【感想】銃・病原菌・鉄 上巻

ジャレドダイアモンド / 草思社
(426件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
159
148
60
10
0
  • なぜ、強者は私ではなくあなただったのか?

    文化人類学、地政学、歴史、化学、数学、生物学・・・こういうのを学際的というらしいが、一つの学問の視点ではなく複数の学問を総合した観点から大局的に「なぜ欧米が世界で支配的な立場にいて、アジアやアフリカではなかったのか」という根源的な問いを追う壮大な著作。

    もう少しちゃんというと、著者がフィールドワーク先のパプワニューギニアで会った現地ガイドの「なぜあなた方アメリカ人が社会的強者で、我々パプワニューギニア人はそうでないのか?」という問いに答えられなかった経験がもとに本書は執筆された。

    自分自身、子供のころから
    「なぜ自分は日本という国に生まれ、黒い髪で、黒い目で、肌が黄色いのだろう」
    「世界中の言葉や料理が違うのはなぜだろう」
    「国ごとに貧富の差があるのはなぜだろう」
    といった疑問を持っていたこともあり、本書の問いとリンクし、非常に興味深く読めた。
    そして、その答えは、読む前に想像していたものを超えるものだった。

    本書の特徴は、歴史書を紐解いて仮説を立てていくだけでなく、
    科学的なデータをもとに、客観的事実を積み立てていく点にある。

    特に興味深かったのは、文明が栄える条件の話だ。
    メソポタミア文明、黄河文明、インダス文明、エジプト文明の「4大文明(最近はもっと多いとするのが普通らしいが)」
    の共通点は「大河の存在」と世界史で習ったが、よく考えると、それだけの条件を満たす箇所はもっとたくさんある。
    東南アジアのメコン川、ヨーロッパならドナウ、ライン、北米・南米にも大河はたくさんあるはずだが、
    「アマゾン文明」ってあまり聞いたことがない。日本だって利根川とかいろいろあるじゃないか。

    この疑問に答えるのは、水の存在や気候だけでなく、
    ①カロリーを安定して確保できる穀物が存在したか(メソポタミアでは麦があった。これはインドやアラブのナン、エジプトのビール、ヨーロッパのパン、果ては中国の麺につながる)、
    ②家畜化が可能な動物が存在したか(家畜化とはペットの意味でなく、人になつく気性で、集団で飼育でき、肉や毛皮・乳・卵を安定して生み出すかといった条件)、
    が重要な要素であったためだとする論。
    なるほど、これらの条件が揃うかどうかが、文化や国家が栄える条件になっていることが容易に想像できる。
    (驚いたのは、①②とも、世界広しといえども、条件を満たすのはたったの数種類しか存在しないということ。
    詳しくは本書をぜひ読んでいただきたいが、②でいうと豚、牛、羊、山羊、馬の5種くらいしか条件を満たさない。
    「シマウマはなぜ家畜化できないか?」という問いは本質的で面白い。)

    といった形で、様々な「他と比べ決定的な差を生む要素」を丁寧に積み上げていく。
    その中でもより決定的だったのが、タイトルになっている「銃・病原菌・鉄」である。
    とりわけ、病原菌が殺した人間の数を知った時ゾッとしてしまった。
    これを兵器として利用したヨーロッパの恐ろしさ・・・・
    筆者は淡々と書いているが、他者を支配するために殺し合いをしてきた人の業の深さに戦慄した。

    これまで認識していた世界、歴史観が一新される、人生でもそう読めない強烈な本だと思う。
    歴史、文化人類学に興味がある人だけでなく、「世の中って一体なんなんだ?」といった根本的な疑問がどこかにある人に大お勧め。
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    投稿日:2014.07.02

  • 新しい古典といっても過言ではない

    Amazonでは結構前から電子化されていたのですが、とうとう独占のくびきを逃れたようで何よりです。Amazonをして独占配信せしめていたというだけで本書の評価が分かろうというもの。著者はこの他にも多くの本を書いていますが、本書と『文明崩壊』、『昨日までの世界』が三部作とされます。勿論、本書のみで完結した内容です。

