【感想】ニッポンの裁判

瀬木比呂志 / 講談社現代新書
(22件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
3
11
3
2
0
  • 司法崩壊のリアル

    日本の司法制度における様々な問題点を、元裁判官の視点から炙りだし、各メディア大反響の前作『絶望の裁判所』の姉妹編。
    本書はさらに、日本の裁判そのものの病理を暴きだす衝撃的な著書となっている。

    ごく一般的な人たちの、司法に対してのイメージはどのようなものだろうか?
    「清廉潔白」「公平中立」「正義の実現」「権力の監視」。私も、漠然とこのような印象を持っていた。

    例えば、国家による犯罪であり殺人である冤罪の章では、袴田事件や恵庭OL殺人事件の真相に迫り、裁判官が自らの心証によって、いくらでも恣意的に事実をねじ曲げ、冤罪判決に至る過程を詳細に分析している。
    先頃、話題になった福井地裁による高浜原発の運転差し止めの仮処分は記憶に新しいが、こうした判決は極めて稀有な判例に過ぎず、ほとんどの原発訴訟は棄却または敗訴となっている。
    全国的なこの傾向は、最高裁事務総局からの圧力があることを、協議会の実態も交えて記している。

    各級裁判官を独善的にコントロールし、国家権力に寄り添う全体主義的な司法の体質は、行政訴訟や国家賠償請求訴訟などでも見られ、“司法ムラ”にとっては、いかにも不都合な真実が次々とつまびらかにされるもののの、本書はそれだけではない。
    官僚的なキャリアシステムを変え、法曹一元化による司法制度改革の必要性と、マスコミの報道の在り方、そして私たち国民による司法の監視など、絶望的な危機感から発せられた提言は、痛々しいほどの説得力がある。

    これまで抱いていたイメージがいとも簡単に裏切られ、覆されるのは、人々がいかに司法への関心、および公正な批判を怠ってきたかという、ひとつの証左かも知れない。
    本書のような批判に対して黙して語らず、自浄作用も働かないようでは、日本の裁判は深い闇に閉ざされていると言わざるを得ない。

    最後に、あとがきに引用されていたボブ・ディランの言葉を引いて、書評の末尾としたい。
    「つまり我々の誰からも声が上がらなかったら、何も起こらず、(人々の)期待を裏切る結果になってしまう。特に問題なのは、権力を持った者の沈黙による『裏切り』。彼らは、何が実際起きているかを見ることさえ拒否している」
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    投稿日:2015.08.15

ブクログレビュー

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  • ottersho

    ottersho

    『絶望の裁判所』に続き、日本の裁判所をめぐるシステムについて、その事実がいかに悲観的かがよくわかる。
    相変わらず読むとどんよりした気分になります。
    そんな中、少しばかり参考になったのは、第3章の『3 あなたが裁判員となった場合には……』の以下の記述。
    -----引用------
    いずれにせよ、陪審制が実現する前にあなたが裁判員に選任された場合には、本章や『絶望』(68頁以下、145頁以下)の記述を思いだし、裁判官たちの人柄をよく見極めて安易に彼らの意見に誘導されないように注意し、くれぐれも、罪なき人に有罪判決を下す結果にならないよう、臆せずに自己の意見を述べ、信じるところを貫き、他の裁判員たちをも説得していただきたい。現在の刑事系裁判官たちが若手を養成するに際して重きを置いている一番のポイントが「にこやかな説得の技術」であることも、頭に入れておいていただきたい。
    -------------
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    投稿日:2023.11.28

  • テクノグリーン

    テクノグリーン

    瀬木比呂志著『ニッポンの裁判(講談社現代新書)』(講談社)
    2015.1発行

    2016.12.22読了
    『絶望の裁判所』よりもこちらの方が面白かったかな。砂川判決の裏にアメリカの圧力があったなんて知らなかった。裁判官というものはどこか現実を超越した裁定者のようなイメージがあったが、裁判官も人であり、担当判事によって結論が大きく変わるというのは意外だったかもしれない。判決を書くのが面倒くらいから和解交渉を勧めるというのは実際あり得そう。

    URL:https://id.ndl.go.jp/bib/026004962
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    投稿日:2022.10.16

  • ikawa.arise

    ikawa.arise

    三十三年間、裁判官を務めたという著者が自身の経験も多分に交えつつ、欧米における裁判の常識と比較しながら日本の裁判の現状を伝える。全八章、約300ページ。前著、『絶望の裁判所』への大きな反響を受けての著書とのことで、前著を参照する箇所も多い。どちらかといえば『絶望』を読んでおくことが好ましそうだが、本書からの私も問題なく読めた。あらかじめ伝えるなら、日本の法曹界や裁判制度をかなりペシミスティックなものとして位置づけており、仮に正義に燃えて裁判官を目指す若者が読むならば、その実態に幻滅すること請け合いだ。

    まず1・2章は裁判官がどのようにして審判をくだすのか、その判断の構造を考察する。本書のなかでは前段にあたり、裁判官に限らず人間の心理に関する知見など普遍的な内容が多い。日本の裁判所の事情としては、地裁の裁判のほうが民主的・先駆的・常識的で、逆に最高裁判所については「最低裁判所」「日本の最高裁判所に大きな幻想を抱くべきではない」と、この時点ではなはだ低い評価を明らかにしている。

