絶望の裁判所

瀬木比呂志 / 講談社現代新書
(68件のレビュー)

総合評価:

平均 3.0
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9
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  • みずからの基本的人権をほとんど剥奪されている者が、どうして、国民、市民の基本的人権を守ることができようか?

    裁判官といえば真面目ながらやや世間知らずというのが世間一般のイメージかも知れない。では裁判官はどういう人がなるのかというと司法試験に合格した人が司法研修所に入所し司法修習を受ける。裁判官、検察官、弁護士のいずれであっても原則として同じカリキュラムを受け終了後、判事補(裁判官)、検事2級(検察官)、弁護士(弁護士会への登録)のいずれかを選ぶ。これが日本の法曹のキャリア・システムだ。最近では優秀な学生の多くが弁護士を希望している。

    瀬木氏が批判しているのは主にこのキャリアシステムといっていいだろう。学生が社会に出ずに研修だけを受けすぐに裁判官になる。そして裁判官として出世するためには官僚制のウチワの理論が優先し、裁判官として優秀かどうかはあまり関係がないからだ。一般的な裁判官の評価は事件処理の数とスピードで決まる。そして最も労力がかかるのが判決文の作成なのでできるだけ和解に持ち込ませようとする。判決文を書かなければ後から批判されることもない。実質的には裁判というより前例に基づいた事件処理だ。

    前例ではなく自分の考えを主張する様な人はほとんど高裁長官にはなれない。官僚制度は最高裁の事務総局を中心としている。最高裁長官は滅多に開かれない大法廷にしか関与しないので実際の仕事は裁判官を統制、管理することになる。1980年代以降は全員が事務総局系で4/9名が事務総長経験者である。また14名の最高裁判事のうち裁判官出身者の6名はこれまた近年ではほぼ全員が事務局系だ。事務総局局長は長官の言うことに黙って従う歯車でしかないが、現場の裁判官に対しては強大な権力を持つ。こうしてイエスマンが出世するヒエラルキーが出来上がって行く。

    瀬木氏の見るところ裁判官によくある性格は四つに分類される。人間としての味わいを持つ個性豊かな人物は多くて5%、頭がよく人当たりもよくしかしあまり中身のないエゴイストが45%、出世主義者の俗物が40%、分類不能の怪物が10%だという。2番目のエゴイストタイプはまだましな方なのだ、そして怪物と俗物が出世して行く。例えば1976年に司法研修所事務局長と教官が「女性は法律家、裁判官にふさわしくない」との差別発言をし国会でも問題になったがこの事務局長はその後事務総長を経て最後に東京高裁長官となりもう一歩で最高裁入りするところだった。

    セクハラ、パワハラも数多く瀬木氏自身も早期退官して大学教官への転身を決めた時、事務総局人事局は承認があるまで退官の事実も、大学に移ることも口外するなと告げて来た。講義準備の有給休暇を申請すると認めようとせず、有給休暇を取るなら早く辞めろという。審理中の裁判があったのにも関わらずだ。瀬木氏は日本の裁判所は実は制度の奴隷を拘束するソフトな収容所ではないか、「みずからの基本的人権をほとんど剥奪されている者が、どうして、国民、市民の基本的人権を守ることができようか?」と言っている。

    日本の刑事司法はかなりの部分検察官の主張の追認となっている。問題点は2つあり異常なまでの検挙率の高さはよく知られているが、もう一つは拘留状の問題がある。きちんとした審査が行われている逮捕状と違い拘留状はほぼフリーパス。痴漢冤罪についてある弁護士は「相手の女性に名刺を渡してともかくその場を立ち去ること。(これで拘束には逮捕状が必要になる)その場で現行犯逮捕、拘留されてしまったらおしまいだよ」と言った実例も紹介されている。連続20日間に拘留に耐えられる人は法律家でさえ多くない。疑わしきは罰せられる。

    ではどうするか?瀬木氏の意見は法曹一元化で優秀弁護士を裁判官に任官させることと、事務局は純粋な裏方として法律家以外に任せることだ。しかし検察以上に普通の人が興味を持たない裁判官、どうやってやるかが問題の様な。
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    投稿日:2014.05.15

