【感想】一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教

内田樹, 中田考 / 集英社新書
(51件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
14
22
11
3
0
  • 一神教の「原理」を考える異色の入門書

    ハサン中田考が一般に有名になったのはやはり、「イスラム国(IS)」を巡る様々な事件で、
    「カリフ制再興」を掲げるイスラーム学者である中田氏が関与したとされたり、
    (アメリカ国防情報局には要注意人物と認定されている)
    後藤健二さんらが人質になったとき、IS幹部と面識があるため、
    パイプ役を買って出ようと記者会見を開いたあたりからだろうか。

    中田氏は同志社大学の元教授で現在も客員教授であるが、一般に発信するのは
    「皆んなのカワユイ(^◇^)カリフ道」という文字の入った謎のTwitterが中心(現在は自粛中)で、
    おそらく「怪しい人」として、知る人ぞ知る存在であろう。
    (現在『俺の妹がカリフなわけがない!』というライトノベルを執筆中とのこと(*゜Д゜))
    そんな中田氏が、かの有名な内田樹氏との対談というのは、いろんな意味で興味深い。

    中田氏はムスリムとしても特殊である。
    カリフ制というのは、イスラーム成立期の制度である。
    それを21世紀において実現することを、そのために国民国家の撤廃を主張しているのだから
    いろいろな意味で「普通」ではない。
    本書を見ても、そうだ。

    中田氏は、イスラーム原理主義団体であるムスリム同胞団を厳しく批判する。

    神の定めたイスラーム法と「革命のジハード論」に照らせば、
    イスラーム法をないがしろにし、人間が定めた法律に基づく
    民主主義の選挙制度によって成立した背教的な政権が
    イスラーム政権であるはずがありません。

    この理論はイスラーム法学者としては、ある意味正しいのだろう。
    同胞団は「原理主義」などではなく、イスラームの「原理」を無視した背教的な団体である、と。確かに。
    だが、同胞団に限らず、多くのイスラーム国家は背教的な政権であり、
    中田氏の説くような「神の定めたイスラーム法」に忠実に生きている人間はごくわずかである。

    また、宗教的に「食べてもよいもの」を許可する「ハラール」に対する批判も
    「神の大権の簒奪に等しい大罪」と断言する。

    確かにイスラーム法学者として的確であろう。
    これは、一神教であるキリスト教の「人を裁くな」の理由とも同じで、
    それは「神の領域」だからである。

    その通りだ。
    しかし、やはり多くの人間は、「神の領域」を人間に求めてしまう。
    そういう意味で「背教者」でないムスリム、キリスト教徒、ユダヤ教徒が、
    世界に一体何人いるだろう?

    イスラームについて知るなら山内昌之氏、小杉泰氏、酒井啓子氏、内藤正典氏など、
    様々な立場から優れた著作があるし、一神教ならば、キリスト教まで広げると
    数え切れないほどの名著がある。

    しかし、やはり、ここまで徹底した原理主義的な主張を日本人による対談という形で気軽に読める(内田氏の聞き出し方がまた上手い)というのは他にはないだろう。
    いや、原理「主義」ではなくて、「原理」を語っているのだ。

    「一神教と国家」の本質をするどく突いているが故に、
    異色で奇怪な印象を受ける。
    ということは、実際のところ、世界に「一神教」の人間など殆どいないのではないか、
    などと思ってしまった。
    続きを読む

    投稿日:2015.02.16

  • 紙でも読んで、また電書で読み直しました

    領域国民国家を廃絶しカリフ制を再興すべく行動されている中田考氏と、グローバリズムに抗し国民国家の延命を図ろうとされている内田樹氏による、ハイレベルで優しさに溢れる対談。いまイスラーム世界で生じている困難が我々の問題と地続きであることが垣間見える奇跡的な一冊です。
    昨今のイスラーム国を巡るあれこれの、背景にある物事への情報も多く含まれています。あれはホンモノのカリフ(制)ではなさそうですが、カリフ(制)を思い起こさせたことは大きいと思います。
    続きを読む

