【感想】小事典 からだの手帖 新装版 薬よりよく効く101話

高橋長雄 / ブルーバックス
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    946

    高橋長雄
    1922年、北海道小樽市生まれ。1945年、北海道帝国大学(現・北海道大学)医学部卒業。薬理学、外科学を専攻したのち、アメリカのニューヨーク大学に二年半留学して麻酔学を研究した、わが国麻酔学の草分けの一人。札幌医科大学教授、同名誉教授、日本麻酔学会会長、日本ペインクリニック学会会長、日本麻酔科医会会長などを歴任した。2009年6月逝去


    東京大学の標本室の片隅で、夏目漱石の脳を見たことがある。夕陽がかげって、やや暗くなったタナの上の、標本びんにはられたレッテルの名前が、私の足を止めたのである。  この脳の回溝の起伏の間から、数々の名作が生まれ、喜びと悲しみがかみしめられ、死の直前まで『明暗』の筋書きが点滅していたのであろう。「則天去私」をモットーにしていた漱石の脳に最後に焼きついて、このびんの中に固定された思索はどんなものだったのだろうかと考えながら、『草枕』や『こころ』を思いうかべました。

    鼻のもう一つの重要な働きは、 塵埃 や細菌が気管の奥に侵入するのを防ぐことである。  まず、外鼻孔に逆立っている鼻毛が大形の塵埃をせきとめる。鼻腔から気管にかけて石畳のように敷きつめられた粘膜細胞には、顕微鏡でやっと見える繊毛という毛が一面にはえている。ちょうど伸びきった稲穂の上を風が吹き抜けていくように、この繊毛は一分間に二五〇回ぐらいの周期で、気管の奥から外鼻孔に向かって、いつも波を打っています。

    味は舌にある 味蕾 の中の味細胞によって感じられる。水や唾液に溶けた食物が味蕾の袋に入って味細胞の味毛を刺激する。その刺激は大脳の感覚運動領の下部にある味覚中枢に伝えられ、味としての感覚があります。

    塩味は、舌のどの部分でもほぼ同じ程度に感じられるが、苦味は舌の付け根でとくによく感じ、舌の先端部は甘味、辺縁部ことにその後半は酸味によく感ずる。ブローム・サッカリンを舌先で味わうと甘いが、舌根部で味わうと同じものなのに苦く感ずる。ただし、辛味と渋味は味細胞に関係なく感じられる味です。

    意味のない反抗をつづける青少年や、底なしの泥沼のような猜疑の淵に沈んでいる男女も、本当の人間や人生の姿を、なんらかの手段で「見る」ことさえできれば、別な「世界」に入れるはずの人々なのです。

    心臓から送り出される血液は、まず左心室から大動脈に送られる。大動脈は次々に枝分かれして、しだいに細くなり、ついに毛よりも細い毛細血管になる。毛細血管は網の目のように組織の中にはりめぐらされ、その流域が、組織と血液の間で酸素や炭酸ガス、栄養と老廃物の受け払いのおこなわれる現場である。いってみれば動脈は、酸素やエネルギーの配達人である血液を、この現場まで送ることを目的とする配管なのです。

    これら血管の総延長は、驚くべきことに九万キロにもなります。

    血管そのものが生きている組織であるために、酸素やエネルギー源の供給を受けないではやっていけない。動脈血には酸素もエネルギー源も豊富に入っているので、つまみ食いで腹をみたす調理係のように、細い動脈は流れている血液から直接リベートをとってやっていける。しかし、疲れた血液を運ぶ係の静脈や規模の大きい太い動脈では、そうはいかない。ちゃんと正規のルート、つまり血管を養うための血管から酸素やエネルギー源が供給されるのです。

    いま医学の分野では、たとえばガンの研究には、研究費の配分がよく、人も集まってくる。研究対象の必要性が高くかつ困難なものほど、活躍している筋肉への血液の供給のように、配分がよいのがあたりまえであろう。  しかし、現在は陽のあたらない研究の中から、驚くべき脈絡を生じ大発展に連ならないとはいえないのが科学である。

    長時間、立っていたり、汽車の旅などで長く椅子に坐って足をさげていると、だんだん足がはれて、靴が小さくなったように感ずることがある。下肢の筋肉を動かさないため、リンパがたまって足がはれるのです。

    腸で吸収した脂肪を乳液として血管系に導くのもリンパの役目である。  感染と戦う白血球の少なくとも四分の一を占めるリンパ球をつくるとき、最終仕上げをするのも、リンパ系の胸線の仕事です。

