ドキュメント 謎の海底サメ王国

NHKスペシャル深海プロジェクト取材班, 坂元志歩 / 光文社新書
(5件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
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  • ダイオウイカの裏プロジェクト

    一昨年の夏、一大ブームになったダイオウイカの裏でNHK深海班はもうひとつのドキュメントを追っていた。それが海底サメ王国。ダイオウイカチームはディープローダーとトライトンという2台の潜水艇を問題なく使っていたがそれもこのシャーク団(イカ班に対する深海ザメチームの愛称)が熱海沖で不具合を出し尽くしたからだった。このスフィアと呼ばれる分厚いアクリル性の球体を持つ潜水艇はしんかい2000のような鉄球と違い深く潜っても全然寒くならない。パイロットなどは半袖・半ズボンですますと言う快適さに加え340度の視界、乗ってみたいものだ。

    世界で生息しているサメ約500種の内これまでに人を襲ったとされているのが30種、深海性のサメは250種を越えるがそもそも人との接点がない。例えば巨大な頭と口を持つメガマウスが初めて見つかったのは1976年のハワイ、発見例は50例ほどしかない。幻のダイオウイカでも700例近い報告があり最近ではとうとうスルメにされてしまったと言うのに。

    ミツクリザメ別名ゴブリン・シャークは長く飛び出た鼻先が特徴的だがそこまではまあサメだ。しかし獲物に食いつく際にあごが外れて口の中から上下のあごが飛び出す。この姿がガメラと対決する深海怪獣ジグラ(いたなあ)のモデルとなった。1985年当時世界でわずか33個体の発見だったミツクリザメだがある漁師が1年で125体を捕えていた。場所は富津市金谷漁港沖、浦賀水道の入り口からつながる東京海底谷という沖合5km、水深300mほどのところだ。「サメはアゴをはずすことで、多様化し、広がることが出来たと考えています。」ラブカのような古いサメは普通の魚のようにしか開かないがアゴをはずして一気に水を飲み込むことで泳がなくても生きられる仲間が生まれた。JAWSことホホジロザメ口を前に出して噛み付くことができるらしい。また、進化の過程の中でサメはカルシウムを歯とウロコに集め、脊椎は軟骨で良しとした。鮫肌が歯の起源だそうだ。パンゲア大陸が分裂し深海が生まれると一部の魚は深海に適応し、それを追ったサメの一部も深海へと移動した。

    2011年1月三重県尾鷲でメガマウスが見つかったと連絡が入った。国内最大級の九鬼の定置網にかかったのだ。シャーク団は5時間雪の中でメガマウスを追ったが撮影はなかなか上手くいかずカメラの前に突然現れては消える。そして翌朝サメは姿を消していた。NHKの岩崎(ダイオウイカにも登場)はJAMSTECの藤原博士と共同で座礁したマッコウクジラの遺骸を海に沈めて深海ザメを撮るプロジェクトを温めていたが震災のため実施は12年6月にずれ込んだ。母船と潜水艇は熱海沖から小笠原でのダイオウイカ撮影へと回され、その後も予定がびっしり詰まっている。結果としてはほぼ一発勝負の撮影でしかもその期間中に2度の台風がやってきた。

    それにしても体重1tのクジラをどうやって運ぶかと言うと遺骸とあっさりしている。「ああ、大丈夫です。うちはクジラ、得意ですから。ゾウもキリンも運んでますし」その産廃関係の運送業者は運転手一人でさっさとクジラを運んでいった。座礁したクジラをクレーンで吊って海に戻すマニュアルが水産庁から発行されるほど日本ではクジラが座礁しているのだ。

    6月6日クジラ投下予定日になってもディープローバーは壊れ、トライトンにはカメラがついていない。8日今日も無理と言うのに母船の会社は潜水艇スケジュールから今日中に投下しろと言いだす。台風が近づいてきたのだ、解凍したクジラの腐敗も始まりだし決行が決まった。母船はクジラの位置を特定できないが藤原は過去の経験からパイロットに指示を出し、最初は母船の支持を守っていたパイロットもとうとう藤原に従った。ようやく見つけたクジラはダンスをしている。全長6mはあろうかと言うカグラザメが噛み付いて引きずろうとしていたのだ。このサメは獲物に食いつくと眼がいわゆる白目にひっくりかわり極めて人相が悪い。しかし先に潜水艇がいれば現れないことが後にわかりここで遭遇できたのは奇跡のタイミングだった。もう一人のカメラマン高野は海があれ撮影が延期になり潜れば潜ったでクジラが見つからない。サメを探す以前にクジラがどこにいるかわからない。藤原が乗った時だけクジラを見つけられたと言う実態だった。苦労はしたがメガマウス、ラブカなどの撮影にも成功し、セッティングのできた潜水艇は小笠原での泳ぐダイオウイカの撮影に成功することになる。

