【感想】大学改革の迷走

佐藤郁哉 / ちくま新書
(17件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • キじばと。。

    キじばと。。

    30年におよぼうとする大学改革の掛け声にもかかわらず、いっこうにその実があがらないようにも見える大学改革について、その実態を批判的な観点から明らかにしている本です。

    シラバスやPDCAサイクルの導入などの実例について検討をおこない、それらが「改革ごっこ」や「経営ごっこ」にすぎないということが、ていねいに説明されています。こうした著者の議論を読み進めていくと、「どっちを向いても茶番」という気持ちになってくるのですが、本書の後半で著者は、オーリン・クラップという社会学者による、社会を舞台に上演されるドラマの登場人物が「英雄」「悪漢」「馬鹿」の三種類に分類されるという説を紹介して、わかりやすい悪役を仕立てあげるドラマ的な大学改革の見かたそのものに反省の目を向けなければならないと論じています。こうした著者の議論にしたがうならば、「どっちを向いても茶番」といったような冷笑的な態度で大学改革の問題点を理解したような見かたに終始していることも、ほんとうの問題点をさぐり大学のあるべきすがたを追求しようとする姿勢とは相反するというべきなのでしょう。

    本書には大学改革のあるべき方向性が具体的に示されているとはいえないのですが、むしろ「あるべき方向性」を性急に求める態度が、わかりやすいドラマ仕立ての改革案を生み出し、よりいっそう大学改革の迷走に拍車をかけることになるのかもしれません。必要なのは、問題をいっきょに解決するような斬新な解決策などではなく、個々の問題に対して個別的な対処をそのつど実行していくようなピースミール的な改良策であり、そのためには著者のように大学のあるべきすがたについて真剣に考えるスタッフが、それぞれの置かれている立場での活動をおこないやすくするようにサポートしていくことが、迂遠であっても正しい大学改革の道筋なのかもしれません。
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    投稿日:2023.01.23

  • University of the Ryukyus Library

    University of the Ryukyus Library

    https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB29126930

    投稿日:2021.10.30

  • koochann

    koochann

    大学改革の目的は一体何だったのか?大学改革ということそのものが目的になった壮大な国を挙げての「改革ごっこ」の愚かさを著者は怒りを持って吠えている!という感じ。同感するところ多く、痛快な切り口に快哉を覚える。大学改革でシラバス、PDCA,KPI,「選択と集中」、ルーブリックなどの用語があたかも万能の小道具のように文科省が主張し、それを大学に補助金、検査、自己点検などの場面において強要している。しかし、シラバスは米国のものとは似ても似つかぬお仕着せの和製・画一化されたものであるし、PDCAもまた、日本の産業界で導入されたものが、果たして大学に有効なのか、マイナスなのではないかという検証も杜撰!日本の大学の低迷、迷走は正に文科省の誤った方向性にあることを痛感する。これから日本の大学は、そして若者は、未来の日本そのものがどうなるのか?と不安になる。グローバル大学を目指せという文科省の発破の一方で、大学の自由な改革を邪魔する行政という相互の不信感がある限り、有効な改革が出来るとは思えない。しかしこの本に関して言うと怒りのあまり些か筆が進みすぎ、で大部の新書になってしまい、しつこい感じが否めない。続きを読む

    投稿日:2021.09.18

  • meguros

    meguros

    実に精緻なデータの分析によって、いかに日本の高度教育が「大人の事情(=無理が通れば道理がひっこむ)」によって、さらには大学側の面従腹背によって混迷を極めてきたのかが語られ、本書が正に行なっているEBPM(Evidence-Based Policy Making)、そして過去の失敗から学ぶことの重要性が指摘される。

    過去の失敗から学ぶには公文書の丹念な精査も必要となるわけだが、それが改竄されてしまうのがこの国の力量なわけで、暗い気分となる。

    後書きでは新島襄の言葉が紹介される。

    一国を維持するは、決して二三英雄の力に非す、実に一国を組織する教育あり、智識あり、品行ある人民の力に依らざる可からず、是等の人民は一国の良心とも謂うべき人々なり

    教育なき国に良心は育たないのだろう。
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    投稿日:2021.08.09

  • yosu

    yosu

    ボリューム抜群。

    シラバスの形骸化、PDCAサイクルの濫用など、昨今の大学の問題点が書かれている。

    投稿日:2020.09.22

  • isseiabe

    isseiabe

    ようやく読み終わった。何度も途中で読み返したり、また最初からに戻ったりしながら読んだので、妙な達成感がある。
    しかし、著者もあとがきで書いているとおり、これはページ数も価格も反則だ(笑)
    昨年の某学会での佐藤先生の基調講演が強烈だったと知人から聞いたのが、これを手にしたきっかけだが、非常に読み応えがあり、かつ同じ考えと納得できる点も多く、また新たに学んだことも多かった。
    主張されていることは現実問題として荒唐無稽とかではなく、逆に真っ当なことなのだが、これが奇妙なことと扱われるのが現在の大学教育をとりまく行政、政策のもっとも大きな問題なのだろうということは実感する。とは言え、何ともならなそうな現実に絶望したりもする。
    そもそも周囲の同僚(とは呼びたくないのが正直なところだが)の多くがここで指摘されている問題等に興味や考えを持っていない(ふりをしているだけかも知れないが)ことが更に絶望感を増す。
    しかし、自分で何も出来ず誰かに何とかしてもらいたいなと思ってしまう他力本願な私自身も同罪なのだろうけれど。
    続きを読む

    投稿日:2020.03.14

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