    少数のスペイン人が南アメリカを征服することが出来たのは何故か。その決定的要因として著者は銃、病原菌、鉄を挙げています。本書ではこれらの要因が何に由来するのかが論じられており、結論から言えば(実際に本書の最初で結論が述べられている)、それはユーラシア大陸が東西に延びているのに対して、アメリカ大陸が南北に広がっているため。異なる緯度の地域では気候帯を跨ぐため、動植物の移動が起こりにくい。食品として有益な植物や家畜に向いた動物が広がらず、得られる生物資源が制限される上に、動物由来の風土病がよそ者避けになることもない。単純化しすぎという気もしないではないですが、大まかな話としては理解できます。オックスフォードUPの"Very Short Introduction of Economy"などでも所謂地域間の貧富の格差の原因(の説明の一つ)として本書に触れられているので、著者の主張はおおむね受け容れられていると思います。この主題に添って展開される幅広い各論でも興味深い話が多い。馬が家畜化されてシマウマが家畜化出来なかったのは何故か、地域ごとの主食となる植物の品種改良の歴史など。一見奇妙に思える食習慣も、地理的、文化的な理由によって規定されていることが分かります。主題と結論が最初に示されるからといって読み飛ばすなんてとても出来ません。

    本書は専門書並みの長さですが、内容は一般向けに書かれており、難解な専門用語などはありません。かといって極端な単純化で分かり易くするということもなく、丁寧で誠実な文章だと感じます。是非読んで見て下さい。というか、所謂「新しい古典」の一つ、前提として読んでおいて然るべき本かと。
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    投稿日:2014.06.28

  • なるほど!

    多くの人は、現在の世界はヨーロッパ文化が主流なのはなぜ?と疑問を感じることは多々あれど、突き詰めて考えることはあまりないのではないでしょうか。
    私もそんな一人ですが…この本を読んで、なるほど!!と納得がいきました。
    人種間の能力差ではないんですね。多くの環境要因がこの差を作ったという論拠が次々述べられていき、知的好奇心を満足させてくれました。
    硬派な本なのに、面白くてどんどん読み進められました。
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    投稿日:2014.08.06

  • 読みやすいが、中身の詰まった良本

    なぜ産業革命に代表される、人類の進歩の最先端は常にヨーロッパに存在したのか?
    ヨーロッパ人が他の人種に比べて知能で優れていたからなのか?
    そうではないとしたら、何が決定要因となってここまでの発展の差が開いたのか?

    著者はこの問いに対して、ヨーロッパのあるユーラシア大陸が、他の大陸に比べて東西に長いこと、農耕に適した植物と、家畜にするのに適した野生動物が存在していたことが、ヨーロッパ人の技術の先進性の究極的な要因だと述べている。これらの要因と結論にはいささか論理の飛躍があるように思われえるが、本の内容を読むことで十分納得の行く説明や考古学的な証拠が取り上げられているので、少しでも興味があれば読んでみることをお勧めしたい。

    また、著者がフィールドワークを行った地でもあるパプアニューギニアを始め、東南アジアの民族の移動や交易についても詳しく述べられているので、今後日本と関係が強化されるであろう東南アジアについて詳しく掘り下げて知りたいという場合でもこの本は役に立つのではないかと思う。
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    投稿日:2014.09.10

  • やっと上巻読み終えましたー、少々長いけど面白い

    マンガ「バーナード嬢曰く」でこの本を知り、前に上下巻買って、やっと上巻読み終えましたー。なぜ西洋を中心とするいわゆる先進国が世界を牛耳り、そうでない国々との間で差が開いたのかを、仮説検証を緻密に行い解明しようとします。地形、食糧となりうる植物と家畜足りえる動物の種類他、いろいろなファクターがその後に影響を及ぼします。古代4大文明って、その後に与えた影響も大きかったんだー。上巻後半に書かれていた病原菌の話が、特に印象に残りましたー(先ほど読み終えたこともあるけど(笑))。たくさんの種類と数の家畜を所有し、それらからの病気に揉まれてきたユーラシア大陸から来た連中、彼らからの残酷な贈り物=病原菌に、アメリカ大陸やオーストラリア他の先住民達がバタバタと倒れ、地域によっては人口が1/10までに・・・。そんな病原菌達が、自らの繁殖のために寄生主をすぐ殺さぬよう(すぐ死んでしまったらその先広がらない)、致死性をマイルド化させてゆくくだりもすごかったー。しっかり、下巻も読みますです。続きを読む

