【感想】昨日までの世界(下)―文明の源流と人類の未来

ジャレド・ダイアモンド, 倉骨彰 / 日本経済新聞出版
(36件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
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13
8
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  • 三部作完結編?

    『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』に続く三部作?完結編です。『若い読者のための第三のチンパンジー』で提示された論点は上記二作と本書で網羅されたはず(多分)。

    前の二作と比べると、著者の文化人類学者としての側面が前面に出てきており、フィールドワークでの体験やそこからの気付きに基づく内容も多く、学術的でないとまでは言いませんが、あまり硬い感じではありません。むしろ取っ付き易いです。前作を未読の方でも問題ないどころか、むしろ本書から入ってみるのがよいかもしれません。
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    投稿日:2017.11.04

ブクログレビュー

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  • こどもおねむ

    こどもおねむ

    下巻では、伝統的社会における危険の考え方、生活する上で避けては通れない、思想における宗教や言語、病気などの健康が語られる。
    危険については確かに社会が違えば危険も違う。我々は交通事故を軽視しているのだろうか。あるいはマスコミの煽る非日常の危険ばかりを気にしているのだろうか。
    宗教や言語は少数派は淘汰されるのだろうが、歴史的価値としては残す活動をすべきと感じた。
    健康はまさに飢餓に対する遺伝子の皮肉。便利になれば何かを失う。
    伝統的社会から学べる事はたくさんある。建設的パラノイア、これは気にしていきたい。
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    投稿日:2023.02.12

  • Maz

    Maz

    第5章 - 子育て
    授乳中は妊娠しない理由
    1. 授乳性無月経。母乳を作る作用のあるホルモンの分泌が卵巣からの排卵を抑制する。しかし、頻回授乳を継続する必要があり、1日数回では意味なし。
    2. 限界脂肪説。排卵が起きるには、女性の体脂肪率が一定の臨界地を越える必要あり。

    祖母や年長の兄弟と一緒に暮らす拡大家族の一員として同居できる環境が存在すると赤ん坊の発育が早まり、認知機能の発達も見られる。
    狩猟採取民の子育てから学ぶこと。
    知育玩具で子供の独創性を奪うのはやめにして、子供に自分で遊びを工夫させる。
    同年齢遊戯形態で遊ばせる。
    赤ん坊とのスキンシップをもっと濃密に。
    赤ん坊がないたらすぐに対応。
    アロペアレンティングをもっと盛んに。
    ベビーカーは親と同じ目線に。

    第6章 - 高齢者への対応

    定年退職はなぜおきたか
    人の寿命が延びた、経済の生産性が向上し総人口の一部が働けば良くなった、社会保障が様々な形で提供されるようになった

    現代の高齢者は、利用価値という面で昔より低く見られ、結果孤立する傾向にある。
    1. 識字能力の高さ。高齢者の知識記憶に頼る社会から文字情報が知識を蓄積してくれている
    2. 正規教育の普及。高齢者の記憶は社会の記憶装置ではなくなり、教師という立場も取って代わられた
    3. 技術革新。数十年前に得たスキルは現代にはいらない。例えばマニュアル車。

    現代社会は、人類史上かつてないほどに人が長生きするようになり、高齢者の健康状態が向上し、高齢者を養うだけのゆとりを社会が持っている。
    しかし、高齢者が社会に提供可能だった伝統的価値の大半が失われ、健康なのに哀れな老後を過ごす高齢者が増加した社会。

    第9章 - 宗教
    5つの要素
    1. 超越的存在についての信念の存在
    2. 信者が形成する社会的集団の存在
    3. 信仰に基づく活動の証の存在。信者が痛みを伴う多大な犠牲を払う。
    4. 個人の行動の規範となる実践的な教義の存在。
    5. 超越的存在の力が働き、世俗生活の影響を及ぼし得るという信念の存在。

    宗教の便益
    機能主義的アプローチ - ある種の役割をにない、社会秩序を維持し、人々の不安を慰め、政治的服従を教えるというような課題を解決するために考案
    進化心理学的アプラーチ - 始祖である動物が持っていたある種の能力の副産物として登場し、そうした能力が予期せぬ形で変化し、新たな機能を獲得するに至った。ex デンキウナギ

