【感想】現実脱出論 増補版

坂口恭平 / ちくま文庫
(5件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • zyasuminntea

    zyasuminntea

    一見ノンフィクションだけれど、物語的でもある。
    腑に落ちるような文章が、ここかしこにあって 手元に置いて、時々読み返したい。

    投稿日:2022.07.13

  • show5

    show5

    新書版(2014年出版)が書かれた時点(2008年に遡るらしい)では著者は確実に「気が狂っていた」と思わざるを得ない。良くこの状態で他者の理解に開かれた文章を書けたものだと心底驚愕する。才能と環境と何より人の縁に恵まれていたのだろう。その希少性は想像を絶するものがある。増補部分(2020年執筆)を読むと少し安定しているようだが、それでも直近の症状から1年に満たないので危うい感じは消えない。
    創造と狂気は昔から気になるテーマのひとつではあるのだが、これはその当事者研究者のようだ。

    「人に合わせずに、膨大な量を作る、これだけが創造を仕事とする人には重要なことです。(中略)とにかく毎日、作る。(中略)無尽蔵に生まれるくらいの好きなことに毎日3時間くらい集中できるようにする、ということくらいです。大事なことは。」
    「食っていけてない人は単純に作っていないだけです。」
    「自動的に死ぬまで作り続けることを見つけるんです。(中略)飢え死にしてもいいと決めて、ひたすら夢中でやってみるんです。飢え死にするよりも先に、作品が売れると確信しています。」

    全くもって狂気とは縁遠く合理的に作家業を営んでいるように見える森博嗣と同じことを、坂口恭平が言っているのがとても印象的。

    躁鬱は浮き沈みがあるので、毎日同じ時間割で生きるのはしんどいのではと思うのだが、逆に生活サイクルの固定化が病状に良い影響を生んでいるのかもしれない。

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    投稿日:2021.11.03

  • kimisteva

    kimisteva

    『現実脱出論』に補論(「現実創造論」)が追加された増補版なのだが、補論では『現実脱出論』で提示された問題提起に応えるかのように、具体例に「現実さん」と上手にお付き合いしつて、「健康」にサバイブするための方法(=「現実創造」)が提起されていて、これだけでも購入する価値がある。

    補論で提起されているのは、自分が「健康」であったときのことを思い出し、その「健康」であったときの「現実」を創造していくことなのだか、筆者によるその実践の具体の提示のしかた(「健康」であったときの「現実」の見つけかた、その分析の仕方、再創造の仕方)もユニークで、考えさせられる。
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    投稿日:2021.03.20

  • 湖南文庫

    湖南文庫

    坂口恭平(1978年~)氏は、熊本市生まれ、早大理工学部建築学科卒の、建築家、作家、アーティスト。躁鬱病であることを公言し、自らの携帯電話番号を公表(本書にも記載されている)して「新政府いのっちの電話」を行っている。
    本書は、2014年に講談社現代新書から出版されたものに、新章を書下ろしで増補し、2020年に刊行された。
    私は、著者の『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書/2012年)も本書の講談社現代新書版も、出版当時書店で目にして、そのタイトルが気にはなっていたのだが、今般別の出版社から増補版が出るほど支持されていると知り、手に取った。
    本書について著者は、増補新章で以下のように書いている。「『現実脱出論』とタイトルをつけましたが、僕としてはどこかから逃げる、というよりも、新しく別のものを作る、自分の体に合ったものを勝手に自力で作る、という意味で名付けました。『現実脱出論』というよりも「多(他)現実創造論」と言ったほうがいいかもしれません。つまり、この本は僕なりの創作論です。ただの創作論じゃないはずです。作品を作るんじゃなく、自分にとっての現実を新しく作る。僕にとっての作品は新しい現実なのです。また、この本は、僕自身が抱えていた「躁鬱病」という精神疾患とどう付き合って生き延びていくか、ということも主題としてありました。・・・しかし、事実として、ここ一年、僕は躁鬱病の症状である鬱状態、躁状態のどちらも発症していないんです。」

    読了して、以下のような点が強く印象に残った。
    ◆「現実は、集団が形成される時にうまくコミュニケーションが行われるようにと、細部に少しずつ意図的な補正が施された仮想の空間である。現実はリアルではなくヴァーチャルなのだ。だから、至る所に矛盾が溢れている。細部を見てみると、正確であることのほうがむしろ少ない。現実と自分の感覚がうまく調和しないなと感じるも当然である。」
    ◆「現実とは「集団における空間」であり、あくまでも個人の空間は「思考」そのものなのである。個人にとっては、自分自身の体の中に形成された自家製の「思考という巣」こそが実体のある空間であり、現実という空間は個人にとって「錯覚」にすぎない。」
    ◆「現実という空間において、個人同士の巣を無事につなぐ橋のようなものが必要になってくるのだ。他者の思考との邂逅、対話を直接的ではないにせよ、可能なかぎり滑らかに実現するための方法とは一体何か。僕はこれこそが「創造」であると考えている。」

    私は躁鬱病に特段の専門知識は持たないし、著者のバックグラウンドも意識せずに本書を読んだが、たまたま同じタイミングで並行して読んでいた歌人・穂村弘氏のエッセイで、同氏が私たちの世界を覆う「無意識の合意」についていけない自分を自虐的に描いた姿に、無意識に頷いていたのと同様の、強い共感を覚えた。それはおそらく、現代社会に生きる人びとの多くが、多かれ少なかれ、「現実」=「無意識の合意が支配する世界」への違和感を覚えており、それに対するひとつの示唆を与えてくれているからなのだと思う。
    当たり前と考えられている現実から一歩距離を置き、自分と世界を見直すヒントを与えてくれる、ユニークな一冊と思う。
    (2021年2月了)
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    投稿日:2021.02.22

  • pinkfish

    pinkfish

    著者は躁鬱を患っているのに、強く逞しく生きています。
    そして辛さを出さずに楽しそうにみえます。
    トヨちゃんのストーリーなんて単なる就職斡旋ではなく、人生を転換させている。すごい。

    投稿日:2020.12.07

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