【感想】石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門

岩瀬昇 / 文春新書
(39件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
9
13
10
0
0
  • 化石燃料に関してこれ一冊でおおよそのイメージがつかめ、あまり難しいことは書いていないお勧めの入門書

    OPECは2015年の原油見通しを日量2892万バレルと従来予想から28万バレル引き下げた。サウジアラビアは11月に8万バレル減らし、リビアの政情不安などを背景に10月から39万バレル減少したというがそれでも、3005万バレルあり来年見通しは更に100万バレルの原産になる。サウジアラビアのシェールつぶしという話もあるがそれ以上にロシアやベネズエラが苦しんでいる様だ。

    2014年4月エネルギー庁が中心となり「エネルギー基本計画」を策定したが著者の岩瀬氏はその内容に違和感を覚えたという。「国の根幹に関わるエネルギー基本政策が、エネルギーミックスに関する比率目標を持たず、もっぱら電源エネルギーをどうするかを中心にきじゅつされているからだ。また、我が国における「緊急事態」「非常時」が「3.11」のように国内でしか発生しない前提で書かれているのも気になる。エネルギー基本政策とは、「根本的な脆弱制を抱えている」一次エネルギーをどうするか、から始まるのではなかろうか。地下資源に乏しい我が国が先ず考えるべきは、一次エネルギーをいかに確保するか、であろう」

    日本の一次エネルギー比率は石油44.1、ガス22.2、石炭27.1、原子力0.7、水力3.9、再生エネルギー2.0となっている。原発が稼働していた2010と比べると石油+4、ガス+5、石炭+2.4、再生+1で原子力の減を補った。次に消費の面から見てみると投入が21.1百万テラJに対し最終消費が14.5百万、6.6百万がロスとして消えている。2次エネルギーでは発電で投入が9.2百万に対し発電ロスが5.4百万で自家消費と送電ロスを除くと電力として使用されるのが3.4百万このうち産業用、家庭が各百万、民生の業務用が1.2百万ほどだ。最終消費は民生家庭が2.1百万、民生業務が2.9百万、運輸旅客が2.1百万、運輸貨物が1.3百万そして産業用が6.2百万となっている。電気が足りる足りないと言ってるのは一次エネルギー投入からすると16%ほどのことなのだ。運輸と産業用はまず石油が一番で鉄鋼などは石炭が必要になる。石化製品も石炭や天然ガスから作られるC1ケミカルが増えて来ているとは言えまだまだこれから。

    日本が高いLNGをスポットで買っているのもちゃんと理由がある。元々天然ガスは消費地が近くにないと輸送と貯蔵に問題がある。天然ガスのほとんどは生産地で消費されており、貿易量は生産量の30%さらにその70%がパイプラインで輸送されている。LNGは生産量のわずか10%しかなくそのうち37%が日本向けだ。日本では公害対策として発電用に使われた電力価格が原価積み上げ方式だったため天然ガスも熱量等価で原油リンクとしたわけだ。その後アメリカでは天然ガス先物市場が確立し現物決済をしなくていい先物市場ができたからこそ、スポット取引や買い手の決まっていない天然ガス開発プロジェクトも進められる様になった。天然ガス田の開発プロジェクトをするためにはどうやって需要地まで運ぶかもセットになり新たにパイプラインを作るにせよLNG基地とタンカーを作るにせよ1兆円規模のプロジェクトになる。売り手ー買い手と輸送方法がセットできないと銀行団のファイナンスが組成できない。これが長期契約の日本のLNGが高いといわれた原因となっている。

    石炭はほとんど生産国内で消費され世界最大の産出国の中国も輸入している。輸出余力があるのはオーストラリア、インドネシア、ロシアと南アぐらいしかない。これにアメリカ、インドを加えると世界生産の9割ほどになる。一次エネルギー全体では上位13カ国で需要の7割を消費している。中国とアメリカの2国で4割、5位の日本が3.7%となっている。産油国のイランとサウジが11、12位でイギリスよりも多いのが興味深い。日本が誇れるのはエネルギー効率でGDP当たりのエネルギー消費を見るとドイツには少し負けるがイギリスやイタリアと並んで高い。一人2000キロカロリー程度を食事として消費している人類はそれ以外に22万8千キロカロリーを別の形で消費している。1900年代以降人口が爆発的に増え、寿命も延びたのは基本的にはこのエネルギー消費によって支えられている。気候変動の対策が必要とは言えそうそうエネルギー消費を減らすことは出来ないし、途上国の人口増と経済発展は更なるエネルギーを要求する。

    エネルギーミックスを考える上ではダニエル・ヤーギンが「探求」の中で1章を割いた第5のエネルギー「省エネ」がおそらく日本の最大の2次エネルギーになる。札幌地下鉄の様に暖房オフにするというのも一つの考え方だが、輸出できるのは快適な省エネ技術だろう。ノーベル賞の天野教授は青色LEDのGaNの技術を次世代パワー半導体に生かそうと研究している。
    続きを読む

