社会保障亡国論

鈴木亘 / 講談社現代新書
(12件のレビュー)

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ブクログレビュー

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  • ravenclaw55

    ravenclaw55

    本書を読む人は、年金制度の不公平さが、自分の身に一番応えることとして印象に残るかもしれないが、問題はそれにとどまらない。
    このままいけば社会保障制度が崩壊する。

    社会保障制度の崩壊というのは、社会基盤の崩壊である。
    そのときどうなるかというと、高齢者だけ限ってみても、病気になっても病院にかかれない、施設に入ろうとしても施設がない、いわゆる漂流老人が大発生する。

    経済は行き詰まり、破綻することは目に見えているが、残念なことに、誰も手をつけられずに、最後まで突っ走っていかざるをえないだろう。

    人口構造が将来どうなるかということは、もう数十年前から分かっていたことだ。人口シミュレーションは、そう難しいものではないし、そんなことをやらなくても、高齢者が多くなり支える層が少なくなれば、社会制度を維持できなくなることは誰でも分かることだ。わかっていたのに、誰もどうにもできないでいる。
    であれば、これからも、どうしようもないだろう。

    それは原発問題と似ている。
    原発がヤバイというのは、二十年前三十年前からいろいろなところで語られ、書かれ、訴えられてきた。
    危機は叫ばれていたけれども、当面の利害関係のために、物事は動かない。

    結局事故は起こってしまった。
    起こってしまったあとでも、事態の最終的な責任は誰にあるのか問われないまま、また再開されようとしている。

    社会保障の問題も、このまま進むだろう。
    このまま進んで、どこかの段階で、社会保障問題の「フクシマ」が訪れるだろう。

    それはおそらく、15年後の2030年あたりではないか。
    いま65歳の団塊の世代が80歳になり、介護が必要な人や、死者が急激に増え始めるが、病院や施設がなく、かといって住める家もなく、孤立死や野垂れ死が多発するだろう。
    あるいはその前に、日本経済が社会保障費の負担に耐えかねて破綻しているだろう。

    いずれにしても、破綻は早いほうが痛手は少なくてすむ。回復も早い。

    残念ながら、そこまでいかないと、抜本的な見直しはできない。
    そんな事態が本当にくるのかと思う人がいるかもしれないが、間違いなくそうなる。
    著者の危機感に、私は完全に同意する。

    ただ、破綻を回避するための努力について、著者は厚生労働省のサボタージュを疑っているが、私の意見は異なる。
    厚生労働省がシャカリキになって進めている介護医療の一体改革法案や地域包括ケアシステムは、そのためのものであることは明らかだ。

    ただ、その程度でいいのか、それのみが正しい方向なのか。著者から見れば、たぶん不十分かつ遅すぎるとしか映らないだろうが、それは、厚生労働省の怠慢というよりも、破綻回避の手を打とうという勢力と、現状維持勢力のせめぎあいの結果と見るべきだと思う。役人の中で改革を志す者がいたとしても、現実の政策としては、妥協の産物としてしか出てきようがないからだ。

    著者によると、社会保障問題を経済学者が扱うことに対して、抵抗感が強い介護や福祉の関係者がいるらしい。
    だが、この分野の問題はもはやそういった狭い世界の問題ではなく、国家財政を直接左右する話である。
    それがギリギリの状況にあるということなのだ。
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    投稿日:2020.05.12

  • kazubook21613

    kazubook21613

    至極もっともな事が書いてある良書。孫子の財産を食いつぶしている今の状態が異常なのはもっとも。

    まず本書をリタイアした世代に読んでほしい。いや、おそらくかなりの数の人たちは、薄々気づいているはず。それでも、未だに、選挙になると、老人医療にしろ、年金にしろ、甘い事をささやく政党に一票を投じる。

    グルになって若い世代をいじめ、この国を亡国に導こうとしているとしか思えない。若い世代はまず、しっかり選挙に行く。

    論点はずれるが、政治家も今は基本的になりたい人がなっているが、別わくで、30人位は、やって欲しい人に投票するというのはどうだろうか。
    方法論として、現実的には難しいが、そうでもしないと、世の中変わらん気がする。
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    投稿日:2015.06.15