    人間の脳は、事象の間に因果関係を認知する能力が次第に進化して、そこから因果関係もとに予測する能力にも磨きがかかった。(科学では説明できない因果?- 善良な生活を送っているのになぜ病気になるか)。
    ある種の問いは説明を求める問いではなく、意味を求める問いである。科学は説明を提供するものであって、意味を提供するものではない。意味を求めたければ宗教に求めるべきである。

    なぜ超自然的で宗教的な信念を信じるのか - 人間の脳は脳自体を騙すことができ、認知に思い込みを起こさせ、何でも信じるようにさせることができる。

    宗教の役割
    1. 事情について説明を提供すること。科学の発展に伴い、必要性は低減。
    2. 不安の軽減。どうしようもない時、自分は何かしらの手を打っており、まだ望みがないわけではなく、諦めていないと自らを信じ込ませることによってら少なくとも事態を掌握してると感じられ不安を軽減するために虚構を信じる。
    3. 癒しや希望を与える。死の現実を否定し魂という概念を持ち出し死後の世界には極楽が。また地獄という概念により悪人への報復が可能かつ現世の自分の行動規範を形作る。これが不幸になればなるほど、信心深くなる傾向の理由であり、富める階層より貧しい階層の方が宗教が盛んな理由。EX) GDPが一万ドル以下の国では80%以上の人が信じており、三万ドル以上だと18-47%。一部では、不幸な事故など起きることは起きる、にも関わらず、人は”たとえそれが真実であってもそれが求める答えではない。科学が意味を与えないのであれば、宗教に答えを求める。”となる。
    4. 制度化された組織
    5. 政治的服従の誇示。大規模な国家をまとめあげるため。
    6. 見知らぬ他人との関係における行動の道徳的規範の提示とその維持。今では社会的規範となっているが、昔は宗教が人々の行動規範を形作った(例えば、殺人)
    7. 戦争の正当化。異教徒、異文化の人たちを侵略又は殺戮するための理由づけ。


    第10章 - 言語

    世界には7000を超える言語がある。未だに個別言語が世界に存在し、一つにならないかつ、同言語での方言の地理的な連続性のバリエーションが形成されないのは二つの理由?
    1. 話者コミュニティが異なる地域に分かれ、広がりと隔たりが起こると数世紀にかけて異なる変容が起こる。(死語と新語 -googling)
    2. 自分がその言語の話者の集団に属する人間であると証明できる。対スパイ、対戦争。

    言語の偏在には、環境的要因、社会経済的要因、歴史的要因がある。例えば、温暖で地形が豊かで生産性のある動植物が多様な地域ではより多くの言語(部族)が現存しえる。
    また、共同体の規模が小さく、外部との結婚が頻繁に見られ、多言語話者との出会いや会話の機会が頻繁にあると他言語主義の社会になる傾向がある。

    二言語主義の利点 - 実行機能という認知機能が優れる。選択的に注意を振り向けたり、注意力散漫になることを避けたり、問題解決に集中したり、取り組む課題を変えたり、言葉や情報を必要な瞬間に脳の記憶中枢から引き出す能力。

    言語の多様性の利点
    1. 言語の構造は話者の思考のあり方を形成し、言語が異なれば話者の世界観も思考も自ずと異なり、表現の選択肢が広まる
    2. 言語の損失イコール文学や文化、多識の多くの損失

    第11章 - 食べ物、怠惰

    塩分過剰摂取による高血圧、糖分過剰摂取による糖尿病(インスリンが糖分の脂肪変換すふ機能が疲弊するか体に抗インスリンが出来上がってしまう)のは、進化の結果。餓えと過食の混在という生活様式に有益だった倹約遺伝子の自然選択の結果、現代の飽食の時代において逆に働いてしまい、非感染性疾患が蔓延。


    エピローグ
    アメリカの多くの人は物的には非常に豊かです。しかし、他の世界に関する知識と理解に関しては貧困なままです。用意周到に組み立てた狭い壁の中に安住し、自分から進んで無知であり続けることに満足している様に見える。
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    投稿日:2021.11.29