    投稿日:2014.12.11

  • 実践的エネルギー論

    元商社マンによるエネルギー論。なんといっても現代社会の基幹であるエネルギーについて手ごろな見取り図を与えてくれる。石油・ガスの話がおおむね中心。ブローカーの存在意義など「あれっ?」と思う記述があったり、電力会社の原油生焚きのようなわたくしのごとき浅学にとっては説明不足だった箇所もあるがご愛嬌レベル。

    ガス田/油田開発の経済、なぜ日本の買う天然ガスは高いのか、パイプライン大国アメリカの市場、原油先物取引市場の成立史など
    続きを読む

    投稿日:2016.10.09

ブクログレビュー

"powered by"

  • あがり

    あがり

    石油業界の最前線で活動してきた筆者の実地経験を踏まえた、素晴らしい内容だ。
    しかし刊行から10年近く経ってしまい、内容に古い面があるのは残念。

    石油はセブンシスターズの独占的なアイテムからOPECの武器となり、現代では市場原理にしたがって動く商品に変わった。

    マスコミの浅いエネルギー論の間違いに気づける良書。

    読了60分
    続きを読む

    投稿日:2023.09.21

  • Maxy

    Maxy

    もっと早く本書を手にしておくべきだったと、読後後悔。
    残念ながら本書執筆時点から10年が経過した現在では、色々と抜け落ちている部分があるが、エネルギー業界人の入門者は必読だろう。
    特に、再エネや水素といった新領域に目が行きがちな今、これまでの世界成長を牽引してきた化石燃料とそのトレーディングを中心とした経済影響について、本書を通じて理解しておくことが肝要。

    特に引っかかった箇所を抜粋しておく。

    ポイントフォワードの思考

    石油開発事業には「ポイントフォワード」と言う考え方がある。経済合理性にマッチした考え方である。これが、進行中のプロジェクトがなかなか中断されない理由の1つだ。
    架空のケースで説明してみよう。
    ある案件が、探鉱から開発に移行しようとしている。探鉱は成功し、相当量の埋蔵量が発見された。さて、今は回収率を最大にするため、最適の開発計画を策定し、産油国政府の許認可を得る段階だとしよう。すでに興行権取得及び探鉱作業等で50億円投資済みである。
    だが、一方で、プロジェクトを推進している間に大きな情勢変化が生じていた。油価が値下りして、長期的に低迷しそうな上、地層構造が想像以上に複雑で、探鉱段階でも、予想以上の費用がかかってしまった。さらに、生産井の数を当初計画より大幅に増加しなければ、予定通りの生産ができないと判断される事態だ。
    この案件に参画を決めたときの経済性評価では、探鉱が成功すれば100億円の総投資額に対し、300億円の利益が出ると見込んでいた。だが、すでに50億円費やし、さらに100億円の投資が必要な見込みだ。それでいて予想利益は300億円から120億円に下方修正せざるをえない。つまり、総投資額150億円に対し、期待収益が120億円に減少してしまったのだ。
    さて、この時、この会社の経営陣はどのような判断をするだろうか?
    プロジェクトフルサイクル(最初から最後まで)で見ると、150億円の投資に対して120億円の利益しか期待できない。このプロジェクトは30億円の損失をもたらす案件と言うことになる。これ以上の推進は無謀か?
    だが、今プロジェクトを中断すると、これまでに費やした50億円が損として確定してしまう。さらに、中断の決定を当該産油国政府からすんなり承認してもらうのも困難だろう。地下に埋蔵量があるのは確実なのだから、交渉は難航するだろうし、もう二度とこの国での石油開発事業ができなくなるかもしれない。
    発想を変えてみよう。
    ポイントフォワード(過去の事は忘れて、これから起こることだけ)で考え、これまでの50億円の投資額(これをサンクコストと言う)を無視してみよう。すると、これから100億円の投資で120億円の利益が期待できる。20億円の黒字だ。当該産油国との好関係も維持できるし、さらにプロジェクトライフの後半には油価が上昇するかもしれない。今まで見つかっていなかった新しい埋蔵量が見つかるかもしれない。あるいはまた技術の進歩により生産コストを下げられるかもしれない。そういった可能性が残されている。今この段階でプロジェクトを放棄する事は、このようなアップサイド・ポテンシャル(良くなる可能性)を全て捨て去ることなのだ。
    こうした事態になった場合、現実には、ポイントフォワードの発想で決断する。これが、ビジネス社会の現実である。
    サンクコストを無視し、ポイントフォワードでプロジェクトの評価をする事は、石油開発では極めて普通の発送法なのである。したがって一度始めたプロジェクトは少々の情勢変化では方向転換することが少ないのだ。


