一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教

内田樹, 中田考 / 集英社新書
(49件のレビュー)

総合評価:

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  • 一神教の「原理」を考える異色の入門書

    ハサン中田考が一般に有名になったのはやはり、「イスラム国(IS)」を巡る様々な事件で、
    「カリフ制再興」を掲げるイスラーム学者である中田氏が関与したとされたり、
    (アメリカ国防情報局には要注意人物と認定されている)
    後藤健二さんらが人質になったとき、IS幹部と面識があるため、
    パイプ役を買って出ようと記者会見を開いたあたりからだろうか。

    中田氏は同志社大学の元教授で現在も客員教授であるが、一般に発信するのは
    「皆んなのカワユイ(^◇^)カリフ道」という文字の入った謎のTwitterが中心(現在は自粛中)で、
    おそらく「怪しい人」として、知る人ぞ知る存在であろう。
    (現在『俺の妹がカリフなわけがない!』というライトノベルを執筆中とのこと(*゜Д゜))
    そんな中田氏が、かの有名な内田樹氏との対談というのは、いろんな意味で興味深い。

    中田氏はムスリムとしても特殊である。
    カリフ制というのは、イスラーム成立期の制度である。
    それを21世紀において実現することを、そのために国民国家の撤廃を主張しているのだから
    いろいろな意味で「普通」ではない。
    本書を見ても、そうだ。

    中田氏は、イスラーム原理主義団体であるムスリム同胞団を厳しく批判する。

    神の定めたイスラーム法と「革命のジハード論」に照らせば、
    イスラーム法をないがしろにし、人間が定めた法律に基づく
    民主主義の選挙制度によって成立した背教的な政権が
    イスラーム政権であるはずがありません。

    この理論はイスラーム法学者としては、ある意味正しいのだろう。
    同胞団は「原理主義」などではなく、イスラームの「原理」を無視した背教的な団体である、と。確かに。
    だが、同胞団に限らず、多くのイスラーム国家は背教的な政権であり、
    中田氏の説くような「神の定めたイスラーム法」に忠実に生きている人間はごくわずかである。

    また、宗教的に「食べてもよいもの」を許可する「ハラール」に対する批判も
    「神の大権の簒奪に等しい大罪」と断言する。

    確かにイスラーム法学者として的確であろう。
    これは、一神教であるキリスト教の「人を裁くな」の理由とも同じで、
    それは「神の領域」だからである。

    その通りだ。
    しかし、やはり多くの人間は、「神の領域」を人間に求めてしまう。
    そういう意味で「背教者」でないムスリム、キリスト教徒、ユダヤ教徒が、
    世界に一体何人いるだろう?

    イスラームについて知るなら山内昌之氏、小杉泰氏、酒井啓子氏、内藤正典氏など、
    様々な立場から優れた著作があるし、一神教ならば、キリスト教まで広げると
    数え切れないほどの名著がある。

    しかし、やはり、ここまで徹底した原理主義的な主張を日本人による対談という形で気軽に読める(内田氏の聞き出し方がまた上手い)というのは他にはないだろう。
    いや、原理「主義」ではなくて、「原理」を語っているのだ。

    「一神教と国家」の本質をするどく突いているが故に、
    異色で奇怪な印象を受ける。
    ということは、実際のところ、世界に「一神教」の人間など殆どいないのではないか、
    などと思ってしまった。
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    投稿日:2015.02.16

  • 紙でも読んで、また電書で読み直しました

    領域国民国家を廃絶しカリフ制を再興すべく行動されている中田考氏と、グローバリズムに抗し国民国家の延命を図ろうとされている内田樹氏による、ハイレベルで優しさに溢れる対談。いまイスラーム世界で生じている困難が我々の問題と地続きであることが垣間見える奇跡的な一冊です。
    昨今のイスラーム国を巡るあれこれの、背景にある物事への情報も多く含まれています。あれはホンモノのカリフ(制)ではなさそうですが、カリフ(制)を思い起こさせたことは大きいと思います。
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    投稿日:2014.10.19

