オリンピックの身代金(上)

奥田英朗 / 講談社文庫
(28件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
6
15
3
0
0
  • 竹野内豊&松山ケンイチ初共演のドラマ原作

    オリンピックとは誰のための、何のためのものなのか。誰かを犠牲にしてできあがる繁栄、経済成長は虚栄ではないのか。

    日本が世界のトップへ上り詰めようと高度経済成長期の1964年。秋田の田舎から、東京大学に入学した奇跡的な存在である主人公島崎国男。東京オリンピックを数カ月後に控え、急ピッチで進められる工事に出稼ぎとしてやってきていた兄が死を迎え、物語は動き始めます。

    大学院でマルクス経済を学ぶ国男が違和感を持った、労働者と資本家の関係、日本の繁栄を独り占めするかのような東京とその裏に存在する地方の関係、行動しない左翼学生たち。テレビ局に勤務し、オリンピック警備を担当する警察の責任者を父に持つ国男の同級生(資本主義側)と、妻と子どもと憧れの団地住まいを始めた公安の刑事(国/権力側)という、立場や考えの異なる三者の思惑と行動を、時間軸を巧みに操りながら交差させていきます。

    かつての東京オリンピックは、戦後復興を世界にアピールする日本の誇りなのか。それとも、オリンピックは国民をだます隠れ蓑であり、革命をひとり叫ぶ国男の行動はひとりよがりなのか。まるで今回のオリンピックを見るような部分も多く、3年後のオリンピックへ向けて、変わっていく東京の街を見ながら何を思うのでしょう。
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    投稿日:2017.04.21

  • 緻密なミステリー。面白かった!

    オリンピック開催往時の世相が非常によく書かれており、情景が目に浮かぶようだった。私が育ったのはそれからすでに20年程度経ったころだったが、当時の雰囲気を残しているところもあり、懐かしい気分に浸りながら読書を進めた。
    ミステリーではあるが単なる謎解きではなく、当時の社会が(そして、現在の社会も)抱えている社会的問題を事件に照らして浮かび上がらせ、社会に対して課題を問う意味でも良著だと思える。
    併せて、全編を読むと登場人物に無駄がなく、非常によく練られた構成だった。
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    投稿日:2017.08.06

ブクログレビュー

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  • yohko_barF

    yohko_barF

    このレビューはネタバレを含みます

    『オリンピックの身代金』上・下巻


    先日読んだ『罪の轍』にも登場していた
    警視庁捜査一課5係の面々

    数年前に読んだ
    『オリンピックの身代金』にも登場してたということなんだけど
    もの凄く面白かったという以外
    殆ど記憶に無かったので、意を決して再読


    本書も、文庫で上下巻
    新刊に至っては、2段組みの分厚いハードカバーだったなぁーと


    長い道のりに、少し腰が引けたけど…
    結果、再読して正解!


    えぇー!こんな結末だったっけー⁈

    私の記憶とは、こんなモンです…笑



    昭和39年10月10日に
    アジア初のオリンピック開催を控えた日本

    敗戦から約20年が経ち
    先進国の仲間入りが果たせると
    日本中が湧き上がる


    主人公である、島崎国雄は
    東京大学で、マルクス経済学を学ぶ大学院生

    ある日、秋田の貧村から
    東京に出稼ぎに来ていた兄の死の知らせを受け、両親に代わって身柄を引き取に行く


    別人のように変わり果てた姿の兄と対面し

    ただ勉強ができると言うだけで
    違う生き方をさせてもらっていたという現実に絶望を感じる


    地方から、出稼ぎをせざるを得ない
    プロレタリア層の実態を、体験すべく
    工事現場での過酷な肉体労働を始める


    全国から集められた、出稼ぎ労働者の中でも
    ヒエラルキーがあり
    賭博やヒロポンの売買が横行している

    最下層の労働者内ですら
    搾取が行われている現実を目の当たりにした国雄は

    「東京だけが、富を享受するなんて、断じて許せない」と
    オリンピック開催を阻むべく、一人テロ活動へと突き進む



    当時、鳴りを潜めていた爆弾魔「草加次郎」の名前を使い
    都内各所で、爆弾を仕掛けるも
    全く記事にも話題にもならず

    諸外国や、オリンピックムードに沸き立つ国内に対して
    報道規制が掛かってるコトに、更なる苛立ちを覚える

    公安、警視庁、全学連、やくざなど、全てを敵に回し
    運を味方につけて、緻密な計画を
    着々と実行していく国雄


    そんな中
    とても印象的だった、国雄の独白



    「いったいオリンピックの開催が決まってから、東京でどれだけの人夫が死んだのか
    ビルの建設現場で、橋や道路の工事で、次々と犠牲者を出していった
    新幹線の工事を入れれば、数百人に上回るだろう
    それは、東京を近代都市として取り繕うための、地方が差し出した生贄だ」



