【感想】喪失

カーリン・アルヴテーゲン, 柳沢由実子 / 小学館
(14件のレビュー)

総合評価:

平均 3.5
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4
6
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  • 推理小説というよりサスペンスです

     書籍説明には、ホームレスがある日突然、猟奇殺人の容疑者となると、あっさり書かれていますが、このホームレスの女性は、只者ではありません。生活の糧は、高級ホテルで男を引っかけ、食事と暖かいベットを頂くこと。ただし、カラダは与えないという、したたかな女です。でも、ホームレスになったワケは、リストラとかそんな話ではなく、普通ではない家庭環境、成長期の体験が原因らしく、精神病院の入院経験もあり、裕福な家を飛び出して10年以上ということが読んでいるうちにわかってきます。
     そんな彼女が、ある男をカモにした翌朝、別室でその男が殺されたことを知ります。しかも、内蔵を切り裂くという猟奇殺人。当然、容疑者として追われることになりますが、なぜか次々と同じように人が殺され、ワケがわからないうちに、容疑者として世間の話題の人となってしまいます。様々な要素が彼女を犯人であることを示しており、逃げ回る彼女は、最早絶体絶命!
     次々と殺される男女に共通点はあるのか?なぜあのようなむごたらしい殺し方なのか?はたまた彼女は本当に無実なのか?そうならば、どうそれを証明すればよいのか?
     絶望感漂う展開の中、過去の回想シーン、幻想シーン?が挿入されるので、ホントは無意識の内に彼女がやったのか?なんて思わせるシーンもでてきます。
     スウェーデンの作家が書かれたモノなので、なじみのない地名が沢山出てきますし、人の名前もロシア文学ほどではないにせよ小難しいものがあります。しかも、翻訳物特有の言い回しが、少々読みにくい。それでも、物語の結末がどうなるか知りたくて、ページをめくる手が早くなります。そして、ようやくたどり着いた結末は、思いもかけぬ動機と犯人でした。
     推理小説としては本格モノではないと思いますが、この緊張感溢れるサスペンスは、殺し屋とかスパイとかが登場するものではなく、日常にも潜在するであろう狂気として、逆に怖いものがありました。
     訳者のあとがきによれば、原題は「SAKNAD」というそうで、これには失踪という意味と喪失という意味があり、英語のタイトルは「MISSING」となっているとか。訳者の方は作者にお会いして、その意図を聞いた上で「喪失」としたそうで、確かに、読んでみると「喪失」の方が的を射ていると思います。
     全てのモノを打ち捨てて身軽になれば、お気楽な生活が出来るかも、と思わないわけではありませんが、自分に関わるモノ全てを喪失することが、こんなに恐ろしいことになるとは思いも寄りませんでした。
     初めて読んだ作家の作品でしたが、他の小説も読んでみたくなりました。
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    投稿日:2016.02.20

  • ミステリーとしてはややぬるめ

    ホームレスである主人公の女性が猟奇殺人の容疑者にされてしまい、自分で真犯人を突き止めるしかないと考える話。

    猟奇殺人自体の描写は新聞記事に書かれている程度で具体的ではなく、全体にあっさりめで、長さもあまりないのでわりと気軽に読めました。

    ミステリーの密度としてはそんなに濃くありません。どことなく、博物館で暮らしたりするような児童小説を思わせる雰囲気もあります。

    訳文がたまにやや読みにくくて意味をつかみにくいかも。
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    投稿日:2016.07.02

  • しゃんと生きる

    なかなか考えさせられるお話でした。
    舞台や話はわかりやすく自由なホームレスとして生きてきたが、とあることで猟奇殺人の容疑者にされてしまい自ら真犯人を探し出すという推理サスペンス。
    途中自分の意見は通らず、全て親や周りの人に決められて自分の人生を喪失した裕福な子供時代や親や子供への思いをオーバーラップさせることで、生きる強さを感じられる本でした。
    顧みると主導権とか面倒で諦めていたり、自分を喪失してることに気づかせてくれます。シャンとしなきゃ!
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    投稿日:2017.12.31

