【感想】元素変換 現代版〈錬金術〉のフロンティア

吉田克己 / 角川EPUB選書
(6件のレビュー)

総合評価:

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  • 錬、錬、錬金とレンコンは…

    核融合が常温では起こるはずが無い。
    …という常識を覆す事実には驚嘆しました。
    重水素や三重水素の内部で安定核種で起こるということは、強い力か弱い力の繰り込めない力が存在するのか、もしくは、真空のエネルギー、カシミール力、はたまた、ダークエネルギーか…。
    とにかく発見されていない物理法則が存在するようです。
    核融合による元素変換というと水爆や、太陽、錬金術を連想し、大規模すぎて市民には縁遠いもののように感じますが、真面目な科学として希少金属の生産などの可能性があるそうです。
    科学とは、不可能を除いたものである。とか、ないとか…。
    日本は無資源国だから、こういう技術が深く研究されるべきだと感じました。
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    投稿日:2017.08.17

  • メカニズムの解明が待たれる核変換

    「セシウムがプラセオジウムに、ストロンチウムがモリブデンになるということなら、タングステンからプラチナがつくれるんじゃないですか?」「できてますよ。」

    1989年ユタ大学で発表された常温核融合は世界中にセンセーションを起こし、結局追試による検証が出来ず全面的に否定されるに至った。アメリカエネルギー省の調査委員会はDD核融合(ヘリウムを生む重水素同士の反応)を仮定し否定している。発表したフライシュマン等は電気化学の専門家ではあったがユタ大学の広報策にのって「とにかく常温で核融合が起きた!」と反応してしまった。日本では有馬朗人博士ー原子核物理学者で東大総長、そして後の文部大臣ーが否定的な見解を示したため学会は概ね否定的だったが一部の研究グループは1990年代から科研費を得て研究を続けていた。その中の一人が本書の主人公で三菱重工所属の岩村康弘氏だった。岩村らが2004年3月に凝集体核科学国際学会の第1回ジュリアーノ・プレパラータ・メダルの第1回の受賞を受けたことからもわかるように常温核融合の1種である元素変換の世界では日本が研究をリードしている。

    一般的な核融合反応は高温高圧でプラズマ(原子が原子核と電子に別れて飛び回っている)状態にして反応を起こす。原子核同士の衝突確率を高める必要が有るからだ。しかし一般的なイメージとは違い手作り核融合実験のハードルは低く既に中学生が手作りで作ってしまっている話が「理系の子」のエピソードにもある。難しいのは大量にエネルギーを発生させる核融合炉の場合は大量の中性子線が発生し炉材の寿命が短いことだ。この本で紹介される元素変換は常温で電気分解を基本技術としておりそこは常温核融合と共通している。

    1994年NEDOが事業母体となり「新水素エネルギー実証試験プロジェクト」が当初予算総額40億円で発足した。今なら水素社会と結びつけられそうなこのプロジェクトは実証できていない常温核融合で化学反応では説明できない過剰発熱があるなら使いたおそうと言うのが表の命題でさらに年間1億円が裏アジェンダである地道な基礎研究に振り分けられた。マスコミは常温核融合はなく、このプロジェクトは失敗したと報道したが研究者ははっきりした核変換現象や多くの反応による生成物を確認していた。STAP細胞とは違い理論的な解明は出来ていなくても現象は追試され確認されていたのだ。(2004年に日経産業新聞のトップ記事になっているらしいが情報感度が低かったのか成功報道は全く記憶にない)

    岩村が利用したのは「重水素透過法」と言う方法で核変換の対象元素をスパッタ薄膜にし、そこに電気分解で発生した重水素を通過させ固体上で核変換を起こす。プラズマ状態の重水素同士をぶつけるより固体中を通過する原子の方が衝突確率が高いので温度を上げなくていいというのがアイデアだろう。加圧と真空やイオン透過を利用した電気化学的な方法で水素濃度を高めたことにより収率を高めることにも成功した。岩村はNaturen投稿するが拒否され、Japanese Journal of Applied Physics(JJAP)にようやく受理された。しかしこの時も日経サイエンスが半ページの記事にした程度で全く注目を受けていない。それほどまでに常温核融合へのアレルギーと有馬氏の否定発言の影響が強かった。

