【感想】ハーバード大学は「音楽」で人を育てる 21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育

菅野恵理子 / アルテスパブリッシング
(7件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • naosunaya

    naosunaya

    昨今のリベラルアーツブームの系譜に位置づけられる本だが、実際問題として米国のトップ大学群で、音楽がここまで系統的にカリキュラム化されているのは意外であった。
    留学経験のある友人連中からこの手の話を全然聞いたことないのだが(いかにも選択してなさそう(笑))。
    音楽がいわゆる「中世の基礎科目」だったところから説き起こす「音楽はいつから知の対象になったのか」も、必ずしもオリジナルな見解ではないが整理されていて読みやすい。

    一方で、この手の「教養」本に共通して(面白さとは別に)覚える違和感なのだが、教養って「ビジネスに役立つ」ことがそんなに大事なのだろうか?
    極端な話、ビジネスの圧から一時的にせよ身を守るための鎧、あるいはビジネスなどという一面的なものだけに支配されないための武器、そういったものこそ教養なのではないか?という気持ちはつねに拭い去れないのだ。

    そりゃ、教養を磨くことがビジネスの現場で役に立つ、深い思索をする上ではビジネスも哲学やらなんやらとつながることがある、そのくらいは私もわかる。
    でも「役に立つ」と「教養」は本質的には相反する言葉ではないか?
    本書で取り上げている「現代の」大学がおしなべて「アメリカ」のそれであるのも何か象徴的である。

    その点、本書のとくに終章がより音楽を通じて本質的に社会に貢献する試みに光を当てていたのは非常に魅力ある構成と感じた。
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    投稿日:2020.07.18

  • すう

    すう

    ハーバード大だけではなく、アメリカのほとんどの大学には音楽学科がある。それは、音楽が基礎教養の一部であるとするとらえ方が投影されているからだ。
    翻って、わが国ではどうだろうか。人文系の学部など必要ないかのような議論が流布し、研究にはやたらと結果が求められ、結果の出ない研究には資金も下りないような現状が大学を取り巻いている状況であると仄聞する。
    アメリカが音楽学科を教養教育の一部として取り入れているのは、想像力や多様な視点を芸術が育むと考えられているからだ。だから、卒業生だけでなく企業からも大学の研究を助成するための資金援助が積極的に為される。
    日本の企業で、大学の基礎教養としての音楽学科に資金援助や寄付をしている企業はどのくらいあるのだろう。尤も、音大以外に音楽学科がない大学には資金援助の必要もないのであるが。
    日本の大学は、カリキュラムも含めて、もう一度教養教育とは何かということを見直す必要があるのではないか。そうしないと、この国からは新しい未来像を描ける人材が出てこないのではなかろうか。
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    投稿日:2018.04.13

  • TAKEYA

    TAKEYA

    ハーバード大学、スタンフォード大学、ニューヨーク大学などの大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)などをはじめとする世界に多くの実業家、科学者、教授などを輩出している大学には「学科」としての「音楽」があります。 

    アメリカの大学には「リベラルアーツ」という概念があり、4年間のうちの最初の2年間は音楽を含む、7科目も教養を受けるのが必須であるようです。 

    音楽を学ぶというのは「クラシック音楽」が一般的ではありますが、JAZZや現代音楽、民族音楽にも触れることで
    「多様な価値観を理解する力」を育むことを主として学んだでいるようです。 

    この中には演奏をすることもコミュニケーションを培う一つの教養としても捉えられております。 

    現在の音楽分野でもシェアをするということ、コラボレーションをするということが頻繁に行われております。 

    日本の音楽(演奏家を含めて)も世界的に比べて遜色ない多彩な作品(人)が多くいます。 

    彼らを知ることも音楽(文化)に触れる一歩なのかもしれないですね。

    まだ第1章しか読んでいませんが、今後「音楽」=「教養」という視点から何が読み取れるのか楽しみです。
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    投稿日:2016.06.15