  • 冷たい重圧と過干渉で支配するという暴力なき虐待

    地方都市の富豪の一人娘シビラの不幸は母親がシビラの心を全く理解しなかったことから始まる。常に冷たい重圧と過干渉で支配するという暴力なき虐待を繰り返す母親だったのだ。
    ただただ自由を追い求め18歳で家出してホームレスとなった。ところが32歳になったシビラは殺人犯に仕立て上げられてしまう。
    物語は少女時代の追憶と現実の逃避行が交互に繰り返されながら進む。ミステリとしてのワクワク感は少ない作品だが心理描写が素晴らしい。
    育児放棄や暴力と違い周囲に理解してもらうことが難しいが故に深みにはまる絶望感を見事に表現している。
    著者カーリン・アルヴテーゲンは大叔母が「長靴下のピッピ」の作者という文学家族の中で育った。家族の死や離婚など様々な問題を抱えご自身も深い鬱状態になり死を考える毎日だった。
    そんななかで自分の心を見つめるために小説を書いた。自由を求めるだけでは社会に適応できないと悩む姿は多くの人が思春期に経験する葛藤でもある。猟奇殺人から始まる暗い作品だが読了後はなぜか癒しを感じるのだった。
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    投稿日:2018.07.03

ブクログレビュー

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  • じゅう

    じゅう

    スウェーデンの作家「カーリン・アルヴテーゲン」の長篇ミステリ作品『喪失(原題:Saknad、英題:Missing)』を読みました。

    「カミラ・レックバリ」、「ヴィヴェカ・ステン」、「ラーシュ・ケプレル」に続きスウェーデンのミステリ作家の作品です… 北欧ミステリ作品は、読み始めたら止まらない中毒性の魅力がありますね。

    -----story-------------
    息もつかせぬサスペンス!
    北欧犯罪小説大賞受賞作!!

    ストックホルムの32歳の女性ホームレスが、ある日突然、連続猟奇殺人犯として警察に追われることになる。
    食べ物と寝場所を求め格闘しながら、極限状態に身も心もすり減らし、たった一人で真相に迫っていく……。
    地方都市の富豪の一人娘がなぜホームレスになったのか? 
    深い心の傷を負い、絶望と背中合わせに生きる主人公が、逃避の人生を清算し新しい生き方を獲得する過程は大きな感動を呼ぶ。
    2000年北欧犯罪小説大賞受賞作。
    -----------------------

    18歳で裕福な家を捨てて、ストックホルムでホームレス同様の暮らしを続けてきた32歳の女性「シビラ」は、ある晩中年男性「ユンゲル・グルンドベリ」に食事とホテルの客室を奢らせることに成功するが、翌朝になって愕然とする… 「ユンゲル・グルンドベリ」が凄惨な惨殺体として発見されたのだ、、、

    殺害方法は猟奇的で、「シビラ」は有力な容疑者として警察に追われることに… 慌ててホテルを飛び出した「シビラ」は逃亡生活を続けるが、さらに同様の殺人事件が連続し、全ての殺人事件が彼女の犯行と見做されてしまう。

    「シビラ」は食べ物も寝場所もない極限状態の中で、身も心もすり減らしながらたった一人で真相に挑んでいく、、、

    中盤までは、逃避生活を続けつつ真相に近付こうとする姿と、地方都市の富豪の一人娘がホームレスの生活を選択せざるを得なくなったエピソードが交互に紹介され、「シビラ」が15歳の孤独な少年「パトリック」と出会い、心を通わせる中で、ひとつの物語として繋がっていきます… そして、「パトリック」の助けやパソコンを利用した調査を活用することにより、二人は一歩ずつ真相に近付いて行きます。

    そして、被害者が服用していた薬から、被害者たちは同一人物から臓器移植を受けたことが判明し、容疑者は絞られて一気にクライマックスに向かいます、、、

    「シビラ」は容疑者と接触しようとしますが、容疑者と思われた人物とは異なる人物が真犯人だったり、その動機には臓器提供者との同性愛があったり、人里を離れた真犯人の自宅に閉じ込められて、死の危険に晒されたり… と、終盤は怒涛の展開で楽しめました。

