【感想】ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗

円谷英明 / 講談社現代新書
(64件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
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21
24
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  • 非上場、一族経営の悪い例

    創業者 円谷英二氏の時代から、一族が追放されるまでの円谷プロの経営の歴史が、内情に通じた6代社長 円谷英明氏によって綴られている。
    予実管理のできない放漫経営、経営層による会社の金の着服、お家騒動…etc。非上場会社、そして一族経営のダメな部分が、これでもかというぐらいに出てくる様は、思わず苦笑せずにはいられないほど。
    「ウルトラマン」という視点以外にも、他社のありえないくらいに望ましくない経営状況を覗き見れるという点で、非常に興味深く読み進められる一冊です。
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    投稿日:2014.02.13

  • 社会派ドラマの対象になるのは円谷プロそのものだ。

    1時間ドラマの制作費が500万円程度だった時代にTBSは550万円を円谷プロに払っていた。しかし、実際の経費は1本1000万近くかかり、円谷プロの特撮は金食い虫だった。

    円谷英二はとにかく建物の壊れ方にこだわり、バラバラに吹き飛ぶビル、ぐにゃりと曲がる鉄塔などディテールにうるさかった。実写とジオラマの背景の明るさが狂えば撮り直し、当時のハイスピードカメラは速度が上がるまで時間がかかり、カメラが回る前に街が壊れると作り直しだ。箱は準備してあっても細かな絵や装飾は作り直しになる。

    ウルトラマンを支えたのはドラマのTBSから派遣された演出家だった。またゴジラ以来の東宝が出資しその後も経営面で支えている。

    円谷英二とその後を継いだ長男の一(著者の父親)が早世した後、1973年から22年間次男の皐(のぼる)の長期政権が続く。1971年帰ってきたウルトラマン、ミラーマン、1972年ウルトラマンA、1973年ジャンボーグA、ファイヤーマン、ウルトラマンタロウと続くが、この頃には制作スタッフをリストラしキャラクタービジネスに走り出している。実際に累積赤字は一掃され、キャラクタービジネス最盛期にはボーナスは札束が立つほどだった。

    一方で初期ウルトラシリーズの社会派ドラマは影を潜め、バンダイの要請でオモチャになるメカは増え、ストーリーは低年齢層向けになる。路線を巡る対立でTBSとはほぼ喧嘩別れ。また1992年には契約のきれた番組販売権を担保に東宝から株を買い戻した。世間では円谷一族の同族経営と見られていたが実態は皐社長の独裁だったようだ。それまでは東宝が目を光らせていた経理のチェックもなくなった。ウルトラマンと言う金のなる木があったがためにほっておいても金が入る、もはや社会派ドラマの対象になるのは円谷プロそのものだ。

    帰ってきたウルトラマンからタロウあたりは見てたはずなのに覚えているのは再放送のウルトラマンとウルトラセブンばかりだ。怪獣もそう。後になるほど覚えてないし、造形もショボい。しかし、それでもウルトラマンフェスティバルと聞くとちょっと言ってみたい。
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    投稿日:2014.01.01

  • 幼き日のヒーローは利権を求める人たちに翻弄され、そして経営を圧迫していました

    全体的には事実(であろう)ことを著者の愚痴とも言えぬ悪感情を交え、淡々と語られており、真実を知りたい大人のバックストーリーです。読み物としては、まとまりがなく、少し読みにくい印象でした。

    私はウルトラマン80を生で見た世代です。80が放送されるまでは再放送で80以前のウルトラマンを見るのが楽しみでした。80が終わると次は・・・と思っても次の作品はなく、一方で仮面ライダーはスカイライダー⇒スーパー1と続いてなんで続編がでないんだろうと子供心に思っていました。そういったふとした疑問を解消し、円谷一族の目線で放漫経営と利権を得ようと群がる会社が「ウルトラマン」を翻弄していく様が書かれています。
    本書を読むと当時、抱いていた間延びした続編への期待とその裏側で起きていたことが繋がり、大人の事情を知ってしまった感でいっぱいになりました。
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    投稿日:2013.09.26

  • 有名制作会社はみな買収されてしまうのでしょうか

    ガッチャマンで有名なタツノコプロもそうですが、有名制作会社はみな買収されてしまうのでしょうか。特にエース以前の「クラシックウルトラマン」は特許紛争によりいまだに海外でグッズ販売ができないという状況は、日本の誇るウルトラマンというコンテツツの有効活用ができず、非常に残念です。「高い志」で始められた会社がその後、名家にありがちな「お家騒動」もあり、致し方なしといってしまえば、それまでかもしれません。
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    投稿日:2013.10.03