    投稿日:2018.02.03

ブクログレビュー

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  • ひーちゃん

    ひーちゃん

    ヨーロッパによる南北アメリカがピサロやコルテスによる武器のみではなく、持ち込まれた天然痘によってももたらされたことは知っている人も多いはず、本書はそこから出発しながら、ではなぜ大群相手に圧勝できる地域とそうでない地域があるのかと問を転換し、人口密度、気温などから分析していく。基本的に人口が周密でなければ定住農耕に向かないし、集団感染が起きず、したがって集団抵抗を持たない。また、南北と東西の伝播のスピードに差がある点、栽培に向く野生種の植物、家畜化に向く動物の話など、どれも面白い。続きを読む

    投稿日:2024.03.16

  • lho

    lho

    ジャレド本人からの序文およびプロローグが、とにかく他文化への配慮・リスペクトに溢れている。彼の誤解がないように常に気遣う丁寧な説明は「あぁこの本は安心して読めるな」と思わせてくれる。

    「ヤリ」と言う名のニューギニア人との会話をトランジションとして本文が始まり、読み進めていくと、「なぜヨーロッパ大陸の人々が他の大陸を征服できたのか」がわかる。それこそが「銃・病原菌・鉄」であると。しかしそれは、「ではなぜ銃・病原菌・鉄の戦略を先に獲得したのがヨーロッパ人だったのか」という根本的な問いに答えられていない。ジャレドはそこも忘れず、全ての疑問に順を追って紐解いてくれる。

    人間が一般的に家畜を可愛がる傾向にあるという話があり、それが第11章にて、「動物由来の病原菌」の話に繋がるのがまさにカタルシス。

    本書は初版から年数が経っており、正直「病原菌」が新大陸に持ち込まれたのが重要だったという話は既に耳にしたことがあるし、高校世界史でも言及されていた。しかし、仮説や結論を導くまでのプロセスや、ジャレドの持ってくる実体験が非常に効果的で驚くほど新鮮な気持ちで読み進められる。

    これほどまでに紀元前(先史)の時代に思いを馳せ、考えさせられる機会はなかなかない。
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    投稿日:2024.03.06

  • しゃけ

    しゃけ

    現代の世界で欧米が権力を持つ理由を考察

    地中海の東にある肥沃三日月地帯に農耕向きの作物や家畜化しやすい生物が多く存在
    農耕が早く始まる
    ユーラシア大陸は横長で農作物が伝播しやすい
    アメリカ大陸やアフリカ大陸は南北に長く気候条件等により伝播しにくい
    人口増加
    帝国、伝染病の増加、工業等の文明発達が起きる
    病原菌、武器等によりアメリカ大陸先住民より有利となり占領できた
    続きを読む

    投稿日:2024.02.20

  • ざき

    ざき

    人類の文化の進捗が地域によってなぜ異なるのかを食糧生産、病原菌等の観点から分析した書籍。個人的には東西に長い地形(例:ユーラシア大陸)が南北に長い地形(例:アメリカ大陸、アフリカ大陸)よりも文化や食事等の伝播が早いことが特に衝撃だった。続きを読む

    投稿日:2024.02.15

  • post

    post

    なぜメソポタミアから始まったヨーロッパ文明が世界を支配したのか。アメリカ大陸やアフリカ大陸から世界を支配する文明が育たなかったのか。
    直接的な要因はタイトルの通り銃・病原菌・鉄があったから。
    ではなぜそれらを持つ人と持たざる人ができたかは、要は運。農業に適した植物が近くにあり、農業に適した土地と気候があったり、家畜にできる動物がいたり、大陸が東西に広がっていたり。
    実証や論拠ではなく推論に過ぎないと言われる部分もあるかも知れないが、私にとって説得力は十分。

    要は、西洋人よ、良い気になるな、お前たちの能力が優れているのではない、と言っている本。
    ただし、西洋人が優れてるわけではないが、西洋人が今世界を支配しているのは必然だとも言っているとも読める。

    今後世界はどうなるのか、世界はどうすべきかの筆者の主張は下巻にあるのかもしれないので楽しみ。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.10

  • Rico

    Rico

    興味を引く内容だったのでパケ買いしましたが、ちょっと長すぎて疲れてしまいました…日本語訳が回りくどいのかな。
    上巻は思っていた以上にずっと食料生産の歴史です。

    投稿日:2024.01.17

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