【感想】NHK 新版-危機に立つ公共放送

松田浩 / 岩波新書
(4件のレビュー)

総合評価:

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  • 公共放送の役割とは

    言論・表現の自由と言っても、雑誌や新聞などのメディアと、放送メディアは少し違った位置づけである。
    それは、電波の周波数が有限かつ希少であるため、
    一定の手続きによって公正な利用が求められ、”交通整理”が必要とされてきたからである。

    NHKがモデルとしたイギリスBBCは電波の公正な利用とは「権力監視」であると考えている。
    BBC元会長、グレッグ・ダイクはこのように語る。

    「公共放送にとって重要なのは政治家を監視することだ。
    党派に関係なく公正、公平に全ての政治家を監視すべきだが、
    特に権力の大きい政府の監視はより大切だ。
    そのために公共放送は政府から独立していなければならない」

    三権分立に加え、権力監視装置としてのメディアが存在することで、
    国家に健全な自浄作用を与えるというのは、BBCに限らず、
    ジャーナリズムの根本である。
    何故権力を監視しなければいけないのかは、それこそ啓蒙思想くらいにさかのぼって説明しなければならないので割愛するが、
    少なくとも近代民主主義というのは、権力を分散し、監視することで成り立っている。

    では、NHKはどうなのか、ということである。
    著者を改訂版執筆に駆り立てた直接の動機は安倍政権のNHKへの過剰な介入である。
    安倍首相の考えに賛同する人々で固めた人事は、「権力監視」とはほど遠いものである。

    しかし、本書を読んでいくと、そうなりうる可能性は、NHK創立の1925年から、また、
    戦後のNHK再編の頃から、体質として、構造として存在していたことがわかる。

    「放送は、公共性の立場から政府の政策を徹底させることに協力するものであるが、
    編集権は協会に属するものとする」(1959年「日本放送協会国内番組基準」)

    というものがあった。
    その後、「政府の政策を徹底させる」の部分は削除されたが、
    依然として「権力監視」のために独立した機関となることはなかった。

    世界には「政府の政策を徹底させる」ために貴重な周波数を使う国も存在する。
    北朝鮮の朝鮮国営通信などがそうであろう。
    しかし、そのようなメディアが国民に何か利益をもたらしているだろうか。
    健全な国家運営に寄与しているだろうか。

    この新版はほぼ全面的に書き換えたらしいが、第三章「NHKの体質はどのように培われたか」の部分は初版(2005年)の加筆である。

    新書とはすぐに「古くなる」ものであるが、結局のところ、
    ここで指摘している「NHKの体質」が現在の事態を生み出しているのであり、
    全く「古くなっていない」ように感じる。

    ただ、一つ引っかかったのは、BBCをあまりに理想化していないか、という点である。
    BBCも理念通りに動いているわけではなく、
    「権力監視」よりも「政策の徹底」に傾斜していることもある。
    特に中東関係の問題ではそうだろう。
    BBCが大々的に「NHKの危機」を報道した(2014年3月)ことこそ、
    BBCを始め、多くの公共放送がNHKと同じ危機に直面していると感じている証左ではないかと思う。

    本書で語られているNHK職員たちの、ジャーナリズムの使命と国家権力の狭間で葛藤する姿は、
    おそらく、米国CNN,英国BBC,韓国KBSなど、「NHKとは違って国家権力から独立している」
    (=独立放送規制機構を持っている)はずの放送局の職員の姿なのではないか、と思う。

    よって、著者の結論であるBBCとNHKの決定的な違い、という部分には賛同しかねる。

    本文を読んで著者とは違う結論に行きついてしまったが、
    「公共」とは何か、という問題について考えさせられ、有意義であった。
    続きを読む

    投稿日:2015.02.19

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  • ブックコンシェルジュ 近藤俊太郎

    ブックコンシェルジュ 近藤俊太郎

    改めて公共放送としてのNHKについていい勉強になる一冊でした。すべてを鵜呑みにするわけではないのですが、やはり改革が必要なんでしょうね。

    投稿日:2018.04.04

  • オギノ通り

    オギノ通り

    ★お堅過ぎて★元新聞記者の大学の先生が書いたというからくだけた本かと思っていたら、思いのほか放送の意義など法律や学問に近い内容だった。ちょっとそこまではついていけず・・・

    投稿日:2016.05.27

  • タカギ

    タカギ

    NHKに限らないと思う。日本の組織は多かれ少なかれ「おかみ」のいいなりになっている。
    それを疑おうともしない(庶民レベルでは)。
    長い歴史で培われた民族的性格なのかも。

    投稿日:2015.01.27

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