  • kurapapa

    kurapapa

    このレビューはネタバレを含みます

    下巻読み終わりました。
    個人的には、下巻の方が上巻より面白かった。

    危険な事への対応と宗教や健康について、小規模社会と現代の西洋社会の違いについて説明しています。

    面白かったのは危険に対する建設的パラノイアと健康について。

    建設的パラノイアとは、ニューギニア人が、さほど危険では無い事について、被害妄想なくらいに心配するという行動から付けた作者の造語です。
    作者がニューギニア人と森に出かけ、野宿をするとき、大木の下で寝ようかと持ちかけたところ、木が倒れて死ぬかもしれないので、絶対に嫌だ、と断られたという。ニューギニア人は一年に100日、40年で4000日くらい野営をする。たとえ、1000回に1回しか起こらない事でも、彼らの生活からすると10年以内に死んでしまう確率になってしまう。なので、細心の注意を払うことは理にかなっている、ということだ。
    普段、私たちはスピードを出している車のすぐ脇を歩いていたりする。でも、さほど危険を感じていないことが多い。このケースでの事故の確率が10000分の1でも、一生で10000回くらい車の脇を通ることがあれば、1回は事故になる計算になる。であれば、そうした状況では細心の注意を払うことが理にかなっているのだ。

    もう一つ、印象に残ったのは健康に対すること。西洋化する前のニューギニアの人たちは現代病として悪名高い高血圧や糖尿病の人が極端に少なかったのだ。当時のニューギニア人は現代の西洋社会での生活とは異なり、塩分も糖分も少ししか摂取していなく、朝から晩まで生活のために身体を動かす生活をしていた。私たちの身体は現代においても、このような暮らしに適したつくりになっているようだ。だから、急激に西洋化した発展途上国であった国の人々(インドとか)が、現代病に罹る割合はひどく大きくなっているらしい。

    これは、衝撃的でした。そういうことか、と妙に納得しました。全部が全部、本当の事なのかは分からないので、鵜呑みにしてはいけないのかもしれませんが。

    生活を改めるきっかけとなりました。

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    投稿日:2021.02.23

  • Treasoner

    Treasoner

    先史時代の社会を知ることで現代の社会を知る。個人的な参考になる話しも多かった。
    「なのである」を多用する和訳に違和感を感じた

    投稿日:2020.10.28

  • kazzu008

    kazzu008

    世界的大ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者、ジャレド・ダイアモンドによる本書。
    この『昨日までの世界』は、文明社会が興る前の人類の伝統的狩猟採取社会ではどのような生活が行われていたかを、最近まで、あるいは現在もこの伝統的狩猟採取社会を営んでいるニューギニア奥地の少数狩猟民族やアマゾン奥地に住む狩猟民族らの調査を通じて解き明かしていく学術書である。

    人類が現在のような中央集権的国家社会を営むようになったのは、およそ5000年ほど前だ。人類誕生が約600万年前、つまり人類歴史のほとんどの期間は伝統的狩猟採取生活による社会で人類は生活してきたのだ。

    下巻では『危機管理』『宗教』『言語』『病気』がテーマとなっている。
    『宗教』については、宗教の発生から為政者による宗教の利用等が記載されている。
    「宗教」の発生原因については、著者の『銃・病原菌・鉄』で詳細に描かれており、目から鱗が落ちた状態に何度もなったが、本書では伝統的狩猟民族にとっての宗教と文明社会になってから「キリスト教」や「イスラム教」がなぜこれほど発展していったのかを解説している。

    伝統的狩猟民族においては、いわゆる「宗教」的行為というものは現在の宗教的行為とは若干違っていた。
    伝統的狩猟民族は宗教に頼るよりも、自らの工夫を重要視していたのだ。
    さらに、宗教行為を司る、司祭や預言者のような専門家を養う余裕は伝統的狩猟民族にはない。つまり、司祭や預言者は、狩りや漁などの生産的行為をしないので、その日暮らしの伝統的狩猟民族には彼らを養う余裕が元々ないからだ。こういった専門に宗教行為を行う職業は、農耕が盛んとなり、食料の余裕(貯蓄)ができた時代になってから発生している。

