【感想】明治維新 1858-1881

坂野潤治, 大野健一 / 講談社現代新書
(21件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
5
7
5
0
2
  • もし開発経済学者が明治維新を語ったら

    歴史学以外の分野の専門家が、歴史について書いたものというのも面白い。
    本書は開発経済学者である坂野潤治氏と、政治学者・大野健一氏の共著である。

    何故彼らが明治維新について書くことになったのか。

    のきっかけはイギリスのレフトウィッチ教授から大野氏に来た。
    同教授の関心は、途上国の「開発」研究の比較研究。
    明治維新というのは、他国の「開発」政策とどのように違うのだろう?

    そういうことなら、開発経済学者と政治学者が一緒にやるのがよかろう、というのが本書。

    開発経済学という分野にはあまり明るくないのだが、なかなかに興味深く読むことができた。
    まず、明治維新を「開発独裁」と比較するところから始まる。

    開発独裁とは第二次世界大戦後の東アジアで採られた政策。
    例えば台湾の蒋介石政権や、韓国の朴正煕政権などの政策である。
    その特徴を次のように定義する。

    1.内外危機への対応を契機として成立
    2.強力なリーダー
    3.彼を支える忠実で有能なエリート集団
    4.開発イデオロギーの最優先(政治改革のあとまわし)
    5.民主的手続きではなく経済成果にもとづく正当化
    6.同一体制の継続(20~30年程度)とそれがもたらす社会の変容

    なるほど、台湾や韓国について考えてみればそうと言えるだろう。
    が、明治維新に関しては1以外当てはまらないという。
    ああ、そういう見方があったか!

    じゃあ、明治維新は何なのか。
    そこで「柔構造」という言葉が登場する。
    開発独裁を「硬構造」としたときの対となる言葉だ。

    では、「柔」とは具体的にどういうことなのか?
    それは本書を読んでほしい。

    歴史学者なら論じない角度の明治維新史。
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    投稿日:2014.09.17

ブクログレビュー

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  • tokyobay

    tokyobay

    途上国の開発政策についての海外からの研究依頼で、政治史学者と経済学者がタッグを組んでみたら、日本は他のアジア諸国とは異なり、開発独裁国ではなく、柔構造を持った国であったというオチ。ある種の日本特殊論というか、日本素晴らしい論になっていて、「明るい明治」が好きな人はそれなりに気持ちよくなれるのかも。じゃあ、それがなんで「暗い昭和」になってしまったのか?という疑問も沸くのだが、江戸の遺産を明治が受け継いだように、明治の遺産を大正・昭和が受け継いだとも言えるわけで、どこでどう間違えたのか?という探究は尽きる事がないのかもしれない。続きを読む

    投稿日:2019.07.10

  • hiroo1969

    hiroo1969

    維新150年だし「西郷どん」だしで再読。
    明治維新を実現した薩長土肥等雄藩の「柔構造」分析が面白い。
    「グローバル化した世界の中で異なる民族、宗教、思想が何とか共存して生きうる世界を築くためには、いい加減な生き方もまったく役に立たないとはいえまい(p179)」
    日本人の特性である「翻訳的適応」を今こそ発揮すべきだと感じた。
    続きを読む