    なんともやり切れない気持ちにさせる



    オリンピック開会式当日
    2回目の身代金受け渡しから
    最後の爆弾を仕掛ける場面では
    手に汗握る、刑事との攻防戦


    勧善懲悪を嫌い、作品内では
    決して人を裁かないコトをポリシーとしてる著者らしい展開で

    登場人物全ての事情を、余すコトなく丁寧に描いている


    本書は、もちろん犯罪小説ではあるものの、細かい時代描写も秀逸


    刑事と公安の確執
    とか
    当時のBG(ビジネスガール)の生態
    とか
    地方と東京の激しい格差社会
    とか
    若い夫婦の文化的生活
    とか


    当時のカルチャーも、ふんだんに散りばめられているので
    どのシーンをとっても、充分に楽しめる



    2020年
    56年振りに、日本で開催される東京オリンピック

    個人的には、全く思い入れはありませんが
    開催直前に、本書を再読できたコトに関しては
    なかなか感慨深いモノがあるなーと




    #オリンピックの身代金
    #奥田英朗
    #読書好き

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    投稿日:2020.08.19

  • mikiki

    mikiki

    うん、面白い。
    国男がいい人故に、その正義感から
    悪い方に進んでいるのが読んでいて苦しい。
    日本はこんな風に復興してきたのか。
    2011/11/1

    投稿日:2020.05.07

  • takuos1982

    takuos1982

    オリンピックに向けて劣悪な環境で働かされる人夫、進化する東京と貧しいままの地方、弱いものに寄り添う気すらないが日本を強国に導く使命感に燃えるエリート、高揚する市民、支配層への怒りを持つ犯人、日本を護ろうと犯人を追う刑事、どの人物も丁寧に描かれていて、感情を揺さぶられた。日本が大きく変わろうとした時代だったことも感じた。続きを読む

    投稿日:2020.05.06

  • ロビーB

    ロビーB

    このレビューはネタバレを含みます

    昭和39年。東京は五輪開催に湧きに湧いていた。
    日本人というのは根っからの五輪好き、お祭り好きである。
    他に娯楽が山ほどある現代でさえ、五輪となれば国をあげて大盛り上がりする。
    2002年にサッカーW杯が開催されたとき、サッカー好きは当然のこととしても、今までサッカーなど見向きもしなかった人々までもが、世界最大のスポーツの祭典が自国にやってくることに熱狂した。
    まして、敗戦から復興しようとしているタイミング、諸外国の仲間入りをしたいと熱望している時勢に、世界が注目するイベントが開催されるというのだからその盛り上がりたるや、想像に難くない。

    そして時を経て2021年(たぶん)オリンピックが再び日本にやってくる。
    僕はスポーツが大好きで、オリンピックも興味があるけれど、東京でオリンピックを開催することに意味があるのか懐疑的である。
    一時の快楽のためにはらう犠牲が大きすぎるような気がするのだ。
    もちろん、景気回復に一役買うであろうことや雇用が増えることはプラス要因だけれど、それは短期的、一時的なカンフル剤に過ぎない。
    長期的な視点がモリくんをはじめとした五輪歓迎派には欠けているように思えてならないのだ。
    五輪開催後に作ったスタジアム、広げた道、改修したスタジアムは果たして有効に利用されるのだろうか?
    (まず間違いなくされないんだけどね)

    もちろん、子供たちに夢を与えるという大義名分があることもわかっている。
    マイナースポーツに陽が当たるというメリットもある。
    だけど、夢だけでは腹はふくれない。
    僕はスポーツが大好きで大好きで、シロクロのボールを心から愛しているけれど、その僕でさえ、今東京で五輪を開催することはデメリットのほうが大きいと思う。

    当時の東京は五輪を開催するのにもっと相応しくない状況だったのだ。
    多くの人々は五輪に熱狂し、復興のための一助にはなった。
    敗戦に落ち込む人々の心に再び火を灯し、「もはや戦後ではない」と言わしめた。

