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松岡和子 / 新潮文庫 (3件のレビュー)
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「私の翻訳は、稽古場で完成する―。松たか子が、蒼井優が、唐沢寿明が、芝居を通して教えてくれた、シェイクスピアの言葉の秘密。それは、翻訳家の長年の疑問を氷解させ、まったく新しい解釈へと導いてくれるものだ…った。『ハムレット』『マクベス』『リア王』『ロミオとジュリエット』『夏の夜の夢』…。訳者と役者が名作の知られざる一面へと迫る、深く楽しい発見に満ち満ちた作品論。」 目次 第1章 ポローニアスを鏡として―『ハムレット』 第2章 処女作はいかに書かれたか―『ヘンリー六世』三部作 第3章 シェイクスピアで一番感動的な台詞―『リア王』 第4章 男、女、言葉―『ロミオとジュリエット』『オセロー』 第5章 他愛もない喜劇の裏で―『恋の骨折り損』 第6章 日本語訳を英訳すると…―『夏の夜の夢』 第7章 嫉妬、そして信じる力―『冬物語』 第8章 言葉の劇―『マクベス』 著者等紹介 松岡和子[マツオカカズコ] 1942(昭和17)年、旧満州新京(長春)生れ。東京女子大学英文科卒業。東京大学大学院修士課程修了続きを読む
投稿日:2023.07.12
oshinobi47
英語の戯曲をどうやって日本語に訳すか。 具体的な分析を通してシェイクスピアの本質に迫ろうとする本。 語られる内容は英語の専門的な話が多く、シェイクスピア初心者には難しいところ、ピンとこないところもあり…ましたが、文章自体はインタビュー形式で読みやすかったです。 リア王の「この世」と「ここ」の違いなど、シェイクスピアの意図をどのように理解して、日本語に訳す作業をどのように行っているかが具体的に書いてあり、面白かったです。この一言にどんな狙いを込めたのか。それによって、観客がセリフから受ける印象はどう変わるか。翻訳とは、それらを分析・想像して答えを導きだしていく作業なのだなと思いました。 ロミオとジュリエットのバルコニーシーンにおけるジェンダー問題の話では、先行する邦訳に配慮した上で、今の時代を生きる翻訳者としての意見を語っており、納得感がありました。演出家のジョン・ケアードとの対話の中で、シェイクスピア劇における翻訳劇の役割の話になっていくところも興味深かったです。翻訳って面白いな!と思わせてくれる本でした。 何より、戯曲の翻訳を行う際の松岡さんの手法が新鮮でした。 稽古場で演出家や役者の解釈を見て聞いて、それを翻訳に反映させるという。 戯曲は普通の英文の翻訳とは違い、セリフとして語られ、演じられるものなのだということ。そして、それをきちんと意識して翻訳すること。これまであまり深く考えずに戯曲を読んでいたということもあり、目からウロコでした。 「なぜト書きが少ないか?」など、シェイクスピア自身が役者であり演出家であり、現場の人であるという前提を理解した上での読み解きもなるほどなと思いました。読点を打つか打たないかの話も面白かった。 松たか子さんや唐沢寿明さんなど、役者が戯曲をどのように読み、解釈し、表現するのかを書いている本でもあって、そのあたりの役者のプロフェッショナルならではの解釈も印象的でした。シンプルに、役者ってすげー!かっこいい!と思える。松岡さんから役者や演出家に対するリスペクトが感じられるのも、文章から伝わってきて心地よかった。 また、「シェイクスピア・コンコーダンス」をはじめ、シェイクスピアに関する豊富な資料があることも初めて知り、こんな資料があるんだ!と興味深かったです。 一般的な読者としても十分面白かったけど、翻訳業を目指す人が読むと、翻訳の面白さ、難しさ、喜び、醍醐味を具体的な手触りをもって感じられると思うのでオススメです。続きを読む
投稿日:2022.06.16
henahena1
ちくま文庫からシェイクスピアの訳書をたくさん出している松岡さんの話を、演劇評論家の小森収という人が聞く、という本。蜷川幸雄の「彩の国シェイクスピア・シリーズ」に関わっている経験から、始めの翻訳が、稽…古場でどんどん変っていき、原文に新たな解釈が与えられるという面白さについて語っている。 メインは上で述べたようなことだが、当然、作品そのものの解説も含まれているところがあり、特に『ヘンリー六世』の解説のところで、「征服王ウィリアムとか、ヘンリー二世とか言ってるけれど、彼らは今でいえばフランス人で、ウィリアムはノルマンディーのギヨームだし、中世イングランドのブランタジネット王朝の始祖とされるヘンリー二世も、アンリ・ド・ブランタジュネというれっきとしたフランス人。」(p.81)という部分、つまり英語名で読むけれどもその人の背景はフランスにある、という部分は、確かにそうだよなと思った。同じように「ヘンリー二世とヘンリー七世では名前も同じだし、単に遠いご先祖さまだと思ってしまう。遠いご先祖さまは間違いないんだけど、だからと言って、文化的な背景が一から十まで同じとはかぎらない。」(p.82)という部分は、言われないと気付かない所だった。あとは『オセロー』のデズデモーナを演じた女優、蒼井優が松岡さんにした質問、「デズデモーナはオセローのことを『あなた』『あなた』って呼びかけてますけど、この『あなた』は全部同じですか?」(p.155)で、実は原文は1つだけ違っていた、という話は、役者ってすごいんだなと素直に思った部分。「あそこでオセローが『元気ですよ、奥様』って、『奥様』っていうじゃないですか。それまで一度もそんなふうに呼ばれたことがなかったので、自分の『元気よ、あなた』っていう返事を、どういう気持ちで言っていいかわからなかった」(p.162)から聞いてみたら、実はそこの「あなた」だけ他と英語が違っていたという話。あとはシェイクスピアの話ではないが、「舞台って、回を重ねるごとに進化するんですよ」(p.268)というのが印象的。おれも昔に演劇やった時、何回目かの公演で、ちょっとした台詞の後にある動作を入れたりできるようになったのを覚えている。良い意味で自由にできるようになるというか…。 という感じで、シェイクスピアの面白さというよりはシェイクスピア劇の面白さが伝わってくる本で、これからはもっと頻繁に、シェイクスピアの演劇を見てみたいと思った。(18/06/25)続きを読む
投稿日:2018.06.25
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