ブクログレビュー

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  • barome

    barome

    イスラム、ユダヤ教に関する討議はもちろんとても勉強になったし面白かったのだけど、現在のアメリカ主導のグローバリズムに関する話が特に面白かった。
    今の英語教育、グローバル化というのは結局日本が繁栄する手段というよりアメリカ主導の資本主義の中で個人プレーでどう成功するかの手段にすぎない。わたしもなんとなくグローバル人材という耳触りの良さで英語を勉強したりや海外勤務を希望したりしていたのだけど、自分が目指していたものは一体何なんだ??と考えさせられた。
    もう少し自分の働き方というか、行動の軸を詰めて考えたい、と思わせられた本だった。内田樹の本ってだいたいそうなるんだけど。
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    投稿日:2020.06.21

  • ゆき

    ゆき

    非常に面白い。イスラーム学の第一人者、中田考と内田樹の一神教問答。イスラム教とキリスト教、ユダヤ教の共通点と違いがわかるとともに、イスラム、西洋諸国、日本などの国の成り立ち、文化、歴史、政治、関係性等々が見えてくる。

    P48で中田氏が「日本では「ケチ」と言う時、強欲と吝嗇を分けませんが、イスラームにおいてはまったく違う概念なのです。強欲なのは構わない。しかし吝嗇は最大の悪口なのです」と発言したのに対し、「内田氏は嫌煙という発想は本質的に吝嗇の文化」と話を展開する。
    なるほど、日本も煙草を分け合うような文化から西洋風に変化してしまったけれど(領域国民国家)、イスラムは今も共有の文化なのだ。

    P92からの「日本とユダヤの意外な関係」も目から鱗。1900年ごろ、ニューヨークの銀行家ジェイコブ・シフは、ロシアで行われていたポグロムについてロシア皇帝に恨みを抱き、当時ロシアとの開戦に備えて戦時公債の引き受け手を探していた高橋是清と会ったことを奇貨として日本を財政的に支援してロシアを打倒しようと考え、実行したという話。シフと世界のユダヤ人の金融のネットワークの支援で合計二億ドルの戦費を調達できたことで、日本は日露戦争に勝てたのだという!

    最後に中田氏はカリフ制の再興を主張。1924年にオスマン帝国が解体し(カリフ不在となった)、伝統的なイスラームのあり方を捨てたたことにより、かつてあったネットワークや共生の感覚、施しの精神がうまく発揮されず、国家間、派閥間の争いや貧富の差ばかりが助長されることになったという。そこでカリフ制を復活させ、すべてのムスリムが一つの神による一つの法に従うことによってムスリムとして生きる――その秩序ある生き方を蘇らせたいという。
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    投稿日:2019.12.11

  • キじばと。

    キじばと。

    レヴィナスを中心にユダヤ思想を主な研究領域としてきた内田樹が、イスラーム学者の中田考を招きイスラーム思想の現代的可能性について対話をおこなっています。

    ユダヤ教とイスラム教というバックボーンのちがいだけでなく、さらに国民国家が破滅的なクラッシュを起こしてしまうことの危機を訴える内田に対して、中田は「カリフ道」の復興を説くという点でも、両者の立場にはかなり大きなちがいがあるのですが、本書ではアメリカを中心とするグローバリズムへの対抗思想という点で両者の議論は一致点を見いだしています。もっとも、だからといって刺激に欠けるということはなく、まったく異なるバックボーンからともにグローバリズムへの批判がみちびき出されてくるというところにおもしろさを感じました。続きを読む

