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中野晃一 / 岩波新書 (14件のレビュー)
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総合評価:
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prie-ez
このレビューはネタバレを含みます
最近読んだ新書の中では一番面白かった。 本書全体の内容は序章にコンパクトにまとめられているので、序章だけでも読むといい。 「右傾化する」といっても、ずっと常に「右」へとシフトしていったわけではないとする。 「右」に揺れれば「左」への揺り戻しが起こる。その後再び「右」へと転じる。近年の日本政治はまるで振り子のようだと筆者は例える。 しかし同時に、振り子自体が徐々に「右」へとシフトしているという。 したがって、「左」への振り戻しの後の「右傾化」は、以前よりさらに「右」へと移動する。 これは言い得て妙だと思った(4ページの図1および6ページの表1は実に分かりやすい)。 近年、ネット上のみならず言論界においても、論敵・政敵に「左翼」だとか「ネトウヨ」だとかいったレッテルを貼ることが多く、政治概念での「右」「左」の概念が相当に曖昧になっている。大抵の場合、こうした表現はあてにならないどころか、ただの悪口にすらなってしまうこともある。 なので、『右傾化する日本政治』という題を見たとき、これもまた同様のレッテルの類なのではないかと思った。 しかし、本書の冒頭で何をもって「右」とするかを定義し、この定義に従い「右傾化」が生じていると論じており、理解しやすかった。 さらに「右」にも様々な立場があるとして「旧右派連合」「新右派連合」という概念を用いているのは、本書ならではと言えるだろう。 これらの概念を旧来の「保守本流」「保守傍流」と重ねつつ、中曽根政権から第二次安倍政権に至るまで徐々に「新右派連合」が勢力を伸ばしている様子を図式的にまとめているのは、非常に分かりやすかった。 また、現在の日本政治を主導している「新右派連合」の政治家らが何を目指そうとしているのかもよく分かった。 また、本書では「リベラリズム」「自由主義」「新自由主義」を明確に区分し、概念の混同を回避しようとしている。 これも「右」「左」同様、明確に図式化して描かれている。 そして、民主党内にも様々な立場があり、自民党の現在の主流と同じく「新右派連合」を形成している集団があることを指摘しているのは面白い。 民主党の各グループがどのような系譜を辿って民主党に至ったのかを見るのは、日本政治全体を理解する上でも重要と感じた。 さらに自民党と読売新聞などのメディアが裏でどのようにつながっているか、自民党がNHKや朝日新聞に対してどのような攻撃を仕掛け、朝日新聞の購読者数減少に成功したのか、などにも触れられている。 昭和から平成にかけての日本政治の見取り図を端的に描いた作品と言える。 あまりにも明確に描かれているため、議論がやや単純化されすぎていたり反証になりうる事例が出されていない、などの欠点があるのも確かだが、新書という形態をとる本書は日本政治の概説書としては分かりやすく、内容も十分であると思う。
投稿日:2023.11.17
タプチャン
過去の歴代政権を時系列でたどりながら政治を振り返ってみるという目的でもいい本です。アプローチはリベラリズムから見ているという前提を考慮して読む必要はあります。ただ政治の現在地としてなぜここに至ってしま…ったのか考える上で参考になるのではないのでしょうか。特に印象的なのは左派自由主義が新自由主義とは似て非なるものであり決別の意思を感じ取れるのですが今の中道左派はどう考えているのでしょうか。続きを読む
投稿日:2021.12.13
中尾
戦後から日本がどのように「右傾化」していったのかを辿る。保守について論ずる時、欧米ではグローバル化、宗教、多様性などが、論点になる印象の一方、日本では安全保障、平和主義、歴史修正主義などが議論の中心と…なるように感じた。続きを読む
投稿日:2021.06.25
すいびょう
日本政治は、寄せては返す波のように、しかし確実に、中心点を右へ右へと移動させていった。 それにより、格差や国家の権威や権限が次第に拡張し、かつ消極的に受容されるような変化が起きている。 新右派連合を…形成したのは、新自由主義とナショナリズム。 小沢や安倍といった保守統治エリートたちには、未だ回復されざる失地が存在し、それは戦後レジームに起源をもつ。 一つ目は憲法改正。(集団的自衛権の容認) 二つ目は歴史認識と国民道徳。(愛国心の涵養や太平洋戦争の正当化) 55年体制下の旧右派連合の特徴 憲法改正を棚上げして経済成長を優先し、国民の生活の底上げによって階級間妥協を探ろうとした。 ①開発主義→国家が国全体の経済目標を設定し、国家主導でその実現を目指すこと。官主導の経済開発。政府系県有機関、経済官庁との緊密な「官民協調」による経済発展を目指す。 ②恩顧主義→世界に名だたる優良企業が経済成長をけん引する一方、それを下支えする中小企業が経済開発のコストを引き受け、自民党がそれに補助金を出し、その見返りに票を獲得するパトロン関係。 しかし、この体制は公的(均衡財政の崩れと国債の発行)・私的(バラマキ政治)な金銭コストがかさむことになる。 1980年、冷戦の中で各国とも新自由主義と国際協調主義が進んでいく。 