【感想】犯罪

フェルディナント・フォン・シーラッハ, 酒寄進一 / 東京創元社
(77件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
18
32
18
0
2
  • 罪を犯す人の背景を精緻に綴った傑作

    弁護士としての経験と実在の事件をモチーフにしたあくまで小説、フィクションなのですが、 罪を犯す人の罪を犯すまでの背景が精緻に描写されているため、 情緒の欠片もない簡素な文章と相まって、実際にあった事件の記録を読んでいる気分になります。おそらくこの本を読み終えた人の中にもこの作品がノンフィクションだと勘違いしたままの人がいるのではないのでしょうか?それほど真に迫る現実感のある作品です。

    11編の短編で構成されており、どの事件も非常に特徴的なのですが、個人的に印象に残ったのは「フェーナー氏」と「チェロ」です。その人の人生の積み重ねが最後の「犯罪」へと収束される様は悲しくもあり、誰でも罪を犯し得るという意味でとても恐ろしくもありました。

    ただ、悲惨な話や重い話ばかりではなく、合間に痛快な話や救われる話も入っているので気持ちが沈んでしまうばかりではありません。そして最後に「エチオピアの男」を持ってくる辺り、なんともニクい構成です。
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    投稿日:2016.02.14

  • 読後の「もやっと感」がリアル

    ※単行本版が公開終了になったので、以前書いたレビューをこちらに再投稿します。ちなみにこの文庫版では、単行本版の内容に序文が加えられているそうです(東京創元社HPの情報より)。

    弁護士の「私」を語り手として、種々の犯罪に手を染めた人々を描いた短編集(全11編)です。
    本格ミステリなんかだと結末に向かって物語がきれいに畳まれていくものですが、本書はそうはいきません。作品ごとに雰囲気は異なるものの、どれを読んでももやっとした余韻が残ります。本書の物語をリアルに感じるのは、その余韻のせいもあるでしょう。綺麗に収まらないからこそ、あたかも現実の事件のように思えるのです。
    やりきれない話もありますが、人間ドラマとしてはとても濃密で心に残りました。これからは現実の犯罪についても、その背景をいろいろ想像してしまいそうです。
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    投稿日:2016.02.12

  • 犯人探しや犯行トリック、どんでん返しも一切なしのミステリー

    数々の文学賞を授賞している短編集と聞いて読んでみた。
    犯人探しや犯行トリック、どんでん返しも一切なし。
    にもかかわらず、面白いと思わせてしまうのはさすが。
    ただ、どの作品もオチがよくわからない。
    自分の読解力のせい?それともドイツ流ユーモアが独特なの?
    文中に「エミール・ノルデの絵を彷彿させるような空」という表現があり、気になってエミール・ノルデの絵を調べたら、なんと言えばいいか…いやぁ、ものすごい色彩の空だった。
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    投稿日:2016.10.11

ブクログレビュー

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  • ぼじょまる

    ぼじょまる

    このレビューはネタバレを含みます

    ・あらすじ
    刑事事件専門の弁護士である作者が罪を犯した人々を描く短編集。

    ・感想
    シーラッハ3作目なんだけど特徴的な修飾のない平易な文体は読んでると自分が参審員になった気持ちになる。
    罪に問えない、問いたくない…物事は全て複雑。
    特に好きなのは序、フェーナー氏、棘、エチオピアの男。
    最後の「これはリンゴではない」という一文と解説を読んで前編にリンゴが出てるのに気づいた…w

    「緑」で最後に「自分の数字は緑」と言うんだけど…これはどういう事なんだろう?
    さっぱり意味がわからない…。

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    投稿日:2024.03.02

  • kratter

    kratter

    このレビューはネタバレを含みます

    東西ミステリ海外版52位の本作を読了。
    犯罪が起きた背景を司法に関連する著者が描く。

    人によって好みが別れるかもしれないけど読む価値は有ると思います。

    ①なかなか。動機ちょっと見えず。
    ②タナタ氏:こうゆう話が続くのかな?
    ③チェロ:事件の真相とは。
    ④ハリネズミ:小僧の知恵話。
    ⑤サマータイム:ちょっとしたトリック。真相は結局何だったんだろう。
    ⑥正当防衛:読了
    ⑦緑:ちょっとサイコ入ってる少年のお話
    ⑧棘:俺はこの中では、上位で好きかな。金閣寺モチーフとでも言うか。
    住居愛情:カリバリズムの奇形性を上手く捉えている
    ⑨エチオピアの男:人情噺とこの本のエッセンスが上手くミックスされてる。秀逸。

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    投稿日:2024.02.27

  • しょう

    しょう

    短編集で、フェルディナントが弁護人として担当した事件を題材にしたフィクションということです。非常に興味深い話が連なっており、読了後は些か呆然としました(ぼんやりと、という表現が正しいような気もしますが。)。

    前回読んだ『コリーニ事件』の後書きに書かれていましたが、私達がみな"薄氷の上で踊っている"のだという表現がまさしく相応しい話ばかりでした(中には違うものもありますが、概ね。)。小説内の犯罪自体は確かに異様ですが、その犯罪に及んだ人はみなどこにでもいる普通の人間で、序章の表現を借りるなら、公園で犬の散歩をしている人です。この連作に、普通の人間がほんの僅かな歯車の狂いにより一瞬で薄氷の下に沈むイメージを与えられました。

    昨年、私達は犯罪者や被告人を異常な者として捉えてしまっているんじゃないかと揺さぶられた経験があります。極端な話をするつもりはないのですが、私達は誰もが犯罪に手を染める危険を有していて、そのことに気が付かず、犯罪の淵へ落ちないまま人生を終えることができたらそれは運の良いことではないでしょうか。
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    投稿日:2024.02.10

  • 苑

    このレビューはネタバレを含みます


    「順調なときにだけ約束を守るというのではだめだ。」

    フェーナー氏が立てた誓いは、最期まで守られたのだろうか。法廷で、今でも妻を愛していると、そう誓ったからだと、話す場面が目に浮かびます。ついでに涙も
    それがいつか身を滅ぼすとしても、立てた誓いを破るわけにはいかない。それは裏切りになるから。ほんとうに、痛いくらい素直で泣きたくなるほど優しい人なんでしょうね
    何度読んでも、『フェーナー氏』 は泣いてしまいます。

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    投稿日:2024.01.20

  • りゅうちゃん

    りゅうちゃん

    異様な罪を犯した犯罪者たちの記録。一生愛し続けると誓った妻を殺害した医師。兄を救うために裁判で皆を騙す弟。正当防衛であっという間に2人を殺してしまう男。博物館勤務の守衛の仕事の中で精神が徐々に病んでいく男.エチオピアのコーヒー村を豊かにした過去を持つ 優しい故に犯罪を起こした男。人がが家庭環境や人間関係 仕事で徐々に犯罪にむかって行く状況をリアルに淡々と描く短編集。2023年7月13日読了。続きを読む

    投稿日:2023.07.13

  • kumapooooo

    kumapooooo

    こういう本を読むと、彼の国はそんなことになってるのねー、と興味深い。ドイツの本てのもなかなか読む機会ないしね。
    EUでは優等生のドイツだけど、暗部も抱えていそうで。でも金のあるところには人も犯罪も集まるということで、やっぱ活気があるんだろうな。
    というわけで色々と犯罪ネタがあって興味深い。よくある移民ネタもあるけど、国産品もいっぱいで、特にフェーナー氏とエチオピアの男は社会派っていうかね、人情派っていうかね、グッと来るものがあるよね。何故に飛んでアジスアベバーって意味わからんけど豪快で好きよ。
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    投稿日:2023.07.03

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