【感想】紙の動物園

ケン・リュウ, 古沢嘉通 / 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
(91件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
32
32
15
2
0
  • 形容しがたい複雑な味わいと魅力を持った15篇の短編集

    三種の異なる糸が撚り合わされてるよう。
    通底に流れるのはノスタルジックで寓話的な愛の物語で、例えば「人々はいっしょに年を取らなくなった - いっしょに成長しようとしなくなった。結婚している夫婦はおたがいの誓いを変えた。もはやふたりをわかつのは死ではなく、退屈だった」と永遠に続く人生を送る夫婦を描写してみせる。
    時に展開されるハードSFの片鱗、例えば哲学者サールの"AIは幻想で、思考も幻想だ"とする謎の問いかけに煙に巻かれ、どこか懐かしみを覚える東洋の文化的背景に支えられ、読者は過去と未来を往還する。
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    投稿日:2015.11.21

  • SF文学

    短編集だがけっこうボリュームがある。長編小説を読み終えたような満足感があった。
    文章が繊細で表現力に富んでいて、登場人物の心を読ませるまさに文学といっていいと思う。別にSFじゃなくたっていいじゃないかと思うのだか、一編一編読み終わる度に、ベースがSFでないことにはストーリーが成り立たないことに気づく。
    彼らの舞台は現在とは違う場所にあるのだが、そこにできるストーリーは現在の私たちとは何ら変わらない人間がつくるのだ。気持ちも行動も現在の延長線上にある。その上、SFのアイデアも加わるのだから面白くないわけがない。近未来の日常、フィクションを舞台にした日常、うまく溶け合って馴染んでいてうまいなあと感心してしまう。
    この世界観をずっと読んでいたい。もっと翻訳本が読めるといいのにと思っている。
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    投稿日:2016.11.14

  • 文字の魔法は消えていく

     伝統と先端、光と影のアイロニカルな対比が素晴らしい短編集。他のレビューでも書かれているように、読後の満足感は相当高かったです。
     結縄(けつじょう)といったもはや神秘的な記録方法と最先端製薬会社の駆け引き。太平洋横断トンネルという大事業により第二次世界大戦が起こらなかったif世界。その影には・・・。全ての細菌(乳酸菌も!?)を駆逐した未来の女性が辿り着いたのは、忘れられた人類の末裔が住む細菌いっぱい?の惑星だった。などなど。起こった事、起こした事は不条理でも、それが人類が生きていくリアルだと感じてしまい「ほーぉっ」とため息をついて読了。続きを読む

    投稿日:2017.05.17

ブクログレビュー

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  • たかちゃん

    たかちゃん

    表題作の『紙の動物園』が、あまりにも素晴らしい作品だったので、読み終えていませんが感想を書いてしまいます。
    歴史に翻弄される人間の悲哀、深い愛情行動、辛い人生の救い、それらが合わさって、非常に深い物語に仕上がっています。
    一生に一度は読むべき傑作です。他の短編も読んできます。
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    投稿日:2023.12.25

  • 一条浩司(ダギナ)

    一条浩司(ダギナ)

    中国系アメリカ人作家の短編集。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞受賞の表題作ほか、全15篇を収録。

    「紙の動物園」「もののあはれ」「月へ」「結縄」「太平洋横断海底トンネル小史」「潮汐」「選抜宇宙種族の本づくり習性」「心智五行」「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「円弧」「波」「1ビットのエラー」「愛のアルゴリズム」「文字占い師」「良い狩りを」を収録。

    SFに与えられる各賞を総なめにした表題作「紙の動物園」が冒頭に収録されている。最初にもってきたのが正解で、いきなりガツンとやられるインパクトによって、この作家に対する印象が好感あるものに満ちてしまった。折り紙で作られた動物に生命を吹き込むという、ファンタジーを感じる設定ながら、中国系アメリカ人だからこその世界観が巧みに深い母子愛を描き出し、涙なしには読めない結末となっている。文句なしの傑作に喝采だ。

    続く「もののあはれ」は、滅びの道にある地球を旅立ち、300年後に到達する深宇宙の星を目指すというガチSFな傑作。ここでも親子愛が基軸となる結末が深い感動を呼ぶ。漢字や日本語がフューチャーされているのが興味深い。
    【抜粋――「どんなものでもそれを言い表すのに千もの方法がある」父さんはよく言っていた。「それぞれの場合に合わせたふさわしい表現があるんだ」日本語が陰影と雅趣に満ちた言語であり、一文一文が詩であることを父さんに教わった。日本語は、重層的な言語であり、語られぬことばが語られることばとおなじように深い意味を持ち、文脈のなかに文脈が潜み、まるで日本刀の鋼のように層が重なりある言語である、と。】
    他に政治情勢やSFギミックにおける設定も緻密で、この作家はいったい何ヵ国語に精通しているんだ……どれだけ多才なんだ……と空恐ろしくなる一作。物語の感動だけでなく、扱われているテーマも深いものがあり考えさせられる。

    最初の2タイトルだけでお腹いっぱいになりお釣りがくるぐらいな上、残りの作品も読み応えあるものばかり。多彩なケン・リュウの世界にどっぷりハマる入門書としてふさわしい一冊になっている。ガッツリSFだったりファンタジーぽい雰囲気だったり歴史改変ものがあったり、様々なタイプの話があるが、「文字占い師」だけは閲覧注意レベルの重たい作品なので、読むときは気をつけてほしい。こういった歴史認識に関わる問題をぶっ込んでいるのもこの作家の特質のひとつなのだろう。あなたのお気に入りはどれですか?読者どうしで語り合いたくなる傑作短編集。
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    投稿日:2023.12.17

  • れんげ

    れんげ

    抒情的ファンタジーにトンチキSF、風刺強めの歴史ifもの…飽きることなく満腹になる1冊。テッド・チャンやディック未読のSF初心者には、ぜんぶ新鮮だった。

    科学と信仰、思考とAIのアルゴリズム、といったテーマを、人間ドラマの中で読者になんとなくわかった気にさせながら描く「1ビットのエラー」「愛のアルゴリズム」が好き、この時代の旬のSFという気がした。続きを読む

    投稿日:2023.05.23

  • まりん

    まりん

    作品が凄いし、これを違和感無く翻訳した翻訳者も凄い。難しい話が語られているのに、何となく理解できる世界観を作り出せるのが本当に素晴らしい。何とも言えない切なさや刹那さ、、、言葉にできないものが物語として描写されている。本当に頭の良い人が書くとこういう物語になるのかもしれない。難しい話を解るように語り聞かせてくれる。ものすごく良かった。続きを読む

    投稿日:2023.04.03

  • Julien Sorel

    Julien Sorel

    空虚で絶望感のある未来世界で描くヒューマニズム作品。人間味や暖かみがより際立ちます。
    めちゃくちゃ感動するんだけど、すごく切なさが残る。ちょっと苦手。

    投稿日:2023.01.14

  • サノ

    サノ

    このレビューはネタバレを含みます

    結縄と円弧が特に好き。理解力が追いつかないのもあったけど大体は楽しく読めた。

    ト・ムを許すな!!!!!!(結縄)

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    投稿日:2022.09.15

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