    投稿日:2014.10.19

ブクログレビュー

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  • koochann

    koochann

    イスラム神学・法学専門のイスラム教徒(スンニー派)・中田考氏からキリスト教シンパを自称される内田氏が聞き出すという対話。副タイトルとは異なりほとんどがイスラム教の考えを中田氏が話す内容。イスラム教はキリスト教よりむしろユダヤ教との共通点が多いことを感じた。中田氏は灘中・高出身で東大では「駒場聖書研究会」に所属していたが、キリスト教かイスラム教で悩み、アッラーが慈悲の神だからという理由でイスラムを選んだとのこと!イスラム諸国の連帯を謳う憲章を掲げるイスラム協力会議(OIC)が統一を図るものではなく、むしろ「相互に主権を尊重=縄張りを侵さない」ものであり、分裂の現状を固定化し、既得権を守るカルテルであるとの中田氏の説明に、パレスチナ問題を巡る、イスラム世界が連帯して援助の手を伸べない冷淡さの背景を知ることができる。だからこそ中田氏はカリフ制の復活を主張しているのだそうだ。イスラム教から見た逆転の発想でイスラムこそがアブラハム以来のオリジナルであり、ユダヤ教はユダヤ民族によって、キリスト教はイエスによって改変されたものだとの考えているとの説明には「成程!」という感想だった。続きを読む

    投稿日:2023.11.15

  • Sadahiro Kitagawa

    Sadahiro Kitagawa

    一神教、特にイスラム教についてとても勉強になる。今まで知っているつもりだったものをより深く知ることで認識が180度変わるということもある。
    内容には著者の主観的なところも多少含んでいるが、カリフ制復活論なども大変興味深い。
    続きを読む

    投稿日:2023.08.13

  • いすけ

    いすけ

    ユダヤ哲学の内田先生と、カリフ制再興を目論むハサン中田先生のゆるゆる対談。
    丁々発止の対談じゃなくて、縁側で日向ぼっこしつつ好々爺二人が大風呂敷を広げる、といった風情のほのぼの対談。
    でも中身はめっちゃ刺激的で脳みそを刺激される本やったよ。うん。なかなかこれまで想像もしたことのないような世界観。
    続きを読む

    投稿日:2023.03.11

  • akira_sapporo

    akira_sapporo

    読み進める中で霧が晴れていくかのように「なるほど」が連発。
    イスラーム学者の中田先生と思想家・武道家の内田先生の対談によって、話が立体となり立ち上がるような感覚になった。
    内容もそうだが、おふたりの対話に対話のあるべき姿を見たように思う。続きを読む

    投稿日:2022.03.16

  • 初段

    初段

    大学時代に中世ヨーロッパ史を専門としていて、キリスト教の考え方や歴史はある程度勉強していた。その中で、現代日本においてイスラームを信仰する人というのはどのような感覚・価値観を持っているのか非常に興味を持っていた。そのため、本書を通してムスリムの考え方の一端を窺い知ることができて良い体験ができたと思う。内田氏中田氏の考え方や主張は極端だなと感じる部分もあったが、中東情勢を西洋的日本価値観で見ていた自分にとって、新たな知見を与えてくれた。中東情勢は非常にややこしく腑に落ちないな〜と言う人は読んでみると理解の助けになるかもしれない。自分がどの考えを選択するかは置いておいて、自分にない知見を得ると言うのは良いものだなあと思わせてくれる一冊だった。
    2021年3月
    続きを読む

    投稿日:2021.04.04

  • barome

    barome

    イスラム、ユダヤ教に関する討議はもちろんとても勉強になったし面白かったのだけど、現在のアメリカ主導のグローバリズムに関する話が特に面白かった。
    今の英語教育、グローバル化というのは結局日本が繁栄する手段というよりアメリカ主導の資本主義の中で個人プレーでどう成功するかの手段にすぎない。わたしもなんとなくグローバル人材という耳触りの良さで英語を勉強したりや海外勤務を希望したりしていたのだけど、自分が目指していたものは一体何なんだ??と考えさせられた。
    もう少し自分の働き方というか、行動の軸を詰めて考えたい、と思わせられた本だった。内田樹の本ってだいたいそうなるんだけど。
    続きを読む

    投稿日:2020.06.21

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