    でも、盛り上がっていたのは東京だけだった。
    五輪の名前には国の名前ではなく、都市名が冠される。北京五輪、ロンドン五輪…。決して中国五輪、イングランド五輪ではない。
    日本で開催された五輪もまた「東京オリンピック」と呼ばれた。
    それはただ単に慣例ということだけではなく、本当の意味で「東京オリンピック」だったのだ。
    日本中が熱狂したわけではない。
    あくまで東京に住む人たちやマスコミ、一部の階級の人々が盛り上がったというだけで、多くの日本人、特に労働階級は完全にカヤの外であった。
    いや、カヤの外ならまだましだ。
    彼らは五輪を開催するための礎とさせられた。
    ひどい言葉を使うのならば、彼らは人身御供、人柱だった。

    この物語の主人公、島崎国男。東大生。
    田舎のちいさな村で秀才と崇められ、村の期待を背負って東大に入学した青年。
    学力こそ秀でていたものの、それ以外はどこにでもいる、いい意味で平凡な青年だった。
    彼は東京に住んではいたけれど五輪に熱狂する側にもいなかったし、五輪を縁の下で支える側にもいなかった。数少ない「カヤの外」に存在する人間だった。
    しかし、彼は兄の死をきっかけに五輪の、東京の現実を知る。
    華やかなステージではなく、そのステージを生身で支える人々の、五輪の光などこれっぽっちも当たらずにステージの端でつつましやかに暮らす人々の現実を知ったのだ。

    本書はそれを延々と克明に書き込んだ一作である。
    五輪妨害を企て、それで身代金を強奪しようとする誘拐小説の亜流では決してない。
    破壊だけを目的としたテロリストサスペンスでもない。
    ただただ、ここに書かれているのは現実なのである。

    誘拐小説の眼目は身代金の受け渡し方法にある。
    たとえば、「人さらいの岡嶋」と呼ばれたほどの誘拐小説の名手・岡嶋二人には「あした天気にしておくれ」「七日間の身代金」など、受け渡し方法に抜群の工夫をこらした作品がある。
    これが誘拐小説の面白さだ。
    だが、この小説にはそういった面白さはまったくない。
    彼が要求した身代金は何の工夫もトリックもなく、やり取りされる。
    「おいおい、そんな単純なやり方でいいのかよ?」と心の中で叫び、それでもなお、僕は彼が「そう見せかけて実は…」という仕掛けを隠していることを期待していた。

    結果、そんなものはなかったわけだが、それでこの作品が色褪せるわけではない。
    僕は驚くべきトリックを読みたくて「奥の手があること」を期待していたのではなく、彼らにどうしても成功してほしくて、それで警察の裏をかく奥の手があることを期待したのだ。
    どうしても、彼には成功してほしかった。
    結局、彼が身代金を奪ってどうしたかったのかわからない。
    本当に五輪をめちゃくちゃにしてしまいたいなら、身代金を奪うよりも本当に爆破事件を起こしてやったほうがよっぽどいい。
    もし身代金を首尾よく奪えたとしても、彼の気持ちが晴れるとも思えない。
    それでも、僕は彼に成功してほしかった。
    この気持ちはこの小説を読んだ人にはきっとわかってもらえるはずだ。

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    投稿日:2020.04.01

  • oyumy

    oyumy

    オリンピックイヤーということで、昔読んだこれを文庫で。

    オリンピックイヤー、なんて言いつつも、私はオリンピックに全く興味がないし、「今やることかなあ?」と疑問にすら思っている方なので、国男くんの言う「国民に夢を与えることで、現実から目をそらさせようとしている」というのがすごく腑に落ちてしまった。
    地方が苦しんでるのに東京だけウキウキしてて、なんなの? と国男くんが思う気持ち、現代にも通じるものがないだろうか。
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    投稿日:2020.03.04

  • masavetica

    masavetica

    上巻なので評価が難しいですが、やっと物語が動いてきた感じがします。
    戦後どのようにして東京オリンピックが開催されたのか、その時代背景や人々の暮らしなど垣間見れます。
    今年の夏に東京オリンピックが行われる前によみたかった作品でした。
    話が日付ごとに区切られていて、さらに前後するため、簡単にメモするとより小説を楽しめるかもしれません。
    基本として、主人公のターン、警察のターン、マスコミのターン。という構成ですね。
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    投稿日:2020.01.27

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