【感想】ある男

平野啓一郎 / コルク
(475件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
101
183
140
19
7
  • その男は最後は幸せだったのかな

     平野啓一郎の著作は、芥川賞をとった「日蝕」が私にはあまりに難しかったので、ずっと敬遠しておりました。今回、この作品が映画化されると言うことで手に取りましたが、これはとても面白く読ませて頂きました。

     最初はまさにミステリー調です。キャッチコピーの通り、「愛したはずの夫は、まったくの別人であった。」なのですが、その謎解きだけでは終わらないのが、平野啓一郎の真骨頂でありましょう。誰もが抱える家庭の問題や加害者家族に対する対応、そして死刑の是非にも触れています。
     様々な人が登場しますが、主人公?の城戸弁護士も含め、それぞれの背景が細かく描かれているので、その人の人生を追体験することが出来ました。また、どうしても東日本大震災を関連させたくなるのは、昨今の小説ならではのことかもしれません。
     戸籍を交換し、過去を隠して別人として生きていくことが、本当に可能かどうかは、別として、その隠された過去を知っても、はたしてその人を信頼し愛していけるかどうか、は難しい問題かもしれません。隠された過去にもよるかな。
     過去を捨て去り、全く新しい人生を歩むというのも興味深いことですが、私がそれ以上にドキッとしたのは、
    次の城戸の言葉です。
     「僕の人生だって、ここから誰かにバトンタッチしたら、僕よりうまく、この先を生きていくのかもしれないし。」
     そんなふうに考えて読み進めてはこなかったので、この台詞はちょっと衝撃的でした。確かにそうかもしれないですね。そしてもう一つ、三勝四敗の人生という台詞。なるほど、それくらいがちょうど良いのかもしれません。
     過酷な過去を胸に封印した「ある男」は、たどり着いた九州の地で里枝と会い、共に過ごした3年9ヶ月は本当に幸せだったに違いありません。そして、その家族達もきっとそうでしょう。そう思わせてくれるラストに救われた気がいたしました。
     と、ここまでは映画を観る前に書きました。映画は小説の序章に当たる部分から始まりましたが、いきなりあの不思議な絵画に目を奪われました。ルネ・マグリットの「複製禁止」です。実はこれが作品全体のモチーフになっていたんですね。序章を読んだときは気にも留めずに読み飛ばしてました。流石は平野啓一郎さん。教養の幅が違います。反省ですな。
    続きを読む

    投稿日:2022.12.02

ブクログレビュー

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  • ちょうこくどう

    ちょうこくどう

    他人の戸籍を譲り受け、自分の過去を上書きした男の話。男が死んで真相が判る。感動したのは、残された中学生の息子がその調査報告書を読んで、母親と会話を交わす場面。父親の過去を全部受け止めて生きていこうとする姿に胸が熱くなった。続きを読む

    投稿日:2024.04.03

  • オサム

    オサム

    先日、NHKの「スイッチインタビュー」という番組で、 作家の平野啓一郎さんとタレントのpecoさんの対談を見ました。 pecoさんは昨年亡くなられたryuchellさんの元奥様で、 平野啓一郎さんは、私も「マチネの終わりに」や「ある男」が好きな人気作家です。 大きな悲しみに直面した時、 どのようにして前を向いて歩んでいけば良いのか、 とても考えさせられる内容でした。 これは、我々精神科医にとっても大きなテーマです。 患者さんの治療に当たる時、 薬の治療などで改善すればもちろん一番良いのですが、 実際には薬が効きにくい人もいらっしゃったり、 困難な環境要因などで、 なかなか良くならない人も少なからずいらっしゃいます。 そんな時こそ、精神科医としての力量が問われます。 どのように患者さんと共に歩んでいくか、 一生勉強ですが、常に考えて成長していきたいと思います。続きを読む

    投稿日:2024.04.02

  • ピースなカメレオン

    ピースなカメレオン


    徐々に登場人物の過去、真実が明らかになっていく展開がおもしろくて、のめり込んでしまった。

    序章のバーで出会った「城戸さん」は、宮崎で谷口大祐のふりをしていた城戸章良だったのかな。その後出会った弁護士が中北のことで。続きを読む

    投稿日:2024.03.31

  • ぽに

    ぽに

    このレビューはネタバレを含みます

    読み終わった後、少し寂しさもありながらお腹の底からジーンと静かに伝わる温かさを感じた。人と関係を結ぶのに私はその人のどの部分を見ているのか考えさせられた。城戸の中で原誠が善人であって欲しいとする気持ちはとても理解出来た。最後の方でミスズの言葉からイメージしていた谷口大輔と城戸が実際にあった谷口大輔の印象が全然違うことに驚いた。谷口大輔という人間は1人だけど谷口大輔と関わる人の数だけ、その人を通した沢山の谷口大輔がいて、その人らしさなんてあって無いようなもので、関わる人がどう見出すかに大きく影響されるものなのだなと思った。とすれば自分の良いところを見出してくれる人と一緒にいるということが幸福な人生を送る上でとても大切で、それを自分の過去が邪魔をするなら私も名前を変えるだろうな。というかこれからの時代、もっと自分のアイデンティティは自分で選べるというふうになっていくんだろうなと思った。名前って過去と結びつく強固なものなんだなと思った。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.03.28

  • miyusan

    miyusan

    作者が天才過ぎて、難しい表現で話が遠くに飛んでしまうことが多々あった。私には理解できなかった。過去にも現在にも避けられない事実はある中で、みんな幸せになるために今を一生懸命生きてるんだな。

    投稿日:2024.03.24

  • スズキ

    スズキ

    このレビューはネタバレを含みます

    宮部みゆきの火車を思い出した
    そちらでも言及されていたと思うのだが戸籍とは一体なんなんだろうか
    こんなに簡単に交換などができてしまうものになんの意味があるのだろうか

    戸籍交換をした後に必要ないはずなのに、元の戸籍の持ち主の歴史を背負って振る舞うのは面白かった
    他人になることに快感を覚える描写があったと思うがその感覚なのか
    もしくは単純に語るのが楽なのだからなのか?

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    投稿日:2024.03.24

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