  • sjunya

    sjunya

    社会保障制度を経済学の観点から分析し、財政健全化のために課題と解決策を分かり易く示した良書。現在の借金まみれの財政から考えるに、公費投入と給付抑制を実現する「身の丈に合った社会保障」は納得。世代間格差を是正する相続税率UP、中高所得者にも配分される公費投入の廃止、社会保障産業の高コスト脱却など、具体的な新しい知識を身につけられた。改革を実行するには、国民が正しい財政状況を理解し、改革しやすい環境を整えることが必要。自動的に改革が行われる仕組み作りのために、社会保障費への公費投入のシーリングなど、すぐにでも実行可能な施策も。続きを読む

    投稿日:2015.01.14

  • horinagaumezo

    horinagaumezo

    現状の社会保障が財政的に持続不可能という著者の現状認識やある程度市場を活用して社会保障給付を縮減するという方向性での著者の提言には基本的に同意するが、社会保障財源としての消費税に対する低評価には賛同できなかった。新型相続税というアイデアは興味深いが、消費税の代替財源にはならないのではないかと思う。続きを読む

    投稿日:2014.11.14

  • 本≒人生

    本≒人生

    現状の社会保障制度のままでは日本は「亡国」するという真っ当な論。問題は最終章に書かれている、社会保障に関する財政の正確な情報・統計の不在、「共有資源」として使いたい放題の放置、の2点に尽きる。

    自分の世代(40代)はかろうじて耐えられるが、子どもの世代のことを考えると本当にまずい事態だと認識した。

    私は社会福祉士で、個々の社会福祉メニューには詳しいが、その裏付けとなる財政的な問題点についてはきわめて疎かった。

    細かな解決策は、まだまだ知恵を絞る必要がありそうだが。

    ・1991年から名目GDPは全く成長していないが、社会保障関係費だけは2倍以上になっている。
    ・2022年度には、高齢者比率は50.2%。二人の現役層で一人の高齢者を支える時代に。2040年度には、1.5人で一人を支える。これは少子化対策ではすでに手遅れなのだ。
    ・祖父母の世代はプラス5000万円、孫の世代はマイナス5000万円、両者に1億円の格差が。これが経済学者のコンセンサス。
    ・年金財政は100年安心どころか25年安心も危うい。厚生年金は2038年度、国民年金は2040年度に枯渇する。解決策は、保険料値上げが支給年齢の引き上げ。
    ・本来、個人の所得把握をしっかりと行いたいのであれば、アメリカの社会保障番号のように、所得と資産を同時に把握できるような仕組みを。アメリカではこれがないと銀行口座を作れない。
    ・まさに、持たざる若者から持てる高齢者への逆配分が社会保障への「公費の投入」であり、消費税の引き上げ。日本ほど多額の公費を社会保険に投じている国はない。
    ・二本では軽減税率を低所得者対策として正当化する見方がありますが、もしそうだとすれば、これは非常に効率の悪い「最悪の低所得者対策」。なぜならば、軽減税率が適用される食品や衣料品は中高所得者層でも購入するし、むしろ所得が高いほど多く購入する。事務コストも高くつく。
    ・日本の譲渡益税の実効税率が高く、家屋敷を売るときに多額の課税が、その時点で一気に行われる。日本では相続税の基礎控除が手厚く、不動産の路線評価額が低いこともあり、たとえ不便でも、子どもに相続させるまで不動産を保有する方が得になる。しかし、諸外国では、譲渡益課税の「死亡時一括精算方式」として、不動産を売った時点で課税せず、死亡したときにその僧俗資産に一括課税する方法をとっている国があり、不動産を流動化させやすくしている。
    ・主婦が保険料を納めずに基礎年金(介護、医療の保険も)を受け取っている問題は、働く女性との間に不公平を生じさせ、女性の社会進出にペナルティーをかけていることにほかならない。
    ・治療成績等の評価を価格体系に反映させようとする世界的な医療改革の潮流からも、日本は取り残されている。
    ・特養を運営する社会福祉法人の内部留保の総額は2010年度末において約2兆円。日立や東芝並み。
    ・生活保護で、高齢者、障害者、母子世帯についで、近年、その他の世帯が増加している。一番多い。そこへの施策(就労収入積立制度など)が必要。
    ・情報インフラ、正しい政府会計の整備が必要。
    ・国の公費が「共有資源」になっている。公費を使う側(厚労省)がその調達コストを考えないことが公費乱獲の原因になっている。
    ・民営化と地方分権の利点。競争原理が働いてコスト削減に努力がなされる。民間は給付と負担の一致が原則だから。自治体会計は安易に巨額の財政赤字を作れない。
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    投稿日:2014.09.10

