【感想】2020年マンション大崩壊

牧野知弘 / 文春新書
(31件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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  • 最後は立地が全てかも

    2013年10月1日時点での日本の総住居数は6063万戸、国民2.1人に1戸でそのうち約1割の600万戸がマンションだ。人口減のため毎年10万戸が不要になる一方で毎年100万戸が着工されている。築30年を超える140万戸のマンションのうち旧耐震基準が106万戸、建て替えを考え始める築40年を超えるのが44万戸ある。うちもそうだが・・・。ところがこれまでに実際に建て替えられたのはわずか200棟、およそ2%に過ぎない。そして10年後には築30年を超えるマンションは277万戸に増える。建て替えを阻む要因は4/5の賛成が必要なことでそれが難しくなるのは空室率の増加、住民の高齢化に加えマンションを購入する中国人の増加と言う新たな変化もある。

    マンションの空室率は全体では2.5%と問題はないが79年以前のマンションでは10〜15%、69年以前では20%近くになる。日本全体の空き家数は820万戸で空き家率13.5%、マンションの方が良さそうに見えるが簡単に更地に戻せる一戸建てと違いマンションは住民同士の意見がそろわないと建て替えできない。この時に空室率の高さは修繕積立金の原因になるのだ。

    東京の空室率は10.9%と比較的低いのだが問題は空き家の実数が80万戸と言う多さだ。非木造の共同住宅をマンションとすると、空き家が51万戸でそのうち42万戸が賃貸用だ。都心に人口が回帰する一方で郊外は空き家が増えていくとばかりは言えず、東京都の72%の空き家は23区内にある。一方で千葉や埼玉では郊外の空き家が増えている。このままいくと2035年には日本全体の空き家率は30%を超える。現在の夕張市や破産したデトロイトの水準だ。デトロイトのようにスラム化し犯罪が増えるかはともかく住民サービスは続けられなくなっていく。同様に個々のマンションも空室率が30%を超えると管理状態の悪化が懸念される。

    空室率を高めるためには管理状態を保ち、場合によっては建て替えも必要になってくるのだが、世帯主の高齢化が障害になりかねない。年金暮らしで余裕のない住民にとって2年ほど住み替えが必要になる建て替えはいくら資産価値が増えるとしても必ずしも合理的な選択とは言えない。また積み立て金が充分でなければ建て替えのための費用負担が払えないことも起こる。容積率に余裕があり増築分で建て替え費用を賄えるケースはまだそれほど多くない。

    最近のタワーマンションには中国人富裕層の世帯主が増えている。あるマンションでは最高階の億ションを買った中国人が管理組合の総会を中国語でやるように要求したそうだ。これも一定数の住民がいれば簡単に却下できない、中国と日本では管理の考え方が違いすぎるためタワーマンションではますます住民同士のコミュニケーションや合意形成は難しい。

    合意形成が難しいのは日本人同士でも同じで、子供がうるさいとクレームをつけるのはむしろ高齢者が増えていると言う。定年退職した偉いさんがただの「おっさん」としてこれまで近所付き合いのなかったマンションにい続けると起こるエピソードも笑えない。定年後のサラリーマンは大きく2派に分かれる。理事となっていちいち口を突っ込み周囲からドン引きされるか、家の中に引きこもり退屈さにイライラしてクレーマーとなるか。

    日本は私権が強すぎるのでもう少しコミュニティの掟を厳しくしてはと言うのが著者の意見だ。もし自分のマンションの所有者の3割が中国人となったらと考えればその意味がわかるはずだ。中国人が買ってくれるのは悪いことではない、お互いの文化や生活習慣の違いを尊重しあえればね。民泊も同様だろう。

    「所さん たいへんですよ」12/10放送で苗場の10万円リゾートマンションに移る人が増えると紹介していた。しかし前の住人がもし管理費や積み立て金を滞納していたらそれも引き継ぐことになる。それに住人が滞納だらけなら修繕も出来ず手放すこともできなくなるかも知れない。マンション管理状態のリスクや10年後には中国人旅行者の民泊だらけになることも覚悟して住み潰すのならそれもまたいいのでは。
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    投稿日:2015.12.20

ブクログレビュー

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  • rokkosanjin

    rokkosanjin

    東大の経済学部から日米の名門金融グループを経て、業界最大手の三井不動産へと転身した「インテリ系」不動産コンサルタントである著者が、東京オリンピック後のマンション動向を予測。「大崩壊」の予兆として危惧されている「地方都市のスラム化」や、「中国人による占拠」などが実際に起こる可能性は低いと思われるが、2019年をピークに日本の世帯数が減少に転じて空き家が増えるという「2019年問題」や、今なお林立し続ける「タワーマンション」に潜む危険性などを分かりやすく解説しており、業界人にとっては必読の書と言える。いたずらに購入を煽る業界紙とは一線を画し、いまマンションを持っている人・これから購入を考えている人が今後の判断について冷静に考えるためのヒントとなる一冊。続きを読む

    投稿日:2020.12.12

  • 砂肝

    砂肝

    区分所有者の強い利権のせいでマンションの廃墟化は逃れられないものになっていることがよくわかる。一応、本書の終わりで直近でできる対策は述べられているが、根本から今のマンション制度を組み直さなければ、廃墟マンションは大きな社会問題のひとつになっていく気がする。マンションを経営するには莫大な資金と大勢の住民(+投資家)の話し合いが必要な分、1人の力で動かせる戸建てよりも話は複雑。売り手、買い手の欲の強さもあって、ほぼ手遅れ状態になっていることを理解した。続きを読む

    投稿日:2020.09.19

  • あいちゅう

    あいちゅう

    マンションという形態の不動産が、
    ・共同所有というやっかいな所有形態であること
    ・土地の価値よりも建物価値が大きいこと
    といった特徴を持つことから、
    ・本来は、賃貸物件として回転させていくべきである
    という結論に至る。

    所有権の呪縛というか、不動産業界に騙されるな、ということですね・・・
    続きを読む

    投稿日:2020.08.22

  • tstomoki

    tstomoki

    今後のマンション事情やマンションを購入してからの管理委員会などの話、今後供給過多になるであろう日本のことが書かれていて面白かった

    投稿日:2020.07.06

  • ikki1982

    ikki1982

    今の時代にマンションを購入することにいかにリスクが付きまとうかということがよくわかりました。
    人口減少による時代の変化に対して、悲観的に嘆くだけではなく、筆者の考えに基づいた対策についても書かれているので参考になります。続きを読む

    投稿日:2019.11.17

  • ちゃいなおやじ

    ちゃいなおやじ

    多くの都市在住者が住むマンションの法的未整備の結果、いずれ吹き出てくる修繕、立て替え、積立金不足の問題が行き詰まることを予言する本書。マンション管理組合の理事長をやって苦労した私にとっては、思わず膝を打つ指摘が多い。続きを読む

    投稿日:2019.06.29

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