ブクログレビュー

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  • towa

    towa

    お家騒動、ワンマン経営、丼勘定の放漫な経理体質…よく50年も持ち堪えたな、というのが正直な感想でした。
    本書を読む限りでは、東宝やTBS、バンダイの尽力も大きく、円谷プロが東宝から離れてしまったこと、TBSと決裂してしまったことが悔やまれてならないです。続きを読む

    投稿日:2021.12.31

  • ikki1982

    ikki1982

    このレビューはネタバレを含みます

    ウルトラマンにそれほど思い入れはありませんでしたが、興味深く読ませてもらいました。

    恥ずかしながら、ウルトラマンを手がけた円谷英二がもとはゴジラの特撮を手がけていたというのを本書を読んで初めて知りました。

    本書に書かれている慢性的な赤字経営、創業家の会社の私物化、お家騒動の話はファンにとってはショックな話題かもしれません。

    そして、最終的には企業買収され、本来の円谷プロは消滅したということで、このことは付き合いの深かった玩具メーカー・バンダイにも影響が及んでいます。
    (丁度、バンダイがナムコと合併する時期とも近い)

    著者は先代の円谷英二の遺志を継ぐべく、中国での特撮番組を立ち上げようとした話も書かれていました。
    結局、それも中国の独特な文化を前にカモにされてしまうという、なんとも後味の悪い話でした。
    やはり特撮はコストがかかり過ぎて、今の日本では維持するのが大変なのですね。

    調べてみると、ウルトラマン自体は今も新作が作られているようですが、頑張ってほしいものです。

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    投稿日:2021.02.27

  • Ogawa Koichi

    Ogawa Koichi

    社内の円谷担当者は必読です。過去の歴史から、現在の状況までが分かります。
    自分が見ていた「ウルトラマンの裏側」がこうなっていたなんて・・・
    どんな優良な企業も、慢心が衰退の始まりだと思います。
    ちゃんと仕事に向き合って、真摯にいる事が本当に大事。
    ゲイツ、ジョブズ、など成功者の苦労物語もありますが、逆にこの本は「栄華からの転落」を自らが語っています。
    気がついて反省しても、手放してしまってからでは二度と手に入らない。
    壊すのは簡単でも、作りだすのは難しい。
    「どうして人間は愚かなのか?」と考えてしまう一冊です。
    (2014/10/2)
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    投稿日:2020.12.12

  • nira1013

    nira1013

    ウルトラ世代のひとりである私は、心の奥底から揺さぶられる感覚を抱きました。
    勿論それは快いものではありません。
    本書は中小企業(多くが同族経営)が陥りやすい失敗の豊富な事例集だという人も多いようです。
    一方で、現実とは真逆に、円谷一族が一致団結、健全なマネージメントのもと、大企業(東宝orバンダイ)の傘下に早期に素直に入っていれば、「ウルトラマン」というコンテンツはこの30年あたりでどのように変わったのでしょうか?
    特オタでビジネスマンの端くれの私にも、ちょっと想像がつきません。
    (少なくとも、パチンコ店の大きなウルトラマンタロウの看板は減っていたかも)

    ◆英明氏について
    本書は暴露本スタイルです。
    紛争当事者の英明氏は、自陣営に甘く、敵対陣営に厳しい表現が散見されています。
    記述情報も公平性がどこまであるかは不明です。

    ちょっと、帰りマンまで偏愛気味で、平成三部作に厳しすぎるかな? 
    ネクサスは、同意見ですがw
    子供を対象としたマーケティングは賛同します。
    もっと、オタク層ビジネスにも言及してほしかったです(パイが小さいのかな)。

    後半、英明氏が危惧した「円谷商法の破綻」は、現在でもアニメなどコンテンツ産業全般が抱く問題です。
    製作費の圧縮(CGの大幅導入)、円盤、スマゲーなど二次回収の多様化。アニメ作品放送自体が広告となっているバランスです。
    あと、海外進出は今でも難しいようです(KADOKAWAがアジアで書籍から地道にやっていますが)。

    終盤、中国ビジネスの破たんを恥をさらすように開陳されています。
    困難でリスク過多の中国での製作に、妄執の果てに私財まで投じて破滅していく様は、これまで英明さんが改めようとしていたはずの円谷プロの惨状をそっくりトレースしているかのようです。
    円谷の遺伝子?それとも「特撮」作りってそれほどに麻薬なのでしょうか?