    血圧のもとになる圧は、ポンプである心臓でつくられ、心臓から大動脈に出た途端が一番高く、動脈がだんだん枝分かれして静脈側に近づくにしたがって圧は低くなっていく。毛細管を経て静脈に入るころ圧はさらに低くなり、大静脈では圧はゼロか、また一時はそれ以下になる。つまり、血圧は測る場所によって高さが

    栄養がよく、血液が豊富に血管の中を回っている人は、水鉄砲の「にぎり」に水がいっぱい入っている状態と同じで、血圧が高くなりやすい。それと反対に、栄養不良で血液の量の少ない人は、血圧が上がります。

    ふつうに「血圧」といえば、二の腕で測った上腕動脈の血圧をいう。上腕動脈を上から骨に向かって圧迫し、どれくらいの圧を加えたらぺしゃんこにできるかで測る。血圧が高ければ高いほど、強く圧迫しなければ血管はつぶれます。

    日本人では、A型がほぼ四割、O型三割、B型二割、AB型が一番少なくて一割という分布を示す。ロルシェフェルドはA型とB型の比率を「民族指数」と名付け、この値はその民族に特有なものであるとします。

    政治の世界でも、左派が強くなりすぎて弊害がおこってくると、右派が台頭して弁証法的な中点が求められるように、この自律神経の働きで、吸う息と吐く息が、ちょうどフリコのようにぐあいよく繰り返されるのです。

    極端な思想の持ち主や、その場の雰囲気に簡単に左右される人は、歴史や伝統といった「残気」が少ない人である。しかし芸術家の鋭い感受性や思想家の透徹した洞察は、「残気」の否定のうえに存在するものなのであろう。

    古語でキモといえば、肝臓のみならず内臓全部を意味することもあるようです。

     酸とアルカリというのは、火と水のように正反対の性質のものである。からだの細胞は、ごく薄いアルカリ性の液の中で生きている。それが、酸性になりすぎても、またアルカリ性が強くなりすぎても、細胞は生きていけなくなります。

     ただし、飲むだけで本当にやせる薬なら、それはきわめて危険な薬で、やせることが直接的な効能の薬は、わが国では認可されています。

     宦官は去勢によって温和な性質になると思われるが、陰険で謀略を好む者も多かったらしい。  思春期以前に去勢すると、性の悩みを全く感じない人物ができあがる。性に惑わされない道心堅固な修道士を志して、去勢手術をうけた人も多いという。こういう人々は、教会の教えの通りの行ないを、労せずして実行できるだろう。  しかし、このような人々の「清き行ない」は、いわば機械的に得たもので、おそらく随分と薄っぺらなものであったに違いない。  悩みに色どられた人間臭い悟りであってこそ、影の中に浮き彫りされたレンブラントの光のように、価値あるものであるはずです。

    高田保によれば、人類、女類、畜類と分類すべきであるというし、国木田独歩やオットー・ワイニンゲルの女性酷評論もあるが、生命を産み出すという能力は、たしかに女性の神技である。だからこそ「女は男よりも上等の薬箱をもってこの世に出てくる」のです。

     ビール瓶にぬれたふきんをかけ、風通しのいいところに置いておくとよく冷える。この「台所の知恵」からもわかるように、ぬれたものがかわくときには、気化熱が運び去られて冷えてくる。  からだも、ぬれた皮膚をかわかすことで冷やすという、このしくみで効率よく熱を捨てているのです。

     表面にあらわれる特徴(形質という)を「優性」といい、隠れてしまう形質を「劣性」とよぶ。優性とはいうが、黒髪が金髪より上等という意味ではない。まっすぐな髪の毛は、縮れたりウェーブした毛より劣性だし、目の色は黒、茶、灰、緑、青の順に劣性になる。一重まぶたと二重では、二重が優性。まつげは長いほうが優性。高くて幅のせまい鼻は、低くて広い鼻に対して優性です。

