【感想】戦いの日本史 武士の時代を読み直す

本郷和人 / 角川選書
(9件のレビュー)

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平均 3.0
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ブクログレビュー

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  • ますく555

    ますく555

    ご承知のように、古い武家は新しい武家に取って代わられながら時代は進んでいきますが、その都度、力を増して、最後には(徳川氏の時代には)日本全国を支配するほどのものとなる。それがどういった流れだったのか。資料に乏しいところや資料を疑うべきところを歴史学者の著者の推察や推測で構築しながら、ひとつの仮説的に解いていく体裁でした。

    義務教育から高校まで、歴史といえばもう決定した過去を暗記する学問、というふうに捉えている方は多いかもしれません。かくいう僕はほとんどそう考えていました。資料のあるところはその解読はずいぶん以前に完了していて、解釈も決まっている。資料がない部分はその近辺のわかっている(ものと決めている)情勢などから鑑みて埋めてやって、「○○だったのではないかと考えられている」などと短く終える。そういうものだと捉えていて、事件や改革など大きな点をちょっと知ってしまえば面白さは感じなくなり、その他の細かく暗記するところで面倒になる、と思っていた。とにかく、歴史とは解釈が終わったもので、地層のようにゆるぎないものだと理解していた。

    でも歴史は、現代でも解釈がいっぽうからもういっぽうへと急に大きく針がふれたりするんですよね。悪者とされていた人が、実はなんのことはない平凡な人だっただとかに変化するなどです。たとえば本能寺の変で織田信長を討った明智光秀は、僕が子どもの頃だった30年くらい前には、裏切り者で悪役の最たるものとされていた。有名なゲームですが『信長の野望』というシミュレーションゲームでの明智光秀の、隠しパラメータ「義理」が低かったりなどしました。表パラメータの忠誠心も低かったですし。でも、信長を討ったくらいだし、それ以前にも重用されていた武将だから政治力だとか軍事面での能力だとかは高かったです。それが今では、新聞記事で新資料発見なんてでたときに、謀反はやむを得ない理由があったっぽいだとか、黒幕がいて明智光秀本人は駒にすぎないだとか、いろいろな説がでてきて、人物像もそれぞれ異なる解釈がされていたりします。それは歴史小説という場で歴史を語るときには特にそうなのではないでしょうか。

    本書は、そういった歴史の解釈はアクティブに変化していくもので、まだまだ完成していないものなのだ(または、完成するものでもないものなのだ)というような立場で歴史を見ることをまず教えてくれます。その上で、著者一流の歴史の読解で論理的に納得のいく解釈を進めていってくれる。それがとてもエキサイティングなのでした。

    鎌倉時代、後鳥羽上皇と北条義時とを扱った章、この章でのクライマックスである大事件は「承久の乱」ですが、その時代の状況や「なぜ官軍の後鳥羽上皇が負けたのか」との疑問、その前後、そして人物像まで、丁寧な述懐にずいぶん引きこまれて読むことになりました。このような読書体験が、歴史は無機質な暗記モノなんかじゃなくて、考えるものとして学んだり研究したりできるものだぞ、という知見をもたらしてくれます。日本史という学問へのおもしろそうなイメージと親近感が生まれました。

    興味のある方のため、八つの対立は誰と誰かを記しておきます。①平清盛と源頼朝、②後鳥羽上皇と北条義時、③安達泰盛と平頼綱、④足利尊氏と後醍醐天皇、⑤細川勝元と山名宗全、⑥今川義元と北条氏康、⑦三好長慶と織田信長、⑧豊臣秀吉と徳川家康。
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    投稿日:2021.06.03

