暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ

堀川惠子 / 講談社
(3件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • 臥煙

    臥煙

    ヒロシマ関連の著作の多い筆者。爆心地からは距離があるが目標となったきっかけの一つだろう、宇品の陸軍の船舶司令部にスポットをあてたノンフィクション。

    ヒロシマ原爆に関して多くの著作のある筆者。今回のテーマは爆心より南西4キロほどの宇品陸軍船舶司令部。

    あまり注目されないが広島が原爆の目標に選ばれるのに理由がある。その一つが陸軍の輸送の拠点だったということ。もちろん民間人が犠牲になったことを免責するつもりはない。

    おそらく筆者は船舶司令部の被爆直後の応急活動をきっかけに取材を深めていったのだろう。そして出会った“船舶の神”と言われた田尻中将の手記。遺族の元にあった自叙伝から、筆者は軍都廣島の発展に至る陸軍の海上輸送にテーマを広げざるを得ない。

    戦艦や空母、一線級の軍艦を攻撃することを至上とした海軍。陸軍は自前で輸送船も上陸用舟艇も整備しなくてはならない。陸海軍のセクショナリズムがただでさえ乏しい日本の資源を奪い合う。

    輜重、補給の軽視、本書の主役田尻中将は建白と引き換えに昭和15年罷免される。

    ヒロシマをテーマとした中でテーマが手に負えないほど広がった筆者の苦悩が本書から伝わってくる。それに負けず、真っ向から大きなテーマに立ち向かった筆者。原爆ではなく、もっと根本の日本軍の敗因とあまり知られぬ船員たちの戦争に迫った力作である。

    綿密な構成のノンフィクションでなくともテーマと筆者の強い思いがあればこその素晴らしい作品でした。
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    投稿日:2021.09.26

  • spica2015

    spica2015

    あまり進んで読むようなジャンルではないが、堀川惠子さんという著者に惹かれて読んだ。素晴らしいノンフィクションに決まっていると。
    で、著者の何を読んだのか振り返って見ると、多分『裁かれた命』1冊だけのような気がする。その時にすごい!と思ったのだろう(それなら他の著作も読めばいいのに)。

    宇品という地名も聞いたことがあるようなないような。「暁部隊」というのは聞いたことがあるような。
    それくらいのもともとなんの知識もない私だが、まずは、田尻昌次という陸軍中将の、本当の意味での軍人としての仕事ぶりというのか人間性というのかに惹きつけられた。日の目が当たって、ご遺族も喜んでおられるのではないか。自叙伝も残された甲斐があった。資料を掘り起こすというのはこういうことなのかとノンフィクション作家の素晴らしさ、堀川さんのお仕事ぶりに感銘を受けた。
    "田尻昌次という、一人の軍人の人生の終わり方は、官僚組織としての昭和陸軍を象徴しているのか。
     陸軍史を生涯のテーマとしてきた原さんが、ひとつ溜め息をついた後、こう付け加えた。
    「少し大きな話になるけどね、ぼくは、やはり日露戦争の影響が大きかったと思う。日露は『勝った』のではなく『負けなかった』戦なんだ。それを大勝利とぶちあげて、酔ってしまって、あらゆる判断が狂っていった。兵站を軽視するのも、小さな島国が資源不足で補いきれない部分を精神論で埋めていこうとする姿勢も、あの頃から酷くなるだろう。実力を顧みず、思い上がってしまったんだ。それを正直に指摘しようとする者は組織からどんどん排除されていく。開戦に反対して首を切られたのは、なにも田尻さんだけじゃない。まあ、こういう話は決して昔噺じゃないけどね」" 186ページ

    田尻中将が罷免された後、世界大戦へと突き進んでいく。全く船舶が足りないというのに「ナントカナル」!「何度読み返しても文脈が掴めない」。数字に則っていないのである。計算を無視している。足し算引き算ができていない。こちらの頭がおかしくなる。

    分析に携わった元少佐の証言
    "「あの当時の会議の空気はみんな強気でしてね。ここで弱音を吐いたら首になる、第一線に飛ばされてしまうという空気でした。『やっちゃえ、やっちゃえ』というような空気が満ち満ちているわけですから、弱音を吐くわけにはいかないんですよ。みんな無理だと内心では思いながらも、表面的には強気の姿勢を見せていましたね。私も同じですよ」"
    根拠のない楽観的な予想、あからさまなグラフの細工。
    開戦時の大蔵大臣賀屋興宣の遺稿
    "冷静に議論をしようとしてもすでに意図が定まっていて議論はあとから理屈をつけるということが多い。たとえば、最も重要な海上輸送力の計算をするのに、新造船による増加と損傷船の修理能力を一方に計算し、一方に戦争による減耗を考える場合、減耗率を少しずつ少なくみて、増強力を少しずつ多くみれば結論のカーブは非常に違ったものになる。そこを人為的にやればなんとかやれるという数字になるのである。冷静な研究のようで、それはたいへんな誤算をはらむ状況である。"
    「賀屋の指摘が前出のグラフを指すものかどうかはわからない。似たような細工がほどこされた検討は他にも存在しただろう。確かなことは、明らかにおかしいとわかっていながら、誰もそれを指摘しなかったということだ」。
    このあともホントに笑ってしまうような無茶苦茶な数字のごまかしが続く。全くごまかせてないのだが。どの数字が正しいのか…面白すぎて、どんどん引用したくなるのだが、キリがないのでやめる。

    厳しい予想を出すと怒り、一蹴する。調査研究をしていない。まともな資料を作れない。デタラメな数字を出す。実際には厳しい結果が出てしまう。莫大な犠牲が払われる。

    現在のコロナ対策(オリンピックも)と完全に私の中でかぶってしまい、歴史は繰り返すというのか、日本がそういう国なのか、どこの国でもそうなのか、こういうのって治らないのか、とか思ってしまう。

    だめだ、引用してしまう…
    日本の戦時経済を研究したアメリカの教授
    "この戦争は、日本にとって伸るか反るかの大博打であったが、日本は博打を打つにあたって船舶事情に十分な注意を払わないまま飛び込んだ。日本の船舶に対する措置は、初期の過度の自信と無計画性、稚拙な行政、内部の利害対立という特色があった"
    「陸海軍部も政府も、船舶の重要性は十分に知っていた。しかし彼らは、その脆弱性に真剣に向き合う誠意を持ち合わさなかった。圧倒的な船腹不足を証明する科学的データは排除され、脚色され、捻じ曲げられた。あらゆる疑問は保身のための沈黙の中で『ナントカナル』と封じられた。」

    日本、何にも進歩してないな。
    博打、無計画、稚拙な行政、科学の軽視、保身…

    もう一人の司令官佐伯文郎中将についても書いておかなければならない。広島に原爆が落とされた後、すぐさま自分の判断で広島市内の救援救護、復旧に入られた。大混乱の中、自らの被曝も構うことなく(部下もなのだが)的確な判断で復旧に邁進された。船舶司令官が陸の人々を救う判断がすぐにでき、実行できる。ものすごいリーダーである。

    素晴らしい取材力と文章力で紡がれたノンフィクションを読み、まだまだ思うことがたくさんあるのだが、あまりにも長くなってしまう。あとは心の中で復習しておこう。


     

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    投稿日:2021.09.18

  • みっくん&アリータ

    みっくん&アリータ

    小さな島国が資源不足で補いきれない部分を精神論で埋めていこうとする姿勢。
    実力を顧みず思い上がる。
    それを正直に指摘しようとする者は組織から排除される。
    こういう話しは昔話じゃない。
    考えさせられます
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    投稿日:2021.08.31

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