  • そして国民は途方に暮れる

     第1章から第3章までは、裁判所にかかわらず官僚機構という閉鎖社会では、さもありなんと思いますし、それは国家公務員でも地方公務員でも、あるいは老舗大企業や銀行も同じなのかもしれません。
     問題は第4章からです。筆者は解決策として法曹一元化を唱えています。ただもっと根深い問題は、我々自身があまり関心がない、当事者意識がないということですよね。裁判を起こしたことも、起こされたことも、経験がない人が大多数でしょう。とは言え、いつ痴漢えん罪を被るかもしれませんし、民事訴訟で言えば、悪いこと?犯罪の意識がなくても、明日にでも関係者となるかもしれません。無関心ではいられない問題です。
     付箋だらけ、いや電子書籍ですから、ハイライトだらけになってしまった一冊ですが、私が昔から気になっていた点が論じられていなかったのが残念でした。
     それは、憲法に基づいている制度ではありますが、最高裁判所裁判官の国民審査についてです。これって完全に儀式ですよね。皆さんはどう考えますか?
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    投稿日:2018.09.21

ブクログレビュー

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  • ucym100

    ucym100

    p147 「それでも僕はやっていない」

    逮捕に続く連続20日間の交流とその間の激しい尋問に耐えられる人は多くない

    ある弁護士が後輩に「もしも痴漢冤罪に巻き込まれそうになったら、相手の女性に名刺を渡してともかくその場を立ち去ること その場を足し去れば、身柄の拘束には逮捕状が必要になる。現行犯逮捕。交流されてしまったらおしまいだよ続きを読む

    投稿日:2020.09.06

  • せるげい

    せるげい

    とても貴重な記録。

    33年間、裁判官を務めた著者だけに、
    その内容は説得力もあるし、
    なによりも、思いのほか、赤裸々に描かれている。

    投稿日:2020.03.07

  • Ryu

    Ryu

    元裁判官現学者が書いた裁判所の裏側(暴露)本。まぁなんとなく知っていた内容なので新鮮味はあまりなかった。作者が優秀すぎるのか、文章が難しいし、専門用語が多すぎる。普通の一般人を対象としているとは思えない。ここら辺も純然たる優秀な裁判官っぽいなと思った。
    あと、裁判所があたかも極悪非道みたいに書かれているが、思想統制、自由がないってのは、まだマシじゃない?弁護士の方がもっと直接的なパワハラやイジメに遭って精神病む人の方が多いよって思ってしまった。
    まぁ超優秀なエリートである裁判官で裁判官に夢と希望を抱いていた人なら、酷いショックを受けるのかもしれないが、ブラック企業で働いている人たちからすれば、裁判官のメンタル弱すぎでしょ、って思われるなって内容。所詮、温室育ちの裁判官が書いたものだなって感じで途中で飽きた。
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    投稿日:2020.01.28

  • maple

    maple

    日本の司法の最高峰である最高裁や、しのピラミッドに翻弄されている裁判官という職業と制度の話しである。著者の元裁判官であり、現在学者という経歴によるバイアスを差っ引いても確かにあまり希望的観測が出来ない実情が垣間見える。あれだけ、閉ざされた世界だと人はおかしくもなり、浮世離れしてしまうのか。。。
    清廉潔白なイメージはすべて崩れ落ちる…。
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    投稿日:2019.06.12

  • hirock66

    hirock66

    「絶望の裁判所」瀬木比呂志 著 読了 著者のルサンチマンが隅々に染み込んでいる感はあるものの、情報として貴重。法曹一元制度を導入しないと解決しない問題だが、その実現性はほぼ皆無。

    投稿日:2019.05.21

  • 千葉敬愛短期大学(メディアセンター)

    千葉敬愛短期大学(メディアセンター)

    わが国際裁判所の実態

    所蔵情報
    https://keiai-media.opac.jp/opac/Holding_list/search?rgtn=084449

    投稿日:2019.03.27

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