【感想】色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

やはり別格

本当にいい文章。こういうものを「小説」というのだ！村上作品の多くはためいきとともに読了。それが私のくせのようだ。さすが他の小説家の追随を許さない村上文学。個々の表現も優れているが、全体に貫かれる雰囲気…が唯一無二で、いかに作家が考え抜いて書いたかが感じられる。それでいてリズムもいい。感動するとか心に残るというのではなく腹にどん！とそれも静かに入りこんでくる登場人物の感情。現実に向かい合い人生を切り開く主人公の濃密な時間がまるで自分のことのように思えてくる。でもよく考えてみると彼への仕打ちはひどいものだ。続きを読む

寂しさとせつなさのなかに希望の光がみえる物語

村上春樹さんは、当代トップクラスの文章家だと思います。彼の文章は、いつもふれるととても心地よいです。平易でしたしみやすくて気取ったところがなく、無駄をそぎ落としたストイックさを感じるほどです。かといっ…て無味乾燥ではありません。ウィットのきいた比喩表現や言語感覚によるところなのでしょうか。海外でも村上作品は人気があるようですが、この心地よさは日本人ならではの喜びだと思います。

長々と村上さんの文章について書いてしまいましたが、中編小説としてもこの小説はよくできてます。1Q84のような長編とくらべるとスケールは比べるべくもありませんが、よくまとまっていて村上さんの小説の良さをしっかりと味わうことができます。ストーリーについてはネタバレになってしまうのであまり書けませんが、寂しさとせつなさのなかに希望の光がみえる物語と結末だったと思います。

やっぱり、村上さんの小説はいいなあ・・というのが素直な読後感です（笑）。続きを読む

ハルキストではないけれど

村上春樹の作品は読んで面白いと思ってきたけど、決してハルキストというわけではなくて、長編で読んだことがあるのは『ノルウェイの森』しかなかった（ノンフィクションの『アンダーグラウンド』を除く。）んだよね…。
そんな僕だけど、これは本当に面白くて、ぐいぐい惹き込まれた。
凄く読みやすいし（これは村上春樹の才能によるものだと思う。）、ちょっと不思議なエピソードも交じっている（これは僕好み）けど、全然難解ということはなくて、単純に（というとやや語弊はあるけど）楽しめる作品になっていると思うな。
もっと村上春樹の作品を読んでみたいと思ったし、僕もハルキストになるかもしれないなぁ(笑）
ただ、読書は電子版をスマホで読むということに慣れてしまったので、過去の作品も電子版化してくれると嬉しいんだけど。続きを読む

最後まで軽快に読み切ることが出来る小説ではある

タイトルのように、何はともあれ最後まで読ませてしまうのは作者の力量だと感じた。また、小説に通底するテーマのようなものも、途中からふわりとではあるが備わった。それとは自意識であり、他者との距離であり、常…に回帰していくやるせなさである。また、最後にもたらされる諦念とそこから生まれる希望というプロットには素直に共感できる。

しかしながらそこに感動はない。読書に感動を求めるべきかと聞かれれば、私は必ずしも必要なものではないと答えるだろう。では、感動に代わる何かがこの小説にあったか。残念ながら、私には感動も、あるいは突き落とされるような感慨も感じられなかった。

それでも、彼の描くどうしようもない人間的な悩みを抱えて、それでもどこかざっくりしたドローイングの人物のようにひょろひょろと歩く登場人物のあとを追って歩くのは楽しい体験だった。続きを読む

謎が残るのが残念。

途中までは物凄く面白かった。様々な謎が出てきてそれが明かされていくだろうと思ったからだ。

だけどその内に明かされたものもあるけど、謎は謎のままというのも少なくなく、少し残念だった。

もしかしたら小…説とはそういうものなのかもしれないけど、全部の謎が明かされていたらすっきりしただろうなと思う。
そうなればまた名作が生まれていただろうに。

それを差し引いても著者の力は圧倒的なのでそんじょそこらの小説には負けない面白さだ。続きを読む

深層に流れる、通奏音。静かで美しい、救済の物語。

多崎つくるにとっての「巡礼の旅」とは？
勇気を出し自ら固く閉ざした箱をこじ開け、封印した過去に、丁寧に向き合う。
それを達成することにより、「生身で生きること」を取り戻す。そこには、喜びと痛みがセット…であることも感得する。
ラストの結果がどうあろうと、つくるは、素手で世界に触れることを取り戻せた、救済の物語だと思う。
生生しい性描写がありながらも、全体通してなにか宗教的な「聖」が感じられる。
静謐で美しく、俗世を離れた究極の真実に触れる部分もある。
Youtubeで親切にもLazar Berman演奏　Franz Liszt-Années de pèlerinageをアップしてくれている人がいて、それを聞きながら読んだ、素晴らしい体験。続きを読む