【感想】原発訴訟が社会を変える

河合弘之 / 集英社新書
(3件のレビュー)

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ブクログレビュー

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  • raga-movie

    raga-movie

    前半における原発訴訟過程のくだりは、利権に群がる企業と政府関係者が地元住民の命を軽視する現実を突きつけてくる。弱き者の声を社会はどう応えるべきなのか、それは一部の人々だけではなく、私たち一人ひとりの責任である。便利を享受するのは果たして生活の豊かさなのか、その陰で虐げられている生活や日常があることを真摯に受け止めて、本当の豊かさを話し合う場を身近に持とう。ただ後半部の原発推進派に対する論破という言葉に刺々しさを感じる。勿論権力に対する抗いの中でそのくらいの無頼さが必然だと反論してこようが、そこには分断を煽る姿勢が垣間見えて、果てなき平行線がいたずらに時間を浪費するだけなのだ。私は分断ではなく寛容さを諫言として提示できることを望む。そこがいばらの道であろうと、論破では決着は訪れることはない。続きを読む

    投稿日:2022.01.06

  • touxia

    touxia

    関西電力大飯原発三・四号機(若狭湾に突き出した半島の先端部分に位置する。二つ合わせて236万kWの出力)の運転差し止め訴訟に取り組んでいる河合弘之弁護士の原発訴訟の現状。2015年の発行で、その後の変化もあるが、とりあえず、それまでの状況はわかる。
    原発訴訟は、1970年代から行われているが、住民側が勝訴したのは稀である。2011年3月11日 東日本大震災において、津波により 福島原発のメルトダウンによって、大きな認識の変化があった。
    2011年7月には、脱原発弁護団全国連絡会が結成され、弁護士が170人集まった。バラバラに訴訟していた原発訴訟の情報共有が可能となった。
    2015年4月14日 福井地方裁判所(樋口英明裁判長)において、大飯原発3号機及び4号機の原子炉を運転してはならないという仮処分命令を発令した。同原発は、2015年2月12日に、国の原子力規制委員会(原子力規制委)の審査をパスして、再稼働しようとしていた。
    2005年から2011年までの7年間に、基準地震動を上回る地震が4回も発生していた。2005年8月16日宮城県沖地震、2007年3月25日能登半島沖地震、2007年7月16日新潟中越沖地震、2011年3月11日東北地方太平洋沖地震。それは、もはや想定外とは言えない。
    大飯原発の基準地震動は、700ガルに設定されていた。新潟県中越沖地震は、1699ガルだった。
    原発の安全性は、多重防護と言われていたが、福島原発では最も簡単に、多重防護が崩壊してメルトダウンをした。
    福井地方裁判所は、「運転禁止」の仮処分命令とは、原子力規制委に対する事実上の業務改善命令だった。700ガルの基準地震動が低いのではないかと指摘した。
    地震が来たときに原発がとるべき「安全三原則」がある。核分裂を「止める」、核燃料を「冷やす」、格納容器に放射能を「閉じ込める」。すべてが守られなければ甚大な被害が生じる。福島第一原発事故では三原則は守られなかった。これは、安全安心神話を崩壊させ、結果として国の原子力規制の失敗だった。
    判決の内容は、「ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている。」「 福島原発事故においては、15万人もの住民が避難生活を余儀なくされ、この避難の過程で少なくとも入院患者等60名がその命を失っている。家族の離散という状況や劣悪な避難生活の中でこの人数を遥かに超える人が命を縮めたことは想像に難くない。」
    「新しい技術が潜在的に有する危険性を許さないとすれば社会の発展はなくなるから、新しい技術の有する危険性の性質やもたらす被害の大きさが明確でない場合には、その技術の実施の差止めの可否を裁判所において判断することは困難を極める。しかし、技術の危険性の性質やそのもたらす被害の大きさが判明している場合には、技術の実施に当たっては危険の性質と被害の大きさに応じた安全性が求められることになるから、この安全性が保持されているかの判断をすればよいだけであり、危険性を一定程度容認しないと社会の発展が妨げられるのではないかといった葛藤が生じることはない。」
    「我が国の地震学会においてこのような規模の地震の発生を一度も予知できていないことは公知の事実である。地震は地下深くで起こる現象であるから、その発生の機序の分析は仮説や推測に依拠せざるを得ないのであって、仮説の立論や検証も実験という手法がとれない以上過去のデータに頼らざるを得ない。」
    「被告は本件原発の稼動が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。」いやー。実に格調の高い判決文である。
    一言で言えば、「電気代の安さより、安全な暮らし」といっている。
    この本出版以降に、2018年7月4日の関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを住民らが求めた訴訟の控訴審判決が、名古屋高裁金沢支部であった。内藤正之裁判長は運転差し止めを命じた一審・福井地裁判決を取り消し、住民側の請求を棄却した。2018年3月から3号機が再稼働し、同年5月からは4号機も再稼働した。
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    投稿日:2020.11.15

  • aki

    aki

    アトムズ・フォー・ピース
     河合弘之監督映画を観た。種の滅亡をひきおこすような破壊と引き替えに進歩する科学は認めてはならないというところが印象的だった。
     原子力が夢のエネルギーといわれていた時代を私は知らない。のぞむような未来にならなかったということを克服するのは難しいのかもしれない。母親が昔、「22世紀はアトムくんのような世界になると思っていた」と言っていたことを思い出す。そういうノスタルジーと原発はあまり関係ないのかもしれないけれど、なぜかそんなことばかり考える。続きを読む

    投稿日:2018.03.24

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