    投稿日:2018.05.13

  • たか

    たか

    共著ゆえか、執筆の主体がわからず読みにくい。柔構造がキーワードだが、この本の構造の方が柔構造。わかりにくい。

    投稿日:2018.04.10

  • koichikitadani

    koichikitadani

    このレビューはネタバレを含みます

    明治維新を柔構造という視点で見つめなおし、新たな評価をするという内容。視点は非常に面白いのだが、歴史を題材にしているという点では、あまりその背景には深く入っていないため、正直、良く分からなかった。おそらくある程度の知識を持っている前提で読むと面白いのだろうが。。。
    何よりも「なぜ、そのような構造になったか」という点に対しての深堀りができていなかったことが、期待値から外れていたというのもあるかもしれない
    正直、これらの事象は「偶然が積み重なった結果」ではないだろうか。事実、この柔構造は国家の目的や成し遂げるスコープが明確になった時点で、硬化してしまっている。
    また、この著書では漱石の嘆きを悲観的とし、困難を乗り越えた偉業としている。この点がどうにも違和感がある。なぜか。漱石は「未来に対して悲観」しているが、著者らは「過去を評価」している。見ているものが異なるのだ。この点は漫画の「坊ちゃんの時代」で読み解けよう。漫画では新たな価値観の象徴である幸徳秋水を政府が抹消してしまう。そこに柔構造は影も形もない。
    結局のところ、明治維新は育った土地、留学先等で得た様々な価値観を持ちながらも、日本を立て直すという共通の目的を持った人々が絶妙なパワーバランスのもと成し遂げた奇跡なのかもしれない。だが、その後に待ち受けられたのは柔構造を捨てた硬化構造?だ。そして、その、明治に作られた構造のまま現在に至っている、という事実。
    著書らの掲げる「柔構造」は非常に面白い視点だ
    これを現在においてどう実現していくかは、重要なキーに思える

    レビューの続きを読む

    投稿日:2017.10.09

  • 湖南文庫

    湖南文庫

    日本近代政治史の専門家と開発経済学の専門家が、明治維新という世界史上稀な革命を可能とした、幕末維新期の構造的特徴ついて考察している。
    明治維新は、個々の人物や事件を追っていくと極めて分りにくい時代である。登場人物が多く、彼らの間に政策論争や政治闘争が延々と展開されるし、国家目標なるものが複数個あり、それらが合体したり変容したり逆転したり、更には、各グループの目標がどんどん変わっていくように見えるからである。しかし、著者達はこのわかりにくさを「柔構造」と名付け、これこそが明治維新を可能にした、世界に類を見ない長所だったと言う。
    「柔構造」の第一の側面は国家目標で、幕末期には、「公議輿論」が政治的な、「富国強兵」が経済軍事的な改革指針であったが、その後維新を経て、「公議輿論」は木戸孝允の掲げる「憲法制定」と板垣退助の掲げる「議会設立」に、「富国強兵」は大久保利通の掲げる「殖産興業」と西郷隆盛の掲げる「外征」に変容・発展していったということである。
    第二の側面は、上記の4派が単独では政策実施能力を欠いていたものの、各派は、幕末期から醸成されてきた基本的な相互信頼や、ナショナリズム・尊王思想の共有により、極端な政治闘争となることはなく、柔軟な合従連衡が継続したということである。
    第三の側面は、指導者自身が複数の目標の重要性を基本的には分かち合っており、ときに相互乗り入れや乗り換えが行われることすらあったということである。よって、カリスマ的リーダーは生まれず、指導者の不慮の死や失脚でも、スムーズに指導者の交替が行われ、その派が途絶えることはなかった。
    そして、こうした幕末維新期の独特の政治構造に加えて、それまでに日本が近代化のための諸条件を備えていたことが、植民地主義が吹き荒れていた時代に、日本だけが列強に屈することなく、欧米に並ぶ「一等国」に駆け上がることを可能にしたという。諸条件とは、1.政治的統一と安定、2.耕作面積と生産性両面における農業の発展、3.物流システムの発展と全国統一市場の形成、4.商業・金融の発展及びそれに伴う富裕な商人層の台頭、5.手工業の発展、6.地方政府(藩)による産業振興、7.教育の普及である。
    そして、ペリー来航以来の、対外的な軍事的無力、通商条約手続きの不備、開港がもたらした急激なインフレと産業の盛衰などにより、徳川政権に対する政治的遠心力が増す一方で、主要階層で広く共有された民間ナショナリズムにより社会的求心力は維持され、藩益や特定階級の利益が国家利益よりも優先されて日本が長期の内乱に突入したり、その隙に乗じて外国勢力の介入や支配を招く事態は生じなかったのだという。
    明治維新に関しては、活躍したそれぞれの志士や藩・勢力を取り上げた伝記、歴史小説、歴史ドラマは多数あるが、その全体を俯瞰し、かつ構造的に捉えたものとして、本書は意義あるものとなっている。
    (2010年12月了)
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    投稿日:2016.01.11

  • recobayashi

    recobayashi

    明治維新を各藩の「柔構造」で捉え、国際化の成功を能動的な「翻訳的適応」にみる点は自分にとって新たな視点だった。現在に対する示唆としても面白い

    投稿日:2015.02.23

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