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石黒達昌 / アドレナライズ (4件のレビュー)
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yamada3desu
四編からなる短編集。 この著者の作品を読むのは本書で二作目。 初めて読んだのは「平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに……」という異様に長いタイトルの作品。… これ、実はタイトルではない。 本編の出だしの一節を引用したもので、本のタイトルはついていないとのこと。 芥川賞の候補にもなった、論文のような形式のこの作品が結構面白かったので、別の作品も読みたいと思い、探し出したのが本書。 形式としてはやはり論文というか、ドキュメント・タッチの作品が多い。 低体温でも生存できる体をもった女性と、その女性の謎を解き明かそうとする医師。 血液に謎があるのではということで、彼女の血液を自分に注入するのだが……。 といった内容の「雪女」。 表題作の「人喰い病」は、植物に起因する文字通り人間の細胞を食い尽くしてしまう病気の話。 最後はその植物を必要とするのだが、既にすべてが駆除されており……。 「水蛇」は、山奥に迷い込んだとある研究者が、洞窟の中で未知の動物を発見し、誤ってそれを食べてしまったことから自分の身に起こる、様々な現象の観察日記のような話。 最後は多分その未知の動物と「同化」してしまうのかも、といった余韻を残して終わる。 最後の「蜂」は、自分にしか認知できない蜂に追いかけられる男の話。 自分にしか認知できないので、その蜂が本当に存在するのか、それともその男の精神的な何かが作用しているのか……。 医学的な、あるいは科学的なホラーのジャンルに入るらしいのだが、僕はあまりそういうテイストは感じなかったです。 形而上的、とまでは言わないけれど、医学的に、あるいは科学的に「白黒はっきりつける」ような作品は含まれていないです。 どの作品も謎は謎のまま、きちんとした結論は出てきません。 そういう作品が嫌いな方には向かないかも知れないです。 僕はそういう作品が結構好物なので、割と面白く読み進めることができました。 著者自身もあとがきで触れているのですが「専門用語(特に医学関連の)が多すぎてわかりづらい」という批判が結構あるみたいですが、そんなことは少しも感じませんでした。 特に専門用語がわからなくても大勢には問題ないかと思います。 また、著者の作品のことを「前衛的な」と形容している書き込みもありましたが、決して難しい内容ではないと思います。 あの「パラサイト・イヴ」にも影響を与えた、とあるので、その手の作品が好きな方なら、結構面白く読み進められるかと思います。続きを読む
投稿日:2018.01.03
Makoto
このレビューはネタバレを含みます
医療ホラーというか、科学系ホラーというところでしょうか。 背表紙の紹介にもパラサイト・イヴにも影響をとあるので、そういう系統のものだと思います。 これは短篇集で4本入っています。 1つ目は低体温の女性と医師の話の「雪女」 舞台は昭和の大日本帝国時代。 凍傷研究の医師と、低体温でなぜか健康な女性の話になります。 なぜ低体温でも大丈夫なのか、他の家族はどうだったのか、遺伝なのか、そもそもどこから来たのかという感じで女性のことを調べていきます。 彼女の血に秘密があることがわかり、自分の体を実験台にして、彼女と血液交換をして、そのまま…という展開でした。 結局のところ、彼女が何者かということは明示されず、二人共亡くなってしまいます。 体温が入れ替わったところで死亡となっているので、一般人である医師は低体温症で、低体温の彼女は普通の体温になったことで死亡ということになるのでしょうか。 どうにもモヤモヤしてはっきりわかりません。 2つ目は表題作である「人喰い病」 原因不明で他者への感染力はないが、治療方法がなく短期間で人を死に至らしめる「人喰い病」とそれを研究する医師の話です。 最終的に原因はある植物ということになりましたが、殲滅してしまったので、原因は結局わからずじまいというオチに。 他者を潰せば、最終的に自分も潰れるという感じの話でしょうか。 3つ目は「水蛇」 研究者が山奥に研究に来ていて、たまたま見つけた奇妙な生き物を観察しているうちに食べてしまい、最終的に同化してしまうという話。 これだけ、科学的な話もそんなに無く、取り込まれていくというタイプのホラーでした。 4つ目は「蜂」 他者がほとんど認識できない特殊な蜂に追いかけられる男の話デス。 精神病患者的な思考をして、他人からはバカにされ、医者にもそんなものはいないと否定され、研究者にも聞き流されてしまうので、自力で解決をしようとして逃げていきます。 が、結局追いつかれて、蜂に刺されて、死の淵に落ちていってしまいます。 ストーリー的にはこうなのですが、ところどころに書いてあるように、ちょっとわかりにくいのが多いかなと。 あとがきにも作者自身がわかりにくいとよく言われるみたいなことが書いてありました。 専門用語的なわかりにくさは、まぁ問題ないです。 自分的には、エンドでの状況の明示が少ない感じで、それまで科学していた話が急に国語し始めてしまうのがわかりにくい感じがしました。 だから「水蛇」と「蜂」については、科学な話が殆ど無いので、すっと読むことは出来たわけです。 テーマとか背表紙の文章で面白そうだと思って読み始めたんですが、どうにも読みにくかった印象が有ります。 何箇所かよくわからず巻き戻ったり、状況を理解できないなという部分も有りました。 面白くないわけではないですが、結構人を選ぶ文章ではないかと思います。
投稿日:2014.01.21
march-am
ほんと安定して面白い。冷静で分析調な文章なのに、いつのまにか読者を物語の奥に引き込み、そして言い知れぬ恐怖を覚えさせる。一見人間味の薄い文体なのに、むしろそれが登場人物たちの感情を読者に強く蘇らせる。…新化の読了に合わせて再読。「死」がテーマであるとともに、反対の「生」、そして「同一性」も一貫して描かれている。ところで石黒氏の著作は改題やら文庫で再編集やらで把握が難しいな…。続きを読む
投稿日:2013.07.26
こね
収録作に共通することとして登場人物たちは常に科学的な姿勢を崩さない。生じる現象を観察し法則を見出し機序を読み解く。新たな事象が生ずればそれを取り込みモデルを修正する。 そうした研究はやがて、事象そのも…のの意味の解釈へとたどり着く。現象に意味を求めることは科学の範囲を超えるかも知れない。しかしそれは真摯に科学的態度を貫く者にとっては避けられないことでもある。すべての現象は読み解かれるべき対象であり、世界の意味を解釈する端緒である。 しかしそれはどちらも人間の知覚の範囲の話でしかない。人間がなにをどう知覚しようとそれは世界とは関わりの無いこと。そのことを示すように、現象は前触れもきっかけもなく収束し、人間には答えの出ない問いだけが残される。続きを読む
投稿日:2012.08.29
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