    シェルのシナリオ・プランニング

    https://www.shell.com/energy-and-innovation/the-energy-future/scenarios/the-energy-transformation-scenarios.html
    続きを読む

    投稿日:2023.02.18

  • higashihue

    higashihue

    エネルギー問題の著書である
    スイスは1時エネルギーにはならない
    石油天然ガス石炭電子力水力含む再生可能エネルギーが1時エネルギー

    投稿日:2021.03.10

  • osawat

    osawat

    ☆著者は商社でエネルギー関連業務に従事。
    ☆金曜懇話会の代表世話人(新興国・エネルギー関連の勉強会)

    投稿日:2019.09.09

  • naosunaya

    naosunaya

    石油価格はどう決まるのか?要するに「今や世界のどこでも調達できる市況製品」なのか、「地政学リスクにさらされた戦略商品」なのか、という点について、著者の結論は「基本的には市況製品。その気になればどこからでも買えばいい。ただし、戦争など一朝ことあれば戦略商品としての性質も出てくる」ということ。

    あと個人的には長らく腹落ちしていなかった「シェールガスってなんであんなに価格弾力性が高いんだろう?」(ちょっと石油価格は上がれば開発が一気に加速し、価格が下がれば開発が止まる。本来投資が莫大な資源開発は市況によってそう簡単には止められないし始められない。例えばLNG)。という点について、シェールガス開発のメッカである米国においては、資源開発は地権者の私的所有権の範囲で決められるから(普通は国との交渉)、というのはなるほど感のある見解であった。
    続きを読む

    投稿日:2019.01.01

  • bookkeeper2012

    bookkeeper2012

    元商社マンによるエネルギー論。なんといっても現代社会の基幹であるエネルギーについて手ごろな見取り図を与えてくれる。石油・ガスの話がおおむね中心。ブローカーの存在意義など「あれっ?」と思う記述があったり、電力会社の原油生焚きのような説明不足もあるがご愛嬌レベルと思う。

    ・天然ガスは液化してLNGにする技術が開発される前は、石油のほぼ役に立たない副産物でしかなかった。

    ・LNGプロジェクトには探鉱、開発に加えて液化、タンカー、再気化のロジが必要。需要地との距離により必要なタンカー船腹量が異なるが1兆円規模になる。よって典型的なLNG長期契約では引き取り義務を定めたり、仕向地規定条項があったりする。売主、買主が一体となって推進するわけだ。

    ・とは言え2013年の世界天然ガス生産量のうち貿易量は30%。さらにそのうちパイプラインが70%で、LNGが30%、天然ガスは地域性が強く、地域間の価格関連性は弱い。日本のLNG輸入量は世界の貿易量の約4割弱。

    ・日本向けLNGは原油代替だったので原油価格リンク。欧州の天然ガスは競合である重油や軽油価格リンク。パイプライン大国アメリカは国内需給で決まる。

    ・国境をまたぐガス田は早いもの勝ち。

    ・パイプライン大国アメリカは天然ガス消費量の22%、日本の6倍。アメリカでなら天然ガスをスポットで売ることができる。トリニダード・トバゴのようにアメリカ市場で売る前提でガス田開発をすると、長期契約と違って供給責任がないので設備の安全係数を低く見て低コストにできるそうな。

    ・ふつう地下資源は国家のものだがアメリカでは土地所有者のもの(海上は連邦と州)。イギリス法由来だが今ではアメリカとカナダだけ。

    ・アメリカの基幹パイプラインは第三者使用権が保障されている。入札などで誰でも使用できる。

    ・大手国際石油会社の代表だったセブンシスターズは73年には供給量の64%を占めていたが、石油ショックを経て国営会社が伸張し、最近では16%に過ぎない。

    ・契約に関するリスクでは支払リスクより履行リスクが厄介と。ここはもう少し説明してほしい。契約不履行をされると銀行によるLCも意味がないと。

    ・ロンドンのIPEは原油先物取引においてNYMEXに立ち遅れていたが、現物受渡し不要の差金決済に条件を変更したことで流動性が高まった。また湾岸戦争で時差による地の利もあった。東京は時差で言うと一般に不利な立場になる。アメリカと日本の間には海しかなく何も起こらない。

    ・コモデティ:その業界の関係者でない一般の人でもいつでも容易に取引できる商品

    ・シェール革命によりアメリカ産LNGが世界に出回るようになると、天然ガスもコモデティ化がある程度進むと予想される。

    ・平時のコモデティ、非常時の戦略物資

    ・消費エネルギー量 「原始人」2,000kcal/d、「高度農業人(AD1,000年)」24,000kcal/d、「技術人」230,000kcal/d

    ・日本では電気は投入エネルギーの43%を占めるが、ロスが大きいので使用エネルギーだと24%。
    続きを読む

    投稿日:2018.11.05

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。