    では伝統的狩猟民族は宗教的行為を全く行わなかったかといえばそうではない。
    自分たちの手に負えないこと、例えば、病気の原因は、他部族の呪術者による『呪い』によるものと解釈し、病気を治すために他部族の呪術者を殺しに行くというようなことも行われていたのだ。

    『言語』については、少数民族等だけによって話されている少数言語が9分に1つのスピードで消滅しているという話は衝撃的だ。これは現代文明社会と出会った少数民族達が自分たちの言語を子供に伝えず、子供たちが英語等の公用語のみを使うようになってしまったことが原因なのだという。
    また「バイリンガル、トライリンガルの人々」と「1つの言語しか話さない人々」の脳の比較などは興味深い。
    子供の頃に2カ国語以上の言葉を使って教育をすると子供が混乱し、教育に悪影響を与えるということは良く言われていることだが、これは全く根拠のないことだという。
    例えば、子供たちは家庭では伝統的言語を使い、学校では英語などの公用語を使って生活をしても、ごく普通に脳内で言語が分かれて理解され、混乱することはないという。
    さらに、家庭内であっても母親が母親の言語、父親が父親の言語、そして学校では公用語という3つの言語を使って生活している子供も普通に混乱することなくトライリンガルに成長するという。
    まさに、脳という器官は驚異的な能力をもっているのだ。
    さらに、高齢者になってからもバイリンガル、トライリンガルの人には認知症等の病気に罹患するのが遅くなるという。まさに良いことずくめだ。これは僕らが外国語を勉強する利点にもなるだろう。

    最後は『病気』についてだ。
    『病気』といっても、この本では主に『糖尿病(2型)』についてがほとんどであった。
    伝統的狩猟民族には糖尿病患者はほとんどいなかった。
    しかし、彼らが現代文明社会の生活を取り入れた途端、糖尿病患者が激増した。
    これは、食生活と運動量の変化が原因である。
    伝統的狩猟民族は、主に狩猟等によって食事を得ており、獲物を捕れる時と捕れない時がある。
    獲物が捕れた時はたらふく食べ、獲物がないときは我慢した。
    こういった生活を人間は何百万年も続けてきており、人間の身体、特に内臓がそのような生活に適するように進化していった。つまり、栄養を貯め込める様な身体器官を作り、食事が出来ないときは身体の中に貯めた栄養を使って生き残ってきたのだ。

    そのような生活を続けてきた我々人間は、ここ数千年で農耕というシステムを発展させたことにより、急激に食生活が豊かになった。
    朝昼晩とほぼ3食必ず食事を取ることができ、しかも、その都度、大量の栄養素を摂取する。その結果として、長い年月をかけて伝統的狩猟民族用に進化した人間の身体が破綻を来すのは当たり前のことなのだ。それが『糖尿病』という形で出てきているのだ。

    ただ、ヨーロッパ人の糖尿病罹患率が低いというデータは面白かった。
    その理由は、ヨーロッパでは農耕が早くから発達し、飢饉がなくなったのが原因だという。
    ヨーロッパの人たちの身体は既に農耕文化に対応できるように再び進化してしまったのだ。つまり、朝昼晩と3食必ず食事をとっても、その摂取した栄養素を使い切ることができるよう身体が再進化したからだという。うむ、人間の身体は凄い。

    以上のように、伝統的狩猟民族の生活を研究することによって、我々が現代においてどれほど短期間のうちに人間としての生活習慣が変わってしまったかということが明らかになる。
    『銃・病原菌・鉄』を読んだ時も非常に満足感を得ることができたが、本書も『銃・病原菌・鉄』と負けないほどの知識を得ることができた。

    人間は今後どのような方向に進んで行くのだろうか。
    これは過去の人間の歴史を知ることによってある程度予測することができるのだ。
    本書は『全人類必読の書』とまでは言えないかもしれないが、読書人にとって極めて有益な読書体験を得ることができるのは間違いない。
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    投稿日:2019.12.12

  • doidoidoidoi

    doidoidoidoi

    伝統的社会(昨日までの世界)から今日の我々が学ぶべきことが、筆者の経験とさまざまな学問分野の成果を融合させ、数多くの事例を持って語られる。その説得力に驚かされる。

    投稿日:2018.10.06

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