【感想】空飛ぶタイヤ(上)

池井戸潤 / 講談社文庫
(464件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
236
153
43
4
1
  • 現実は小説のようにはいかない

    「半沢直樹」シリーズの池井戸潤が書いた長編小説。
     三菱ふそうのリコール隠し事件を題材とした話で、主人公は事故を起こしたトラック運送会社の社長。この社長のキャラクターが実に良い味で物語に深みを与えている。
     主人公、赤松が経営する赤松運送のトレーラーから走行中突然タイヤが外れ、そのタイヤが歩行中の女性に激突、女性は即死した。事故は赤松運送の整備不良と決めつけられるが、整備を担当した社員の仕事ぶりを確認して、これは整備不良では無いと赤松は確信、トレーラー製造元のホープ自動車は赤松運送の整備不良と断定するが、、、
     不審を持った赤松の元にホープ自動車自体のリコール隠しが原因という情報がもたらされ、赤松はホープ自動車、取引銀行のホープ銀行、赤松がPTA会長を務める小学校のPTAなどと戦いつつ、真相を探っていく、と言う話。
     物語では池井戸潤お得意の大逆転によりカタルシスのある物語となっている。読み応えもあり大変面白い。
     ただ、この物語の題材となった現実の運送会社は赤松運送よりもっと零細な会社で、「人殺し」などの中傷ビラが貼られ、無言電話などの嫌がらせが続いて廃業に追い込まれている。
     また、被害者の弁護士は原告に無断で損害賠償金額を引き上げた訴訟を起こし、500万の損害賠償金額を一切原告側に渡さず、横浜弁護士会から懲戒処分を受けている。
     現実は小説より醜い。
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    投稿日:2014.03.18

  • 真実の可能性は、小説によってまた描かれる。

    脱輪事故によって人を死なせてしまった運送会社。
    しかし、その責任は本当にドライバーのものなのか。

    整備は十分になされていた。
    自動車メーカー側に責任はないのか。
    パーツは正しいものが使われていたのか

    三菱自動車のリコール隠し事件をもとに、
    日本を支える大企業と小さな会社の争いと、正しさの行方を追う。

    無理な値段で仕事を買い叩かれる街場の工場。
    断れば会社は立ち行かないが、その値段で受けることはどこかでの妥協も意味する…。
    それは何か不幸な未来を生み出すかもしれない。

    論理的な正しさと人間的な判断のやむを得なさ、
    働くという事、人間と人間が仕事をするということの困難が描かれる。

    日本を支える基幹産業による失態が、なかなか大規模な報道にまで至らないとき、
    真実の可能性は、小説によってまた描かれる。
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    投稿日:2014.04.29

  • 町の運送屋を嘗めるな

    トレーラーの脱輪事故で人身事故を起こした町の運送会社。それをきっかけに色んな事が起こり転がり落ちていく。。。
    そこを踏ん張り大手ホープ自動車に立ち向かう物語。
    モチーフとなった事件を良くは知らないですが、読んでいて感情移入出来る作品。
    現実は厳しいとは思いますが、先入観に捕らわれず、自分が正しいと思ったことはとことん闘った方が良いのではと思わせてくれる作品。
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    投稿日:2014.04.19

  • 空飛ぶタイヤ

    池井戸 潤の世界
    中小企業の運送会社赤松運送の赤松社長が挑む大企業ホープ自動車。裏にはホープ財閥グループ
    ホープ銀行、ホープ重工、ホープ商事が見え隠れする。思わず実在の名前が浮かぶ設定である。
    物語が面白く一気に読んでしまった。続きを読む

    投稿日:2014.03.26

  • 圧巻のリアリティ

    凄いボリュームと、まるでノンフィクションを読んでいるかのようなリアリティ。
    三菱銀行にお勤めだった池井戸さんが実際に見聞きしたエピソードも多分に含まれているのでしょう。出来れば週末にじっくり腰を据えて読むべき小説です。
    他の皆さんが素晴らしい感想・レビューを書かれているので、私の出る幕はないのですが、一言だけ。
    私の住む町は三菱自動車の企業城下町のようなところで、現実のリコール隠しに関わる影響で、地域経済は大打撃を受けました。原因個所と無関係の部品を担当した、たいへんに技術力のある下請けでも発注減による経営危機だけでなく、「三菱と取引があった」というだけで差別的な扱いを受けて、倒産した会社もあります。
    大企業の論理に振り回させれるのはいつも無関係で善良な庶民や、ヒエラルキーの最下層の人々。戦争も原発事故もそうですね。
    池井戸さんには、何年かした後には原発事故をテーマにしたフィクションも書いて頂きたいな、と思います。
    余談が過ぎました。
    続きを読む

