【感想】世界史の極意

佐藤優 / NHK出版
(79件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
12
33
19
1
0
  • 理論の虜にならず、歴史を読み解く

    佐藤さんが世界史?と少々胡散臭く思った(失礼!)のだが、あとがきを読んで納得した。(私はあとがきから読むタイプだ)

    「キリスト教神学には、歴史神学という分野がある。一般の歴史では、実証性が基本になる
    歴史神学でも実証性を無視するわけではないが、さらにその奥にある歴史を突き動かす原動力の探求をする。
    この歴史神学の方法を用いて「世界史の極意」をつかむことができないかと考えた。」

    そもそも、「一般の歴史」(=歴史学)では実証性が必要になるわけだから、
    「世界史」などというものはアカデミックな話としては論じにくい。
    ウォーラーステインの「世界システム論」が高校の「世界史」の授業でも扱われるようになったが、
    やはり「歴史学」とは異なる視点から斬り込んでいるところに力と魅力があるのだろう。

    そういう意味で、本書は「歴史学」とは違う立場であることを明言しているところに、
    興味と好感を持った。

    さらに、歴史神学そのものでもない。
    佐藤氏が同志社大学神学部の藤代泰三氏から学んだことを応用し、
    実際に佐藤氏の波瀾万丈の人生の中で学んだことと重ね、
    まさに佐藤氏にしか描けない「世界史の極意」であると思う。

    本書の鍵となる概念は「アナロジー」(類比)だ。
    「歴史は繰り返す」と言うが、反復しているのかをどうかを洞察することが必要だと氏は言う。
    そのためには知識と論理が必要なのだと。

    取り上げられているテーマは
    「資本主義と帝国主義」「ナショナリズム」「キリスト教とイスラム」
    歴史を、また現代社会を考える上で外せないものばかりだろう。

    これらの説明は分かりやすく、「歴史学」の側の人間にも学ぶところが多いと思う。
    ナショナリズム論の三巨人、アンダーソン、ゲルナー、スミスの論についての説明は
    分かりやすく、自分が人に説明するときにも参考になると思った。
    (本人も認める通り、かなり乱暴ではあるが)
    だが、私にとって、一番面白いと思ったのは、やはり、
    「佐藤優が世界史の極意をつかむまで」の過程だ。

    本書は、というか佐藤氏の他の本でもそうだが、
    あらゆる体験や出会いを次につなげていこうという姿勢がある。

    恩師である藤代先生のことをこのように語る。
    「私たちが理論の虜にならず、他人の気持ちになって考えることと、
    他人の体験を追体験することを重視し、アナロジカルに歴史を読み解く習慣が付いたのは
    藤代先生の影響によるところが大きい」

    客観性・実証性を重んじる歴史学の立場からは、
    「それは歴史学ではない」と言いたくなるが、
    歴史学ではない歴史があっていいのではないかとも思った。

    意外に(予想通り?)心温まる本であった。
    続きを読む

    投稿日:2015.04.13

  • 現代史の問題理解の導入に。

    優しげな名前に似合わずぬいかつい風貌の佐藤優氏。評者は同氏の主に国際政治・外交・情報機関などに関する発現・論説などを関心をもって読んでいる。古典的な意味でのいわゆる知識人として貴重な人でないかと個人的には思っている。本書は現代の世界でのいくつかのいわゆる紛争地と呼ばれるような地域の問題を理解するための導入になる内容。決して深く掘り下げることができる分量ではなく,すでに知っている内容もあったが,理解を深めるための参考図書なども示されている。続きを読む

    投稿日:2015.04.05

  • アナロジーで世界史を読み解く

    アナロジーで世界史を読み解く、という意味でこういった切り口の世界史関連の書籍は少ないので?面白かった。
    神学系を専攻していた筆者だけに宗教紛争などの話も分かりやすいし。「いっきに学び直す日本史」シリーズもちょっと読みたいなぁ。続きを読む

    投稿日:2016.06.12

ブクログレビュー

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  • さってぃ

    さってぃ

    歴史をアナロジカルに捉える、ということにどれだけ近づけたかはまだまだとおもうが、おもしろかった。
    一方的な見方や一つの側面でしか、報道などでは語られていないので気をつけたい

    投稿日:2024.03.07

  • 量産型ズゴック

    量産型ズゴック

    「資本主義と帝国主義」「ナショナリズム」「キリスト教とイスラム」の3つのテーマとあるように多岐にわたっていて、理解できる個所とできない箇所が混在していた。昔一度読んだときは、理解が薄かった部分が、今回再読することで、より深まった感じがした。改めて、資本主義、ナショナリズム、宗教については、引き続き研鑽し続けていきたいと思った。続きを読む

    投稿日:2023.12.06

  • tsune105

    tsune105

    論理学や哲学による表現で理屈っぽくストレスを感じる箇所もあった。

    ウクライナとロシアの戦争への過程はイメージしづらく、義憤に駆られ、善悪で捉えて、思考終了としまいがちな問題である。しかし「イギリスとスコットランド」「日本と沖縄」とアナロジー(類推)で説明するところは外交官出身の著者ならではだと思う。

    「外交」だけでなく「宗教」も強みで彼のライフワークであるキリスト教を軸とした宗教への研究に基づく、著者推奨の参考図書もありがたい。
    続きを読む

    投稿日:2023.01.10

  • るゐ

    るゐ

    歴史は繰り返すというより、螺旋状なのだろう。
    同一ではなく類似なので、全体を俯瞰できていなければ気づくことができない。

    土地、民族、宗教が複雑に絡み合う世界情勢は、一元的な見方では到底理解できない。

    異なる立場から描かれた歴史を学び、他人の体験を追体験し、世界の認識を深める必要があると感じた。
    続きを読む

    投稿日:2022.12.03

  • Go Extreme

    Go Extreme

    歴史は悲劇を繰り返すのか─世界史をアナロジカルに読み解く 多極化する世界を読み解く極意: 帝国主義はいかにして生まれるのか 資本主義の本質 イギリスの歴史教科書に帝国主義を学ぶ 民族問題を読み解く極意: いかにして生じたのか ナショナリズム論の三銃士─アンダーソン、ゲルナー、スミス ハプスブルク帝国と中央アジアの民族問題 ウクライナ危機からスコットランド独立問題まで 宗教紛争を読み解く極意: イスラム国とバチカン市国─世界戦略 キリスト教史のポイント イスラム史から読み解く中東情勢 戦争を阻止できるか続きを読む

    投稿日:2022.05.24

  • garboflash

    garboflash

    元外務省でロシアを担当していたので反米的な主張はまぁ仕方ないのかなと思いますが、中国をスルーしているあたりに著者の思想的なものが入りすぎてる印象を受けました。その点がちょっと残念な本だなという感想です続きを読む

    投稿日:2021.05.06

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