    投稿日:2019.09.19

  • noire

    noire

    目からウロコでした…ってわたしはキリスト教徒じゃないですけど。

    イスラムに対する考え方がすごく変わった。そしてグローバリゼーションはアメリカの推し進めるビジネス的な戦略であるということも。

    今英語で授業する学校に勤めてる。日本人なのに英語で授業してる。すごく違和感なんだけどね。まぁそういう学校があってもいいと思うの。

    たださ、思うのはなぜ彼らが英語を身につけるためにこの学校にいるかってことなんだよね。

    痛いこと書いてあったな。同年齢集団からアドバンテージを取るためであって、インターナショナルな人間を育てるためではないと。目的はひたすらに内向きであると。


    少数の子はきっと目的を持っていたり、最初は目的なんかなくても外向きな考え方に変わっていくことのできる子たちだと思う。でもきっと違うんだよね大部分は。私たちはそれをどう引き上げていくのかっていうのが課題になるんだと思う。

    私の目指すところっていうのが不明瞭で。そのためのヒントをもらえたって気がする。「真の国際人を育てるということ。」っていうか。互いの違いをしっかり認め合うことができる。自分のできることを人のために貢献できるような人間に育てる。

    そのことが主軸になっていくのかなと、ちょっと思った。
    続きを読む

    投稿日:2019.07.17

  • キミドリ

    キミドリ

    内田:
     ユダヤ教、イスラム教、キリスト教は互を相互参照しながら体型を築いていったkという気がしますね。(略)進行の深さを魂の純良さを持って示すのか、学識の豊かさでし召すのかというあたりの力点の置き方がこの3つの宗教では微妙に違う気がします。
    キリスト教⇒人間の魂の清らかさ
    ユダヤ教⇒知性的な成熟
    イスラム教⇒両方

    イスラム教はもともと遊牧民の宗教。つまり、国境自体を意識しない。クロスボーダーな集団だった。これは国土、国民を絶対とし、国境を死守する、現在の「国民国家」とは折り合いが悪い。

     いま「グローバリズム」が叫ばれているが実態は「汎アメリカ化(アメリカン・グローバリズム)」。だが、その勢力を伸ばし、世界を「フラット化」するにはイスラム教は邪魔。
     なぜなら、イスラム教は同一の儀礼、儀礼の言語、同一のコスモロジーを共有しているので「汎アメリカ」の強力な対抗勢力となりうる。
     だが、そのイスラム圏を分断するために、欧米の宗主国はそれぞれの支配層へエージェントを残していった。彼らは国家の利権の名のもと、自らの権益を守るため、イスラム圏の分裂を固定化している。
     アメリカはダブルスタンダード。
     日本や韓国の非イスラム圏は自由貿易によって市場を解放させ、食料自給率を低め、英語公用化か勧め、固有の文化や商習慣を廃絶し、国民国家としての自立性・主体性をなし崩し的に無化していく。
     逆にイスラム圏には正当性の乏しい独裁国家を応援して、境界線を厳しく分断し、内部の連帯が取られないようにする。
     イスラーム的に正しい政府をつくろうとすると、国を超えてムスリムが選ぶカリフが必要となるが、それは国民国家に縛られたままでは難しい。
     だが、イスラム圏の分裂を修正するために著者のひとりである中田氏は「カリフ制復興」を掲げている。そのため、アメリカには目をつけられている。

    <感想>
     イスラム圏が国民国家と折り合いが悪く、下手をすると『不倶戴天』になってしまう道筋は、内藤 正典著「イスラームから世界を見る」からでもぼんやりとはうかがい知れた。
     が、本書では内田氏と中田氏では「国民国家」の是非について対談を通して、その点がもっとはっきりと指摘されている。
     特にアメリカのアレルギーとも言うべき激しい拒絶反応の理由がよりはっきりした。
     が、いくら「カワユイ」が相手の攻撃衝動を削ぐための戦略だと言われても、「みんなのカワユイ(^◇^)カリフ道」のネーミングセンスはどうかとおもう(笑)
    続きを読む

    投稿日:2018.12.22

  • 波瀬龍

    波瀬龍

    【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】
    続きを読む

    投稿日:2018.10.28

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