    投稿日:2014.09.05

  • 良作。

    下巻にレビュー詳細。下町ロケットが夢の物語とすると、こちらは義憤の物語。

    投稿日:2014.06.28

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ブクログレビュー

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  • 美濃

    美濃

    このレビューはネタバレを含みます

    上下巻読んでの感想。三菱ふそうのリコール隠しをモデルにした社会派経済小説。ある日神奈川県の運送会社が運転していた大型トレーラーのタイヤが外れ、母子3人に突撃、死亡させてしまうという痛ましい事故が起きた。当初、原因は運送会社の整備不良とされたが、実際は自動車メーカーのリコール隠しだった。巨大な大手自動車メーカーと銀行の理不尽に中小運送会社の社長が挑む。池井戸潤らしい痛快な展開である一方、これのモデルとなった事件が本当に起きていることを知りいたたまれない気持ちになった。

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    投稿日:2024.04.03

  • せきゆう

    せきゆう

    このレビューはネタバレを含みます

    理不尽な大企業や銀行に対して必死に争おうとする中小企業の闘いと善戦虚しく押し寄せてくる現実が表されていて素晴らしいと思います

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.02.23

  • 小寅

    小寅

    Amazonオーディブルで「空飛ぶタイヤ」上巻を聴き終えた。

    三菱リコール隠し事件を元にした小説。
    走行中のトラックのタイヤが外れて母子死傷事件が起こり、整備不良が原因とされた運送会社の社長が自社の過失ではないことを明らかにしようと必死に努力する。

    序盤の赤松パートがストレスフルだったけど、自動車メーカーパートや銀行パートは面白かった。
    三菱重工(ではないけど)から独立した三菱自動車社員の間違ったプライド、エリート意識、同じ財閥系列企業のヒエラルキー、社内での権謀術数等々。

    弁護士が全然出てこなくてヤキモキしてたら、被害者遺族から運送会社に対して懲罰的慰謝料請求の訴訟が提起されて、そこでやっと運送会社社長が弁護士にアクセスした。
    でも、その弁護士は大丈夫か?と変な心配をして読んでる(大丈夫そう)。

    モデルになった運送会社は廃業、被害者遺族の代理人弁護士は請求金額を勝手に?高くして、それに合わせた弁護士報酬をもらうために賠償金を1円も依頼者に渡さずに業務停止の懲戒処分を受けるという現実のひどさにドン引きしてる。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.03

  • しほ

    しほ

    トラックのタイヤの脱輪により母子死傷という悲しい事故を起こしてしまった小さな運送会社。事故の原因を調査してもらうも、整備不良と診断され、世間からのバッシングもあり、窮地に立たされてしまう。だがしかし、本当は原因を調査した自動車メーカーが何か隠蔽しているのではないかと、疑惑が膨らみ、下巻へ続く。
    運送会社はまだまだ窮地に立たされていて、見えた希望も潰えてしまいかねないし、死亡事故になってしまったのは事実なので、下巻でどうまとめるのか楽しみ。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.29

  • G_sun

    G_sun

    7章構成 社会派小説

    ・メインストーリー
    とある運送会社が、タイヤの脱輪により
    母子の死傷事故(事件)を引き起こした。
    運送会社社長は、事故の要因に納得できず、
    その真相追究に奔走する話。

    ・サブストーリー
    小学校のモンスターペアレント処理

    ・構成
    運送会社視点、銀行視点、大企業の販促部視点、
    品証保証部視点など、今回の事件に絡みあう
    様々な立場の視点から物語が描かれていく。

    ・特に印象的な場面など
    物語中盤以降に描かれたワンシーン(p.325,326)
    主人公の赤松が遺族の法事に参列した際に
    涙を堪えながら遺族に向かって事故への向き合い方・償い方を発言するシーン。

    事故を起こしてからの赤松の血の滲むような努力や、赤松本人がどれだけ事故に真摯に正義感を強く持って向き合ってきたか、、
    赤松に強く感情移入してしまった。

    ・気づき
    中弛みするため少し忍耐力がいる。
    色々なポジションの人が出てきて、登場人物の名前も多いので、覚えるのが難しい気がするが、
    それぞれ登場人物の個性や特徴が分かりやすく書かれていて、自分の中でのイメージと名前を結びつけやすく、意外と覚えれる。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.28

  • こってん

    こってん

    このレビューはネタバレを含みます

    序盤からタイヤが飛び人が死ぬ。
    逆境から始まり、少しずつ本当に少しずつ追い風を吹かせ、最後には大逆転!
    池井戸さんの書く作品の爽快感が大好きだが、この作品は逆転までがとても長い。ただ、複数の視点からそれぞれの戦いを描くので、長くても飽きがこない。
    それぞれの置かれた場所で、各々が本音と建前を繰り広げ、最後に勝つのは1番正直で真っ直ぐな主人公。現実もこうであって欲しいなと思う。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.09.03

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