ホモ・デウス 上 テクノロジーとサピエンスの未来

ユヴァル・ノア・ハラリ, 柴田裕之 / 河出書房新社
(186件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
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67
23
6
1
  • テクノロジーは人間を神にアップグレードできるのか。

    遺伝子操作によるデザイナーベビー、サイボーグ工学やAIによる身体の拡張など要素技術は進み続ける。飢饉、疫病と戦争は人類が取り組むべきことのトップ3であり続けたが、この数十年では神に祈らなくとも対処可能な問題に落ち着いているように見える。新たな人類の課題は不死と幸福と神聖の獲得だとユヴァル・ノア・ハラリは予測する。ホモ・サピエンスはホモ・デウス(神)を目指すのだと。

    60年前、大躍進政策下の中国では少なくとも3千万人の餓死者が出たと見られている、しかし現代では過食は飢饉以上の問題になっており2010年に飢饉と栄養不良で亡くなった百万人に対し肥満で3百万人がなくなっている。100年前スペイン風邪で5千万人から1億人が亡くなったと見積もられているのに対し、累計3千万人の死者を出したエイズも今では金銭的余裕があれば慢性疾患となった。それ以外の抗ウイルス薬の開発も進み続け、特定のガンは致命的な病ではなくなりつつある。古代の農耕社会では死因の15%が暴力によるものだったが現在では1%だ。第一次世界大戦の死者数は約4千万人、第二次世界大戦では5〜8千万人だが、2010年のテロによる死者数は7696人、自殺者が80万人で糖尿病が150万人。平均的なアメリカ人にとっての脅威はテロよりもコカ・コーラなのだ。

    ホモ・デウスは全知全能の神と言うよりはギリシャ神話の神々だ。本書では個々の人間がどう思おうが人類全体は寿命を延ばし、人間至上主義はホモ・サピエンスの生命と幸福と力を神聖視するようになると予測する。伝統的な一神教の世界ですら宗教は人間を神聖視している。例えばキリスト教では人間は他の被造物の支配権を造物主に与えられたとする。そして神は人間だけに不滅の魂を与えた。
    進化論は不滅の魂などないと切り捨てたが、ホモ・サピエンスだけが特別な存在だという証拠はある。人類だけがこの世界に意味を与える共同主観的な虚構、つまりイデオロギーを信じることができる。そこから生まれた共産主義、自由主義、民主主義やナチズムといった新たな形の人間至上主義が生まれた。

    上巻ではホモ・サピエンスが世界を征服し、世界に意味を与えたことを見てきており、下巻では科学と人間至上主義との新たな契約の理解から人間至上主義の行方を追う。
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    投稿日:2019.03.24

  • 歴史を学ぶ目的は、過去の手から逃れることにある

    イスラエルの歴史学者が、ユダヤ教などの宗教やヨーロッパの歴史だけでなく、ホモサピエンスとしての進化の歴史から、AIやロボットなどの最新テクノロジー、遺伝子工学や脳科学、果ては心や魂といった科学では扱いづらい分野まで、我々を待ち受けているであろう途方もない未来を見通すために必要なすべての知見をつなぎ合わせ、全体像をわかりやすく呈示してくれている。
    全世界から熱狂的に支持されるのもよくわかるし、読者としてもその異能ぶりに驚嘆する他ない。

    歴史を学ぶ目的は、未来に取りうる選択肢を増やすためであるという指摘も重要だ。
    「歴史学者が過去を研究するのは、過去を繰り返すためではなく、過去から解放されるためなのだ」。
    生まれたときから身の回りある、当たり前で不変で必然とさえ思い込んでる現実世界が、実は偶然の連鎖の賜物であったことを知ることは、私たちを知らず知らず向けさせられたたった1つの未来だけでなく、複数の違う考えや夢を描ける第一歩なのだ。
    同時に大勢の人が共通の物語のネットワークを織り上げたときに生み出される「意味のウェブ」も、歴史を学んでいれば、やがては価値を失い忘れ去られ、文字通り「ほどけて」しまうことも想像できるだろう。

    しかし言うは易し、行うは難しで、実は今日ほど歴史を学ぶことで未来を予想することが困難な時代もないのである。
    それは知識の蓄積が加速度的に増加しているためだけではない。
    著者が「歴史の知識のパラドックス」と呼ぶ面白い現象のせいでもある。
    マルクス主義の思想が良い例だ。
    あまりにも的を射たマルクスの診断は、資本家の考えを変え各国の制度に取り込まれ、労働者をめぐる環境は劇的に改善され、結果として彼の予測は外れてしまう。
    「行動に変化をもたらさない知識は役に立たない」が、「行動を変える知識はたちまち妥当性を失う」のだ。

    「歴史をよく理解するほど、歴史は速く道筋を変え、私たちの知識は速く時代後れになる」。
    本書で著者は、人間の幸福と不死の探求はやがて、自らの超人的なアップグーレードを止られないはずだと語る。
    なぜなら、治療とアップグレードの間に、明確な境界線はないからで、どんなアップグレードも当初は治療として正当化されるが、いったん重要な大躍進を遂げたら、次に待っているのは制限のないアップグレードへの応用だけだ。
    早々に禁止してしまえばいいじゃないかとも思えるが、生物工学の進歩は前提となる現実そのものを変容させる可能性もあり、ことはそう単純ではない。
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    投稿日:2019.07.30