    三菱重工が核変換に何を期待しているかと言うと原子炉メーカーらしく放射性廃棄物の無害化だ。とかく悪者になりがちな原子炉メーカーだが放射線廃棄物処理を独占できれば利益も大きいし会社のイメージと言う点でも申し分ない。残念ながら2002年以降重工も基礎研究経の資金を減らしてしまい、岩村も途中から研究から外されそれでも週一で異動先の高砂から横浜の研究所に通い続けた。安定元素のセシウムやストロンチウムはすでに核変換は実証されているがまだサイエンスレベルで廃棄物処理に使えるめどは全く立っていない。あわてて実用化を目指すより反応のメカニズムを解明することが優先される段階だ。それでも理論的には代表的な放射性廃棄物であるストロンチウム90を安定で有用なパラジウムに変換することは可能だ。重水素の抽出には水の電気分解による濃縮が有効でこれは放射性トリチウムー汚染水から分離できない最後の核種ーにも当てはまる。現状では希釈して海に流すしかないトリチウムも電気分解で濃縮しエネルギー的には不利だが発生した水素も利用できる。濃縮されるのはTHガス(H2の水素が一つトリチウムに変わったもの)で、もしこれが核変換に利用できれば効果は大きい。1兆円単位で増加する燃料費のことを思えばもう少し国家予算を付けてもいいんじゃない。100万年単位の放射線廃棄物処理を100年単位にできるかもしれないのだから。
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    投稿日:2015.02.28

ブクログレビュー

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  • tokyokaiyolibs

    tokyokaiyolibs

    http://lib.s.kaiyodai.ac.jp/opac/opac_details.cgi?amode=11&bibid=TB10070817

    投稿日:2015.04.14

  • edward0812

    edward0812

    現代の錬金術と言われている、常温核融合(元素変換)について書かれた本。
    核反応には大きく分けると2つあって、1つは核分裂、もう1つが核融合なのだそうだ。

    2つとも大きなエネルギー放出することには変わりないのだが、核分裂が燃料1グラムで石油に換算すると1.8トン分のエネルギーを生むのに対し、核融合では石油8トン分のエネルギーを生み出すらしい。
    ただし核融合の場合、反応に必要な温度が1億℃~10億℃だそうで、制御がしづらいという大問題があるようだ。

    もし常温で核融合(元素変換)が実現できるとすれば、小規模な施設で大きな発電が可能になり、現在問題となっている核廃棄物の無害化、そして安価な物質からレアアースを創出するなど、まさに錬金術的なイノベーションが可能となるのだ。

    この研究にはまだ多くの課題があるようだが、放射性廃棄物の処理技術については、ぜひ早期に実現していただきたいと思う。
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    投稿日:2015.04.12

  • sazuka

    sazuka

    元素変換って、何だ?

    その名の通り、元素を変換して違う元素にすること。そんなことが出来るのか。

    元素変換のおおもとは、常温核融合である。

    常温核融合といえば、昨今のSTAP細胞騒動と同じように、できたできた、と発表したら違ってた、というやつである。

    ところが、常温核融合はその後もジリジリと研究が進められてきた。エネルギー発生ではなく、元素変換という大技を引っさげて。

    元素変換のすごさは、希少金属を、それほど希少でないものから作り出したり、といった、まさに錬金術、である。こんなことが出来るわけない、と思いたいところだけど、物によってはもうできている。

    サイエンスレベルではなくエンジニアリングレベルでどしどし作られるようになったら、モノの価値やら、いろんなものが変わってしまいそうだ。

    そして、セシウム137やストロンチウム90といった放射性物質を、別の元素に変換して無害化する、という野望も掲げられている。取材対象となった三菱重工業は、それらを元素変換研究の最優先としているという。

    放射性物質の無害化というとてつもないことが実現すれば、巷で起こっている原子力関係の問題のほとんどは、よくあるケアレスミスやら怠慢やらだけに収斂する(いや、それもまずいか)。

    その元素変換のアウトラインと、日本で進められてきた研究のお話。

    まだまだ先の話、であろうけれど、エキサイティング!
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    投稿日:2014.12.17

  • T.Maeda

    T.Maeda

    常温核融合技術が開発できれば(初期の段階に進んできているらしい)「元素変換」が実現できる。
    元素変換が出来るようになるとありふれた金属(タングステンなど)から高価で稀少なプラチナがつくれるようになる。
    人体に危険な放射性元素(放射性廃棄物)を無害な元素に変換することができるようになる。セシウムやストロンチウムを安定化させることが可能性としてある。
    まだ、この分野の研究に対する認知が少ししかなされておらない段階だが、研究がどのように進んでいくのか注目してゆきたい。
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    投稿日:2014.12.12

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