  • mickeymeguj

    mickeymeguj

    〈目次〉
    はじめに
    第一章 平清盛と源頼朝──治承・寿永の内乱──
    一 清盛落胤説と武力
    二 清盛と「平家」の本質とは
    三 東の源氏と西の平氏
    四 関東こそは約束の地
    五 京と鎌倉と
    六 朝廷の「中から」と「外から」
    第二章 後鳥羽上皇と北条義時──承久の乱──
    一 正当性を求める武士たち
    二 果てしなき内部抗争の末に
    三 七つの守護をもつ源氏
    四 後鳥羽上皇の挑戦
    五 実力と権威の戦い
    第三章 安達泰盛と平頼綱──霜月騒動──
    一 謡曲「鉢木」
    二 御家人でありながら、御内人
    三 「統治派」と「権益派」の出現と対立
    四 「易しい教え」と「やさしい政治」
    五 経済状況の変化がもたらしたもの
    第四章 足利尊氏と後醍醐天皇──南北朝内乱──
    一 建武政権の評価
    二 鎌倉幕府が滅びた理由は
    三 新しい武家勢力の台頭
    四 分裂しながらも存続する天皇制
    五 将軍権力とはなんだろうか
    第五章 細川勝元と山名宗全─応仁の乱─
    一 戦いの歴史
    二 応仁の乱とは何か
    三 それぞれの守護家の動向
    四 嘉吉の変から応仁の乱へ
    第六章 今川義元と北条氏康──駿東地域の争奪戦──
    一 日本を二つに分けると
    二 河東の乱と河越夜戦
    三 「戦いと同盟」の実態を観察してみる
    四 桶狭間の戦いとは何か
    第七章 三好長慶と織田信長──戦国の畿内争奪の諸相──
    一 京都の政体の位置づけ
    二 それは政権なのか
    三 長慶と信長の差異
    四 信長は分かり易いのか
    第八章 豊臣秀吉と徳川家康──小牧・長久手の戦い──
    一 信長の「分かりにくさ」をもう少しだけ
    二 秀吉と家康の戦い
    三 秀吉の日本統一事業
    四 秀吉による天皇の奉戴
    五 家康の選択
    おわりにとあとがきを併せて
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    投稿日:2019.08.31

  • hazelnuts2011

    hazelnuts2011

    歴史も科学と同じで、現象論だけを見ていると真実を見誤る。同じ武士の時代でも源平それぞれのインセンティブは表裏一体。「上洛」の理解の仕方ひとつで戦国武将の考え方は違って見えてくる。信長、秀吉、家康の違いを表現するのによく使われる「ホトトギス」。実はホトトギスって天皇のことだったのか?続きを読む

    投稿日:2016.09.22

  • shohjoh

    shohjoh

    戦いを理解するには、次の3つを明らかにすることが必要だと述べています。
     ①相争うAとB,どちらが攻めでどちらが守りか。
     ②攻める側、つまり戦いを起こした側の目的は何か。
     ③戦いの目的が達成されたか否かを検証し勝敗を確定

    国際体制にも同じことが言える気がします。ウィーン体制の目的は何でしょう。ヨーロッパ中を巻き込む戦争の回避だったら、クリミア戦争まではそのような戦争は起こっていませんから、ウィーン体制の崩壊は1848年というのはいかがか、と思います。
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    投稿日:2015.12.25

  • ゆみ

    ゆみ

    日本史は暗記ものではないよ!
    ということを伝えるべく書かれた本と言いますか。

    二つの対比によって、それぞれを浮かび上がらせる、という手法で書かれた本です。

    史料を文字通りにしかとらえないのでは、何も理解できないというのは、よか分かる気がします。
    踏み込んで考えないと、ただの年表なので。

    通説といわれるものと、違う解釈が多々出てくるので、
    とてもおもしろいのではないかと思います。
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    投稿日:2013.08.06

  • tagutti

    tagutti

    ≪目次≫
    はじめに
    第1章  平清盛と源頼朝―治承・寿永の内乱―
    第2章  後鳥羽上皇と北条義時―承久の乱―
    第3章  安達泰盛と平頼綱―霜月騒動―
    第4章  足利尊氏と後醍醐天皇―南北朝内乱―
    第5章  細川勝元と山名宗全―応仁の乱―
    第6章  今川義元と北条氏康―駿東地域の争奪戦―
    第7章  三好長慶と織田信長―戦国の畿内争奪の諸相―
    第8章  豊臣秀吉と徳川家康―小牧・長久手の戦い―
    おわりとあとがきを併せて

    ≪内容≫
    日本史中世の専門家が、武士の時代を2人ずつ対立関係で時代を見ていこうという大胆な試論。本郷さんの著書はとてもわかりやすいので、廉価な本が出ると手に入れています。しかし、内容はなかなかハードで、大胆な提案もちらほら。今回も史料を縦横無尽に使いながら、現在の歴史学の主流に棹さす提案が見られます。ただ、まったく新しいものは少なく、どこかで読んだようなものも…(たとえば、信長は天皇を利用する意図はなかったが、秀吉は必要だった、など)。
    霜月騒動や北条義時論などは、私の知らなかった(ただの勉強不足ですが)論点だったので、面白く読めました。
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    投稿日:2013.01.26

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