  • rosenkavalier

    rosenkavalier

    改革提案の部分は手薄だが、日本の社会保障の現状を手っ取り早く知るには良書。巷でよく言われている「社会保障費は年間1兆円の増加ペース」は氷山の一角であり、真実はもっと深刻である。なぜならばマスコミの言う「社会保障費」は正確に言えば「社会保障関係費」のことであり、「国が」「税金で」負担している分しか考慮に入れていないからである。実際には地方財源分が1割、保険料で負担されている分が6割を占めており、総額ベースでは実に年間3~4兆円もの負担増が進行している。現行の社会保障制度を維持するのであれば、国民負担率は際限なく上がり続ける(2035年度には56.4%、2050年度には71.6%!)し、しかも現時点ですでに1,500兆円の累積純債務が発生している(恐ろしいことに、これは政府債務とは別建てで会計処理されている)賦課方式(現役世代の保険料を老年世代に給付する方式)を核とする我が国の社会保障制度が完全に破たんしていることは明らかであり、「100年安心プラン」など虚構である。世代間不均衡の問題も深刻で、確かに若い世代は「経済発展の恩恵を受けている」というプラスの面があるものの、1940年生まれの人の社会保障収支が△4,930万円なのに対し、2010年生まれの人の社会保障収支は▲3,650万円でその差は8,580万円もある。

    保険料や年金の支給開始年齢引き上げが必要なことはもちろんだが、それだけでは根本的な解決にはならない。なぜなら世代間格差の問題が解消されないからだ。少子高齢化の進展にあわせて、「賦課方式」というシステムそのものを早急に「積み立て方式」(現役時代に自分が払った分を老年期に受け取る)へ作り替えることが急務である。しかし単純に移行すると、賦課方式から積立方式への移行世代は社会保障費用を二重払いしなければならなくなる。紙幅の制約からか、本書の中では移行期の施策について詳述されていないが、筆者の描くシナリオはこうである:まず、国鉄がJRに移行した際のように「清算事業団」を作り、債務を今ある制度から切り離して税金で処理する。そして制度そのものは賦課方式から積立方式へと移行させ、将来を見越して最初は黒字になるように料率を設定し、高齢化がもっと深刻になった時にその黒字を取り崩して対応できるようにする。そして累積債務については、「年金目的の新型相続税」と「年金目的の追加所得税」を創設して財源に充てる。2012年時点での筆者の研究によると、10%の新型相続税を35年間続け、追加所得税率を100年間1.93%に設定すれば債務処理は終わり、例えば1990年生まれの厚生年金加入者の「支払い損」は、2,200万円から550万円まで減少させることができるという(2012/7/19 日経新聞朝刊 22面)

    その他には、認可保育所に大量の公費投入しているわりに実質的に高所得者が優遇されてしまう現状の待機児童対策を止めて、保育所の料金を完全自由化したうえで一律バウチャーによる補助を行うことが合理的と説く第7章「消費増税不要の待機児童対策」、現行の生活保護制度は「働けない人」の救済に特化しているため働いて収入を得るとかえって損をする仕組みになっており、「頑張れば働ける人」に対しては別種のサポートシステムが必要とする第8章『「貧困の罠」を防ぐ生活保護改革』も、論点整理と解決策の提示がクリアーに行われており、初心者が読むのにも最適な構成となっている。第9章はありきたりな官僚批判や「情報公開が大事だ」という論調になってしまっており若干惜しまれるが、「強烈な意志と個性を持ったリーダーがいなくても改革が進むような仕組みづくりが必要」と説く筆者の主張に異論はない。公的保険や年金はとかく政争の具にされやすい分野なので、「〇〇が●●%になったら自動的に支出を削減します」といったプログラム法を整備することこそが肝要である。
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    投稿日:2014.08.05

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