【感想】なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略

冨山和彦 / PHP新書
(80件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
32
25
14
2
0
  • 日本経済を考えるためのGとLというフレームワーク

    本書は、これからの日本経済を考えるためのフレームワークを提示した本です。

    そのフレームワークは、GとL。

    Gはグローバル経済圏を意味し、例えば自動車や電機産業など、グローバルな市場で活動する経済のことを指します。

    一方、Lはローカル経済圏を意味し、例えば公共交通機関や飲食店、宿泊業等のサービス業などの、ローカルな市場で活動する経済を指します。

    本書では、GとLは別の経済特性を持ったものだと認識し、それぞれに合った経済政策や戦略を考えることが重要だとし、Gの世界では資本生産性を上げる施策、Lの世界では労働生産性を上げる施策を提案しています。

    GとLの考えに至る著者の問題意識は、それまでの日本の経済政策の論争が、競争を重視した新自由主義か、平等を重視した社会民主主義かの二項対立が、

    『現実の経済社会で起こっている姿をまったく無視した、抽象化されたベースで議論しているだけではないのか』

    というところにあります。

    経済は競争も重要だけど、その結果格差が生まれては問題なので、その意味で平等も重要、ということをどう整理して考えればいいのかと思っていたので、GとLという視点の整理は、非常に分かりやすく理解の助けになりました。

    今後の日本経済を考えるために有用なフレームワークだと思います。

    以下は余談ですが、私が本書を読もうと思ったのは、2014年10月7日の文部科学省の有識者会議(※1)での冨山和彦氏の報告(※2)に興味をもったからです。

    その報告では、これからの大学では、例えば、シェークスピアや経済理論ではなく、説明力や会計ソフトの使い方を教えるなど、「学問」よりも「実践力」を教えることが重要とされていました。

    この主張に、非常に違和感を持ったのですが、本書を読んでその背景と主張の意図が理解出来ました。


    ※1「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」
    ※2「我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性」
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    投稿日:2015.01.24

  • 「GかLか」ではなく「GもLも」

    著者の経歴から説明すると、経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO、オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役などを現在務め、カネボウ、ダイエーなどの企業再生を行ってきた人物である。

    現在、どの企業もグローバル化を掲げ、企業の生きる道はグローバルしかないという考えが多くの人にあるがそうではない。
    日常で利用するサービス(交通機関や飲食、小売りなど)の多くがグローバルとは関係のない(国内でほぼ完結している)世界で動いている。

    このようにグローバル(G)とローカル(L)で経済圏を分け、現代の問題点や課題、解決策を見ていくという内容である。

    Gの世界(グローバル経済圏)での企業はその分野のトップ(オリンピックメダリスト)を目指さなくては勝てない。
    これは、競争の激しい産業領域のため、トップ以外は淘汰されるためである。
    日本の企業がトップを維持できるようにするためには規制を緩和し、「ガラパゴス化」せずに世界展開できるようにする必要がある。

    Lの世界(ローカル経済圏)での企業はトップを目指す必要はなく、県大会上位を目指すイメージで生産性を高める必要がある。
    なぜなら、日本の非製造業の生産性は先進国でも低いからである(製造業に関しては世界でもトップレベルである)。
    これは、競争の激しくない非製造業では淘汰が起こりにくく、生産性の低い会社も生き残ってしまっているからだ。

    本書では図が多く載っており、その図を見るだけで何が問題なのかすぐにわかる。
    データの出所も書かれているので自分で確認し、それに付随する情報を得ることもできる。

    筆者は「GかLか」の二者択一ではなくGはGとして、LはLとして、それぞれ最適な政策があり、それは別々に成長することができる
    どちらしか生きる道はないということではないことを言っている。
    また、GとLには優越はなく、完全にGとLで分けられるものではないので、GとLをそれぞれ使いこなし、選択することが大切である。
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    投稿日:2017.04.08