    出産後に離れ離れとなった息子のことを調べようとして、最後は諦める「シビラ」の行動にも共感できました… 深い心の傷を負った「シビラ」ですが、逃避の人生を清算し新しい生き方を獲得したということなんでしょうね、、、

    自分だったら、調査内容を見ちゃったんじゃないかなぁ… と思いますが、それじゃ、読者の共感を得れないでしょうね。

    ちなみに著者「カーリン・アルヴテーゲン」の大叔母は『長靴下のピッピ』の作者「アストレッド・リンドグレン」なんだそうです、、、

    へぇ~っ て、感じですね… 驚きました。




    以下、主な登場人物です。

    「シビラ(ヴィレミーナ・ベアトリス)・フォーセンストルム」
     ストックホルムでホームレス暮らしをしている女性

    「ヘンリー・フォーセンストルム」
     シビラの父親

    「ベアトリス・フォーセンストルム」
     シビラの母親

    「ユンゲル・グルンドベリ」
     貿易業者、殺人事件の被害者

    「レーナ・グルンドベリ」
     ユンゲルの妻

    「ミカエル・ペアソン(ミッケ)」
     シビラの元恋人

    「ヘイノ」
     ホームレスの男

    「トーマス」
     シビラの友人

    「パトリック」
     15歳の少年

    「スーレン・ストルムベリ」
     殺人事件の被害者

    「グンヴォール・ストルムベリ」
     スーレンの妻

    「ルーネ・ヘドルンド」
     交通事故死した人物

    「シェスティン・ヘドルンド」
     ルーネの未亡人

    「イングマル・エリックソン」
     病院の守衛
    続きを読む

    投稿日:2022.10.22

  • ふころぐ

    ふころぐ

    18歳でホームレスになった女性に、連続殺人犯の容疑がかけられる。自力で犯人を追い始めるが、前半は恵まれない家族との関係や存在を隠して生きる虚無的な生活が描かれる。後半、テンポ良く事件の謎が解き明かされる。読後感は良い。続きを読む

    投稿日:2022.09.16

  • 0071

    0071

    まだ北欧ミステリーが日本で知られていなかったころ、「ガラスの鍵賞」というものが知られていなかった頃、出版されたっぽい。
     ストックホルムで暮す32歳の女性ホームレスが突然殺人犯として追いかけられる。
     ほとんどの部分が主人公が生き延びるための方法が書かれていて、ほんとにラストのラストですべてが明かされびっくりした。続きを読む

    投稿日:2015.03.27

  • トト

    トト

    アルヴテーゲン2作目、推理小説というかドラマ小説?地名が多く出てくるので日本語で読むとちょっとくどく感じます。夏の別荘への思い入れとかはなるほどスウェ人らしい描写。ホームレスという背景も社会問題をうまく取り上げてるな~。スタッズミッションで薬もらえるのは知らなかった。Från Stockholmare till Stockholmareというのにはそういう補助も含まれてるんですね。続きを読む

    投稿日:2013.11.13

  • emi

    emi

    翻訳物としては読みやすいほうでした。
    ただ、クライマックスのサスペンス感や
    主人公の女性の生き様や暮らしぶりも
    全体にどこか物足りない感じが残りました。
    特に母親との関係の最後に出てきた件、
    もう少し丁寧に描いてほしかった、というか読みたかった。続きを読む

    投稿日:2012.07.12

  • Asako

    Asako

    スウェーデン作家によるミステリーです。
    主人公は富豪の元令嬢のホームレス、32歳。極力社会との接触を絶ち、微罪を重ねながらも目立たないように生きていたのが猟奇的な殺人事件にまきこまれ…。
    現在と過去を織り交ぜて話はすすんでゆきますが、犯人探しよりも母親との確執が徐々に顕わになってゆく過程のほうに興味を惹かれました。続きを読む

    投稿日:2012.06.24

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