    3章から5章は著者自身が本書の中核と定めており、分量としても全体の半数近くを占める。章ごとには、3章が冤罪・国策捜査の問題を中心とした刑事裁判。4章が最高裁判所事務局によってコントロールされる名誉毀損訴訟や原発訴訟について。そして5章では行政訴訟を通じて裁判官たちが公的権力に寄り添う姿勢の顕著さと、さらには共感と想像力の欠如による裁判官の劣化を伝える。中核となる3章は、いずれも裁判官や裁判所組織が公的な権力に対してのあり方について、多くの具体例とともに問題の深刻さを伝えることを主としている。「多数派の裁判官は、むしろ、「権力の番人、擁護者、保護者、忠犬」」という非常に辛辣な言葉が著者の絶望の深さを物語る。

    6章は民事訴訟について、日本の裁判官による和解のテクニックが中心となる。著者自身が日本の裁判のなかでは常識的な判断がくだされているとする一般の民事裁判については本書のなかで主となる箇所ではないが、日本の裁判全体を包括的に分析することもその旨とする本書においては欠かせない。「民事訴訟利用者の満足度が二割前後というおそらく国際的にもあまり例をみないだろう低い数字」が目を引く。

    終盤の7・8章は裁判官の視点からみた裁判所、法曹界の現状ということになる。7章は裁判組織を株式会社に例えてみた場合の息苦しさや将来性のなさについて。終章は著者自身の裁判官としての経験と考察を多く取り入れながら、全体の総括・打開策を含めた今後の展望という流れになっている。

    昨年、興味本位で裁判を傍聴してみたこともあって日本の裁判についてまとまって書かれたものがあれば読んでみたいと思っていたところ知ったのが本書だった。結論として、個人的には非常に衝撃の大きい読書になった。何だかんだいっても日本の裁判所は「三権分立」の一角としての役目をある程度は果たしているのだろうと何となく考えていたのだが、本書をみるかぎり刑事訴訟を含む公権力が絡んだ裁判については、公平に機能しているとは言えそうにない。「有罪率99.9%」という日本の刑事裁判における数字は誇れるどころか、万が一、自分自身が冤罪事件などに巻き込まれた場合を考えれば空恐ろしくなるばかりであり、ニュースや本などでときおり目にしていた冤罪の問題が身近に迫る。そして、日本の裁判所のあり方が異なっていれば、例えば「一票の格差」や「原発訴訟」によって選挙の結果や原発被害が現在とは全く違ったはずであり、裁判の結果が社会に与える影響の大きさを知らされる。裁判改革こそが日本社会を変える近道であるという主張にも納得できた。

    著者が糾弾する裁判所の問題はすでに喫緊の課題であり、読み手の不安を強く煽る。ただし、本書にある日本の裁判所を覆うさまざまな問題点は、日本に生きるひとりひとりの考え方と無縁でなさそうだ。それは民主制やフェアネスにたいする意識の弱さによるものかもしれず、そうであれば一朝一夕には変えることのできない問題だろう。そんななか、つい先日の衆議院選挙と併せて行われた最高裁判所裁判官国民審査などは、法曹界に一般の民意を示すことのできる貴重の機会といえる。

    一冊で自らの経験と多くの実例を交えながら日本の各種の裁判の実情を伝える本書は非常な読み応えとともに、暗澹とした気持ちにさせられる内容だった。今後は裁判がらみの報道についての見る目も大きく変わるだろうし、本書を経た後の裁判傍聴にどのような感想をもつかにも興味が沸く。また違った視点を得るためにも、できるなら日本の裁判に直接携わった他の著者による類書があれば読んでみたい。

    余談だが、有罪判決がくだった佐藤優氏の国策裁判について「本当に有罪であるのか」と疑義を呈しながら、担当検察とのあいだに奇妙な友情を感じて「司法権の独立など最初から信じていない」とする佐藤氏のスタンスに違和感を表明するくだりが参考になった。
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    投稿日:2021.11.10

  • 三十路くん

    三十路くん

    読めば読むほど司法に対するイメージが最悪になっていく・・・
    要するに、戦後からのインフラがボロボロになってにっちもさっちもいかない困った困ったっていうのはどこでも同じで、それなりにごまかしてやれてるんだからこれからもごまかしてやればいいよね。


    だって日常生活にいっぱいいっぱいでそんなことする余裕はないよ。

    って感想かな。
    確かに色々暗雲が立ち込めて絶望するのだろうけど、著者とわいでは立ってる位相がずれてる印象も受けた。
    わいはすでに社会全般に絶望しつつある。
    続きを読む

    投稿日:2021.11.09

  • ブックコンシェルジュ 近藤俊太郎

    ブックコンシェルジュ 近藤俊太郎

    日本の裁判は「中世」並みだった!
    という見出しに思わず惹かれて手にしちゃいました。元裁判官が赤裸々に語る、裁判の裏側。なるほど、こういう状況だから「冤罪」というものが生まれるのか。。。

    最高裁判所は「黒い巨塔(法服の色から)」という章も読んでいたら、もはや馬鹿らしい?恐ろしくて裁判なんてできないな。。。と思ってしまいます。しかし、いざ自分が裁判の当事者になったら、本当に正しい裁きをしてもらえるのだろうか。。。続きを読む

    投稿日:2018.04.04

  • ドラソル

    ドラソル

    『絶望の裁判所』の瀬木比呂志による第二弾。
    『絶望の裁判所』は裁判所と裁判官に対する分析に対し、これは実際の判例の分析。

    どちらも現行の日本の司法制度に対する絶望感と提言であるが、改めてそれを痛感した。続きを読む

    投稿日:2017.11.04

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