  • mediacsr

    mediacsr

    この本を読むと、日本では美術・音楽・演劇といった「情操教育」がないがしろにされていると思う。それよりもこの本の読者は、あの天下のハーバード大学で、普通の音楽大学と同等、いやそれ以上の教育を受けられると知ると、飛び上がらんばかりになって驚くに違いない。これはアメリカの大学教育関係者が、世界で通じるエリートを育てるためには、芸術の素養が不可欠だと理解しているからである。日本でも国際基督教大学(ICU)が「ダブルメジャー制」を導入しているほか、主専攻・副専攻制度を導入している大学もあるが、それは本場のシステムとは似て非なるものであると思っている読者もいるのではないだろうか。後半では、欧米諸国による音楽教育の歴史及び、音楽と哲学の密接な関係をについて述べられる。ヨーロッパの哲学思想が、江戸時代の日本に導入されていたら、日本の情操教育も、もっと違った展開になっていたのではないだろうか?続きを読む

    投稿日:2016.05.14

  • yo

    yo

    購入。

    大学の教養科目的な位置づけで音楽を学べる海外の大学のカリキュラムが多く紹介されている。

    音楽で人を育てると何が良いのか、ということを知りたくて読んでいたのだが、いまいち良さが伝わってこなかった。このようなカリキュラムを履修できる、その科目名はこのようになっている、という事実の列挙が多かったのでそう感じたのだと思う。続きを読む

    投稿日:2016.05.01

  • denon_sengai

    denon_sengai

    ジャーナリストとしての筆者の取材力はたいへんなものだと思える。現代の大学と音楽、そして教養について関心を持っている人々は多いと考えられるものの、それを実際に調べ上げた人は実はなかなか少ないのではないか。本書では、まず今日のアメリカの有名な研究大学ないし総合大学における「音楽」学科や音楽に係るコースの事例をインタビューや当該大学の資料を切り出して描いている。音楽学校で行われている教育とは異なり、一口にいってしまえば音楽を学際的なアプローチで自分自身が考える機会が豊富与えられている活動といえよう。その中でも、とにかく音楽や音楽に関する研究論文・文献を読ませ、エッセイと論文の執筆を課していることがほぼ共通している点と感じた。さらに総合大学でも個人のオーケストラの実技のレッスンで単位を与える大学がいくつかあるのには驚いた。また一般教育が生まれたアメリカだけに、履修科目の1/3~1/2はそれらの科目を履修している学生が事例が多く紹介されている。場合によっては半分が一般教育の例もあった。

    制度面についていえば、学士・修士5年プログラム、ダブル・ディグリー、メジャー・マイナー、ダブル・メジャーの例も挙げられているが、実施されている大学は大学ランキングのかなり上位に位置する大学ばかりであり、直ちに日本に輸入はできない印象をもった。

    本書が特色は事例の豊富さだけではない。コンパクトに中世の音楽に関する文献をわかりやすくレビューしていることである。こうしたことは科学史や高等教育論の文脈では行なわれず、通常は音楽史の範疇なのかもしれないが、本書の主題である大学やリベラルアーツに引き寄せてまとめられている点で重要な仕事をされたと感じた。

    アメリカの大学史に関心がある読者は、例えば、次のことに着目するかもしれない。第4章ハーバードのエリオット学長が音楽教育の体制を充実・発展させたのだが、それ以前にペインという教授が同大の音楽教育の萌芽期を支えたという事実はなかなか知ることができないだろう。そして、19世紀末には同大音楽学科において専門的に学ぶ学生の科目として、和声、対位法、作曲法、管弦楽法、が教授され、教養としての一般学生向けの科目として音楽史と音楽鑑賞の科目の割合が増えていったとされ(p.237)、学科の教育内容が多様化したとのことである。これが現在に至っている。こうした特定の学科の形成過程を見ることで教育内容が理解しやすくなる。

    参考
    NASM STANDARDS / HANDBOOK
    http://nasm.arts-accredit.org/index.jsp?page=Standards-Handbook
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    投稿日:2015.11.25

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