ブクログレビュー

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  • タカ

    タカ

    このレビューはネタバレを含みます

    ・人間が科学技術を発展させ、人間を超える機械を生み出した時、彼らは我々をどう扱うのか?人間は彼らを制御しきれるのだろうか?もし彼らが、人間の手に負えないほど優れた存在ならば、人間は、ちょうど人間が家畜に行うのと同じような扱いになるだろう。人間は豚や牛が、人間が持つような感情を持たないと暗に認めているかのような仕打ちをする。それを彼らが人間にしないとなぜ考えられるのか?これらの思い込みの根底には「人間至上主義」の思想がある。

    ・有史以前から、人間はその手の届かない超越した存在により支配され、その意思に従うべきだと説くことで社会的秩序を生み出してきた。しかし、科学の発展は、それらの宗教的教義を真っ向から否定する。豚を食べようが、同性愛に耽ろうが、天罰など下らない。科学は、神は人間の想像上の存在と定義する。では、科学は宗教を殺すのだろうか?そのような短絡的な流れにはならない。科学の発展とはつまるところ、人生の意味と引き換えに力を手にする過程だ。科学は宗教のように、人間の幸福に意味を持たせることは決してできない。何故なら幸福を数値化することも、そもそも幸福が良いか悪いかを定義する手法も持ち合わせていないからだ。これでは大規模な社会的秩序を形成することは到底不可能である。したがって、科学の発展は宗教的教義に従うことになる。例えば、人間至上主義の教義、人命は神聖であり、それを伸ばすことは正しいという考えに従い、医療が発展してきたように。人間至上主義が崩れた時、どんな教義が科学と手を組むのだろうか?

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    投稿日:2021.06.05

  • naluカズ

    naluカズ

    難しい。でも凄く沢山の事が学べた気がする。飢饉と戦争と疫病に打ち勝ち、人類が神になりつつある事が書いてある。幸せは数値化出来ない。

    投稿日:2021.05.11

  • てけてけ

    てけてけ

    飢餓と疾病と暴力による死を克服した人類が、次に克服しようとするものは死と幸福、そしてそれらの克服を含んだ神性の獲得である、という話から始まる。
    次に「未来の可能性を広げるには歴史を学ぶこと」という流れで、人間とは?心・意識とは?という話や、過去から現在までの人類の話が始まる。
    後半はサピエンス全史と被る部分も多いので、半分おさらいのような感じ。ただ、「アルゴリズム」というITエンジニアにはおなじみの言葉がキーワードになっているため、視点は少し違うかもしれない。

    下にも期待。
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    投稿日:2021.05.06

  • ゆうだい

    ゆうだい

    『サピエンス全史』に続く世界的ベストセラー。
    本著の原副題は"A Brief History of Tomorrow"で、『サピエンス全史』の"A Brief History of Humankind"と同じ型。直観的にはそこまで違和感はないものの、よくよく考えると「明日の歴史」ってのも変だなぁと。
    調べてみたら、Historyには「(自然界の)組織的記述」とか、「(報告的な)話,物語」といった意味もあるそうで。。

    『サピエンス全史』と対になっていることもあって変には思わないのですが、本著は(過去を語る存在?である)歴史学者が、未来を展望して書いているんですよね。
    歴史学者なりの書き方はあるなぁと感じたので、色々な専門分野の人がそれぞれの視座で未来について語ったら、面白いのかもしれません。

    さて、上巻の中身は『サピエンス全史』でも触れられていた内容もあって導入編的な印象もありましたが、人類が今後自らをアップデートして「神」になるだろう、というテーマは非常に刺激的です。
    ただ、タイトルから事前に想像していた「こんな技術が実用化されつつある/されていくから、人類の未来は明るいね!神ってるね!(違」的な本ではなくて、上巻を読み終わった時点ではむしろ逆のトーンを感じました…。
    人類を現在のここまでの存在たらしめた「人間同士の協力ネットワーク」は『サピエンス全史』でも触れられていましたが、そのネットワーク、具体的には国家だったり宗教だったり(本著内では「共同主観的なもの」「虚構」「物語」と様々に表現されている)が、必ずしも成員の幸福には寄与してこないどころか、しばしば成員を死に追いやってきた歴史が語られています。
    その上で、著者は将来はもっと強力な虚構が誕生して我々を支配してくるため、「虚構と現実、宗教と科学を区別する」ことが困難になるが、その能力が更に重要になると主張しています。うーん、本著、これからを生きていく我々への、著者からの耳に痛い助言集なんでしょうか。
    本著内の「官僚制は力を蓄えるにつれて、自らの誤りに動じなくなる」という言葉は個人的には特に印象的でした。

    何にせよ、下巻でどのようなことが語られるのか、楽しみです。
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    投稿日:2021.05.05

  • けんさん

    けんさん

    『その”いいね”が作り出す新しい世界への警鐘』

    何気なく押している”いいね”。AIは、その傾向からその人の意見や欲望を本人よりも正しく予測できるらしい。SNSなどで自らデータを提供し、AIに支配される世界に向かっているのかと思うと、非常に恐ろしい。続きを読む

    投稿日:2021.05.02

  • 針槐

    針槐

    普段何も疑問を抱かずにいたことが見過ごせなくなる。これほどの内容であるが、専門用語で煙に巻かず、庶民の日常に視点を置き分かりやすく説明してくれる。文字数は多いがまったく苦にならずに読み進められた。

    投稿日:2021.04.10

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