ブクログレビュー

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  • あああら 1646886番目の読書家

    あああら 1646886番目の読書家

    このレビューはネタバレを含みます

    なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)2014/6/13


    G経済圏とL経済圏それぞれで別の戦力を用意せよ
    2015年4月15日記述

    産業再生機構元トップの冨山和彦氏の著作。

    本書では企業、産業がかつてに比べG(グローバル型)、L(ローカル型)とはっきりと分かれていてそれぞれに効果のある対策は異なるということを示している。
    これまでも感覚的に思っていたことではあるけど、国際競争に耐えずさらされているメーカーとJR、バス会社などを同列に扱うことにそもそも無理があるのだ。
    (国の産業政策だけではなく個人にとっても同様。MBAを取得や高レベルの英語力が日本人全員に必要かどうか等・・・)
    G型企業のこれから、ガバナンスがどうあるべきかは本書に加えてビックチャンスという著作に冨山氏がまとめているので参考にされたい。
    L型については本書がよくまとまっている。
    雇用にしてもGDPにしてもおよそ7割をしめているというのは意外だった。
    L型では密度の経済性が効く。
    L型経済圏に対して単純な規制緩和ではかえってブラック企業などが増えてしまう。
    スマートレギュレーション(賢い規制)が必要である。
    サービス業などは国境を越えることは出来ない。(バス、鉄道、観光・・)
    サービス業の最低賃金を上げ生産性の低い会社の退出を促す。
    地域金融機関、保証協会のあり方の見直し。
    特に信用保証協会からの代位弁済が毎年一兆円を超えている。
    これを見直し生産性の低い企業へ緩やかな退出を促す。
    個人保証でも贅沢品を除いた財産は取り上げず路用に迷わないように変える。
    税制や補助金も生産性の高い会社に傾斜的に配分するべき。
    失業対策も対企業ではなく直接個人に対して。
    人手不足対策を真剣に行う(放置すれば人がいなくて過労死する場合も・・)
    非高度人材の外国人を移民としていきなり受け入れると
    劇的なショック反応が起こる可能性がある。
    日本国内で少子化対策、生産性向上、女性と高齢者の更なる活用を徹底的に行う。
    いきなり外国人労働者を入れることは最低賃金の引き下げとほぼ同じ効果を持つ。

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    投稿日:2022.09.04

  • a0019447

    a0019447

    このレビューはネタバレを含みます

    これからの日本のいく末可能性について考えるべく読書。gとlの社会は構造が違うという話。改めて興味深い

    メモ
    ・製造業、it業はグローバルの経済特性。規模の経済・ネットワークの経済性が効きやすく、国際競争に巻き込まれやすい。
    ・ローカル経済圏はコトの価値。分散的な経済構造、密度の経済が働くことが多い。
    ・新陳代謝の不足
    ・グローバル優良企業はトリプルテン(利益率・ROE・成長率)
    ・Gの世界の戦略 高株価・新陳代謝・成長産業・労働市場
    ・銀行も通信もローカル産業。グローバルかどうかをみるには寡占度合い。
     トップ10位でほとんどをしめていたらグローバルの産業
    ・再生における問題の本質はBSでなくPL
    ・ローカル経済は緩やかな退出と寡占化を
    ・ローカルの場合、ベストプラクティスアプローチが有効。同一地域でなければ、競合とならない
    ・緩やかな退出を促進するためには資本市場や製品市場でなく、労働市場から。最低賃金をあげる。

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    投稿日:2021.09.11

  • ヤマタニ

    ヤマタニ

    抜群だった。正直『シン・ニホン』よりも、いま読まれるべきはこちらではないかと思う。机上の仮説ではなく実戦の中で得た洞察なので、迫力が違う。

    トレーダブルなグローバル経済の世界の極北にはPh.D.持ちCEOたちの世界観があり、熾烈な資本獲得競争が続く。なんちゃってガバナンスの「日本基準では一流企業」の文句を聞いている暇はなく、グローバル基準のオリンピック選手育成環境を整備する必要がある。

    アントレーダブルなローカル経済の世界においては、規模の経済は幻想であり、元々PLさえ安定させられればディフェンスは強い。それに加えて労働人口不足という環境変化が重なり、ROEよりも労働生産性、資本市場よりも労働市場によるガバナンスがゲームのルールとなっている。この世界における本当の課題は、新しい企業を生むことよりも弱い企業・集落を整理・集約することにある。

    注意すべきは、良くも悪くも現場視点であるからこそ、時間軸を飛ばした大胆な構想にはなっていないこと。20年30年先を考えると、地方の高齢者まで漏れなくAmazonやUberを使いこなし、GがLを侵食していくシナリオもありえるのではないかと思う。
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    投稿日:2021.02.25

  • あいちゅう

    あいちゅう

    朝日新聞のインタビューを読み注目していた。みちのく交通の話などとようやく符号。人口減社会の中で、生産性を上げないといけないというストーリーには大変納得。林業の将来もこれで解けそうである。

    投稿日:2020.04.03

  • k-hajime

    k-hajime

    2020.03.21 予め、グローバルでオリンピックチャンピオンを目指す企業(Gの経済)とローカルでの勝利を目指すサービス業を中心にした企業(Lの経済)を分けて考えるという切り口はとてもおもしろく、同意すると同時に感心した。Lの経済における生産性の向上という考え方はとてもよく理解できる。どう進めるかを考えないと。続きを読む

    投稿日:2020.03.21

  • オギノ通り

    オギノ通り

    ★2つの世界の切り分けに納得★目にする地方経済の現状と、国やメディアが騒ぎ立てる経済のグローバル化といった話の距離にずっと違和感を覚えていた。世界の距離が近づき日本の生産年齢人口が減っていけばこれまでと同じ処方箋では対処できない。世界を2つに分けて考えるべきだという指摘はすごく腑に落ちた。

    「モノ」を中心に立地を問わず世界の(ニッチな分野でも)チャンピオンにならなければ生き残れないGの世界と、その場でしか成り立たたず人手のかかる「コト」のLの世界。かつての日本を支えていた加工組立の中小企業は、世界との距離が近づく中でGの世界でしか生き残れない。Lの世界は地方だけでなく流通・サービスにも当てはまり、いい意味でそこに地方のヤンキーが生き延びる余地もある。どちらがよいではなく、異なる世界が併存する。
    続きを読む

    投稿日:2020.01.15

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