太平は、頻発する赤字国債の発行を止めようとしたが、太平は同時に「人間的連帯の回復」を掲げ、社会的弱者の救済も重要施策として位置付けた。 これに対し中曽根は、国際主義に対して「包括的な民族の統合と発展」というスキームで対応しようとした。これはナショナリズムの復権の意味が込められていた。 中曽根は政治手腕においても、利益団体や族議員がにらみを利かせる与党や国会に先手を打ち、首相の威光を背景に、マスコミを利用し世論を味方につけつつ、利害調整でリードを取る、という、「既得権益」が支配する旧右派連合に「改革派」として切り込んでいった。 新右派転換とともに新自由主義化する無党派層の影響で、政治が自由化・多様化していく。 国際協調主義が日本で広く受け入れられるようになると、大平のような文化や経済の多国間協調から、小沢の、自由経済秩序の維持のため、日本は経済と軍事面の応分の負担をしろ、と論点がシフトされていった。 小沢の新右派ビジョン、「日本改造計画」で、「自由経済と強い国家」を目指す。また、国防に関しても、「専守防衛」から「平和創出戦略」へと転換、アメリカとの共同歩調を訴えた。 【小泉政権】 パフォーマーとしての稀有な才能を持つ小泉が躍進した理由が、マスコミとの結びつきの強さ。「改革派=善玉」「抵抗勢力=悪玉」の二元論を含意する報道を行うようになり、マスコミ世論の支持を支えに、総裁となった小泉は強力なリーダーシップを発揮するようになる。また、中曽根行革以降、首相と官邸に権力を集中させ、新自由主義的な政治改革の数々が、小泉に有利に働いた。 この間、小泉は様々な規制緩和と社会保障費の抑制に励み、戦後最長の好景気を達成、企業は当時の過去最高益を記録したが、労働者の賃金が上がることはなかった。 その構造改革路線は、旧右派連合の伝統的支持基盤を崩すものだった。 外交を取り上げれば、靖国参拝の再開によって、アジアに対する国際協調主義は見る影もなく消失し、米国追随路線を取っていく。 【安倍政権】 ガチガチの新右派である安倍は、「小さな政府」を掲げ、教育基本法の制定による「我が国と郷土を愛する」態度を養うことを教育の目標に盛り込み、防衛庁を防衛省へ格上げ、国民投票法の制定など、新右派アジェンダを打ち出していく。小さな政府により経済のグローバル化が進んでいく。はっきり言うと、安全保障が守ろうとする対象が国民国家からグローバル企業に変わったのだが、これを覆い隠すためにナショナリズムの扇動が行われていた節がある。 自民党は、棄権者も母数に含めた投票率を計算すると、圧勝した2012年であっても、17%程度であり、有権者の6人に1人しか支持を受けていない。 しかし、民主が総崩れとなり、公明との連立や衛星政党の維新の会という連携相手を得たことで、政治の更なる右傾化が進んでいった。 安倍によるメディアの掌握:日銀の独立性を撤回し、政府と直接連携して大規模な量的・質的緩和に乗り出し、円安・株高を仕掛けた。財界がアベノミクスによって大いに潤ったが、実質賃金は低迷している。 こうして世界一企業が活躍しやすい国が作られている。 国家安全保障会議、特定秘密保護法、集団的自衛権のいずれをもっても共通しているのが、対米追随路線の徹底と、立憲主義の縛りを外してでも首相とそのスタッフを中心とした、ごく少数の統治エリートだけで国家の安全保障にかかわる重大な意思決定を行ってきたことである。 まとめ:自由主義的な国際協調主義の高まりで幕を開けた新右派転換の動きが、いあkにして偏狭な修正主義を振りかざす寡頭支配になったのか →日本に登場した経済的自由主義が、国際協調主義の退潮とともに、政治や社会の自由からは離れ、自由主義の追求から乖離し、寡頭支配(グローバル企業の自由の最大化)の強化を推進する企業主義へと劣化していったこと。 世界各国でも右傾化は進んでおり、富裕層による寡頭支配や、極右排外主義政策の伸長などが引き起こす「代議制民主主義の危機」が叫ばれている。 オルタナティブとして育ったはずの民主党の崩壊により、戦後かつてないまでに政治システムがバランスを失い、首相官邸に集中した巨大な権力だけが、新右派統治エリートの手に残り、個人の自由や権利をむしばむ反自由の政治へと転化している。 これを解消するには ①小選挙区制の廃止 ②新自由主義との決別 ③同一性に依拠した団結から、相互の他者性を受け入れてなお連帯を求め合う形へと転換を進める。続きを読む
投稿日:2020.05.26
harrysan
映画主戦場にも、インタビュー出演してた中野氏による、保守55年体制から今日の安部政権までの、保守の流れ、変質と、時にリベラルによる揺り戻しに関する考察。資料や証憑に基づく、学者らしい観察と分析、鋭い洞…察が見て取れます。この間の歴史的事実を知らないと、理解は難しいかも。続きを読む
投稿日:2020.01.20
co-hana
「右傾化」という言葉が言われはじめて久しいが、実際に日本は「右傾化」しているのかどうか、しているのならばどのような経緯を経ているのかを、国政レベルで検討している。本書では「右派連合」の新旧を分けるもの…として経済/新自由主義との距離があげられている。ナショナリズムの称揚と新自由主義が結びついていく点に関しても、政策決定や政党政治の力学から分析されていて興味深い。続きを読む
投稿日:2018.07.26
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