    「けもの(獣)」と呼ばれることからわかるように、毛は哺乳動物に特有な皮膚の附属品である。  人間にも、ほとんど全身に約五〇万本の毛が生えています。

     ビルの建築工事をながめているのは、なんということなしに楽しみなものである。クレーンが鉄骨を吊り揚げる。声高に合図をしながら、それを所定の場所にすえて、ボルトや溶接でつなぐ。鉄骨構造ができあがってコンクリート打ちがはじまると、日一日とビルらしい容姿になってくる。  ビルが完成すると、もう見ることができないために、コンクリートの衣の中で支柱としての役目を果している鉄骨のことを忘れてしまう。  からだの骨も同じで、貯めこんだ金の利子で食べている隠居のように、何年も前に骨細胞からつくった骨組という不動産を賃貸して、無精をきめこんでいると思われがちです。

     かようにデリケートな運動によって字が書かれるため、書かれた字には、はっきりした個人差が出てくる。二人の人が同一筆跡である可能性は、六八兆分の一しかないそうだ。筆跡鑑定とか、承認の印としての署名が有用なわけです。

     力の強さからいうと、中指がもっとも強く、ついで人さし指、くすり指、小指の順です。

    まして日本舞踊に見る、流れるような「手による精神内面の表現」ということになると、人間の肉体でなくてはまずできないと断言できるのです。

     人間のたどるべき運命の筋書きが、手のひらに手相という特別な暗号で書かれていると信じている人々がいる。  古代インドにはじまった手相による吉凶の占いや運命判断は、ギリシャ、エジプトさらに周代の中国にも渡り、全世界にひろがった。中世の暗黒時代にも手相占いが流行した。  夜の街角に行灯をかかげ、天眼鏡をかまえた「手相観」先生に、真剣な相談をもちかけるのは苦境に悩む人々である。働けど働けど幸福がやってこないと「じっと手をみ」つめるようなことになり、手相を考えるに至るのだろう。

     ところが脂肪は、非常に太った人では体重の半分にもなりかねない。このくらいの量の脂肪は、たとえ絶食して水ばかり飲んでいても、一ヵ月半は生命を保てるほどのカロリー源になる。実際、クマやリスは、秋にどっさり食べて脂肪をつけ、冬眠に入ると、何も食べないで春を迎える。食糧や水のない砂漠のラクダのコブも、その中はほとんど純粋な脂肪です。

    妊娠、 分娩、育児など、自分一人だけではなく赤ん坊の分までみなければならない女性には、当然かなり余裕のあるたくわえが必要である。豊かな皮下脂肪によるまろやかなからだの線が女性らしさの特徴になっているのは、このためです。

    二〇〇二年の調査では、中学に入学するとき、男子の大多数、女子の約半数はまだ子供のからだであるが、中学卒業時には男女ともほとんどで性的成熟がはじまっている。つまり日本の子供の大部分は、中学の三年間に子供から大人への重大な転機を迎えるのです。

    思春期に入った子供たちは、うすあかりの中で、なにか来たるべきものを予感しながら手探りしているうちに、強く「なにか欠けている感じ」をもつようになる。そして、その理由も、解決法もわからぬままに、はしゃいでいたかと思うと、急転、ふきげんに沈黙したり、明るい素直さから急に暗い反抗的自己主張に、そしてそわそわ動きまわるかと思うと、物憂い怠惰が支配したりという、思春期特有の気分ができあがるのである。  大人の格好になったからだの内部に、累卵の不安定さをかかえ、傷つきやすい心を包んでいるのが、思春期を迎えた子供たちである。そのような子供たちが、名実ともに安定した大人に落ち着くまで、春の草花にそそがれるようなあたたかな慈愛の陽光と、清らかに澄んだ空気とがぜひとも必要なのです。
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    投稿日:2023.09.21

  • hamakoko

    hamakoko

    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000057313

    投稿日:2022.09.05

  • hito-koto

    hito-koto

    からだのしくみとはたらきが、コンパクトにまとめられています。高橋長雄 著「からだの手帖」、2011.2発行。もっともインパクトがあったのは、「70歳での記憶項目は15兆で、驚くべきはその分類管理のよさ」と書いてあったことです。70歳になった今、本当だろうか? と(^-^)続きを読む

    投稿日:2019.07.05

  • 講談社ブルーバックス

    講談社ブルーバックス

    神経系の小径で感覚器に至り、血液の流れにのって、心臓から血管、リンパ管を抜ける。最後は神秘の内分泌器官へ。ガイドの案内で行く人体の旅。

    投稿日:2015.12.25

  • pumpkindad

    pumpkindad

    札幌医大名誉教授故・高橋長雄氏による北海道新聞の連載を書籍化したものの新装版。からだの各部位、しくみについて平易に解説。

    投稿日:2011.09.25

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