    ラスト、父親の一氏に少年時代に早朝に叩き起こされて連れていかれた海釣りを思い起こす一節があります。
    往年の活気ある円谷プロ全盛期と現在の悔恨にくれる英明氏の対比が何とも言えないですが、家庭不和のもたらした父親を決して悪く思わずに懐かしまれているのにはわずかに救いが感じられます。
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    投稿日:2018.10.29

  • 波瀬龍

    波瀬龍

    ・円谷プロと言っても「しょせん下請けの中小企業(P94)」。そこを直系の後継者達が勘違いした辺りから凋落のモメントが動き出していたのかも知れない。本書では円谷プロの現状に至るまでの軌跡が著されているが、どこまで公正かと言えば疑わしさは残る。結局、同族の身内批判の域を出ていない可能性は大いにある。

    ・仮面ライダーやガンダムがいまだに変化しながら継続しているのに対してウルトラマンの現状が目を覆わんばかりの惨状であるのはなぜなのか。そのことに対する直接の答えは本書では触れられていないが、考察するための材料は提供されている。自分としては、仮面ライダーは石ノ森章太郎から、ガンダムは富野由悠季から生まれたのに対して、ウルトラマンは必ずしも円谷英二から生まれたわけではないという点にその辺りの鍵があるのではないかと思っていたのだが、どうやらそれだけではないということが本書を読むと見えてくる。

    ・個人的には、地球の防衛というウルトラマンの基本パラダイムこそが殻であり、それを打ち破ることが新たな世界を創り出すことになるのではないかと考えていたが、どうやら殻は、円谷プロ自体だったのかも知れない。買収されてしまい、円谷一族が放逐された今こそ、実は新たなウルトラマン誕生への胎動が始まる時なのかも知れない(「ウルトラマン列伝」を見ている限り、とてもそうは思えないが)。

    ・かつて、ウルトラマンのCGパートを製作している会社の社長と話をする機会があった。その時に「今の円谷プロでも、あなたほどウルトラマンについて熱く(暑く?)語れる人はいないですよ」と言われた。その時はお世辞だと思ったが、あながちそうではなかったのかも知れない。自分並みに語れるファンなど全国にいくらでもいるが、円谷プロと仕事をしていた彼の目からすれば、そう言いたくなるほどの状況だったのだろう。

    ・円谷一族自身の手で凋落してしまった経緯を知り、それでも、最後に語られる著者の現状を読むと、若干ながらも寂寞の念を禁じ得ないのは、やはり「円谷」という名に感じるところがあるからなのだろうか。そして、読み終わった後だと、本書のタイトルは本当に胸に迫ってきて、泣けてくる。

    ・ちなみに1966年の今日(7/10)、ウルトラマンの放送が始まった。

    【由来】
    ・図書館の講談社アラート

    【期待したもの】
    ・何をか言わんや。今の惨状に至る経緯が分かるのであれば。
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    投稿日:2018.10.28

  • yutuki

    yutuki

    円谷英二の孫にあたる著者が、円谷一族のお家騒動を語る、と言った内容。

    ウルトラマンと仮面ライダー、というのはテレビ特撮の2大ヒーローなわけだが(ふたりが戦う作品もあった)、平成以降の2者の明暗を分けたのは、作家性でも時代性でもなく、ただただ円谷プロという中小企業と東映という大企業の差、という身も蓋もない現実のゆえなのかもと思わせる、そんなことを感じされる本だった。

    記述には偏りがあらざるを得ないからそれを差し引くべきなのだろうが、客観的事実からすれば3代社長・皐(のぼる)に大きな原因があるのでは、と感じた。海外版権にかんするタイの企業との裁判沙汰は、真相はわからないけれど大きな要因のひとつには皐のワンマン的経営にあるのだろう。

    著者は原点回帰を求めているのか、実相寺昭雄の発言等を引用するするいっぽう、セブン以降のウルトラマンシリーズの評価が不当に低いように思う(半ばわからなくもない部分はあるけれど)。それが愛なのか出来ない言い訳なのか、それはわからないけれど。

    ともかく、作品を見ているだけでは決してわからない内幕を知ることのできる本であることは間違いない。
    続きを読む

    投稿日:2017.12.07

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