    北の海は栄養にあふれ生物量は多いが多様性は少ない、一方貧栄養のサンゴ礁ではニッチにあわせて生物相が多様化する。深海もそうだ。それにしても深海に適応したメガマウスは1tの身体をわずか20gの脳で操っていると言う。ホホジロザメと同じネズミザメ目ながら食べるのは桜海老。口の中が蛍光に光る
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    投稿日:2015.03.05

  • 海底のサメ王国

    NHKスペシャルで放送された番組の製作過程の本だよ。番組自体観てたけど、映像は凄いのばかり。ミツクリザメ、ラブカ、メガマウス等を映像に収める為の苦労や工夫の日々を追ってるよ。主に鯨肉を海底に沈めるミッションとメガマウスの補食シーンの2つについて紙面を割いてる。番組を観てたので、なるほどと云う感じで読めたよ。観てない人でも、自然番組を作る裏側的な事が分かるので面白いかと。続きを読む

    投稿日:2019.12.21

ブクログレビュー

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  • sazuka

    sazuka

    先に写真集的な方の本を読んで、その存在を知った「サメ王国」。その撮影ドキュメントである。ダイオウイカの撮影が話題だったのは知っていたのだけど、なんとその姉妹プロジェクトであったと。全然知りませんでした、すみません。



    生きた深海サメの映像は全然撮られていない。それをなんとか撮ってやるぜ、という気概が最初から最後まで続く。空振りあり、ファールあり、そしてホームランあり。



    例のエイリアン的ミツクリザメは、世界での発見例が33件というのに、東京湾で1年で100体以上を捕獲したという。メガマウスも、そうとう網にかかっているけど、邪魔だから捨てられちゃうらしい。真実は現場にある。本文中にあった「漁師をしながら研究者」をするのもよかったな、という気持ち、すごくわかる。



    マッコウクジラの冷凍死体を餌に投下するプロジェクト。RB-79 BALLのような丸い棺桶的ポッドの投入。話は大掛かりになっていく。



    駄目か、失敗か、というときにビッグな出来事が起こる。出来過ぎかもしれない。いや、そんなことはいい。こんなにワクワクして読める本も久しぶりだから。
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    投稿日:2014.11.07

  • penguinlondon

    penguinlondon

    大反響わ呼んだNHKスペシャル「謎の海底サメ王国」のメイキングといった趣きか。同じ著者による「ドキュメント 深海の超巨大イカを追え!」と同じく、番組を作ったディレクターやカメラマン、研究者らの苦労話や、本番での思わぬアクシデント、といった話がメインで、それはそれで面白いが、番組を見て深海ザメの生態などについてもっと知りたいと思った人には少々物足りないだろう。

    ともあれ、わずか1時間のテレビ番組の裏には、多数の人々の長きにわたる苦労、苦心や熱い思いがある(この番組の撮影は4年!に及んだという)ことがよく分かるという意味で、番組に関心を持った方は一読して損はしないだろう。

    (2014/9/24読了)
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    投稿日:2014.10.01

  • diver0620

    diver0620

    深海生物の生態撮影は近年撮影機器の進歩だけでなく潜水艇の進歩で、これまでにできなかったダイナミックな映像を撮影できるようになりました。番組そのものももちろん面白いのですが、メイキングがそれ以上に面白く最近の自分のトレンドです。

    このドキュメントもメイキングに相当し、裏話やトラブルへの対応など非常にドラマティックな内容で興味深いです。(ディープ・ローバーも一筋縄ではいかなかったか・・・)

    録画した番組ももう一回見て、ミツクリザメの捕食シーンに腰ぬかそう!
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    投稿日:2014.08.08

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