.03

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