【感想】トマス・クイック――北欧最悪の連続殺人犯になった男

ハンネス ロースタム, 田中 文 / 早川書房
(4件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • ゲコウ

    ゲコウ

    人は自分が見たいものしか見ないのだ。
    薬物依存症(医者の処方により坂道を転げるように重症化していく)の患者が語る嘘連続殺人の自白を(殺害現場の状況を何一正しく語れていない)、盲信の元にパズルを組み立てるがごとく事実に仕立て上げ、裁判で有罪判決までにいたらせた人達。そして、数多の人と面会し膨大な資料を読み込み、全てを調べあげ白日の下に晒した著者であるジャーナリストは、この本の原稿完成直後に亡くなり、その後、お騒がせ犯は無罪となったそうである。カッコ良すぎですな。
    (もちろん、捜査チーム側にも疑惑の眼差しを向け、狂言と確信した人は多数いたが、それでも有罪判決となっている)

    「みんな、ものすごくうれしそうだった!〜中略〜おれたちはおしゃべりしながら次々とたいらげた。あれじゃあまるで現場検証の成功のあとで殺人犯が祝福されているみたいだった!胸くそ悪くなったし、ぞっとしたね……」P273
    人は見たいものしか見れないと、常に忘れずに生きたい。
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    投稿日:2022.03.10

  • sakufuu

    sakufuu

    多くの登場人物の名前が非常に似通っている。
    特に厄介な箇所は、同名の病院関係者と警察官が絡む場面。本書の容疑者のファミリーネームとそのセラピストのファーストネームが似通っている場面(この二人は絡みが多い)。
    他にも似通った名前(たとえば容疑者の弁護人と、その共同会社設立者など)が多いし、そもそも馴染みの薄い北欧の人物名が難しく、人物関係が混乱して非常に読みにくい。昔読んだドストエフスキーを思い出す。
    但し内容は非常に素晴らしく、面白い。
    翻訳のルールなど考えずに登場人物の表記を日本人に分かりやすく変更出来れば、本書は名著になるのでは。
    「シリアルキラー」「冤罪」「心理学」「ジャーナリズムの勝利」など日本人に大人気のテーマだし。
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    投稿日:2021.06.20

  • あおくじら

    あおくじら

    このレビューはネタバレを含みます

    トマスクイックと名乗り、30人以上の人間を殺し、遺体の一部を食べたと自白していたスウェーデン人の犯罪者を記者が掘り下げた話なのかな~、と思っていたら、実はそれがすべて冤罪だったという恐ろしい話。
    第1部で、トマスクイックが犯罪を自白して有罪が次々と確定していった最後に、実は自分は殺していないんだ、と作者に話す部分を読んで、鳥肌が立ちました。これが随分と昔の話というのであればまだしも、2000年代に入ってからこんな大規模な冤罪が。
    第2部は主に著者がひたすらトマスクイックの取り調べや判決について詳細に調べていくシーンが描写され、最後の第3部が、それまでの流れが覆っていくやりとりがまとめられています。
    人生に一度だけ、自分は冤罪で市長をやめさせられたんだ、という人に会ったことがありますが、こういうことが実際に起きているんだな、と思い出させられました。
    とにかく衝撃の次々と出てきて、かたずをのんでいる間に終わってしまった印象。厚みも重みもありますが、読む価値十分の一冊でした。

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    投稿日:2015.11.10

  • sasha89

    sasha89

    少年に対するわいせつ行為、刺傷事件、ずさんな計画による銀行
    強盗事件を起こして精神病院に出入りしていた男が、ある日、突然、
    セラピストによる面談中に重大な告白を始めた。

    30人を殺害し、8件の殺人事件で有罪判決を受けたのはトマス・
    クイックを名乗る42歳の患者。本名はストゥーレ・ベルグワール。

    セラピーのなかで次々と語られる犯行はスウェーデン国内のみならず、
    ノルウェーやフィンランドにも及んだ。

    14歳から断続的殺人を続けていたというトマス・クイックは、スウェーデン
    史上初の連続殺人犯だ。8件の事件で有罪が確定し終身刑を言い渡され
    た10年後、クイックは著者との面会で切り出す。

    「自白はすべて嘘だった」。

    そこから著者の、事件の検証が始まるのだがこれが粗製濫造される
    下手なミステリーよりも面白い。

    自白はすべてセラピーのあだいに行われ、それに伴う取り調べはひとり
    の主任捜査官に委ねられ、捜査資料に含まれた実況見分の様子から
    は検察官が巧みに犯行現場に誘導する言動が読み取れた。

    捜査側の都合にいいように書き換えられた調書、明らかに抗不安剤
    依存であろう姿が納められた実況見分のビデオ。すべてが矛盾だらけ
    だった。

    FBIの元心理プロファイラーじゃなくても、クイックの自白が不自然である
    ことに気付くと思うんだけどね。

    連続殺人犯と言えばテッド・バンディやジョン・ウェイ・ケイシーに代表
    されるアメリカだが、彼らが対象にした被害者には一定の基準があった。
    だが、クイックの被害者には少年もいれば少女もおり、中年のカップル
    までいたのだもの。

    犯行に一定のパターンもなく、共犯者として名前を挙げられて人々は
    一様に犯行を否定し、クイックの家族は彼のアリバイまで証言している
    というのに、スウェーデンの司法当局は彼に有罪の判決を下している。

    例え本人の自白通りに犯行が行われていたにしろ、嘘の自白に基づい
    た冤罪だったにしろ、スウェーデン史上最悪なんdなよな。

    有罪とされた8件の事件、捜査の過程でクイックの自白の矛盾が明らか
    にされていたのなら真犯人の捜査は続けられていたのかもしれないの
    だものね。

    長い精神病院での生活の中で、セラピストから重要な患者だと思って
    もらいたかった。そんな思いから次々と自白に及んだクイックの心情
    は分からないでもないが、クイックを取り巻く人たちが皆、一様に有罪
    の方向に進んで行ったのが怖い。

    尚、クイックは自白の撤回により殺人の罪も白紙にされ2014年に収容
    されていた精神医療施設から釈放されている。

    本書からは調査報道ジャーナリストである著者の執念が伝わってく
    るのだが、残念ながらクイックの釈放を見ずに2012年に病死して
    いる。秀逸な犯罪ノンフィクションを遺してくれたことに感謝だ。
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    投稿日:2015.09.27

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