【感想】オリガ・モリソヴナの反語法

米原万里 / 集英社文庫
(163件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
87
52
7
3
0
  • どこまで嘘だかホントだかわかりゃしない

    軽妙洒脱なエッセイを書く米原氏の持ち味がふんだんに生かされた長編小説。
    ストーリーとしては主人公が少女時代に師事した一風変わったダンス講師オリガ・モリソヴナをひょんなことから思い出し、調べていくうちに謎が芽生え始めて……というもの。
    フィクションだが、実際に著者の過ごしたプラハをベースにしているだけあって細かい描写や時代背景にリアリティがあふれていて、どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションなのかわからなくなるほど。
    激動のソビエト冷戦時代という歴史を背景にした謎解きやその時代に実際に生きた人々の悲喜こもごもが迫ってきて、たとえば指輪物語のようなハイファンタジーに勝るとも劣らない広い世界が感じられた。
    登場キャラクターも外国人らしく個性あふれる人達ばかり。「オリガ・モリソヴナの反語法」というタイトルも、オリガ・モリソヴナを象徴する単語というだけではなく、物語全体を貫いて引き締める仕掛けがあるので、ぜひ楽しみに読んでほしい。
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    投稿日:2015.01.09

ブクログレビュー

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  • まりころ

    まりころ

    このレビューはネタバレを含みます

    「良かったら話してみない。なぜダンサーにならなかったのか」
    「ならなかったじゃなくて、なれなかったのよ。才能が足りなかった……ううん、いいよ、慰めてくれなくて。自分が一番分かってるんだから」
    「シーマチカの言い方には悔しさと未練がタップリ残ってるなあ。才能って素質の実現能力のことよ。どういう経緯でその方向で努力をするのをやめたの?」

    「わたしはね、ダンサーになりたいんだ」
    志摩がそう言っても、誰も身を入れて話に乗ってこない。受験一色に塗り固められた同級生たちの海に浮かぶ、今にも溺れそうな帆掛け船のような心境だった。◯╳や選択式テストには、人格を切り刻まれるような恐怖をおぼえた。

    教室の片隅で、ひとり想像の中のオリガ・モリソヴナとやり取りしながら、フフフフと忍び笑をする。日本の授業は、ほとんど教師の一方的なモノローグに終始するから、ひとり想像にふけるにはもってこいだったともいえる。

    「ああ、神様!これぞ神様が与えて下さった天文でなくてなんだろう、そこの眉目秀麗な神童!あたしゃ感動のあまり震えが止まらなくなるよ」
    (中略)威勢がよくて、どことなく滑稽なオリガ・モリゾヴナの罵詈雑言を投げつけられると、何だかウキウキしてくる。

    「えっ、もう一度言ってごらん。そこの天才少年!ぼくの考えでは……だって‼︎ フン、七面鳥もね、考えはあったらしいんだ。でもね、結局スープの出汁になっちまったんだ。分かった⁉︎」
    また聞こえてきた。思わず吹きだしてしまう。その瞬間に思った。オリガ。モリソヴナの反語方は、悲劇を訴えていたのではなくて、悲劇を乗り越えるための手段だったのだ、と。

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    投稿日:2024.04.05

  • rafmon

    rafmon

    小さい頃、世界をあるがまま受け入れていた。物事の機能も社会の仕組みも人間関係も、その複雑さを理解する経験も知識もなかったから。それでも、何故か理解出来ずに引っかかる記憶がある。あの時、母親はなぜ悲しんでいたのか、なぜ、先生は休暇から戻って来なかったのか。この小説は、人生のそんな謎解きを求めた内容。部隊はソ連、共産主義下。当たり前に粛清や拘束が行われた時代。あるダンサーでオールドファッションの先生を巡り。

    悲しくも明るく。運命を受け入れながら、強く生き延びた人々。米原万里の半生と重なるが、フィクションである。この作家の小説は、生き様も性格も全てが物語に反映されていて、迫力が違う。
    暫く積読していたが、読んで良かった。ロシアの話だからだろうか、冬によく合う小説だった。
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    投稿日:2023.11.29

  • 0107springsteen

    0107springsteen

    色んな意味で日本離れしてる作品。
    どちらの立場でも考えられんということでしょうが、それでもソ連時代の国内統治はまぁ独裁ということですな。日本もそうだったように。
    その中でも、庶民であっても懸命に生きないといけないんですなぁ、でないと何年も経ってこの作品の中の生き残った人たちのように「共有」できないのかと。
    熱い作品です。
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    投稿日:2023.11.20

  • 鈴華書記

    鈴華書記

    世間での評価は高いが,私はそこまで評価しなかった。

    ・本作はミステリー要素含めたフィクション仕立てとなっているが,話を進めるための都合の良さが見えてしまう。

    ・短編『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』と比較して,冗長でキレに欠ける。

    ・ラーゲリについてはよく調べられていると思うが,登場人物の反応が俯瞰的にとどまっている印象。

    ・反語法のもつ魅力が生かされていたのは冒頭くらいだと思う。

    ・本作が感動作であるは私も保証できるところだが,私は感動は陳腐に成り下がる要因だと考えている。
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    投稿日:2023.07.16

  • ひびぬ

    ひびぬ

    このレビューはネタバレを含みます

    人との繋がり。

    旦那氏が買ってきた本。
    米原万里さんのエッセイを読んだことがあったので気になって読んだ。

    旦那氏は読みにくかったらしいけど、わたしはとても読みやすかった。(笑)
    人物がたくさん出てくるけど、なんとなく覚えていれば大丈夫。
    赤毛のアン好きな人は好きだと思う。

    主人公がソビエト学校に通っていた時の強烈なダンスの先生(オリガ・モリソヴナ)の過去の謎を解いていく物語。
    どんどん新しい事実が判明していって、先が気になる。

    ダンサーをしていたけど、外国人と結婚をしたことから政府に捕まり、多くの人たちと収容所で過ごし、また日常生活を取り戻す、大変な人生を送ってきた人(たぶんこんな感じ。。)、ということが、当時の記録などでわかってくる。
    いまの平和な世界じゃ考えられない非人道的なことが行われている。これが本当にあったことなんて。
    そんな中でも、どうにか強く生き延びようとしたオリガ・モリソヴナの行動、それが周りの人々に与えた影響はとても大きかった。

    主人公が日本に帰ってきて、日本の‘みんなが平等’の義務教育に馴染めなかった描写にハッとさせられた。
    子どもの頃は当たり前だと思っていたから不思議に思わずに受け入れていたけど、いま思うとたしかに個性は潰されてたな〜と。
    自分の意見を自分の言葉で発するの苦手だし、将来どうなりたいのか明確な目標がなかった(いまも特段ないけど…)もんな。
    だからといって、日本の教育でしか得られないものを得られたとは思っていたりもする。。
    正解はないからいろいろ試してみるしかないのよね。(誰)

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    投稿日:2023.06.09

  • Chiem

    Chiem

    3つの時代、複数の国を行き来する壮大なストーリー。ページ数の分厚さに見合った、重厚な読了感。
    スターリン時代の歴史に詳しければより楽しめるかも。

    投稿日:2023.03.19

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